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発達凸凹さんOKのバリアフリー美容室を運営している【NPO法人セルフ】の活動とは?
佐賀県でバリアフリー美容室、出張カットサービスを展開する【NPO法人セルフ】。代表の安永康子さんは福祉美容師として、これまでに2万人もの発達障がいがある人のヘアカットを担当してきたそうです。美容室だけに留まらない活動内容や活動のきっかけについてお話を聞きました。
息子が自閉症+知的障がい者だったことがきっかけで活動をスタート
安永さん:活動のきっかけは、うちの三男が知的障がいと発達障がいを持って生まれたことから始まりました。とにかく壮絶な子育てで、一番大変だったのは3歳くらいのとき、あまりにも動きまわることでした。3歳半検診のときには療育を受けられる幼稚園を進められて通うようになり、そこで知り合った親御さんたちの悩みのひとつに髪が切れないという話があったのです。
うちの子は、トーマスが大好きでそれを見ている時はじっとしていられるので髪の毛を切ることができました。息子のきちんと整ったヘアスタイルを見た親御さんに「どうやって髪を切っているの?」と聞かれ、私自身が美容師なので家で切っているとこを伝えると「うちの子もお願いしたい!」と言われて、まずはその方の自宅に訪問してカットしたことが始まりでした。
障がいを持つ子のママ友の協力で【NPO法人セルフ】を立ち上げる
安永さん:はじめは知り合いの方のカットをしていたのですが、クチコミがどんどん広がり気がついたらお客さんが100人くらいになってしまい、もう個人での活動では難しい状況になっていました。
そんな時に佐賀市の市民活動プラザを紹介してもらい、そこでNPO法人の立ち上げを勧められました。NPO法人の立ち上げには、10人の署名が必要だったので美容師仲間何人かに声を掛けてみたのですが、ボランティアだと勘違いする人が多く、「落ち着いたらやろうかな」「活動して困ったら言ってね」という感じで温度差がすごくて……。息子を通して知り合った保護者の方に署名をしていただいて設立しました。
バリアフリーの美容室をオープン
安永さん:2003年の3月にNPO法人の申請が通ったとき、一緒に美容師をしていた友人が病気になり、亡くなる一か月前に美容室を引き継ぐことになりました。そして、助成金を利用して車いすの方でも使えるようなバリアフリーの美容室をオープンしたんです。
発達障がいを通して大学との協力体制ができ、福祉活動の幅が広がる
NPO法人の設立、バリアフリー美容室のオープンと順風満帆に進んでいるかのようでしたが安永さんご自身は壮絶な子育てが続いていました。
息子を通じて地元の大学との協力体制ができる
安永さん:NPOの活動は順調に進んでいきましたが、一方で当時小3だった三男が大変なことになっていました。息子は自宅の近くにあるショッピングモールが大好きで、とにかく行方不明になるとそこにいるんです。探しに行って連れて帰ろうとするとギャン泣きして大暴れで、夫と2人で手足を持って歩いていると「なにあれ?」って言われて。まわりの人には異常に見えていたと思います。本当に辛くて、大変な時期でしたね。
大変だから美容室の仕事を続けることが難しいということをいろいろなところで発信していたら、たまたま知り合った地元の大学の教育学部で発達について研究している学生さんから、息子とのことを卒論を書かせてほしいと連絡がありました。そのために週に一度、息子をショッピングモールに遊びに連れて行ってくれるようになったんです。息子は、必ず週に一度ショッピングモールに行ける習慣ができたことがきっかけで、それ以外の日も落ち着いて学校にも通えるようになりました。
ボランティア講座をスタート
安永さん:大学生たちとの関係が続いていく中で、初めて息子の知り合いのグループと遊んでもらうときにトラブルが起きました。公園で遊んでいたときにグループの中のひとりの子が転んでケガをしてしまったんです。
そこで、これはルールを決めたほうがいい、発達障がいの子どもの特性を学んでもらおうということで、学生さんたちの通う大学でボランティア講座を受け持つことになりました。大学生に子どもを預ける親御さんたちが自分の子どもの特性を話して、それを大学生が実習に活かすのですが、この活動は今でも続いています。
発達凸凹さんヘアカットとは?
発達障がいの特性を持つ子どもたちは、特性として髪を切られるのがとても苦手です。安永さんが運営している「発達凸凹さんヘアカット」は、特性を理解した理美容師とお客さんをつなぐサイトです。
「発達凸凹さんヘアカット」ホームページは>こちら
「発達凸凹さんヘアカット」を開設したきっかけ
安永さん:発達障がいの子どもたちは、「髪の毛を触られたくない」「顔の周りや体自体に触れられたくない」などの理由で、なかなか美容室に行けないという悩みがとても多いです。今まで自宅で何とか頑張って髪を切っていた親御さんたちも、子どもが3歳くらいになると動き回って抑えられなくなってきます。美容師側も予約をされても断るんですよね。
私は障がいを持っている子の親であり美容師なので、両方の気持ちがわかります。美容師側としては、その子が何をするのか自分たちもわからないから、他のお客さんに迷惑がかかる。保護者側も他の人に迷惑がかかるのも心配だし、他人の目が厳しく感じて行けなくなったという話をよく聞きます。そこで、理解してくれる美容師と困ってる利用者をつなげるために「発達凸凹さんヘアカット」というサイトを立ち上げました。
ヘアカットができたことが自信になり、新しい世界が広がる
安永さん:初めはパニックになって暴れていたような子も、通っていくうちに髪の毛を切ってもらえるようになり、一般の美容室に行けるようになる子もいます。そうすると、美容室以外のところでも外出する自信がつくようになります。
日本全国の市町村1,718ヵ所のバリアフリー美容室登録が目標!
現在「発達凸凹さんヘアカット」に掲載されているのは15店舗。目標は全国の市町村に登録してくれる美容室を増やすことなのだそうです。また、自分のお店の施設では実現が難しいという理美容師さんのためにもバリアフリー美容室のレンタルルームを開設したいと言う安永さん。また、勉強をしに参加したいという理美容師さんも増えてきているので、目標に向かって活動を広げています。今後の活動にも注目していきたいですね!
「発達凸凹さんフェスタ~みんな持ってる凸凹ピース~」
発達凸凹さんヘアカットでは、世界自閉症啓発デーである2024年4月2日(火)に髪を切るのが苦手な発達障がい児を持つ親の悩みを軽減し、子ども達の自立支援をしながら多様な生き方を後押しする理美容師達が「発達凸凹さんフェスタ~みんな持ってる凸凹ピース~」を開催します。
開催日:2024年4月2日(火)
時間:10:30~15:30
会場:杜のホールはしもと(神奈川県相模原市)
入場料:無料
特別ゲストとして俳優・モデルの栗原類さんが「ヘアアレンジショー」に参加決定!
※こちらは発達障がいの有無にかかわらず、どなたでもご参加いただける入場無料のイベントです。
お話:安永康子さん
<プロフィール>
三男が自閉症+知的障がい児だったことがきっかけで福祉美容師に。佐賀県佐賀市で福祉美容・訪問カットを行う。NPO法人「ヘアールームセルフ」を平成15年3月に設立。
■ホームページ【NPO法人セルフ】はこちら
■YouTubeチャンネル【発達凸凹さんチャンネル】はこちら
取材・文/やまさきけいこ