息をのんだ合格発表
――合格発表を見たとき、どんなお気持ちでしたか?
宮崎謙介さん 結果はオンラインだったので、リビングで家族そろって番号を入力して確認しました。「いくぞ!」と声をかけて、画面をクリック。
合格の文字が出て、心底ホッとしましたね。「よかったね、受かったよ!」って息子に声をかけたら、ニコーッと笑ってくれて。家族でファミレスに行って、お祝いしました。
――まさに家族全員の努力が実った瞬間だったんですね。
金子恵美さん 自分のことだったらいいんですけど。子どもがこれだけ頑張ったのに、不合格だったらどうやって子どもに説明するのかと。この頃が人生で一番追い詰められたと思います(笑)
親子でかけたラストスパート

「最後の3か月は俺が見る」
――最後の3か月は、宮崎さんがつきっきりだったそうですね。
金子さん 年長になって家庭教師にお願いをしました。さらに8月に入り、まさに山場の時期にもう一段階ギアを入れて頑張ろうと思っていたところ……。
宮崎さん 個別指導の先生に相談したら「あと3か月しかない。お父さまが勉強を見られるのが一番いいと思います」と言われたんです。3か月 = 12週間かと。改めて数字で見るともう時間がない。「よし、じゃあ、ここからは俺がしっかり見よう」と腹をくくりました。
――かなり密に関わられたのででしょうか?
宮崎さん 塾は継続しつつ、自宅で何をどう進めるかを明確にするために、まずスケジュール表を作成しました。縦軸に課題、横軸に日付を取り「いつまでに何をできるようにするか」を細かく設定。そこから逆算して、毎日のタスクを具体的に落とし込みました。
――受験内容は多岐にわたりますよね。
宮崎さん いわゆる“ペーパー”だけでなく、体操、絵画、指示行動、巧緻性など、全身を使います。毎朝のラジオ体操は欠かさずやっていました。床に養生テープでマークをつけて、「左前!」「ジャンプ!」など基本動作をひとつひとつ練習して。片足バランスや線を飛び越える動きもやりました。
― 息子さんに寄り添っていらっしゃるのが伝わってきますが、怒ってしまうこともありましたか?
宮崎さん あります。あります(笑) 「昨日やったのになんで忘れてるの!?」って。でも怒りすぎると子どもは潰れちゃう。5歳って、まだ“人になりかけの途中”。そこを忘れちゃいけないんですよね。
小学校受験特有の課題への取り組み

「巧緻性」は楽しめる工夫を
――巧緻性の対策が難しいと聞きます。どのように進めましたか?
金子さん 車移動の時間が“トレーニングタイム”でした。夫がいろんなシートをコピーして、息子に「これやってみて」と声をかけるんです。机に向かうよりずっと気軽で、自然と集中できていました。
宮崎さん 「巧緻性」は指先を使う作業を通じて集中力や手先の器用さを見るものです。ちぎり絵や、ひも通し、折り紙、リボン結び……ちょっとした作業なんですけど、試験で出されると意外と緊張して手が止まっちゃうこともある。だからこそ、家では“楽しく”取り組めるように工夫してました。たとえば、ただの丸をなぞるだけじゃつまらないので、僕がいろんなキャラクターを描いて、それを息子にちぎらせたり、貼らせたりして。
絵は「シャチ」と「嚴島神社」で勝負
――絵画の対策では、どのような工夫をされましたか?
宮崎さん 絵って、答えが一つじゃないからこそいいんですよ。発想力、構図、色合い、サイズ……ほめられるポイントが本当にたくさんある。息子は表現系が得意だったので、そこを活かしたいと思って「シャチ」と「嚴島神社」を“勝負ネタ”にして準備しました。
――戦略的かつ個性的なアプローチですね。
宮崎さん 赤い大鳥居が好きすぎて、実物を見せようと家族で広島まで行ったんですけど。行ったらまさかの修理工事中で足場つきのグレーの鳥居で(笑)。絵葉書を買ってイメージをふくらませていました。
金子さん 行ったことに意味があったんだと思います。家族で一緒に歩いたり、おしゃべりしたり。
宮崎さん 「体験が大事」ってよく言いますけど、ほんとにその通りなんです。絵にも面接にも、実際に体験した“映像”があるかどうかってすごく影響します。本番は別のテーマが問われたんですけど、準備が功を奏したのかちゃんと描けたそうです。
小学校受験で大切なのは「夫婦で一緒に決めて、一緒にスタートすること」

願書は夫婦の合作
――宮崎さんはコンサルタント、金子さんはコメンテーターとしてお忙しい中での受験だったと思います。ご夫婦の役割分担はどのようにされていましたか?
宮崎さん リサーチや資料づくりは僕がやっていました。実は得意じゃないんですよ(笑)。妻はテキストを何度も解けるようにコピーしてくれました。
ーー願書が大変だと聞きます。
宮崎さん 大変です! 受験の最初の“ヤマ場”だと思います。9月ごろにどっと疲れる。でも、そこに親の熱意が出るんですよね。願書に必要な「自己分析ツリー」も作成して、出願時はそれに僕らなりの言葉で肉付けしました。私が下書きして、清書は妻が。3回も書き直した学校もあります。
パパの協力は不可欠!
――小学校受験は、どうしてもお母さん中心になりがちという声もあります。実際はいかがでしたか?
宮崎さん 最初に塾に行ったときはママさんばかりでかなりアウェーでした。でも通っているうちに、ママさんたちとも打ち解けて、お悩み相談もされるようになりました(笑)
金子さん 仲良くしていただいて本当にありがたかったですね。受験後に家族ぐるみで出かけたりも。情報交換だけじゃなく、私たちにとっては心の支えにもなりました。
夫婦で一緒にスタートを切ることが大事なワケとは?

――「うちの夫はなかなか協力してくれなくて…」というご家庭も多いと思います。どうしたら協力体制を築けるのでしょうか?
宮崎さん まず、パパに言いたいのは「家事・育児をやると、ママの機嫌が良くなる」ということ。これは本当に大きい。家庭の雰囲気が一気に変わります。とにかく最初は一度100%やってみるといいです。すると「そこは私がやるよ」って妻から声をかけてくれるようになって、自然と分担ができていきますから。
――協力し合うには始め方が大切なのでしょうか?
金子さん 私たちは少し出遅れてしまって、途中から「まずい、急がなきゃ!」と本格的に動き出しました。でも、それがかえってよかったのかもしれません。どちらかが先に走りすぎてしまうと、あとから追いかけるのは大変なので。
宮崎さん 一緒に決めて、一緒にスタートする。それだけで、受験のすべてが“家族の共同作業”になります。夫婦でゼロベースから情報を集めて、子どものことを一緒に見て、一緒に悩んで考える時間が何より大切なんです。子どもの成長を一緒に感じられるし、受験の先にもきっと活きてくると思います。
金子さん 感謝の気持ちを言葉にするのも忘れずに。これは普段から私が心がけていることです。
小学校受験は、親にとっても学びの時間

――最後に、これから小学校受験を考えているご家庭にメッセージをお願いします。
金子さん 「子育ては親育て」と言いますが、本当にその通りだなと実感した期間でした。小学校受験は、子どもだけでなく、親の姿勢や覚悟も問われます。費用や時間の面で迷う方も多いと思いますが、無理のない範囲で。親として何を大切にしたいか、自分自身を見つめる機会になると思います。
宮崎さん 結果にかかわらず「子どもと真正面から向き合う時間」は大きな財産。やってみて本当によかった。「もう一回やれ」と言われたら辛いけど(笑)、それ以上に、家族の絆が深まったと心から思えます。チャレンジから得られるものはきっと想像以上です。
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お話を聞いたのは

1978年、新潟県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。2007年新潟市議会議員選挙に当選、新潟県議会議員を経て、12年に衆議院議員に初当選。16年に総務大臣政務官に就任。17年の衆議院議員選挙で落選。現在フジテレビ系「Live News イット!」、CBC系「ゴゴスマ」など、多数のメディアにコメンテーターとして出演中。
取材・文/黒澤真紀 撮影/廣江雅美