目次
ADHDは生まれ持った特性。「しつけの問題」ではない
―ADHDにはどのような特徴があるのでしょうか。
本田先生:大きく分けると、「不注意」「多動性」「衝動性」の3つがあります。不注意は、注意が続かない、ミスが多い、忘れ物が多い、片付けが苦手、時間が守れないといった特徴です。多動性は、じっとしていられない、そわそわして体が動いてしまう状態。衝動性は、やりたいと思ったことをすぐにやってしまい、本来やるべきことを後回しにしてしまうことですね。
大切なのは、「どうすれば他の子と同じになるか」ではなく、「この子の特性を前提にどう関わるか」という視点に切り替えることです。
―ただ、こうした行動は子どもなら誰でもあるようにも感じます。どこからがADHDと考えればよいのでしょうか。
本田先生:ポイントは2つあります。1つは、家庭だけでなく学校など複数の場面で同じような特徴が見られるかどうか。もう1つは、それによって生活に支障が出ているかどうかです。例えば、家では忘れ物が多くても学校では問題ないという場合は、単なる環境の影響かもしれません。ただ、どこでも同じように困りごとが続いている場合は、診断に近づきます。ただし、何分以上多動だから診断、というように明確な線引きがあるわけではなく、境界は比較的あいまいです。
―「うっかりが多い」「落ち着きがない」といった様子は、しつけや性格の問題だと感じてしまう保護者も多いと思います。
本田先生:そうですね。実際にご相談に来られる親御さんの多くが、「自分の育て方が悪かったのではないか」と悩まれています。ただ、ADHDは基本的にしつけの問題ではなく、生まれ持った特性です。ですから、親が厳しくしつければ直るものではありませんし、無理に直そうとすることで、かえって子どもが自信をなくしたり、うつや不安といった二次的な問題につながることもあります。
―家庭では、つい叱ってしまう場面も多いと思いますが、効果はないのでしょうか。
本田先生:残念ながら、叱って劇的に改善することはほとんどありません。むしろ、親子関係が悪化してしまうこともあります。大切なのは、叱ることではなく「どうすればできるか」を一緒に考えることです。
ADHDの子どもあるある!対応次第でみんな笑顔に


困りごと1「忘れ物が多い」
本田先生:手を貸すべきかと悩む親御さんは多いですが、ある程度のサポートはあっていいと思います。大人になっても忘れ物が完全になくならない人もいますからね。大切なのは、出発前に一度集中して見直す習慣をつくること。一つひとつ丁寧に確認させるというより、集中して一発でチェックする場面をつくることで、ミスを減らしていくことができます。

困りごと2「片付けられない」
本田先生:ADHDの子どもは計画的に進めるのが苦手なので、「片付けなさい」と任せるだけではうまくいきません。大切なのは、集中しやすい形をつくり、「ここに入れてね」と具体的に示すことです。最初は親が一緒に始めて、少しずつ任せていく。そして最後のひと手間は必ず本人がやることで、「自分でできた」という感覚が育ち、次の行動につながります。


困りごと3「夏休みの宿題が終わらない」
本田先生:毎日コツコツ進めるよりも、締め切り直前に一気に集中するタイプが多いですね。なので、夏休みの前半は思い切って遊ばせ、ラストスパートで仕上げるやり方でも、結果として間に合うことは少なくありません。ギリギリで集中してやりきった“武勇伝”を重ねていくのもいいんじゃないでしょうか。大切なのは「間に合った」成功体験を積むこと。それが次のやる気を引き出します。
―本人のためによい対応の仕方が親も分かれば、親子関係もうまくいきそうです。先生は臨床の場で、お母様方に家庭でできる環境づくりやサポートについて、どのようなアドバイスを送っていらっしゃるんでしょうか。
本田先生:先回りして注意すると、絶対に子どもがイヤになるので、それはしないでほしいと話しています。言いすぎると、子どもはだんだん聞かなくなってしまいますから。本当に必要な場面だけ声をかけて、それ以外は見守る。そして、本人ができるところは任せつつ、難しい部分は親が最初だけ手伝い、少しずつ手を離していけるでしょう。大器晩成型の芽を大切にしてほしいと思いますね。
「やる気がない」のではない――行動のしくみを理解する
―お話をうかがっていると、ADHDの子どもたちの行動にはそれぞれ理由があるのだと感じます。どのような背景があるのか、教えていただけますか。
本田先生:ADHDの子どもは、「興味」と「スイッチ」で動いていると考えると理解しやすいです。興味があることには驚くほど集中しますが、興味がないことにはなかなか取り組めません。そして、その切り替え、つまりスイッチのコントロールが苦手なんですね。そのため、親から見ると「さっきまで遊んでいたのに、どうして今やるべきことができないの?」と感じる場面が多くなります。しかし本人の中では、「やらない」のではなく「切り替えられない」状態が起きています。
また、興味のあることに対しては一気に集中するため、「できるときとできないときの差」が大きいのも特徴です。これが「やればできるのにやらない」と誤解されやすい理由でもあります。このしくみを理解しておくと、叱る場面はぐっと減ります。「なぜできないのか」を責めるのではなく、「どうすれば動きやすくなるか」を考えることができるからです。
―例えば学校の先生と連携しながら、一緒にサポートしていくような関わりも大切になってきそうですね。
本田先生:むしろ、そうした周囲との連携がとても重要になります。ADHDは見た目で分かりにくい特性なので、これまで十分に理解されてこなかった面があります。実際には、昔から一定の割合でこうした特性を持つ子どもはいました。ただ、「普通のクラスで卒業できているから大丈夫」と見過ごされがちだったのです。でも、その過程で不登校になってしまったり、他者からの言動に傷ついたりしていた子どもも少なくありません。だからこそ、家庭だけでなく学校とも協力しながら、その子に合った環境を整えていくことが大切だと思います。
「できない」を責めない――親がゆったり構えた方がうまくいく
―先生がご著書『最新 マンガでわかるADHDの子どもたち: その子の特性を活かした、独自の処世術』(バトン社/フォレスト出版)で、「大人になるまでにその子の持つ明るさが失われないようにすること」が大切と書いていらしたのが印象的でした。
本田先生:ありがとうございます。ただ、親御さんが思う「普通に育ってほしい」という気持ちが、かえって子どもにとって負担になってしまうこともあるんです。「ADHDがあっても、この子なりに明るくすくすく育ってくれればいい」と思うくらいでちょうどいいんですが、どうしても、いろいろなことをまんべんなくできるようにと求めてしまいがちなんですね。
―理想を高く持つことが、逆に苦しさにつながることもあるんですね。
本田先生:そうなんです。「金の斧、銀の斧」の話があります。本当は自分の斧でいいのに、「もっといいものがほしい」と思ってしまうとうまくいかない。あれと似ていて、「こうなってほしい」と理想を強く持ちすぎるほど、かえってうまくいかないことがあるんです。ADHDも同じで、「直そう」と思って関わると、むしろ苦しくなってしまうことがあります。でも、「そういう特性があってもいい」とありのままのお子さんを受け入れて育てていくと、ADHDがあっても社会でやっていけるようになる人も少なくないのです。
―特性を強みとして捉えるようにもなるのでしょうか。
本田先生:そうですね。多動性や衝動性は、思い立ったらすぐ行動できるという力でもあります。慎重になりすぎて動けない人もいる中で、その一歩を踏み出せる力がプラスに働く場面もあります。ただ、リスクの見通しが甘くなりやすいので、周りが少し支えてあげることも必要です。
無理に「普通」に合わせようとするよりも、その子らしさを活かしていく。そのほうが、結果としてその子自身も楽に、のびのびと育っていけると思います。
あわせて読みたい
お話を聞いたのは
精神科医・医学博士。信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授、同附属病院子どものこころ診療部部長。長野県発達障がい情報・支援センター「といろ」センター長。1988年東京大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院、国立精神・神経センター武蔵病院を経て、横浜市総合リハビリテーションセンターで20年以上にわたり発達障害の臨床と研究に従事。山梨県立こころの発達総合支援センター初代所長などを歴任。発達障害分野での学術論文多数。主な著書に『発達障害・「グレーゾーン」の子の不登校大全』(バトン社/フォレスト出版)ほか多数。
「そそっかしい」と感じる子どもの行動を、どう理解し、どう関わればよいか。本書はADHD(注意欠如多動症)の子どもたちの姿をマンガで紹介し、保護者や教師、支援者が理解を深められるようまとめた一冊です。忘れ物が多い、気が散りやすい、じっとしていられない…16の具体例を通して、「できない」と決めつけるのではなく、その子の困りごとに目を向け、適切な支援を考えるヒントが得られます。
この記事を書いたのは
愛媛県出身。大学時代まで自然豊かな愛媛で過ごし、都内の学習塾に勤務した後、2011年よりフリーライターへ。教育分野を中心に、医療やライフスタイルなどのテーマで執筆しています。息子たちが小学生の時に大学院を受験し、2019年、お茶の水女子大学大学院修士課程修了(社会科学修士)。子育てもひと段落。最近、俳句を始めました。
