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遊びながら学べる! 新感覚ゲーム『ポケモンフレンズ』誕生
ポケモン×『Think!Think!(シンクシンク)』の夢のタッグ
世界中で愛されるポケモンと、150カ国・300万人以上が利用する知育アプリ『シンクシンク』※がタッグを組み、新しい知育ゲーム『ポケモンフレンズ』が登場しました。
「ひとふでピカチュウ」「ヒバニーのジャンプでめいろ」など、直感で楽しめるひらめき問題を1200以上収録。1〜9段階のレベル設定で、子どもから大人まで遊べます。ルールは画面の動きやアイコンで理解できる“ノンバーバル設計”なので、文字が読めないお子さんも迷わず挑戦可能。
問題を解くと集まる「イトダマ」でポケモンのぬいぐるみを完成させ、「ぬい部屋」を飾る楽しみも。遊びながら「考えるって楽しい!」を実感できる工夫が満載です。
※『Think!Think!(シンクシンク)』:ワンダーファイ株式会社が2016年にリリースした4〜10歳向け知育アプリ。パズルや迷路など120種類・2万題以上の問題を収録し、3分間のミニゲーム形式で空間認識力や論理的思考力を育む。現在、世界150カ国で300万人以上に利用されている。
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(以下、押野さん、川島さん、中室先生の座談会)
遊ぶたびに「できた!」が味わえる
―まずは、『ポケモンフレンズ』の開発に携わった押野さんに伺います。どんなゲームですか?
押野さん:遊ぶたびに「できた!」という達成感が味わえるゲームです。問題に挑戦するわくわく感や、できたときのうれしさをポケモンの世界観と結びつけて、自然と「考える」習慣が身につくようにしました。考えること自体が楽しいと思ってもらえるように工夫しています。
―子どもたちが「考えることって楽しい」と思えるように設計されたとのことですが、その狙いをもう少し教えていただけますか?
押野さん:ただ遊んで終わりではなく、「やってよかった」「少し役に立った」と思えるような体験につながってほしいと考えています。親子で安心して楽しめるものにしたいですね。
―遊び続けたくなる工夫にはどんなものがありますか?
押野さん:問題を解くと「イトダマ」がもらえて、「ぬいマシン」に入れるとポケモンのぬいぐるみが出てきます。集めたぬいぐるみを飾るだけじゃなく、積み上げたり、トランポリンではねさせて遊んだりもできるんです。子どもは飽きやすいので、「集めたい」「これが欲しい」という気持ちをうまく刺激しながら、また挑戦してみようと思えるよう工夫しました。
―川島さん、キャラクターと学びを組み合わせることで、どんな効果が期待できるのでしょうか?
川島さん:一つの問題を解いているときでも、ポケモンがそばにいると「やってみたい」という意欲が引き出されます。難しい課題に挑むにはエネルギーが必要ですが、例えば、「ゴールしたときのフシギダネの笑顔ってかわいい!」が「快感の蓄積」になって、次につながる意欲を生んでくれる。そういう意味で、『ポケモンフレンズ』は子どもたちの学びの素晴らしいパートナーになってくれるのではないでしょうか。
デジタル教材は学力向上の有力なツール
ポケモンの力で、学びの効果はさらに伸びる?
― 中室先生は、『ポケモンフレンズ』にどのような教育効果が期待できるとお考えでしょうか。
中室先生:JICA・慶應義塾大学と共同で行った実証実験※では、『シンクシンク』に3か月取り組んだ児童は、そうでない児童に比べて算数やIQの偏差値が大きく伸びたことを確認しています。
今回のケースでも、『シンクシンク』にポケモンの魅力や、コレクション要素による継続性、幅広いレベルに対応できる豊富な問題数が加わることで、『シンクシンク』同様の良い影響が十分に期待できるのではないでしょうか。

ー世界ではデジタル教材の効果を調べた研究が多くあり、学力向上効果が認められています。
中室先生:日本での、教育アプリの効果を厳密な方法で計測・実証した研究は、私の知る限りこれ以外ほとんどありません。一方、海外では多くの効果検証が行われ、デジタル教材の使用が学力向上に明確な効果があることがわかっています。
※『シンクシンク』実証実験 概要
カンボジア国内のモデル校5校・計1,636名(小学1〜4年生)を対象に、3か月間(その後8か月の延長調査を含む)の実証実験を実施した。慶應義塾大学中室研究室による外部評価のもと、『シンクシンク』実施群(807名)と非実施群(829名)に分けたクラスターランダム化比較試験(RCT)を採用。その結果、算数の学力テストで偏差値換算約6.7ポイント、国際調査TIMSSで偏差値換算約5.6ポイント、IQテストで偏差値換算約7.0ポイントの向上が確認され、性別や学年、保護者の学歴に関わらず効果が認められた。
意欲×思考力×知識が学びを加速
― 先の研究では、性別や家庭環境に関わらず、子どもたちの学力だけでなく意欲やモチベーションも向上しました。なぜ『シンクシンク』はこれほど高い効果を示したのでしょうか。
中室先生:経済学で測っている「認知能力」は単なる学力ではなく本質的には「考える力」なんです。学力テストは、それを測る手段の一つでしかありません。『シンクシンク』は、まさにこの考える力を育むことを目的に設計されており、そのコンセプト自体が子どもの成長を後押ししたのだと考えています。
川島さん:私の仮説では、学力の伸びは、意欲に代表される非認知能力×思考力×知識・スキルという3つの要素の掛け算で生まれると考えています。『シンクシンク』は特に意欲と思考力に良い影響を与えるため、その結果、知識やスキルの習得効率も上がったのではないでしょうか。

中室先生:デジタル教材としてICTを活用することで、子ども一人ひとりのレベルに応じた学びを提供できたことも、学力や意欲、モチベーションを向上させた大きな要因だと思います。デジタル教材は、一人ひとりに合った難易度で出題される「アダプティブラーニング」を可能にします。研究でも、その効果が非常に大きいことがわかっています。
適切なレベル設定が力を引き出す「アダプティブラーニング」
ーアダプティブラーニングはどのような点で効果的なのでしょうか。
中室先生:小学5年生にいきなり微分積分を教えても理解できないように、学びは前の知識や経験を積み重ねる累積的な性質を持っています。そして、理解が進むほど新しい学びもスムーズになる相乗効果があるため、その人に合ったレベルで学ぶことはとても重要です。
自分のレベルに対して低すぎても高すぎても能力は伸びません。適切なレベルで学ぶこと(ティーチング・アット・ライト・レベル)こそが考える力を育てる鍵。デジタル教材なら、この難易度をきめ細かくコントロールできるため、子どもの力を最大限に引き出せるのです。
―『ポケモンフレンズ』もアダプティブラーニングを取り入れているのですね。
川島さん:はい。プレイ中の正解率や解答時間などから、その子にとって難しすぎず、簡単すぎない“ちょうどいい”問題が自動的に出題されます。問題のレベルはステップを細かく刻んでいて、楽しみながら、「わかった!」を積み重ね、知らないうちに思考力が伸びていくよう工夫しています。

押野さん:正答が続けばレベルが上がり、まちがえればレベルが下がる。遊び続けるうちに自分の適正レベルに落ち着くので、毎日適切な難易度で楽しめます。
立体がクルッ! 「わかった!」が一瞬でひらめく
ーデジタル教材と算数の相性はいかがでしょうか。
中室先生:算数は、三角錐などの立体を画面上で動かして、さまざまな角度から見ることができる。平面図だけではイメージしにくい形も、動かすことで理解しやすくなる。こうした体験は、紙の教材だけでは得られない大きな強みだと思います。
比べるのは他人じゃない、“昨日の自分”
―『ポケモンフレンズ』は世界中でプレイできますが、オンラインでスコアや順位を競うのではなく、自分のベストスコア更新を目指せる設計になっています。「過去と比べてどれだけ伸びたか」を知らせることの意義について、先生は著書『科学的根拠(エビデンス)で子育て』(ダイヤモンド社)でも言及されていました。
中室先生:相対評価が子どもの成長を促すのは上位層の子だけだという研究結果があります。ユーザーが100万人以上(*2025年7月30日時点)もいる『ポケモンフレンズ』では多くの子どもが下位に位置することになり、順位づけは学びを継続する上での障害になりかねません。
人間は小さな世界で生きる生き物です。小さな池では自分を大きく感じられても、大きな池に入ると自分が小さく感じてしまう。これを心理学や経済学で「井の中の蛙(かわず)効果」と呼びます。

「井の中の蛙(かわず)効果」は、下位層の子どもにはネガティブな効果があるとわかっています。アジア諸国ではその傾向が強く、日本のように受験や就職試験で序列づけが定着している社会では、下位層に位置づけられることがセルフコンセプト(自己概念)にもたらす負の影響が非常に大きいのでしょう。
―そのネガティブな状況からどうやって脱出すればよいのでしょうか。
中室先生:過去の自分と比較して少しでも成長を感じることが大切です。その価値判断を持てると、学力や順位が下位層の子どももきちんと伸びていくという研究もあります。順位ではなく自己成長を基準にするという点で、本ゲームの「みんなに優しい」というポケモンのコンセプトはしっかり生きていると思います。

「まちがえても楽しい」から挑戦できる
― 『ポケモンフレンズ』では、「挑戦すること自体が楽しい」のも魅力です。まちがえることへの抵抗感をなるべく減らすような工夫もあるそうですね。
川島さん:答をまちがえたときは、ピカチュウが少し困った顔でそれを伝えてくれます。まちがいがまったく伝わらないと学びになりませんが、ピカチュウの悲しい表情が強すぎるとやりたくなくなってしまう。この絶妙なバランスを取るため、押野さんとは10回以上やり取りを重ねました。

押野さん:まちがえても次の挑戦につなげられるように必ず何らかの〝ごほうび〟を用意しています。ぜひ、それも楽しみにしていただきたいですね。そして、問題を解くとスタンプが押せるんです。デザインが選べて皆勤賞も狙えます。「今日もスタンプを押したい。毎日問題を解いてイトダマを集めるぞ!」とがんばって続けてくれるとうれしいですね。

中室先生:子どもは「集める」のが好きですよね。私も小さい頃は牛乳瓶のふたやビックリマンシールを集めたものです(笑)。ゲームにコレクション要素をうまく組み込んでいるのは、とてもよい工夫だと思います。集めること自体が大きなモチベーションになって、自然と何度も遊びたくなりますから。
それを習慣形成に使うといいのではないでしょうか。研究でも、最初に少しだけ報酬を与えると習慣化につながり、やがて報酬がなくても続けられるようになることが、スポーツや嫌いな野菜を食べる習慣づけなどで確認されています。ポケモンが笑ってくれたり、ぬいぐるみを少しずつ集められたりといった小さな報酬が子どもたちのやる気につながると思いますよ。
教育×エンタメで“良いとこ取り”を
ーエンタメと教育の可能性についてどのようにお考えでしょうか。
川島さん:小学校低学年までの子どもは特に遊びで効果的な学びを得ます。遊びながら学びを続けられるように、過度な演出は避けつつ、楽しく学べる工夫をしていきたいですね。

中室先生:新しいテクノロジーが社会に入るとき、人はそこはかとない恐怖感を抱きます。保護者の皆さんが「子どもがずっとタブレットを見て、生産的な学びをしなくなるのでは」と心配するのも当然です。ICTには確かに学力低下を招く事例もありますが、成果を上げている取り組みも数多くあります。
教育とエンタメをうまく組み合わせれば、「良いとこ取り」ができる可能性は十分あります。学術と現場の実践者が連携し、取り入れ方を考えることが重要です。
これからの時代に必要な「知的わくわく」
ー最後に、「考えるって楽しい」という体験が、AIや自動化が進むこれからの社会において、どんな意味や価値を持つとお考えですか?
川島さん:20年後に必要な力を予測できますか? 「いい大学や会社に入れば安泰」と、それに必要な知識やスキルをそろえること自体は大切ですが、それだけで十分とは言い切れない時代になってきています。だからこそ、どんな時代でも自分を動かす「知的わくわく」を大切にしてほしい。考えることを楽しんで得た知識やスキルが、その人らしさを発揮し、社会に価値をもたらすと思います。

中室先生:日本の教育は受験でゴールを区切りがちですが、人生100年時代。大人になっても新しいことを学び続けなければなりません。勉強を「苦行」と思って大学生になるとその先は厳しいです。なのでぜひ、幼い頃から「考えるって面白い」「学ぶってわくわくする」という感覚を体に染み込ませておいてほしいですね。本来、学びに終わりはありません。『ポケモンフレンズ』で楽しく、学びの扉を開けてください。
※画面は開発中のものです。一部、有料の追加ダウンロードコンテンツの内容が含まれます。
©2025 Pokémon. ©1995–2025 Nintendo / Creatures Inc. / GAME FREAK inc.
ポケットモンスター・ポケモン・Pokémonは任天堂・クリーチャーズ・ゲームフリークの登録商標です。
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お話を聞いたのは
慶應義塾大学総合政策学部 教授。慶應義塾大学卒業後、米ニューヨーク市のコロンビア大学大学院でPh.D.を取得。専門は教育経済学。日本銀行等を経て、2019年から現職。デジタル庁シニアエキスパート(デジタルエデュケーション担当)、東京財団政策研究所研究主幹、経済産業研究所ファカルティフェローを兼任。政府のデジタル行財政改革会議、規制改革推進会議等で有識者委員を務める。日本学術会議会員(第26期)。テレビ朝日「大下容子ワイド!スクランブル」コメンテーター(木曜隔週)。朝日新聞論壇委員。著書に発行部数37万部を突破した『「学力」の経済学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『科学的根拠(エビデンス)で子育て――教育経済学の最前線』(ダイヤモンド社)、共著に『「原因と結果」の経済学』(ダイヤモンド社)がある。
お話を聞いたのは
2005年に任天堂株式会社に入社してゲーム開発に従事。2019年に株式会社ポケモンに入社。2020年に子どもの歯みがきを楽しく習慣化するゲームアプリ『ポケモンスマイル』を開発。2025年7月に子どもの考える習慣が身につけ、考えること自体が楽しいと思ってもらえることをコンセプトに、あたまをほぐすひらめきゲームアプリ『ポケモンフレンズ』を開発。『ポケモンフレンズ』では、プロデューサー兼ディレクターを担当。
お話を聞いたのは
栄光学園高校卒業、東京大学大学院修了。2011年に株式会社こうゆう(花まる学習会)に入社。4歳から大学生までを対象に教鞭をとる傍ら、アジア各国の公立校や国内外の児童養護施設で学習支援・教員研修に従事。延べ1万人以上の子どもたちと直に接した経験をもとに教材開発を行っている。2014年、株式会社花まるラボ(現:ワンダーファイ株式会社)を設立。思考力育成アプリ『シンクシンク』を開発し、世界150カ国・累計300万ユーザーに拡大。「Google Play Awards」など国内外のアワードを多数受賞。2020年には、STEAM領域の通信教育『ワンダーボックス』を発表した。世界中の子どもたちから「知的なわくわく」を引き出すことをミッションとし、アプリや授業、イベントなど、形式を問わず多様なコンテンツを生み出している。「算数オリンピック」「世界算数」の問題制作、東京大学非常勤講師を歴任。2025年7月全世界同時リリースされた『ポケモンフレンズ』にて教育監修・問題設計を担当。
取材・文/黒澤真紀 撮影/五十嵐美弥