先天性難聴の息子に「みんな違って当たり前を受け入れ、自分自身を愛し、人間力を育んでほしい」料理家・SHIORIさん一家が移住先にバルセロナを選んだ理由とは

2007年に出版した『作ってあげたい彼ごはん』が大ヒットし、現在は世界30か国以上の生徒を抱えるオンラインレッスンも大人気の料理家・SHIORIさん。先天性難聴として生まれた息子さん、美容師の旦那さまとともに、半年前にスペインのバルセロナに移住したことも話題ですが、その土地を選んだのは息子さんのある言葉がきっかけだったと言います。日本とは違う環境でもいきいきと暮らすSHIORIさんにお話を聞きました。

バルセロナ移住のきっかけは息子さんの「僕はここに住みたい!」のひと言

――SHIORIさんご自身、これまで世界各国で料理修行をされたそうですが、そのなかで移住先にスペインを選び、家族で移住したきっかけを教えてください。

SHIORIさん 5歳の息子は先天性難聴で、耳にハンデがあります。息子が生まれて、難聴ということを受け入れたタイミングから、漠然と幼少期を海外で過ごさせてあげたいと思ったんです。

それは彼が人との違いを受け入れ、みんな違っていていいと知ってほしい、自分自身を愛して自己肯定感を高く過ごすベースを作ってあげたいと思ったから。日本は“みんなと同じがいい”という社会的風潮が強いので、海外の方が、コンプレックスを感じたり、生きにくさを感じたりしないのではないかと考えていました。

コロナが明けた2023年頃、家族で海外旅行へ行きました。2年連続でスペインに行き、2回目にスペイン・バルセロナを訪れた際、現地の子たちに飛び込んでキッズサッカーを経験した息子が、「僕はここに住みたい」とはっきりと言ったんです。それを聞いて、バルセロナが移住先に急浮上しました。

この移住は息子にネイティブのような英語を身につけさせたいといった教育重視ではなく、彼に多様性の中で揉まれて人間力を培いたくましく育ってほしいと願ったのが前提です。そんな中で、スペインの人たちは明るくておおらか。よく失業率が高いと聞きますが、それでもハッピーに毎日を楽しんでいるイメージがありました。

いろんな人種の人たちがいますし、スペイン語は意外と話者が多いので、習得すれば将来役に立つのではないか。ご飯がおいしく、天気が良くて四季がある。コンパクトな街で海・山があってアートが点在している。

さらに、夫はもともとサッカーが好きでバルセロナが大好きですし、たまたまこちらには頼れる友人家族もいました。これらの理由から「バルセロナだったら移住してもいいかも」と、バルセロナでの暮らしのイメージがついたんです。

サグラダ・ファミリアの前で

――息子さんのひと言がきっかけでもあったんですね。息子さんは先天性難聴とのことですが、現在の聴力はどのような状態でしょうか?

SHIORIさん 1歳のときに手術で人工内耳を入れ、5年間療育に通って訓練もしているので、聴力レベルは健聴者とあまり変わりません。ただ、そうなると「じゃぁ大丈夫だね」と誤解を与えるのが私も怖いところで。

1対1で、集中して聞こうという態勢ではきちんと聞こえるものの、大人数で会話しているときやざわついている野外、後ろから呼ばれたときの聞こえにくさは否めません。見落とされがちですが、聞き取りにくさや聞きにくさがあるということは、大人が意識してフォローしてあげなければいけないと思っています。

バルセロナの人は子どもにおおらか。学校はインターナショナルスクールへ

――実際に移住をして、主に子育てに関して日本との違いを感じるのはどんなことですか?

SHIORIさん 子どもを大きな声で注意をしなくてよくなりました。息子が周りの子の真似をして、広場にあった郵便ポストみたいなものに登って遊んでいたことがあったのですが、それを見たとき日本だったら「そんなところに乗っちゃだめだよ、危ないよ」と絶対注意していたと思うんです。

でも、こちらの人は「ケガがなければいいよ」と言わんばかりに多くの場合は見守っていて、子どもに対して寛容。子どもらしさを尊重している、そんな雰囲気なんです。おかげで周囲の目を気にしてする注意はしなくなりました。子どものやりたい意思を尊重して、必要があれば手助けする。それによって子どもの自主性が伸びて、自分で考えるようになるのかなとも感じます。何よりも子どもが楽しそうですね。

公園遊びも楽しんでいます

――世間体を気にして叱ることがないんですね。お子さんはインターナショナルスクールに通われているそうですが、インターを選んだ理由を教えてください。

SHIORIさん 学校の選択肢としてはバルセロナの日本人学校、インターナショナルスクール、現地校の3つがありました。

決める上でポイントとなったのは言語です。難聴児にとって新しい言語を覚えるのは大変なこと。母国語も健聴者の子に比べると何回も何回も聞いて、発音してを繰り返して習得した経緯があります。

現地校に関しては、スペイン語のほかにカタラン語というカタルーニャ地方独自の言語が使われていました。この2つの言葉を覚えなければいけないことはハードルが高いうえに、特にカタラン語は覚えてもこの地域でしか使うことができません。

一方、インターナショナルスクールは新しく英語を学ぶ必要があるものの、幼少期のタイミングで習得することで、将来世界中に住んだり、友だちをつくったりして選択肢が広がると考え、私たちはインターを選びました。

――ではインターナショナルスクールで英語を学びつつ、街ではスペイン語も聴いているんですね。

SHIORIさん 息子の学校では英語がメインですがスペイン語の授業も多少あるので、最近はスペイン語で曜日や数字を覚えてきたり、歌を歌ったり楽しそうにしています。

ーーInstagramを拝見すると、本当に楽しそうに通っているように思いますが、実際はどんな様子ですか。成長や変わったなと思ったことはありますか?

登校初日に、パパとのツーショット

SHIORIさん 初日から楽しそうに行っていて、これはすごいことだなと、ただただ感心しています。

実は、夏に移住の準備でこちらを訪れた際、別のインターナショナルスクールのサマースクールに1週間だけ通っていたんです。そのときは2日目ぐらいまでは涙をこらえながら通っていて、私も心が引き裂かれるような思いでしたが、後半になると友だちができてきたんですね。

その経験があって、「こういうものだ」という免疫ができたのか、彼自身もある程度覚悟が決まってるような感じで、毎日学校に一番乗りで行っています。

――すごい。もともとそんな風にたくましい性格ですか?

SHIORIさん 日本でも人見知りではなかったですけど、ここまで度胸というか、肝が据わってるとは思ってなかったです。息子が自ら移住したいって言ったぐらいなので、覚悟があるのかもしれないですね。

「英語で、いーれーて!」はなんて言うの? 日本ならではの集団生活の心得が身についていた息子

ーー学校はどんなことが楽しいと感じるのでしょう。

SHIORIさん 今、学年は小学1年生ですが、勉強の仕方が楽しいんだと思います。学校の様子が送られてくるのを見ると、クラスは12~13人ぐらいの少人数で、座席は丸テーブルに各3,4個くらいの椅子があってどこに座るかは自由。授業ではしょっちゅう公園に行って遊びながら学んでいるようです。

また、味覚の授業なのか「味を知ってみよう」といった内容や、ダイナミックにお絵描きをしている様子も。親の私も「こんな授業を受けてみたい」と思う内容で、彼にとっても新鮮なんだと思います。

――日本での保育園での生活とは全然違う楽しさがあるんですね。

SHIORIさん 日本だと保育園の時代から、きちんと並ぶことや順番を守ることなど集団生活の心得を身につけさせられますよね。ここに来てから息子に「ママ、これ英語でなんて言うの?」と聞かれたことが2回あって。

1つは「いーれーて!」。日本の保育園では「いーいーよ!」と言われてからじゃないと一緒に遊んじゃだめと教わっていたようです。ただ、こちらでは言うと相手が身構えちゃうみたいで、最初の頃は「だめって言われた」とよく言っていました。

もう1つは「僕が先に並んでいたことを先生に伝えたいんだけどなんて言うの?」と。スペインでは順番を守って並ぶことをあまり重んじないというか、大人も注意しないようで、彼には日本での集団生活の心得が身についていたんだなっていうのをすごく感じましたね。

毎日楽しそうに、一番乗りで学校に通っています

ーーすごく興味深いエピソードです。SHIORIさんご自身は英語は話せますか?

SHIORIさん 移住が決まる前ぐらいから、英語を頑張らなきゃなとオンライン英語を受講はしていて、テキストベースでの勉強は何冊もやってきましたが、いざとなると会話にうまく移行できなくて……。中高生レベルのコミュニケーションで生きています。

移住が決まったとき、我が家は夫婦で分担を決めました。息子がインターナショナルスクールに通うから私は英語を、夫はスペイン語を勉強することを決め、夫は日常会話の手前までは話せるようになったようです。

ただ、今は翻訳機能もありますし、便利すぎてなんとかなってしまうことに対して、焦りを感じています。

――学校とのやり取りは英語ですよね。

SHIORIさん そうですね、先生とは簡単な会話はしていますが、子どもの耳に関することなど、漏れがあってはいけない内容はメールでやり取りさせてもらっていて、学校側が配慮してくれていると感じます。

――息子さんの英語やスペイン語の理解度はどうですか?

SHIORIさん 日進月歩ですね。やっぱり難聴児って繰り返しが大事なんです。最近、息子が「Tidy up! Tidy up!」と言っていて、なんだろうと思ったら、「お片付けしましょう」ってことで。学校で先生が繰り返し言っていることが少しずつ染みついてきているようです。

日本語のときもそうでしたが、今はインプットしている時期だと思うんです。焦りや不安もあるんですけど、インプットしているものが、半年後なのか1年後なのか、必ず出てくる時期があると思うので、しばらくは見守りつつ、フォローが必要になったときは家庭教師をつけようかな? などと、考えているところです。

――それでもお友だちとはコミュニケーションが取れているんですね。

SHIORIさん そうなんですよ。知っているワードで会話をし、言葉が通じなくても子どもたちは楽しそうにしています。

英語とスペイン語を夫婦で分担。子どもがチャレンジしたいことは全力で応援してサポート

――語学を夫婦で分担してるというお話がありましたが、息子さんのサポートはどのようにしていますか?

SHIORIさん 日本の療育のとき、毎日日記の宿題があったんです。絵日記を書いて今日の出来事を話して日常生活の言葉を覚えていくという習慣でもあったんですが、その日記は100%夫が書いていました。日本にいたときは私の仕事が忙しかったのもあり、育児は夫が前のめりに力を注いでくれていて。

こっちに来ても、宿題はスペイン語担当のはずの夫が見てくれてます。12歳ぐらいまでは学校への送迎が必須なので、送迎も送りは夫、迎えは私というふうに分担しています。

旦那様は大のサッカーファン。家族でサッカー観戦へ

――お子さんと接するときに心がけてることは何かありますか。

SHIORIさん 基本的に子どもの自主性を重んじる、やりたいということは挑戦させ、様々な体験に触れて欲しいと常々思っています。彼がチャレンジしたいことは、全力で応援してサポートするようにしているんですけど、同時に、甘えやわがままを助長させないように気をつけています。これが当たり前じゃないんだよ、いつも”ありがとう”という感謝の気持ちを持ち、それをきちんと相手に伝えること。そういうことは折に触れて伝えるようにはしてますね。

スペインは日本と四季の巡りが同じ。食材の違いも楽しみながら料理をしています

――お仕事はスペインでも継続されていますが、どんな働き方をしていますか?

SHIORIさん 私はこれまで、雑誌や書籍、料理教室など対面の仕事がメインでしたが、コロナと息子の難聴が分かったときに仕事を見直し、自分で運営できるものや家でできるオンラインレッスンに切り替えていました。今考えると移住に関しては追い風になったというか。

今は月に1回料理の配信があるので、それに向けて試作をしています。幸いなことに日本と四季の巡りが同じで、今はきのこや栗がおいしい時季。生徒さんも日本の方が多いので日本とリンクしている点があるのはよかったなと思います。

日本の四季と巡りが同じバルセロナ。和食も作ります

――Instagramではハンバーグのお肉で苦労されていましたね。

SHIORIさん そうなんですよ。こっちの豚のひき肉はたぶん赤身が強めなんですよね。ハンバーグを作っても全然ジューシーにならなくて……。ハンバーグ味のつくねになってしまい悩んでいましたが、最近ミンサーを買って自分で脂を多めにミンチするようになり、ちょっとずつ改善されてきました。

あとは薄切り肉がないので、豚バラのブロックを買ってきて、冷凍してから薄く切っています。でもそれぐらいですね。そこまで不便に感じることもなく、違いも楽しみながら料理をしています

脂の具合が日本とは違うひき肉。改善しながら、不便なことも楽しんでいるそう

――ご自身はスペインに移住したことでご自身のお気持ちに何か変化はありましたか。

SHIORIさん 気持ちが楽になりました。日本にいたときは、オンラインで仕事をしているので常にスマホと睨めっこ。息子に「ママ、スマホ触らないであっちに置いて」とたびたび言われていました。ごめんねと思いながらも私が指示を出さないと仕事が進まない場面もあり、日々葛藤がありましたね。それが移住前に大きく仕事を整理したこと、さらには時差の関係もあって大きく改善できました。

あと結構大きいのが、この家には湯船がないんです。すると子どものお風呂がシャワーだけですぐ終わるので、家族との夕飯のだんらん時間が増えました。18時半くらいから20時くらいまでだんらんし、テレビも見なくなったので息子は21時には眠ります。その後は私の自由時間なので、時間と気持ちにゆとりができ、いい流れだなと感じています。

今後は本腰を入れて語学を学び、楽しさを広げたい

――最後になりますが、これからの生活で楽しみにしてることや夢があれば教えてください。

SHIORIさん まず、今年にはサグラダ・ファミリアの主塔が完成しますし、カンプ ノウというサッカー好きには聖地と言われてるスタジアムの改修工事が終わるので、バルセロナに住んでいる身としては楽しみです。

私自身はそろそろ本腰を入れて語学を学び、異文化交流ができたらいいなぁと。そうすれば新しい価値観がより入ってきて、楽しさが広がるのは目に見えるし、理解はしているので、そこを目指していきたいなと思ってます。

――スペインにはこの先も住まれる予定なんですか

SHIORIさん それは未定です。とは言え、やっぱり日本が好きなので、いずれは帰る意思があります。

子どもに関しては、幼少期の大半を海外で過ごすと、もしかしたら将来は別のところに留学することも考えられるので、子どもが望む形をかなえてあげられたらいいなとは思ってます。

SHIORIさんの新刊

SHIORI 講談社 ¥1,320

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「野菜をもりもり食べたい」
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お話を聞いたのは…?

SHIORI 料理家

1984年8月16日生まれ。2007年8月「作ってあげたい彼ごはん」(宝島社)を出版し、それ以来、多くのレシピ本を出版。ヨーロッパやアジアでの料理修行経験があり、世界各国の家庭料理を得意とする。世界30ヶ国から約1万人の生徒数を誇るオンライン料理教室『L’atelier de SHIORI online』は、継続率97%超え。プライベートでは2011年に結婚し、2019年に長男を出産。2025年からスペインのバルセロナに移住している。

取材・文/長南真理恵

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