【中学受験】親のやりすぎサポートはどこが境界線?子どもが伸びない「やりすぎを防ぐコツ」と良いサポートの極意とは【伸学会代表・菊池洋匡さん】

中学受験では親が子どもにどこまで関わるのが正解なのでしょうか。親が陥りがちな「やりすぎサポート」の落とし穴と、子どもの力を引き出す関わり方のヒントについて、書籍『中学受験 親がやるべきサポート大全』の著者であり、中学受験専門塾・伸学会代表の菊池洋匡さんに話を聞きました。

子どもは「助けてほしい」と言っているか?

―中学受験では、プリントの整理や勉強の進捗管理、計画づくりなど、どうしても親のサポートが必要になる場面が多いと思います。菊池先生は、中学受験における親のサポートについて、「やりすぎ」の基準をどのように考えていらっしゃいますか。

菊池先生:まず大前提として、サポートの内容だけで「ここからがやりすぎ」と線を引くことはできないと思っています。なぜかというと、同じことをされても子どもによって受け止め方がまったく違うからです。線引きするとしたら、子どもの「助けてほしい」という気持ちに沿っているかどうかなのではないでしょうか。

―「やっている内容」ではなく、「子どもの感じ方」が基準になるということですね

菊池先生:そうですね。プリント整理も、「お母さんがやってくれて助かる」と感じる子もいれば、「勝手に触られるのが嫌だ」と感じる子もいますよね。どんなに親がよかれと思ってやっていても、それが子どもの中にストレスとして溜まっていく。それが子どもを勉強嫌いにしてしまうのです。

―親が「やってあげたほうがいいのでは」と思うことと、子どもが実際に「やってほしい」と思っていることが、ズレてしまうことも多いのでしょうか。

菊池先生:正直かなり多いと思いますね。模試の振り返りを親子で一緒にやるご家庭も多いと思いますが、それを心強いと感じる子もいますし、「できなかったと責められる」と感じてしまう子もいます。

ただ、よくある誤解として、「この作業は嫌だけど、これは平気」みたいに、子どもが細かく線引きをしていると思われがちなんですが、そうではありません。親の関わり方そのものがしんどくなってしまうと、「もう何をされても嫌」なんです。逆に関係性がうまくいっていると、多少手伝われてもあまり気になりません。

―親が「一緒に考えよう」という姿勢で関わっているのか、それとも無意識のうちに「チェックする側」「評価する側」になってしまっているのか。その違いが、子どもの感じ方に大きく影響するんですね。学年が上がるにつれて親の関わり方も変えていく必要があるのでしょうか。

菊池先生:理想を言えば、少しずつ手を放していけるといいですよね。小学4年から完全に子どもに任せる必要はありませんが、5、6年にもなると子どもが自分でやりたい、自分で決めたいとサインを出すようになりますから、ずっと同じ距離感で関わり続けるのは難しい。そのサインを見逃さずに、関わり方を調整していくことが大切だと思います。

―親としては、「どこまで手放せばいいのか」が一番悩ましいところですが、まずは子どもの反応をよく見ることが大切なんですね。

菊池先生:そうですね。サポートの量や内容の善しあしではなく、「この関わり方をうちの子が求めているのか」と一度立ち止まって考えてみること。それができるだけでも、やりすぎサポートから一歩離れられると思います。

親はなぜ、中学受験でやりすぎてしまうのか

菊池先生と伸学会に通う子どもたち(写真提供:伸学会)

―「やりすぎ」は決して特殊な家庭だけの問題ではなく、誰にでも起こり得ることのように感じます。そもそも、親はなぜ中学受験において、サポートをやりすぎてしまうのでしょうか。

菊池先生:それぞれの家庭に事情があるので、「こういうタイプの親が必ずやりすぎる」という単純な話ではありません。でも、共通しているのは、多くの場合、親御さん自身が「中学受験で失敗できない」と強い不安やプレッシャーを抱えているという点です。

もちろん、親御さんは子どもの将来が心配で何とかしてあげたいと思っていらっしゃいます。でも、夫や姑からの期待や圧力に追い詰められている方や、ママ友同士の関係や職場での立場から、「いい学校に合格させなければ」と無言のプレッシャーを感じている方は、子どものためというより、自分が責められないために、手や口を出しすぎてしまうんです。

―「子どものため」と思いながら、お母さんが不安を抱えたまま冷静にお子さんと距離を保つのは難しそうです

菊池先生:もう一歩踏み込んで見ると、「子どものため」という建前の裏に、親自身を守るための気持ちが隠れているケースも少なくありません。本音の部分では、親が「安心したい」「自分の立場を守りたい」という気持ちが強くなってしまう。そこまで追い込まれた状態が、いちばん危ういと感じています。

―そうした親御さんに対して、菊池先生はどのように関わっていらっしゃるのですか

菊池先生:「この関わり方を続けると、子どもが勉強嫌いになってしまう可能性があります」「合格しても、その後が苦しくなりますよ」と率直にお伝えします。実際に、やりすぎたサポートの結果、合格後に学校に通えなくなってしまった子の話をすると、ショックを受ける親御さんも多いです。でもそれが親御さんの考え方を見直すきっかけになることも少なくありません。

―親自身も、必死な中で気づかないうちに追い込まれてしまっているのですね

菊池先生:「やりすぎてしまった親=ダメな親」ではありません。不安やプレッシャーの中で、必死に子どもの将来を考えてきた結果なんです。その構造を理解せずに、「やりすぎだからやめましょう」と言っても、根本的な解決にはならないと思っています。

やりすぎに気づいたときが最初の一歩

―「もしかしたら自分はやりすぎていたかもしれない」と感じた親御さんもいると思います。それに気づいたら早めに方向転換したほうがいいのでしょうか。

菊池先生:そうですね。中学受験をしているお子さんは、だいたい10〜12歳。まだこれから思春期も含めて長い時間があります。このタイミングで関係の向きを変えられれば、十分に取り戻せます。

逆に、「もう今さら変えても…」と何もしないまま時間が過ぎるほうが、後々、修復が難しくなるケースも多いです。「やりすぎていたかもしれない」と気づけた時点で、もう一歩前に進んでいるんですよ。

―関係を立て直すうえで、親が最初に意識すべきことは何でしょうか

菊池先生:大切なのは対話です。「何ができていないか」を親が話すのではなく、「今、どう感じているか」をお子さんに聞いてください。成績や結果の話はいったん置いて、「最近どう?」「何が一番しんどい?」といった問いかけからでいい。一度壊れかけた信頼関係は急には元に戻らないかも知れませんが焦らずに。対話を重ねれば、子どもの中に「この人はちゃんと自分の話を聞いてくれる」という感覚が芽生えていきます。

どんな対話が“よいサポート”なのか

菊池先生の考える良いサポートとは?

―「良いサポート」とは、具体的にどのような対話なのでしょうか

菊池先生:ひとつの例としておすすめしているのが、親子での振り返りの時間です。頻繁でなくても構いません。月に一度くらい、「最近どうだった?」「今月は何がいちばん大変だった?」と、まずは子どもの話を聞くところから始めます。

子どもがそこで「計算ミスが多かった」と言ったときに、親が「じゃあ毎日これをやりなさい」と決めてしまうのではなく、「どうしたら減らせそう?」と聞いてください。「毎日5問だけやってみる」とか、「時間を測って解いてみたい」といったアイデアが子どもの口から出てきたら、それは続く可能性が高いです。自分で決めたことはやろうと思うんですね。

―菊池先生のサロンに参加されていた方で実際にうまくいっていたご家庭があるそうですね

菊池先生:毎月「作戦会議」と呼んで、対話をしながら振り返りをされていました。まず子どもが「今月頑張ったこと」「うまくいかなかったこと」を話す。親は否定せずに聞く。そのうえで、「じゃあ、来月はどうしたい?」と問いかけるんです。それをノートにまとめていました。

親子での振り返りを書いたノート(提供:伸学会)

―お子さんが中学受験の当事者意識を持っていらしたんですね。それが勉強への向き合い方も変えていったのでしょうか。

菊池先生:振り返りを続ける中で、勉強への姿勢が安定し、結果として成績も少しずつ上向いていきました。親子関係にも変化があって、「勉強しなさい」と親から子に言う関係から、一緒に作戦を立てる関係に変わっていきました。

―対話を軸にしたサポートは、受験だけでなく、その先にもつながっていきそうですね

菊池先生:そう思います。中学受験は通過点にすぎません。その過程で、親が答えを与える存在ではなく、「話を聞いてくれる存在」「一緒に考えてくれる存在」になれたかどうか。その関係性こそが、受験を超えて、子どもの人生を支える土台になるのではないでしょうか。

―最後に、この記事を読んで「もしかしたら自分はやりすぎているかもしれない」と感じた親御さんに、メッセージをお願いします

菊池先生:中学受験は手間もお金もかかります。それをわが子にさせようと考える時点で、子どものことを真剣に考えている、すごくいい親御さんだと思います。だから、「やりすぎてしまった」と自分を責める必要はありません。大切なのは、気持ちではなくやり方。子どものためを思う気持ちがきちんと伝わる関わり方を選んでほしいですね。焦らず、子どもの声に耳を傾けてみてください。

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お話を聞いたのは

菊池洋匡 中学受験専門塾「伸学会」代表

算数オリンピック銀メダリスト。開成中・高、慶應義塾大学法学部法律学科卒。10年間の塾講師経験を経て、2014年に伸学会を自由が丘に開校。現在は目黒校・中野校・飯田橋校・表参道校を開校し5教室を展開している。「自ら伸びる力を育てる」を理念に、スケジューリングやPDCAなどのセルフマネジメント指導と、成長するマインドセットを育てるコーチングを実践。教育心理学に基づいた指導が支持を集め、メルマガ登録者は約12,000人、YouTube登録者は約11万人にのぼる。

菊池洋匡 SBクリエイティブ 1870円(税込)

中学受験を「試験突破」ではなく、親子がともに成長するプロセスとして捉え直す一冊。親の不安や業界の過剰な競争が招く「hell-being中学受験」と、主体性と自己肯定感を育む「well-being中学受験」を対比しながら、後者を選ぶための考え方と具体策を示す。受験のウワサ検証から学校・塾選び、親の接し方、スケジュール管理までを網羅し、結果に左右されない“納得できる中学受験”への道筋を提示する。

取材・文 黒澤真紀

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