【発達障害と夜尿症】夜尿症は親子の自尊心を傷つけている―発達特性に応じた治療アプローチとは《小児科医に聞いた》

「夜尿症で死ぬわけじゃない」。フェリング・ファーマ株式会社主催の夜尿症メディアセミナーで、順天堂大学医学部附属浦安病院 小児科 准教授の呉宗憲(ご そうけん)先生によって語られたこの言葉は、治療の意味を問い直します。命に関わるわけではない症状に、なぜ向き合う必要があるのか。その背景には、子どもの自尊心への影響や、親子の悪循環があります。さらに講座では、ADHDやASDといった発達特性を持つ子どもほど夜尿症を併発しやすく、対応にも工夫が必要であることが示されました。本記事では、夜尿症治療の本質を再確認しつつ、発達特性に応じた子どもへの夜尿症治療の進め方についてもご紹介します。

夜尿症治療は、何を治しているのか

呉先生はまず、率直な問いを投げかけます。「おねしょしたからといって、別に死ぬわけじゃない。寿命が縮むエビデンスがあるわけでもない。じゃあ一体、何を治しているのか」。

その答えを考えるとき、重要なのが夜尿症が子どもの「心理・社会面」に与える影響です。

「大抵の親御さんは、子どもがいじめられていると知ったらカウンセリングを考えますよね。でも実は夜尿症のほうが、心理的なダメージが大きいという報告もあるんです。それだけ、夜尿症を抱えていること自体がトラウマティックな側面を持っている」と呉先生は言います。

夜尿症の子どもの自尊心についての調査でも、重症の夜尿症の子では自尊心が低い割合が8割にのぼるという結果が出ています。夜尿症を抱えた子どもたちは、表面上は「別に(治療しても、しなくても)どっちでもいい」と言っていても、内心では深く傷ついていることが少なくないのです。

親も傷ついている——悪循環のなかにいる家族

夜尿症がつらいのは、子どもだけではありません。保護者への調査では、約8割の保護者が「夜尿はストレスだ」と感じていました。その理由として多く挙げられたのが、朝の片付けや洗濯といった物理的な負担だけでなく、「子どもに治療意欲が見られないように感じる」「子どもを怒ってしまう」といった感情的な側面でした。

さらに、「おねしょを理由に叱ったあと、後悔しましたか」という問いに対しては、「とても後悔した」「後悔した」「やや後悔した」を合わせると、約75%の保護者が後悔していたというデータもあります。

呉先生はこの状況を「悪循環モデル」として整理します。夜尿が続く→子どもが不適切な行動を取りやすくなる→自尊心が低下する→親が叱ってしまう→親自身も後悔して自尊心が下がる、という循環です。

「夜尿という問題の存在自体が、親子双方の自尊心を傷つけている。そこからどう抜け出すかが大切です」と呉先生は言います。

夜尿症治療の本質的な目的とは

こうした背景を踏まえたうえで、呉先生は夜尿症治療の目的をこう定義します。

「修学旅行に行けるようになる、宿泊行事に参加できるようになる…そういった社会的な障壁が取り除かれること。これはもちろん大事です。でもそれ以上に大切なのは、その治療に取り組む過程によって、子どもの自尊心が保持され、成長が後押しされること。これこそがいちばんの目的だと思っています」。

つまり、夜尿症が「治る」ことだけが目標ではない。治療に向けて行動し、小さな達成感を積み重ねていく過程そのものが、子どもの成長にとって意味を持つというのです。

神経発達症と夜尿症——見えにくい、でも深いつながり

呉先生がとくに注目するのが、神経発達症(発達障害)と夜尿症の関係です。

神経発達症とは、背景に神経系の発達の不具合があると想定される疾患群のこと。注意欠如・多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)などが代表例で、発達の凹凸があるだけでなく、それによって日常生活に困りごとが生じている状態を指します。

こうした神経発達症のある子どもは、夜尿症を併存する割合が顕著に高いことが分かっています。ADHDの子どもでは、定型発達の子どもと比べて昼間の尿失禁が4.5倍多く、ADHDの子どもの約2割に夜尿症があるとの報告もあります。ASDの子どもでは、16〜75%に夜尿症があるという報告もあり、幅は広いものの、明らかに合併頻度が高いと言えます。

その原因は複合的です。中枢神経系の問題が関与している可能性もあれば、睡眠障害が絡んでいることも。さらには、行動特性ゆえに治療に必要な行動習慣が身に付きにくいという面もあります。

「治りにくくても治療する意味がある」神経発達症における夜尿症治療

一方で、神経発達症のある子の夜尿症は治りにくいという現実もあります。「何らかの生物学的特性に加えて、お薬を飲む、水分を控えるといった治療構造の行動がそもそも確立しにくい。だからなかなか治療が進みにくい」と呉先生は認めます。

しかし、だからといって「治りにくいなら治療する意味がない」とはならない、と呉先生は言い切ります。「そうではなくて、治療構造の確立自体を目標にしてしまう。夜尿症が治ったか治っていないかではなく、夜尿症を治すための行動ができたかどうか。そこ自体を目標にするんです」。

治療の目的を「自尊感情・自信の保持」に設定する。そうすることで、「治りにくいけど治療する意味がある」という関わりに変えることができる、と呉先生は話します。

「褒める関わり」を夜尿症治療に組み込む

では、実際にどうすればよいのでしょうか。呉先生が紹介するのが、ペアレントトレーニング(親向けの子育て支援プログラム)でも使われる「子どもの行動の3つのタイプ分け」という考え方です。

まず、子どもの行動を「してほしい行動」「してほしくない行動」「危険な行動・許しがたい行動」の3つに分類します。そして、それぞれに対して異なる対応をします。

してほしい行動には、すぐに「肯定的な注目」を与えます。褒める、認める、うなずく、笑顔を返すなど。「大きい子の場合は『褒める』より『認める』のほうがいいかもしれない。褒めるのは反応を期待する二者間の交流ですが、認めるのは独り言でいい。君にはこういう力があるよな、と勝手に言うだけ。それは受け入れられやすい」と呉先生は言います。

してほしくない行動(夜尿症の文脈では「寝る前にトイレに行かなかった」「寝る前に飲み物をがぶ飲みした」など)は、「計画的な無視」をします。これは放置するのではなく、「褒めるために待っている状態」です。その行動をやめた瞬間、あるいは切り替えようとした瞬間に、すかさず肯定的な注目を与えます。

危険な行動・許しがたい行動(例えばアラームの機器を壊そうとするなど)に対しては、「警告」を出します。「これは褒めるための最後のチャンス」と呉先生は表現します。事前に約束したルールに従ってストップをかけ、止められたならそこで褒める。止められなかった場合のために、代わりとなる行動(例えば「こちらの柔らかいものであれば投げていい」)をあらかじめ用意しておくのも有効です。

ここで呉先生が強調するのが、「夜尿が治ったかどうかを褒めの材料にしない」という点です。「褒める関わりの材料として、夜尿の結果が含まれていないことがポイントです。全て行動にフォーカスする。行動だけで、その子の自尊感情を高めることができます」。

発達特性に応じて工夫を。ASD、ADHDの子どもへの具体的なアプローチ

神経発達症のある子と関わるうえでは、その子の特性を理解した工夫が欠かせません。

ADHDの子どもは、ワーキングメモリ(作業記憶)の問題を抱えることが多く、複雑な指示が頭に入りにくい場合があります。「寝る前にこうしてこうしてこうして…と丁寧に説明するより、『9時、トイレ』と一言で伝えたほうが伝わりやすいこともある。言葉を削って、一目で分かる工夫をすることが有効な場合があります」と呉先生。

ASDの子どもには、曖昧な表現が苦手という特性があります。「水分をたくさん取らないでね、と言っても、“たくさん”は実はすごく曖昧。自分の中では500ccはたくさんじゃないと思っているかもしれない。だから、『夕食後から寝るまでは200cc、アンパンマンのコップ一杯までね』など具体的に伝えることが大切です」。

また、ASDの子どもは突発的な出来事に混乱しやすい傾向があるため、「このあと何が起こるか」を事前に見立てて伝えることで、スムーズに行動できるようになることもあると言います。

受診につながらない現状も。適切な治療で親子の悪循環を断ち切って

現状では、夜尿症の子どものうち医療機関を受診しているのは4割程度にとどまります。夜尿症は「よくあること」として見過ごされがちです。

その陰で、子どもは自尊心を傷つけ、親は叱責と後悔を繰り返し、家族全体が知らないうちにすり減っていることがあります。ですが、適切な受診と治療によって、その悪循環を断ち切ることができるのです。

夜尿症の診療は、「おねしょ」というシンプルな症状を入り口にしながら、子どもの自尊心を守り、成長を後押しする場になり得ます。治ったかどうかより、治療に取り組んだこと。その積み重ねが、親子に自信をもたらす――呉先生の言葉は、夜尿症治療の意義を、私たちに改めて教えてくれます。

構成・文/HugKum編集部

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