電車で「うるせえ」と殴られて…突然声が出る“トゥレット症” 当事者の菊地涼太さん。「もう死にたい」2年間の引きこもりを経てIT企業へ就職。前向きになれた理由は

菊地涼太さん(30歳)は、中3のときに発達障害の1つである「トゥレット症」と診断されました。「トゥレット症」は、急に「あっ」と声が出るなどする音声チックと急に体を動かすなどする運動チックの両方が1年以上にわたり見られることで診断されます。
菊地さんに、学生時代や就職のことを聞きました。インタビューの後編です。

中学時代は、10秒に1回ぐらい「あっ」と声が

チックは自分の意思とは関係なく、急に声が出てしまったり、体が動いたりしてしまいます。

菊地さんは、小4から首をくるっと回したり、まばたきが多かったりする運動チックがみられました。中1になると突然「あっ」と声を発する音声チックが出るようになり、中2になると不適切な言葉を発する汚言症がみられるようになりました。

今は、症状に波はあるもののだいぶ落ち着いていますが、症状がピークだった中学生のころは10秒に1回ぐらい「あっ」と言ったり、不適切な言葉を発したりしていました。

汚言症や自傷行為に悩まされたことも。発症時の詳しいお話は前編から

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(以下、菊地さんの談話)

音声チックによって、通学の電車内で見知らぬ人に殴られた

菊地さん:僕は、中高一貫校に通っていて、電車通学をしていました。電車の中でも、自分の意思とは関係なく「あっ、あっ」という音声チックが出ることがあります。周囲の目が気になるので、毎朝、早く起きて空いている始発に乗って、中学に通っていました。しかし中3のある日、突然50代ぐらいの男性に「さっきからうるせえな~」と言われて、顔を殴られたんです。それから電車に乗るのが怖くなってしまい、登校も思うようにできなくなりました

 怖くて電車に乗れなかったけれど、両親や友だちが支えてくれた

菊地さん:そんな僕のことを支えてくれたのが両親です。両親は、車で片道1時間半~2時間かけて学校まで送迎してくれました。

学校では支えてくれる友だちもいて、「一緒に帰ろう! みんなで一緒に電車に乗ろう」と声をかけてくれて、一緒に電車で帰ってきたこともありました。周囲の目を全く気にする感じを出さずに自然に接してくれて、本当にうれしかったです。

菊地涼太さん当時のお写真(ご本人提供)

菊地さん:またチックが出て、まわりの目が気になったり、からかわれたりして教室にいられないときは、校内のカウンセリングルームで過ごしていました。先生は僕の症状と向き合ってくれて、「応接室で勉強しよう」と、勉強を教えてくれたこともあります。クラスメイトに症状の説明をしてくれた先生もいました。

心ない言葉に傷つくこともいっぱいありましたが、支えてくれる人たちもたくさんいました

高校卒業後、引きこもるように

菊地さん:電車の中で殴られたトラウマを引きずったまま、僕は高校を卒業しました。1人で電車に乗ることができずに、高校卒業後は家に引きこもる日々でした。今、振り返ると、鬱だったんだと思います。「外に行きたくない」「もう死にたい」「なんで生きているんだろう」と悶々と考えていました。コンビニ1つにも行くことができませんでした。

そんな僕に対して両親は、無理矢理外に連れ出すことはぜず、温かく見守ってくれていました

2年間、家に引きこもっていたのですが、その後父がいろいろと調べてくれて、就労移行支援事業所にたどりつきました。就労移行支援事業所は、国からの補助を受けて、障害や難病を抱える人の就職・復職を支援する場です。

就職に向けて、電車に乗るところからスタート

菊地さん:就労移行支援事業所に通い、職員さんから「まずは電車に乗れるようにしよう。1駅ずつでもいいから、電車に乗っていられる区間を延ばしていこう」と言われて、職員さんと一緒に電車移動に挑戦しました。人がいる場所をずっと避けていたためコンビニにも行けなかったのですが、「コンビニで買い物をしてみよう」と言われて、職員さんと一緒にコンビニでの買い物にも挑戦もしました。

就職に向けて、避けていたこと・場所を1つ1つ克服していきました。

障害者雇用枠で採用され、IT企業に勤務

菊地さん:僕は今、障害者雇用枠で採用いただき、IT企業の事務職で働いています。会社は、僕のことを理解してくれていて席は壁側です。隣の席の人は、僕が急に「あっ」と声を出すなどしても構わないと言ってくれます。

また行動療法を学び症状を自分でだいぶコントロールできるようにもなりました。たとえば僕の場合は、手や足を動かしたくてムズムズしてきたら、ぎゅっと力を入れてから、力を緩めると運動チックが出にくくなります。外の空気を吸うと落ち着くので、チックが出そうなときは、少し外に出るなどしています。勤務先は、合理的配慮で仕事中、外に出ることを認めてくれています。

チック症やトゥレット症で悩む子には、逃げ場所を作ってあげて

菊地さん:もし子どもがチック症やトゥレット症で悩んでいたら、安心して過ごせる逃げ場所を作ってあげてほしいと思います。僕の場合は、逃げ場所が家庭や学校のカウンセリングルームでした。

現在はトゥレット当事者会で症状の理解促進になる活動をしています(ご本人提供)

菊地さん:逃げ場所というとネガティブなイメージをもつ保護者もいるかもしれませんが、チック症やトゥレット症が原因で、からかわれるなどして傷つくこともあります逃げ場所がないと心が壊れてしまうかもしれません

今の僕があるのは高校卒業後、引きこもっていたときに、家庭を逃げ場所にしてくれた両親がいたからです。両親はかなり心配していたはずですが、いい意味で放っておいてくれたことで、僕はストレスを抱えずにすみました。

チック症やトゥレット症で悩んでいる子は、あきらめないで! 腐らないで!

菊地さん:僕は現在、トゥレット当事者会で活動しています。チック症やトゥレット症で悩む子どもたちに、僕と同じようなつらい経験をしてほしくないという思いで、チック症やトゥレット症のことを社会に発信し続けています。

チック症やトゥレット症で悩んでいる子には、あきらめないで! 腐らないで! と伝えたいです。個人差はありますが、行動療法で症状が緩和することもあります。トゥレット当事者会では、交流会なども開催しているので、1人で悩まないでほしいと思います。

前編ではトゥレット症発症当時のことを伺いました

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取材・構成/麻生珠恵

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