なぜ子どもは遅刻しそうでも急がないのか
「いつまで寝てるの?遅刻するわよ」
予定があるのになかなか動かない子どもに悩む保護者は多いです。
なぜそうなるのでしょう。
理由のひとつは「時間感覚がないこと」です。4~5歳になると「昨日、おばあちゃんちに行ったよ」などというので、時間感覚があるように思いがちですが、実は子どもの時間感覚はかなり曖昧です。
大人は時間感覚があって先を見通せるので、遅刻するから早く支度をしなくてはいけないと思います。しかし時間感覚が曖昧な子どもにとって未来はよくわからないもので、とにかく「今」がすべてなのです。だから「間に合わせるためには~しなくてはいけない」と思わない、だから急がないのです。
子どもが時間の概念を獲得するまで
子どもは次のような段階を経て時間の概念を獲得していきます。
4~5歳:「昨日」がわかるようになる
5~6歳:「昨日」「今日」「明日」曜日がわかるようになる
6~9歳: 1週間~2週間などがわかるようになる
9~12歳:1年先くらいを見通せる力がつき、先のことを考えはじめる
大人と同じ時間感覚を獲得するのは9~10歳ころと考えていいでしょう。
未来を意識することで、「今」の計画を立てる
未来がイメージできることは大切です。未来を意識することで、未来の目標から逆算して現在の計画を立てることができるからです。
例えば1か月で英単語を100個覚えるとします。1か月や1日がイメージできるからこそ、1日でこれくらい、1か月だとこれくらいできそう。う~ん100個は無理かな、1日の量をもう少し増やしたらいけるぞ、といった算段ができるのです。
さまざまな経験が時間感覚を養う
子どもはさまざまな経験をする中で時間感覚を獲得します。「“もうすぐ”運動会だね」、「運動会のあと“少ししたら”お遊戯会だよ」、「ゆり組さんがおわったら“すぐに”みんなの出番だよ。準備はいい?」
自分にとって印象的なできごとの中で、「もうすぐ」「少ししたら」「すぐ」などのことばと自分の時間の感覚が結びつく経験をすることで、子どもは時間感覚を養っていきます。
日常生活の中でも、「帰ったら“すぐに”手を洗うのよ」「ご飯が終わって“しばらくしたら”お風呂に入ろうね」など、時間感覚につながる経験はたくさんあります。
そして学童期になると学校生活の中で、時間管理や計画をする機会が必然的に多くなり、少しずつ大人に近い時間感覚が持てるようになります。
時計やカレンダーで時間を理解する
5歳頃からは、時計やカレンダーを使って時間を理解する能力が発達します。時計の読み方や、1時間は60分、その半分は30分などの時間の感覚が育ち、時間に基づいて行動できるようになります。
自閉症スペクトラム障害の子どもの時間感覚
自閉症スぺクトラム障害の子どもは、経験に基づいての時間感覚が育ちにくい、定型発達の人に比べて時間の捉え方が特徴的である、という研究があります。(出典:Central tendency effects in time interval reproduction in autism Themelis Karaminis らの研究)
だとすれば、自閉症スペクトラム障害の子どもに、「急ぐ」「計画的に行動する」ことを求める時には、注意深い対応を要すると言えます。すなわち、個々の子どもの時間感覚の状況に基づいて、個々にわかりやすい工夫が必要なのです。
具体的にはスケジュールの可視化や時計、「あと一回」などわかりやすい目安を示すなどです。これらは時間感覚の未熟な幼児にも有効です。
第6回 配膳
以前、食卓の片付けをテーマとしましたが、今回は「配膳」です。時間感覚を育てる上では食事は毎日、同じ時間に食べることが理想。「これくらいの時間になったらご飯なのだ」ということを子どもに意識させることになるからです。
しかし家庭の事情はさまざまですから、「だいたい同じ時間になるように」を頭の片隅に置いていただくだけで結構です。
対象
3歳から
期待できる効果
・日常生活の流れを意識でき、時間感覚が育つ
・位置に関する言葉を覚える
・配膳に関する様々な細かいルールや所作を学ぶ
・人からの依頼を受ける対応力
・家族に喜ばれることで勤労意欲が育つ
・仕事を任せられることで責任感が育つ
・家族の役に立つ経験ができる
配膳の準備時間
1.ゆっくり準備できるように逆算して、準備開始の時間を決める
2.はじめは時間になったら親が子どもに声をかける
3.慣れてきたら「○時になったら用意を始めてね」と声をかけ、子どもが自分で時間を意識して準備を始めるようにする。
4.親からの声かけを徐々に減らし、子どもが自分で動くようにする。
食器の並べ方
1.お茶碗は「左」汁物は「右」に置く
2.箸先は左にして置く
できそうなら箸置きを用意し、箸置きの上に箸を置いてもらう。何種類か箸置きを用意して、家族それぞれに好みの箸置きでセッティングしてもらうのもよい。ナイフ・フォークの場合は、フォークは「左」、ナイフとスプーンは「右」に置く。
3.メインのおかずは奥の右側、小鉢は奥の左側に置く
料理を盛り付ける
1.ご飯をよそう
子どもはご飯をよそうお手伝いが大好きです。一人で茶碗を持ちながらよそうのが難しければ、親が茶碗を持ってあげます。どうしたらいいかわからない子どももいるので、実際にやってみせます。
2回でよそうことを目指し「1回目はこれくらい」と適量をよそい、そして「2回目はふわっと」と言いながらおいしそうによそって見せましょう。慣れてくると、子どもたちの腕も上がってきます。
2.汁物をよそう
汁物は具材が鍋底に沈んでいることがあるので、具材と汁物のバランスを考えながらよそいます。汁物も基本は2回でよそうことを目指します。ご飯と同様、具材をお椀に入れ、汁をすくうやり方を実際に見せます。
3.おかずを盛り付ける
家族それぞれが食べきれる量を想像しながら盛り付けます。パパは大きいからこれくらい、妹はまだ小さいからこれくらいかな、と食べる人のことを想像しながら量を調整する経験を重ねる中で、人に配慮をする気持ちが自然に育まれます。
4.器をきれいにする
ご飯、汁物、おかずを盛りつけたら、器の汚れを確認し、汚れていたら拭きます。「おいしく食べられるようにきれいにしようね」と伝えましょう
5.家族に渡す
家族に皿を渡すときは、両手でしっかり食器を持って渡します。食器をテーブルに置いてからでいいので、「どうぞ」などと声をかけるようにするのもよいでしょう。相手に配慮した配膳とことばかけを意識したいです。
6.美味しいうちに
家族がせっかく作ってくれた料理、私が一生懸命配膳した料理をすぐに食べてほしい、アツアツのうちに食べてほしい、早く食べないとおいしくなくなっちゃうよ…。このような感情を経験することも時間感覚が育つ上で大事だと思います。
発達障害の特性のある子どもの場合の注意
発達障害の特性のある子、特に自閉症スペクトラム障害のある子の場合、時間感覚が育ちにくい傾向があるので、そのことに配慮します。まずは欲張らずに、一つの作業から始めましょう。
時計が読めるならば、例えば午後6時半になったら「ご飯だよ」と家族を呼ぶことをお願いしてみましょう。その子が声をかけなければ食事にならないので、大事な仕事です。声をかけても家族が来なければ「早く来て~」と再度家族を呼ぶでしょう。時間感覚の育つ瞬間です。
箸を並べるのもよいと思います。誰の箸かを見分けて、箸先を左にしてきちんとそろえて置くように教えます。箸がなければ食べられないので、これも食事に欠かせない仕事です。配膳がまだ難しい子どもでも、箸並べなら無理なくできることが多いです。
本人が無理なくでき、やる気があり、やったという本人の達成感があり、ありがとうと言われる。配膳の場面でもそのようなお手伝いを考えてあげてください。
お手伝いを通して時間を意識する経験を
毎日、毎週、一年、最終的には自分の将来にむかってスケジュールを立て、自分の人生を創っていくには、時間感覚が必要です。時間を意識しながら生活し、さまざまな経験を通して子どもの時間感覚を育てましょう。そのために家事のお手伝いの機会を活用してみてください。