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「0か100」という考えを捨てて成功した、わが子の「合理的配慮」
―これまで、お子さんに対する合理的配慮がうまくいったことで、お子さん自身が変わった瞬間はありましたか? もし「困りごとが減った」だけではなく、子どもの内面が変わったエピソードがあればお願いします。
発達障害やグレーゾーンの子にとって、「できる」か「できない」の2択になってしまう普通級のハードルは、けっこう高いものです。私の息子も、ASDの特性からどうしても「0か100か」という思考になりがちなので、そこに1ステップはさみ、「間の選択」をできるようにするとよかったなと思います。
できることだけ参加する選択をした運動会と宿泊合宿

長男はDCD(発達性協調運動障害)の傾向もあって運動が苦手だったのですが、長男が小学生の頃は、運動会で騎馬戦や組体操があり、男の子の荒々しい雰囲気が苦手で運動会を嫌がっていたのです。でも、組体操のときは女の子と一緒に「扇」をやったり、騎馬戦では応援のグループに入れてもらったりという対応をしてもらえたら、運動会にも参加できました。
運動会に苦手意識が強くても、参加か不参加かだけではなく、すごく苦手なことはパスして別の手段をとり、かけっこなどは参加する形にしたことで「ちょっとでもできた」という気持ちが残ったようです。
次男は「泊まる」ことがすごくハードルが高かったのですが、小学5年生の野外宿泊合宿では初日だけ参加し、体験プログラムが終わった後で夫が迎えに行って帰ってきました。次男はいつもと違う場所で寝たり知らない食器を使ったりすることに不安があり、「泊まりは無理」と言っていたのですが、キャンプファイヤーなどはちょっとやってみたい気持ちもあったようだったんです。すると先生のほうから「初日だけでも大丈夫ですよ」と提案してくださったので、参加することができました。
そういう行事って、行かなければそのときは子どももホッとするのですが、後から落ち込むことがあるんですよね。でも少しでも参加できれば違いますし、お友達との話にもついていけます。そういう部分で、「0か100か」という思考を少しは緩められたかなと思っています。
―たしかに、どういう形であれ「参加できた」ことで、お子さんの気持ちには変化があったと思います。そうやって子どものハードルを低くしてあげるための配慮は、どうやって見つけていくのでしょうか?
基本は、家で試行錯誤してみることです。子どもと一緒に、宿題などの学習サポートをしながら、うまくいったりいかなかったりを繰り返します。
長男の場合だと、漢字の書き取りをとにかく嫌がっていたのですが、発達障害関連の本を読みあさっていて、「お手本からの写し書き」のハードルが高い子が多いと知ったんです。それで、長男の書き取りノートに私が下書きを入れて、そこをなぞるという形で宿題をさせてみました。
そうすると、家では泣かずに宿題をできるようになりましたから、学校にも伝えてみたんです。すると、今度は学校の先生が真似してくれるようになりました。補助の先生が巡回で来たときに、「下書きを入れればこの子は泣かずに済むんだな」と長男のノートに下書きを入れてくれるようになったようです。
学年が変わるときには「前の学年ではこうしてもらっていました」と伝えると、「今年もできる範囲でやっていきましょうか」とその後も続いていきました。
まず、親自身が「うちの子専門家」になってください

―著書で大場さんは、先生に合理的配慮を求める前に、親自身が「うちの子専門家」になり、まずは家でできることから試していくことが大切だと発信されていますが、親はどうすれば「うちの子専門家」になれるのでしょうか?
まず、障害のあるお子さんを育てている親御さんって、めちゃくちゃ勉強している方が多いんですよね。本当に苦労しながら子育てをしているので、プロとして胸を張った方がいいと思うんですよ。
「うちの子専門家」というのは、障害のないお子さんの親御さんも含めてですが、親はその子のことをいちばん長く見ていますから、「縦軸のプロ」だと思うんです。対して学校の先生は、たくさんの同じ年ごろの子どもたちを見ていく教育のプロ。つまり両者は縦軸と横軸のプロとプロだと思うと良いと思います。
では、「うちの子専門家」になるにはどうしたらいいかなのですが、私はまずお子さんの話を否定せずによく聞くことが大事だと思います。できないことがあっても最初からサボってると決めつけずに、「子どもがやる気が出ないのには何か理由があるのかな」「どこが面倒なのかな」と丁寧に聞き取ってあげるといいのかなと思うんです。
―お子さんによっては、うまく言葉で伝えられない子もいると思いますが、そういう子にはどうしたらいいでしょうか?
そういう場合は、日ごろの様子をよく観察するといいですよ。
例えばテスト。テストもよく見ると、「ここはできる」「ここはできてない」だけではなくて、「図が入っている問題なら割とよくできる」などの傾向があったりするんです。子どものテストもじっくり観察してみると、いろんな発見があります。
家庭での様子も、見ていると落ち着きやすいときや崩れやすくなるきっかけがわかりますから、記録をつけるとより良いかもしれません。親は長い目でその子を見ていきますから、経過で進歩や特徴がわかります。うちの子だと、次男が3学期になると欠席が増える傾向があるのですが、そういう記録をつけておくと、いろんなことのヒントになっていくので良いですよ。
先生への伝え方のコツ「家ではこうするとできます」「できれば~していただくと助かります」

―「うちの子専門家」として見えてきたわが子の「困りごと」や「必要な配慮」を、先生にどう伝えると伝わりやすいのでしょうか?
子どもが苦手なことも、「家ではこう(工夫)するとできます」と言うのがいちばん伝わりやすいと思います。しかし、やってほしいことを先生に伝えるときには「絶対やらなきゃいけない」という圧をかけないことが大事です。強制的にではなく、「家ではこうするとできます」「できればこうしていただけると助かります」のように幅を持たせることですね。
クラスには他のお子さんもいますし、学校のルールもあるので、家でのやり方をそのまま学校でできる場合とできない場合がありますから。例えば、うちの子は忘れっぽいので、黒板の端っこに箇条書きで持ち物など大事なことを書いてあげると助かることがありました。でもそれも、やってくれる先生もいれば、難しい先生もいます。なので、うまくいった方法だけ伝え、運用は幅を持たせて先生ができる範囲で調整していく、としていました。
担任の先生の判断でできることからお願いをしてみましょう
―大場さんもおっしゃる通り、「困っています」だけではなく、「こうするとできます」と伝えることが大切だと感じますが、「困りごと」から、先生にも頼みやすい「必要な配慮」を考えるコツはありますか?
小さいことからお願いしていくといいと思います。例えば「声かけ一つ」などですね。帰りの会で声かけを一つお願いするとか、学期の終わりは持ち帰るものが増えるので、「この時期だけでもちょっと確認を入れていただけると助かります」と伝えるなど。こういう小さな配慮が意外と大事なのです。
合理的配慮というと、介助員さんをつけるとか、テストにパソコンで解答するとか大がかりなことを思いがちですが、もっと簡単なこともあるのです。もちろん大がかりなものも必要な場合はあると思いますが、そういうのは職員会議などで話し合わなければならず、先生もハードルが高いでしょう。ですから、担任の先生の判断でできるような気軽なものから試してみるといいと思います。
発達障害のある子は、日々の本当に小さな負担の積み重ねで学校が憂鬱になってしまいがちです。一つ一つの負担は本当にちょっとしたことなので、それを声かけや道具の工夫などで一つでも二つでも減らしてあげられたら、全体的なハードルが下がっていきます。意外とその積み重ねは大きいので、気軽なものから試していってください。
―学校とのやり取りの中で、「これは言ってよかった」逆に「これは言わなくてもよかった」と思った経験はありますか?
基本は、何でもダメ元で言ってみるといいと思います。発達障害のある子の特有の感覚や困り感は、言わないとなかなか他の方には想像できないので。
でも言わないほうがよかったと思ったのは、子どもに聞かずに親が先走って言ってしまったときです。家ではできる方法があると、親は「家ではこうしたらできるんだから、学校でも同じようにしてもらえばいいじゃない」って思うわけですよ。だけど子どもは、家ではこうするとできるとわかっていても、普通級でみんなと違うやり方をしたり、みんなが使っていないものを持っていくことをすごく嫌がることもあるんです。
次男がそういうタイプだったのですが、本人がかえって負担に思ってしまうので、いい方法であっても本人が希望しないものはよくないかなと思います。
―親としてはお願いしたいことがたくさんあっても、先生方も忙しい現実があります。学校側に相談ごとをするときに、大切にされていることは何でしょうか?
感謝を伝えることです。あとは子どものちょっとした進歩などを伝えると、こちらが思っている以上に喜んでくださるんですよ。連絡帳に「いつもありがとうございます」みたいなことを書いたり、何かの行事のときに立ち話で1分程度など、あまり時間をとらせない方法で伝えていくといいと思います。
妥協して、学校と折り合いをつけるお手本を子どもに見せることも大切です

―「お願いしたいけれど、迷惑だと思われそう」と遠慮してしまう保護者は多いと思います。そんな親御さんにいちばん伝えたいことは何でしょうか?
合理的配慮は法的な根拠のある権利なので、まずは学校に聞いてみたらいいと思います。ただ、学校にもできることとできないことがあるので、お互いに譲り合ったり妥協したりしていけばいいと思います。
私は合理的配慮が学校でできたかできないかよりも、「対話ができたか」のほうが大事だと思っているんです。
・根性論で乗り切らず、まずは人を信じて相談する
・うまくいかなくても「わかってくれなかった」で終わらない
・自分も譲歩したり妥協したりして歩み寄る
これらはこの先、本人が生きていく上で必要なことです。最終的にどこかで親は「学校に相談」をできなくなるので、合理的配慮をめぐって親と学校がその子のことを話し合い、時には妥協して折り合いをつけるお手本を子どもに見せてあげることが、いちばんのサポートになると思います。
私の長男は大学生になりましたが、長男は小学生の頃から「できるできない」の間に「第3の選択肢」があることを知っています。だから今でも自分で周囲に気軽に相談できているようです。
周囲の子どもに負担をかけたり、我慢を強いたりする要求は不適切

―逆に、「それは学校に求めすぎ」という配慮はどのようなものだと思いますか?
法律的には、やはり過度の負担に当たるようなことは適切ではないと思うのですが、「過度」になるラインは学校や先生ごとに違うので、聞かないとわからないと思います。ただ、私の基準としては、次の例のような、クラスの他のお子さんたちに過重な負担や我慢を強いたり、権利が侵害されたりすることがある方法は適切ではないと思います。
・いわゆるお世話係のように、お子さん一人にだけ負担がかかってしまう方法
・楽しみにしていたイベントが「この子が参加できないからみんななし」となる方法
・先生が一人のお子さんにかかりきりになってしまい、他の子が放置状態になってしまう方法
このような形で不利益を被ったクラスの子どもたちは、障害がある子に偏見の目を向けてしまいます。すると結果的に本人のプラスにもなりませんから、先生から提案されても断った方が良いと思いますね。
健常な、発達に問題のないお子さんでも子どもは子どもです。子どもはみんな発達の過程にあるので、大切に扱ってほしい気持ちはどの子も同じだということは、想像してあげたほうがいいのかなと思います。
親はわが子の「プロ」、先生は教育の「プロ」。プロフェッショナル同士として歩み寄ればいい
―本の中でも学校と親との関係性の大切さについて書かれていましたが、大場さんが考える「学校と親の理想的な関係」はどんなものですか?
お互いに、プロとプロの関係性ですね。学校の先生は教育のプロだし、親はその子を赤ちゃんのときからずっと見てきた、縦軸のプロです。だから親も素人だからと引け目に思わずに、プロ同士として関わったらいいと思うんです。
両者にとって、目的地はその子の成長や将来の自立で、目指すところは同じはずです。だから車の両輪のように、支えあって歩み寄っていくといいと思います。
そうはいってもいろいろなタイプがいると思いますが、うまくいかないときは戦わないことです。個人のせいにせず、間に人に入ってもらうなど別ルートを考えます。ただでさえ大変な子育てをしているので、学校とのやり取りでまで消耗しないようにしましょう。
―最後に、今まさに学校との関わりに悩んでいる保護者へメッセージをお願いします。
思い詰めないことですよね。そのときそのときでうまくいかないこともあると思います。
でも、話し合いがうまくいかなかったりわかってもらえなかったりすることがあっても、親はその年もその次の年も、ずっとその子を支え続けていくので、うまくいかなかった経験も財産になります。だからどんなことも財産の一つと思って、長い目で少しずつ、自分の体力も温存しながら長距離走みたいに続けていかないといけないですね。
うまく自分も大事にしながら、子育てしていってほしいなと思います。
大場さんの「声かけ変換」についてはこちら
発達障害のある子どもを育てる保護者と、子どもを支える先生方の双方に役立つ実践書です。
合理的配慮の伝え方や学校との連携のコツを、教育現場の実情に即して具体的に解説。自身のサイトで支援の情報を発信して人気の「楽々かあさん」こと大場美鈴さんによる、子ども自身の自己理解と自立を支え、家庭と学校がサポートし合えるための一冊です。
★サポートブックがダウンロードできる特設サイトを開設中>>>>
教えてくれたのは
「うちの子専門家・楽々かあさん」として子育て・教育・発達障碍児支援の総合ウェブサイトを運営し、子育ての傍ら、情報発信と著述活動を続ける。代表著書『楽々かあさんの伝わる!声かけ変換』(あさ出版)は累計10万部突破。最新刊は、『担任の先生に伝わる!子どもがラクになる合理的配慮サポートブック』(合同出版)。発達障害・グレーゾーンの3兄妹の母。
この記事を書いたのは
子どもの発達、学校生活、大人の発達障害などをテーマに有識者や当事者に取材し、子育てに役立つ記事を執筆します。個性豊かな男の子と女の子の兄妹を育てながら、現役の子育て世代に寄り添ったわかりやすい文章でお届けします。