ダウン症の弟を持つ19歳が語る「家族」は育児のヒントの宝庫

無条件の愛がありのままの世界を見せてくれる

人生の多感な時期に、一度は弟に我慢ができなくなった著者。しかし、

<どんな状況においても選べることがひとつだけあるの。それは、愛すること。無条件で愛すること>

<おまえの弟は、“ダウン症候群”じゃなくて、ありのままのジョヴァンニだ。あの子自身の性格があって、好き嫌いがあって、長所や短所がある。父さんや母さんや、みんなとおなじようにね>(『弟は僕のヒーロー』より引用)

と繰り返し語る両親の存在、さらには友人、思いを寄せる異性とのかかわりの中で、

<僕はジョヴァンニに貼りつけていた“ダウン症”というバーコードを剥がし、弟のありのままの姿を見ることができるように>(『弟は僕のヒーロー』より引用)

なったといいます。無条件で愛することを“選ぶ”という両親の言葉は印象的ですよね。ダウン症というバーコードをはがした著者のまなざしは優しく、視野には広がりがあり、考えは愛と慈悲に満ちています。

その成長の表れとして、ジャコモ・マッツァリオールは若干18歳で世界を驚かすショートムービーを作り、19歳で『Mio fratello rincorre i dinosauri. Storia mia e di Giovanni che ha un cromosoma in più』という才気にあふれた書籍を完成させ、その翻訳が日本で出版されるほどの境地を確立できたのですね。

「普通の人」だから幸せなの?

思えば筆者(私)の身の回りに居る友人で、ダウン症の妹を持つ草サッカーのチームメートも、著者ジャコモのように他者に対して常に公平でとらわれない視野と優しさがあります。

残念ながら、今回の記事を書くにあたっての取材は断られてしまいましたが、妹の個性的な言動を語るときには、湿った感情を一切持たずに、決まって愛とユーモアにあふれた笑い話として伝えてくれます。

一度妹を紹介してくれたときには、妹の不安を察してか、手を握りながら引き合わせてくれました。ジャコモと同じく、その友人も豊かな才能の持ち主で、自らの人生を力強く、しなやかに歩んでいます。

一方で『弟は僕のヒーロー』を読むと、書籍の中にはダウン症のジョヴァンニをからかい、障がい者を敬遠し、人と異なる行動をする彼に恐怖を覚え、心無い言動を平気でぶつける「普通の人」が山のように出てくると分かります。人と違うことを理由に陰口を言って、足を引っ張ろうとする「普通の人々」……。

当のジョバンニは、

<たとえジョヴァンニを見て笑う人がいたとしても、弟にとっては、たんに隣に笑っている人がいるというだけの話で、すきに笑わせておく>(『弟は僕のヒーロー』より引用)

だけで、基本的には気にしていないと言います。キャンプ場で催されていた『ライオン・キング』の舞台によじのぼり、シンバ役の男の人につかみかかって観衆から喝采(かっさい)を浴びるなど、まさにヒーローそのもの。

暗闇で光るT-レックスのレアカードをわいろに有名ミュージシャンのステージ裏に潜り込んだり、そのライブでステージにカエルのラーナのぬいぐるみを投げ入れ、ミュージシャンにステージ上からお礼を言われたり。人生をのびのびと謳歌(おうか)しています。

そう考えると、「普通」で居続けるために縛られている健常者あるいはその家族と、自分の「個性」を受け入れて自分らしく生きる障がい者、あるいは障がい者を持つ家族、一体どちらが幸せな人生を歩んでいるのか、考えさせられてしまいますよね。

障がいのある人の人生に、障がい者の家族の人生だからこそ見えてくる「風景」もあるはず

もちろん障がい者や、その家族の日常は奇麗ごとばかりではないと承知しています。しかし『弟は僕のヒーロー』は、障がいを持つ人、あるいは障がい者を家族に持つ人だからこそ見える風景を、鮮やかに描き出してくれています。

障がい者を家族に持つ人も、そうでない人も、一度は手にしたい必読の書と言えそうですね。

 

以上は、ダウン症の弟を持った著者が書いた『弟は僕のヒーロー』を紹介しましたが、いかがでしたでしょうか? 

この本は、

<ありのままに、素直に。シンプルな目で>(『弟は僕のヒーロー』より引用)

世界を見るヒントが、そこかしこに読み取れます。

<心配しないで>(『弟は僕のヒーロー』より引用)

と、書籍の中ではダウン症のジョヴァンニも著者を、そして読者を励ましてくれています。

障がいを持つ人、あるいは障がいを持つ人と暮らす家族にこそ、ありのままに、素直に、シンプルな目で、一人ひとりの内側に広がるかけがえのない世界を見られるチャンスが、日々訪れるのだと教えてくれています。

そうしたかけがえのない世界にこそ、人の本当の幸せが待っているのかもしれませんね。

※写真は全てイメージです。

『弟は僕のヒーロー』

「特別」な弟と僕の、愛おしい日々の記録
 僕は5歳のとき、パパとママから弟が生まれると聞かされ、大喜びした。姉と妹に囲まれた僕は、ずっと一緒に遊べる男兄弟がほしかったのだ。しかも、どうやら弟は「特別」らしい。
 僕はスーパーヒーローを思い描き、一緒に闘いごっこをすることを想像した。だけど、実際は何か違っていた。僕はだんだん「特別」の意味を知り、中学に入ると弟の存在を友達に隠すようになった……。
 19歳の普通の青年がダウン症候群の弟との生活と成長を描き、イタリアでベストセラーとなった感動作の邦訳版。

ためし読みはこちら

(文・坂本正敬)

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