【発売後すぐ大幅重版!】『ポケモン生態図鑑』が話題沸騰中!東大博士が行動生態学の観点からポケモンを読み解く「現実世界とポケモンの世界を行き来しながら想像の幅を広げてほしい」

2025年6月18日に発売され、早くも話題沸騰中の『ポケモン生態図鑑』は、野生ポケモンの生態がテーマ。『ポケットモンスター』シリーズに登場するポケモンたちのあらゆる特徴を洗い出して、生態学的に分析・解説するという画期的な図鑑です。

解説を担当した米原善成さんと絵を担当したきのしたちひろさんは、ふたりとも東京大学大学院農学生命科学研究科で動物の行動や生態を研究し、博士号を取得しています。ポケモンについて調べると現在の生物研究に繋がるところが多いことに気づき、大好きなポケモンを通して、子どもたちが行動生態学の考え方に興味を持ってくれたらうれしいと話してくれました。

作りたかったのは、行動生態学の視点から見たポケモンの世界

――新しい『ポケモン生態図鑑』の見どころはどんなところですか?

米原善成さん:今回のポケモン図鑑は、僕たちの現実の世界にある「行動生態学」に照らし合わせて作っているのが特徴です。行動生態学というのは、生き物たちが自然の中で暮らしていく上で、なぜそんな行動をするのかを探求する学問なのですが、野生のポケモンが自然の中で暮らしていくときに見られるいろいろな行動や、その行動に適した体の仕組みなどに着目しました。

ポケモンって、僕たちの世界の生き物の行動や生態と共通しているところがたくさんあるんですよ。

例えばフリージオは、暖かくなると蒸発してしまって、寒くなるとまた元の形に戻るというポケモンです。周りの環境によって体の特徴が変わるというのは、僕たちの世界の生き物にも見られます。でも「蒸発」してしまうというのはポケモンならではですね。そういうところは非常に面白いなと思います。

――行動生態学の観点から、とくに面白いと感じたポケモンは何ですか?

きのしたちひろさん:印象に残ったのは、ダルマッカというポケモンです。ダルマッカは、「ほのおタイプ」のものと、“ガラルのすがた”という「こおりタイプ」のものがいて、住んでいるところが全然違うんですね。

そして、ガラルのすがたのダルマッカの方が、体が少し大きいんです。体長で言うと0.1メートル、体重で言うと2.5キロぐらいで、本当にわずかな違いなんですけど。

私は2年前まで研究者をしていて、とくに動物の体温についての研究をしていました。現実世界の生き物は、体が大きければ大きいほど、体温が安定して維持しやすくなるという特徴があります。

ガラルのすがたのダルマッカは体が冷えると元気になるポケモンですが、大きな氷と小さな氷では、大きな氷の方が溶け切りにくいように、体が大きければ体にためた冷気が逃げにくくなって都合が良いのかもしれません。コップの中のアイスコーヒーと、大きなピッチャーに入ったアイスコーヒーでは、常温になるまでのスピードが違うのと同じ原理です。

このように、私たちの世界の生き物に見られる原理に基づいて想像を膨らませられるのは、非常に奥深いコンテンツだなと思って感激しました。

米原さん:僕は、チルットの解説ページが印象的でした。ここでは「なぜチルットの羽が真っ白でふわふわしているのか」という疑問に対して、性質や進化など4つの視点で説明しているのですが、この説明が行動生態学のめちゃめちゃ基本的な考え方に基づいているんですよ。

行動生態学の礎を築いたティンバーゲンは、「生き物がある行動をする理由を説明するには、大きく分けて4つの方法がある」と言っています。これがポケモンの生態説明の中で網羅されているのを発見したときはびっくりしましたね。

学びではなく、あくまで好奇心の延長線で読んでほしい

米原さん:でも表向きは、そういう学問が背後にあるという「難しいお勉強」の感じは出さないようにしています。
あくまでもポケモンの世界の中で、4つの視点で調べるという見せ方だけを提示して、考え方に少しでも触れてもらうことができる本にしたいと考えました。

後々生物の勉強をしたときに、「これはポケモンで見たことがあるぞ!」と気づく子どもたちが出てきたらいいなと思います。

米原さん
米原善成さん

以前、入社する前に日本科学未来館で「ポケモン研究所」という展示を手伝ったことがあったんです。ポケモンの鳴き声や体の特徴などについてクイズ形式で学んだ後に、私たちが住む世界の生き物の特徴についても解説しているような展示でした。

そこには、生物はそんなに興味がないけれどポケモンは好き、という子もたくさん来ていました。でも生物展示のコーナーへ来て、ポケモン世界で見ていたことが、現実の生き物でもありえるんだということに気づくと、ワクワクしたような表情で見ていたんですね。

最初は興味がなかったとしても、ポケモンを通すとこんなに目を輝かせて見てくれるんだ、と思ったことはすごく心に残っています。

――ポケモンの絵を描くときも、生態学の観点を意識したのですか?

きのしたさん:イラストに落とし込むとき、現実世界の動物をかなり参考にしています。

例えば、ツツケラというポケモンは、秒間16連打で木を突いて穴を開けます。なので、現実世界のキツツキの仲間にも見られる特徴を参考に描きました。キツツキは、足でガシッと幹をつかむだけだと木は掘れないんです。だから、ツツケラも尻尾でしっかり支える体勢になるんだろうなと考えて、尾を木に押し当てて体を支える体勢を参考にして描きました。

ポケモンは、もう赤・緑時代から何百匹もそらで描けるほど好きですが、お仕事として描くときは気を遣います。トゲは数が何本と決まっていたり、目鼻のパーツの位置関係が明確に決まっていたりなど、そのポケモンらしさを決める要素がたくさんあるんだなと実感しました。

現実とポケモン世界を行き来して想像の幅を広げてほしい

――実際の生き物の生態との共通点をお聞きすると、ポケモンの生態と並べて見てみたくなりますが、そういう構成にしなかったのはなぜですか?

米原さん:実際の生き物と直接並べて比較するやり方もあると思いますが、並べてしまうと、せっかくのポケモンの世界が閉じてしまう感じがするんです。

それよりも現実世界とポケモンの世界を行き来しながら思考を巡らせて、想像の幅を広げてほしかったんです。押しつけないというか、そこは読む人に委ねたいと思っています。実際に自然の中やテレビなどで動物の生態を学んだときに、「この話、どこかで聞いたな」と思いを巡らせてもらえたらいいのかなと。

それに、私たちの世界の概念との共通点はあるかもしれませんが、ポケモンはそれぞれ一種の生き物であり、ポケモンの世界で独自のものを持っています。

現実世界と直接比較してきっと同種だ、きっとこういう性質だとラベルを勝手に貼ってしまうと、ポケモンの生態が余白のない、ちょっと息苦しいものになってしまうと感じます。

私たちの世界の概念ととても似ているけど、ポケモンの世界と私たちの世界は違うかもしれない。似ているところもあれば違うところもある。その未知の部分がポケモンの良さであり、そこが生き物の良さであるとも感じます。

きのしたさん:今回いろんな地方やいろんなシリーズに出てきたポケモンの解説を合わせて再構築していく中で、今までの研究と同じ作業だと感じることは多くありました。

例えばピカチュウひとつを取っても、いろんな地方でいろんな博士たちが研究したであろう何通りものテキストがあります。断片的に公開された情報から法則を導き出したり、違いをまとめたりする作業は、私たちの世界の生態学のやりかたそのものだと思います。

きのしたちひろさん
きのしたちひろさん

――ポケモン世界の博士は、現実世界にもいる生物の研究者と同じで、まだわかっていないことを観察しながら研究するという立ち位置ですよね。どんな仮説やアイデアを持って博士たちが研究をしてきたのか…想像は膨らむばかりです。

きのしたさん:最近のポケモンは、ゲームをしていても、生態について考えるきっかけをたくさん与えてくれているな、と感じています。

ゲーム内で説明はされていないけれど気になる動きを見て、「このポケモンの動きってどういう意味があるんだろう」と考えたり、そこから「雨が降ったら大急ぎで逃げているから、このポケモンはぬれるのが嫌なのかな」と想像したり、そういうところが本当に多くありました。

そこを自分なりに調べてみたり、自分の言葉で表現してみたり、まとめてみたりするという作業は、私たちの世界の研究の作業とまったく同じですね。知らず知らずのうちに、そういった研究のステップをたどっていけるように作られているのは素晴らしいなと思います。

生態図鑑を読んだあとは、自分でポケモンのことを調べてみよう!

――夏休みの探究や自由研究にも、参考になりそうですね。

米原さん:最後の「実践編 みんなもポケモンをしらべよう」というページも、皆さんが思い思いに感じた不思議を発見してほしいと思って作りました。

例として「体に葉っぱがあるポケモン」について調べるとありますが、この図鑑に、葉っぱに関する章があるわけではないんです。自分で調べていくうちに発見できる余地はいくらでもあります。気になったことがあったらどんどん調べていくというのを、繰り返してほしいなと思います。

また逆にそういう考え方を知って、僕らの世界の生き物を見るだけでも立派な自由研究になります。『ポケモン生態図鑑』を読んだ後に実際に森の中に行って、普段だったらただ歩いて見逃してしまうところを、観察をする目で見るようになったり、気になったら調べてみたり、仮説を考えてみたり…ということをしていただけたら、すごくうれしいなと思います。

もちろん最初から最後まで読み物として読んでいただいても、発見できることがきっと山ほどあります。

きのしたさん:もっともっといろんな人にポケモンの生態の面白さを知ってほしいという気持ちで、情報量をもりもりにしてあります。

私たちの世界の生き物たちと似ているカットをあえてたくさん入れているので、ぜひ照らし合わせて見てみてくださいね。

©Pokémon. ©Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.
ポケットモンスター・ポケモン・Pokémonは任天堂・クリーチャーズ・ゲームフリークの登録商標です。

取材・文=日下淳子 撮影/五十嵐美弥

お話を伺ったのは…

米原善成 企画・構成・執筆

東京都出身。博士(農学)。専門はミズナギドリやアホウドリなどの海鳥の飛行メカニズム、行動生態学。動物に記録計をつけて行動を計測するバイオロギング手法を使い、亜南極などの無人島で海鳥の調査研究を行う。東京大学大学院農学生命科学研究科(大気海洋研究所所属)修了。日本学術振興特別研究員などを経て、2019年4月より株式会社ポケモンに入社。

きのしたちひろ イラスト

岡山県出身。博士(農学)。専門はウミガメなどの海洋動物の行動生態学、潜水生理学。東京大学大学院農学生命科学研究科修了後、日本学術振興会特別研究員(PD)を経て、2023年よりイラストレーターとして活動。著書に『最新研究で迫る 生き物の生態図鑑』(エクスナレッジ)や『生き物「なんで?」行動ノート』(SBクリエイティブ)があり、『たくさんのふしぎ なぜ君たちはグルグル回るのか』(福音館書店)、『タネまく動物』(文一総合出版)などのイラストも担当。水辺の散歩が好き。

株式会社ポケモン 小学館 1,430円

ポケモンの生態を現実の動物の行動生態学の視点から読み解く一冊。各地方の図鑑に記載された7,500件以上の情報を再調査し、厳選したデータを専門的に再構成。体の特徴や行動、他のポケモンとの関係などを多角的に分析し、生態の「共通点」や「法則」に迫ります。ゲーム内での描写も参照しながら、豊かな生態系をフルカラーイラストでわかりやすく解説。ポケモンの知られざる姿に出会える科学図鑑です。

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