博物館や身近なもの+図鑑で、子どもの好奇心をくすぐろう
HugKum まず、自由研究と言うと何から手をつけていいかわからないことが多いと思います。テーマ探しが大変ですね。
北川吉隆さん(以下北川):本当は、子どもが普段から気になっていることがあれば、それがテーマとして一番です。身近なところで、虫が好き、花が好き、ということなら、迷わず好きな虫や花をテーマにしましょう。「庭で見られる虫」や「近所の公園の植物」など、身近な環境でくくってみるのも良いと思います。身近な環境で生き物を見つけると、名前や種を正確に知りたくなります。そこで図鑑を調べます。
ただ、身近で「好きなこと」がなかなか見つからない。そんなときは、水族館や博物館に行くことをおすすめします。ぼくの娘が小4のときは、サメの展示が有名な水族館に行って、いろんな種類のサメを観察してもらいました。館内で気になったものを、とにかく写真に撮るんです。その写真をルーズリーフに貼って、わかったことや感じたことを書いていきました。そして撮ったサメを、図鑑で見ながら自分で絵を描きます。そうすると、どこにヒレがあるのか、どんな歯を持っているのか、確認することができます。でもこれだけの量をまとめるのは大変なので、一日一種類と決めて、夏休みの最終日までできるだけの数を描く、ということだけ決めました。
HugKum これはすごいですね! 写真なら自分の興味に合わせて撮ることができますし、一度体験したことなので、図鑑を見ることでより興味深く感じられるでしょうね。
北川:低学年では、もっとハードルを下げてもいいと思うんですよ。娘が小1のときは、庭を中心に身の回りの生き物の観察日記を描く、というものでした。生き物だったら、動物でも植物でもなんでもOKということにして、家の周りにいた虫や草、海に行ったときに隣の人が釣っていたフグまで、いろいろなものの写真を撮って、日記風に思ったことを書いていきました。これでも「身の回りの生き物探し」という立派な自由研究になります。でもフグひとつとっても、いろんな種類がいるので、なにフグなのか調べるのにはやっぱり図鑑が必要なんですね。生き物が見つけにくい環境だったら、食卓にのぼるトマトや魚だって、身近な研究対象になります。魚を丸ごと買ってきて、食べる前に観察して、スケッチして、他の魚との違いを調べるだけでおもしろいですよ。
北川:この時期の自由研究は、学問として意味があることより、その子が一番興味を持ったものをやらせるのが一番です。嫌々やっても、結局その子の身につかないんですよね。虫好きなら虫ばっかり、石好きなら石ばっかりでいいと思います。好きなものほど覚えますので、逆に集中して覚えるチャンスです。大人になると、いくら好きでもそうそうは覚えられないんですよ(笑)。
研究テーマは4つの要点をまとめよう
HugKum テーマが設定できたら、どんなふうにまとめていったらいいですか?
北川:研究テーマが決まったら、「きっかけと調べたこと」「調べた方法」「結果」「わかったこと」の4つをまとめましょう。大学の研究でも、この4つが基本となります。
「調べたこと」は、簡単に何をしたのかを知らせることです。たとえば「家の近くの雑木林に住んでいるノコギリクワガタの生態を調べました」など、何をしたのかを書いていきます。研究の要点を知らせるということで役割をします。研究するきっかけになったことがあれば、この項目に入れていいと思います。
「調べた方法」は、生き物がいる場所(身近な庭や水族館など)に観察しに行く、生態について図鑑で調べるなど、場所や時間、どんな方法で調べたのかを書いていきます。
「結果」は、実際に調べたことをまとめます。写真を撮ったり、図鑑で調べたことを、シートなどにまとめます。
「わかったこと」は、その結果を見て自分で考えたことです。感想や発見したことなどを書きます。
HugKum「わかったこと」が明確なときは、そのまま書けばよいと思いますが、「わからなかった」場合、子どもには書くのが難しいと思います。どうしたらよいのでしょうか?
北川:特に科学実験などの考察は難しいですよね。たとえば電池を使った実験をしたんだけれど、どうしても動かなかったということもあります。わからなかった場合は「わからなかった」と書いてもいいと思うんです。でも、いろいろ調べてみたら、つないではいけないところをつないでショートしていたりする。そういうことがわかったらしめたもので、それが本当に学力になっていくのだと思います。研究には「どうして思った結果にならなかったのか」という原因解析がすごく大事で、道具が不足していたり、今回調べた虫の個体があまりに少ないことで結論に導けなかったのでは、ということを考えてほしいと思っています。
今回、お子さんが簡単にまとめることができるよう、テンプレートを作りましたので、ぜひ使ってみてください。
北川室長が考案、自由研究をまとめるテンプレートシートはこちらの記事からダウンロード!
図鑑の上手な活用法を教えて!
HugKum 自由研究では、いろいろなことを調べるのに図鑑が活躍することが多いです。上手な活用法があれば教えてください。
北川:図鑑のひとつの役割として、正確な名前がわかるということがあります。ひとことでバッタ、チョウと言っても、種類が多く、似ているものがたくさんあるんです。大人でもよくわからない人が多いです。ものの正確な名前を知るということは、分類学という自然科学の基本につながります。似たもの同士を調べて、区別し、名前を覚えて、それを活用していくことが大事です。
生物は個体差があったり、成長段階によって姿形が変わっていくものが多いです。いまは、インターネットで画像検索してある程度の目星はつけることができます。でも情報が正しいとは限らないので、理想的なのは、複数の図鑑を調べていくことです。どうしてもわからなければ、近くの博物館に聞いてみるのも手かなと思います。でも最初から博物館に丸投げされると研究員さんも困っちゃうので、まずは自分で調べてみたほうが、きっと勉強になりますよ。
HugKum 図鑑で探すとき、どこを開いたらいいかわからなくて、毎回パラパラと全体のページをめくって探してしまいます。いい見つけ方はありますか?
北川:パラパラと全体をめくるのが基本で、むしろそれが紙の図鑑の一番の強みなんですよ。図鑑NEOの場合は、カブトムシやチョウなど人気の種が「昆虫」の最初のページに載っているわけじゃないんですよね。目次を見るとわかるのですが、掲載は形質の古い順です。一番最初はトビムシやシミといった、古くからいる原始的な虫になっています。最後が「社会性」を持ったハチやアリになるんです。パラパラめくっていって、ながめていくだけで、進化の道筋がわかるのはおもしろいですよ。
HugKum そうなんですね。索引で探すと、同じ生物でも複数ページが書いてあることもあって、どのページを見たらいいか迷います。
北川:基本的には、カマキリならオオカマキリ、セミならミンミンゼミなど、一番よく見られる種が、複数ページに渡って載ってることが多いです。
索引では、数字が太字になっているところが一番丁寧に説明してあるので、参考にしてみてください。そのほかのページは、その昆虫の卵から成虫までの一生の姿がのっていたり、おもしろトピックがあります。たとえば「ガのとまり方比べ」などのトピックは、そのまま自由研究のネタになるようなものです。こういうところから、テーマを探してみてもおもしろいかもしれません。
後編では、自由研究で使える図鑑をたくさんご紹介します。
記事監修
1968年生まれ。東京都出身。幼少の頃より生き物、図鑑好き。とくに魚が好き。小学館の学習百科図鑑『魚貝の図鑑』が図鑑の原体験で、同じ図鑑を何冊もボロボロになるまで読んではまた買って貰っていた。小学館入社後の担当歴は、幼児向学習雑誌「めばえ」、「幼稚園」を経て2000年より図鑑編集部。『小学館の図鑑NEO』シリーズ創刊からメンバーに加わり、『昆虫』『昆虫2』『魚』『両生類・はちゅう類』『水の生物』『カブトムシ・クワガタムシ』『科学の実験』『深海生物』等を担当。
文・構成/日下淳子 HugKum編集部