【子供の発達障害】チェックリスト付き!歯磨き、散髪などの身支度を嫌がるのはなぜ?タッチングのやり方も

発達障害がある子は、散髪、耳掃除、歯磨き、爪切りなどを極端に嫌がることがあります。小さい子にはよく見られることでもあり、それが発達障害によるものなのか、成長過程で起こることなのか、判断がつかないのが困ります。なぜ、このような身支度を嫌がるのでしょうか? 「一番の問題は、愛着の形成、共感性や社会性の発達の土台が揺るぐことだ」と作業療法士の木村順先生はおっしゃいます。

発達障害の子どもが嫌がる身支度とは?

繰り返しの拒絶が「育てにくさ」の原因に

身だしなみを整え、体を清潔にして健康を維持することは、親ならばあたり前に行うお世話です。それを繰り返し嫌がられると、親は困ってしまいます。「育てにくさ」を感じる子供たちが嫌がることには下記ようなものがあります。

  • 散髪(特に耳の後ろあたりからうなじにかけて)
  • 歯磨き
  • 耳そうじ
  • 爪切り
  • 髪の毛をとく
  • 鼻をかむ
  • 口を拭いてもらう
  • 風呂で体を洗ってもらう

など

これらは定型発達の子でも、2〜3歳くらいで一時的に嫌がることがあります。しかし、極端な抵抗はしないし、長続きもしないものです。いっぽう発達障害がある子は、散髪や爪切りは子供が熟睡しているとき、歯磨きは押さえつけてやる、耳掃除は耳鼻科に連れていき、タオルに包まれて手足を拘束されてやっとというような状態。あまりの強い拒絶に、手を焼いて途方にくれる保護者もます。

 

身支度が苦手な子に多い、その他の心配

衣服の着用の拒否やこだわりが強い

このような様子をみせる子の中には、衣服の着用を嫌がる子もいます。それも身支度につながることなので、保護者は困ってしまいます。

  • 帽子をかぶるのを嫌がる(特にあご紐をつけられない)
  • 手袋をはめるのを嫌がる
  • タートルネックのセーターが着られない
  • マフラーをつけたがらない
  • カバンの肩ひもが首すじにかかるのが嫌い
  • 靴下をはきたがらない(逆に脱がない)
  • シャツの腕まくりを嫌がる(逆に降ろしたがらない)
  • ズボンの裾まくりを嫌がる(逆に降ろしたがらない)
  • えりのタグを取らないと新しい服を着てくれない

など

 

「わがまま」と誤解されやすい行動

スキンシップを嫌がられてしまう

こういう子供たちは、「自分からは触りにいく」のに、「触られたら嫌がる」ことがあります。例えば、自分からは手をつなぎに来るのに、こちらから握ろうとしたら手を振り払って逃げてしまう。子供の方からは親しい人の髪や耳たぶを触りにくるのに、こちらから抱っこしようとすると、するりと逃げてしまうなどです。一般的に子育ては「スキンシップが大事」とよく言われますが、子供の側が触られることを嫌がると、親はどうしたらいいかわからなくなります。そして、拒否されることが続くと、「わがまま」や「自分勝手」だと感じ、かわいくない子だと思ってしまう心配があります。

育てにくい子に多い「触覚防衛反応」とは

理屈ぬきにゾワッときて反射的に拒否

発達障害がある子は、一般的に触覚や聴覚などの感覚が過敏(または鈍感)だと言われますが、触覚の極端な偏りがあることを「触覚防衛反応」と言います。これは、脳の中の「原始的」な機能(反射)にブレーキがかからず、いつまでも暴走している状態をいいます。ぶたれようとしたら身構える、気持ち悪いものを触ったら手を引っ込めるなど防衛反応は、意識して行うものでなく、反射的に体が動きます。そのような反応が、たくさん残ってしまっているのです。

特に「触覚防衛反応」は生命維持機能として働くため、攻撃を受けたら致命傷になりかねない部位(首まわり、顔面、頭部、脇腹など)や、攻撃に使う部位(爪、歯茎や口内、口周囲)に強く出る傾向があります。発達障害のある子に顔まわりの身だしなみを嫌がる子が多いのはそのためです。結果的に、愛着の形成や、共感性・社会性の発達が揺らいでしまうのです。

親子の愛着形成や共感性の発達に歪みがでることも

「触覚防衛反応」の程度にもよりますが、この症状があると「親でさえ自分に対して生理的な不快刺激を与える」存在であると感じてしまい、「愛着」や「共感性」が育ちにくくなります。ただし、「親にはいっさいの責任がない」ことも強調します。身だしなみを整えるのも、健康のために行う歯磨きも、あるいは抱っこや頬ずりも、わが子かわいさゆえに行うことです。でも、「触覚防衛反応」はすべてを裏目にしてしまい、子どもの側からすると理屈ぬきの「不快さ」を親から強いられるのです。そして、親も、嫌がるわが子の「行動」から、子供がかわいく思えないという気持ちにつながります。親も子も「触覚防衛反応」という症状の犠牲になっていくのです。

触覚の発達を促すことで「防衛反応」を抑える

嫌がることを繰り返し、慣れさせることや我慢させるように仕向けるのは、親子の信頼関係を崩すことにもつながるので注意しましょう。無理強いされることが続くと、子どもは生理的に苦手でとても困っていることを、無理やりやらせられていることに失望し、保護者を信頼できなくなってしまいます。

「触覚防衛反応」の改善には、触覚の発達を促すことが大切です。意識的に触覚を使うことで、適応能力を回復しましょう。「ここを触るよ」と注意や関心を向けたうえで、全身をタッチすることで、触られると「怖い」と反応してしまっていた子供たちに、「触られても大丈夫」であることを学習させます。

「全身タッチ遊び」で意識的に触覚を使う

1 スポンジやたわしなどを、子供の肌に直接押し付けます。触られている部位を子供が関心を向けていることを確かめます。(道具を嫌がるときは素手で触るのでもOK)

 

2 脇やすねなど、子供が嫌がらないところからはじめ、ようすを見ながら首筋や口元など、子供が苦手な部分にタッチします。

 

3 腕の内側や足のすねなど、ふだんあまり意識しないところをタッチ。「ひざ」「すね」「ふくらはぎ」など部位の名前を言いながら触ると、体の部位を認識しやすくなります。

 

4 ひじ→二の腕→肩→背中へと、少しずつ目で見えない部位へ移動。嫌がったらひとつ前に戻り、それでも嫌がるときには無理には進めないようにします。

マッサージよりタッチング

https://www.shogakukan.co.jp/pr/90th/310808.html

▲ここからタッチング実践動画が見られます

体に触れる遊びなら、マッサージやくすぐり遊びでいいのでは?と思うかもしれませんが、「触覚防衛反応」が出ている子供は、摩擦刺激に対して拒否が出やすいので注意しましょう。タッチング遊びは「一定の圧力」で「場所を固定して」触ってあげるので、子供が触ってもらっている部位を注目しやすくなります。皮膚から入ってくる触覚情報にきちんと「注意」を向けて、部位や素材などを「識別」する。その回路がきちんと育ってくると「原始系」の暴走を抑制することができるようになります。

 

お話を伺ったのは

木村順先生

作業療法士(OT)。1957年生まれ。日本福祉大学卒業後、金沢大学色湯技術短期大学部(現在、金沢大学保健学科)作業療法学科にて資格取得。東京都足立区の「うめだ・あけぼの学園」で臨床経験を積み、2002年3月に退職。2005「療育塾ドリームタイム」を立ち上げ、発達につまずきのある子どもの保護者の相談や療育アドバイスを行う。保育・教育者向けの講演会も多い。著書に『育てにくい子にはわけがある』(大月書店)『小学校で困ることを減らす親子遊び10』(小学館)など。二女一男の父でもある。

 

『発達障害の子を理解して上手に育てる本 幼児期編』
ためし読みはこちら

編集部おすすめ

関連記事