「ボール運動が苦手」「鉄棒ができない」“体育の悩み”を解消【発達性協調運動症(DCD)の不器用さを親子で克服!自宅でできる練習①】

「走り方がおぼつかない」「ボール運動の苦手さが、同年齢の子に比べて際立っている」「書字がいつまでたっても上手くならない」など、我が子が抱えている「運動や手先に関する困りごと」の原因を、本人の努力不足だと思っていませんか? 運動が不得意な子、手先が不器用な子もいて当たり前ですが、日常生活に支障をきたすほどの“苦手さ”を抱えている子どもたちの中には、「発達性協調運動症(DCD)」という発達障害の特性のひとつである可能性があります。

まだまだ認知度の低い「発達性協調運動症(※以下DCD)」ですが、適切なアプローチを試みることで、症状が改善されることが分かっています。そこで今回は、長年、重症心身障害児や発達障害児の理学療法に携わってこられた理学療法士の深澤宏昭さんに、DCDの症例別に「自宅でもできる練習方法」をうかがいます。

親子で行う「遊び」を通して、運動の苦手を改善しよう

「球技が苦手」「着替えが遅い」「靴ひもが結べない」「書字が不得手」など、手先や運動の不器用さがあるDCDは、昨今よく耳にする「自閉スペクトラム症(ASD)」や「注意欠如・多動症(ADHD)」と同様に、発達障害(神経発達症)の特性のひとつです。またDCDは、その他の発達障害と合併して症状が現れることも多いといわれています。

DCDには、今のところ根本的な治療法はありませんが、適切な支援を行うことで症状の改善が見込めることがあります。ただ、同じ運動の苦手さがあるお子さんでも、その原因やつまずきの箇所は一人ひとり違う可能性があるので、まずはお子さんの状態を詳しく評価し、適切なサポートを見つけ出すことが望ましいでしょう。

療育機関や病院のリハビリテーションの専門家は、子どもたちの成長をサポートするため、生活での困り感に寄り添い、観察し、その原因を分析した上で「その子にあった練習方法」や「道具や環境の調整」を考えていきます。

ただ、「そうは言っても、今すぐにみてもらえる療育先がない」「医療機関の予約がとれない」などでお困りの親御さんも多いのではないでしょうか。そこで今回は、DCDのよくある症状と、それに対して日頃、実践している練習方法の中から、自宅でも行っていただける簡単なものをお伝えしたいと思います。

事例①ボールを投げたり、受けたりがスムーズにできないMさん

ボール運動の苦手さもDCDのよくある困りごとのひとつで、特にボールをキャッチすることが苦手なお子さんが多いように思います。DCDの特性があるお子さんにとっては、ボールとの距離感を図り、タイミングに合わせて手足をコントロールすることに難しさを感じるようです。

■親子で取り組もう! ボール遊び

1)子どもが大好きな「風船」を使い、まずは楽しく練習スタート

◎ゆっくり動く風船を使って「目で追い続ける」「動く物体に合わせて身体を動かす」といったボール運動につながる練習ができます。親子で「風船キャッチボール」や、風船を使った「手の平バトミントン」で遊んでみましょう。

2)次は「ボールを転がし」にチャレンジ

◎ボール運動が苦手な子には、転がすところから始めてみるのもひとつの手。自宅で練習を始める動作は「確実にできて、失敗させない」ことが重要です。

◎ボールの種類を変えるなど、「道具の調整」もポイントです。小さいより大きいボールのほうが簡単ですし、硬いよりも柔らかいボールの方が衝撃や恐怖心が少なく遊べます。

◎「目標物にボールを当てる」「障害物を避けて転がす」「親子で転がしキャッチボールをする」など、さまざまな遊び方を取り入れてみてください。

3)「ボール転がし」が上手になったら、投げてみましょう

◎空中でのキャッチボールを始める際に大事なのは「距離」「スピード」「投げる位置」「ボールの種類」。最初から目標とする難しい運動をするよりも、確実にできることから少しずつ難易度を上げていきましょう。

◎ほとんど手渡すところから始めて、次に手でボールを扱う練習(真上に上げてキャッチする、バウンドさせてキャッチするなど)をしてみましょう。

◎次に、まずは好きなように楽しくボールを投げさせてみてください。玉入れなど目標に向かって投げてみたり、上から、下から、両手、片手など、いろいろな方法で投げて練習しましょう。

◎それに慣れたら、子どもが恐怖心を抱かないボールの種類を選んで、近い距離からキャッチボールを始めてみましょう。

事例②鉄棒の「前回り」ができないNくん

鉄棒やマットなど、体育の授業で行われるこれらの運動が極端に苦手なお子さんの中には、DCDの症状が当てはまる子もいます。「できなくても、まぁいいか」と前向きに捉えられるのであればいいのですが、できないことでお友達の輪に入れなかったり、学校に行くこと自体が憂鬱になってしまう場合には、以下のような順を追って、親子で練習してみてください。

■原因別の練習法を探る!

まずは鉄棒に取り組む姿を親御さんがよく観察し、「どのポイントを嫌がっているのか」「どこで失敗を繰り返しているのか」と、原因を探ることが重要です。

発達障害の特性を持つお子さんのなかには、触覚に過敏さがあることで、鉄棒が体に当たり圧迫されている感覚に苦手を感じている子や、バランス感覚に過敏さがあることで、頭が下がるのを嫌がるお子さんもいます。「筋肉に力が入れづらい」と手のグリップが弱い子もいるので、その子なりの原因別に練習をしてみてください。

1)鉄棒に体が当たることが苦手な場合

◎前周りをする際に、鉄棒に当たる体の箇所に不快さを感じるお子さんがいます。まずは当たっても痛くないところ(腰骨)をお子さんと一緒に探してみましょう。

◎必要に応じて鉄棒のサポートパッドや補助パッドなどの商品を活用するのもよいかもしれません。

2)頭が体より下がる感覚が苦手な場合

◎鉄棒の「前回り」を成功させるためには、頭を体より下に下げる必要があります。しかし、「頭が下を向く」といった日常生活では滅多にない動きに対する「感覚の過敏さ」があるため、鉄棒が苦手なお子さんもいます。まずは頭が下にくる感覚に体を慣らしていきましょう。

◎体を曲げてお腹で鉄棒にぶら下がる「ふとん干し」の技から始めてみましょう。徐々に頭が下にくる感覚に体を慣らすことで、恐怖心が和らぐ可能性があります。

3)鉄棒から体が離れてしまう場合

◎最低限の筋力も必要です。鉄棒に腕を引き寄せながら膝を曲げ、体を丸める「ダンゴムシのぶら下がり」などから練習。手で全身を支える感覚や筋力を身に付けられる簡単な動作を繰り返し行ってみてください。

「スモールステップ」「道具や環境の調整」「感覚への配慮」がポイント!

事例①②の訓練方法はどちらも「スモールステップ」と呼ばれるアプローチです。できない動作を何度も練習するのではなく、まずは今のお子さんでも失敗せずにできる簡単な動作から始め、「できた」という成功体験を積み重ねることがポイントです。その上で、少しずつ難易度を上げていき、目標の動作をこなせるようにステップを踏んで練習をします。

ものの数分でコツを掴んで最終目標の動作ができるようになる子もいれば、時間をかけて徐々にコツを掴む子もいます。本人をやる気にさせるような声掛けや、たくさん褒めてあげることも大切です。「体を動かすことが楽しい」と思ってもらえたら嬉しいですね。

こんな子はDCDの可能性が。チェックリストはこちら

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著者プロフィール

深澤 宏昭(ふかさわ ひろあき)

理学療法士、保育士、公認心理師

2009年に神奈川県相模原市にある「相模原療育園」に入職し、以後15年にわたり重症心身障害児や発達障害児の理学療法に携わる。児童発達支援センターの理学療法士訪問や、特別支援学校訪問なども行い、発達障害の方々やその家族の相談に応じている。

取材・文/小嶋美樹

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