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中学受験ではなく小学校受験を選んだ理由
― お二人がお子さんの小学校受験をしようと思ったのはなぜだったのでしょうか?
金子さん 中学受験を経験した知り合いで息子のことをよく知っている方から薦められたんです。息子はのんびりしていてマイペース。中学受験の勉強に追われる生活を送ったら〝らしさ″が潰れてしまうかもしれないと言われたのが考えたきっかけです。
宮崎さん 僕自身、親のすすめで中学受験をしたんですが、塾漬けの日々で、遊びたい時期に自由な時間が全くありませんでした。息子にはもっと豊かでのびのびとした小学生時代を過ごさせたい。そう思い“この子らしさを守れる進路はどこか”を考えた結果、小学校受験をすることにしました。
― 息子さんの性格が進路選択の軸になったのですね。
金子さん 競争するよりも、友だちをほめたり共感したりするタイプなんです。運動会でも「○○くん、すごく速かったんだよ!」ってうれしそうに話すような子です。
宮崎さん 受験前の模擬面接のときも「お友だちが喧嘩してたらどうしますか?」と聞かれて「まあまあ落ち着け、落ち着けと言います」と答えるような性格ですね。
塾の先生に「小学校受験には向いていない」と言われて

スタートで出遅れたうえ、早生まれも影響
―小学校受験の準備は順調にスタートしたのですか?
宮崎さん いえいえ。幼稚園年中の途中からなので始めるのが遅いくらいでした。息子は早生まれで性格もおっとり。反応よく答えられるお子さんと比べられると見劣りしてしまいます。塾の先生には「受験に向いていない」とはっきり言われました。
金子さん 4月生まれの子とはまるまる1年の差がありました。後から振り返っても、その月齢差は大きかったですね。だからこそ、受験校選びでは“月齢に配慮があるか否か”という点も重視しました。
宮崎さん 小学校受験の情報が少ないことにも苦労しました。小学校受験はあまり情報をオープンにしないのも中学、高校、大学受験と違う点かも知れません。我が家は、集団塾をベースに、途中で薦められた個別塾も併用。最後の3か月は私がつきっきりで勉強を見ました。
ー小学校受験ではペーパーや工作・絵画だけでなく、指示の理解や協調性をみるための行動観察、体操など、たくさんの課題があります。塾の先生には向いていないと言われて「うちの子にできるかな」と不安はありませんでしたか?
金子さん 正直「大丈夫かな」と心配になることは多かったです。集団塾では授業の様子を保護者も見学できるのですが、ぼーっとしているうちに次の課題に進んでしまったり、いつまでも片付けができなかったり、最初は不安だらけでした。
“不可”でも大丈夫。模試に一喜一憂しない

― 塾の評価や模試の評価は、どのように受け止めていたのでしょうか?
宮崎さん 模試では小学校受験でも判定が出ます。悪い判定が続くとさすがにこたえましたが、気にしないように切り替えました。小学校受験の年齢って、本当にその日の気分や体調に左右されるじゃないですか。だから模試は年長の夏を最後に、それ以降は受けませんでした。
金子さん 息子には結果は見せませんでした。プレッシャーになるだけですから。それよりも「今日はどこができたか」「どこが前より良くなったか」を一緒に見つけてあげるほうが、本人のやる気につながると感じたんです。
ピークを本番にもっていくことがいちばんの要
― 評価に振り回されないために、意識を変えたのですね。
宮崎さん そうですね。本番の10月、11月にピークを持っていくのが小学校受験のいちばんの要だと思うんです。いくら優秀でも、8月頃にピークが来てしまったら、気力が尽き果てた状態で本番を迎えてしまうからです。
―優秀なお子さんでも気力が尽きてしまうこともあるということでしょうか?
宮崎さん 子どもなりにプレッシャーを感じているのだと思います。実際に「お姉ちゃん2人がうまくいったのに、僕だけダメだったらどうしよう」と5歳、6歳の子どもが言うんですよ。親の期待を子どもはちゃんと感じ取っているんでしょう。
―息子さんはどうやってピークを10〜11月に持っていったのでしょうか?
宮崎さん 「持っていった」というより、自然に上がってくれたという感覚です。早生まれだったので、準備が少し遅いくらいだったのも結果的にはよかったのかもしれません。
金子さん 私は心配でつい口を出しがちでした。でも夫は一歩引いてどっしりと構えていて、息子にとっての“逃げ口”になってくれたので助かりました。2人とも口出しをしていたら家庭の雰囲気がピリピリして、息子も爆発していたかもしれません。
本番1か月前に異変。プレッシャーのサインを見て思い切った作戦へ

― ピークをうまく本番に持ってこられたということでしたが、受験直前期はすべて順調だったのでしょうか?
宮崎さん 1か月前くらいに、咳払いとまばたきのチックが出たんです。塾の先生にも「ちょっと重くなってますね」と言われてこれはマズいなと。小学校受験をする子どもの中では珍しいことではないそうなのですが、本人もプレッシャーを感じていたのでしょうね。本人と話してみると「気づいたら出てしまう」と言っていました。
― それは心配でしたね。どう対応されたのでしょうか?
宮崎さん 思い切って勉強をやめました。海に連れていったり、自然に触れさせたり、親子でのびのびした時間を過ごしました。すると、試験の2週間前にチックがピタッと止まったんです。
金子さん 幼稚園を休ませなかったのも良かったのかも知れません。友だちと過ごす時間も子どもにとっては大切ですから。
本命校の受験。〝のんびり″の息子が見せた成長の片鱗

落ち着かない両親をよそに「楽しかった!」
― いろいろなことを考えて10校近く出願し、お子さんの様子や体調等を見ながら結果的には4校を受験。本命が最後だったそうですね。受験当日、どんなお気持ちで迎えられましたか?
金子さん 最後の受験は親の付き添いは一人だけで、夫が会場へ向かいました。私は学校の近くのカフェで待機。父の遺影を抱いて空に向かってずっと祈っていました。
宮崎さん 僕は別室で試験が終わるのを待っていました。本を開いてはみるものの全然、頭に入ってこない(笑)。ふと声が聞こえてきたら、息子が騒いでいるのではないかと気になって…。息子は「楽しかった!」と笑顔で戻ってきました。
「受からない」と言われた本命校の一次試験の結果発表
―祈りも届き、無事に一次試験を通過されました。相当の倍率だったのではないでしょうか?
金子さん 一次通過したとわかったときは、うれし涙があふれてソファに倒れこみました。選挙に6回出馬し、当選しても落選しても泣かなかったけれど、人生で初めて泣き崩れました。
宮崎さん 塾から「絶対に受からない」と言われていたので、余計にこみ上げましたね。実は最初に受けた学校は不合格だったので、全部ダメだったときのために二次募集もリサーチしながら不安や焦りと戦う毎日だったんです。とはいえ、まだ一次通過なので安心できません。気を引き締めました。
二次面接の直前「ママ、大丈夫だから見ててよ」

―いよいよ二次試験です。当日はどんな感じだったのでしょうか?
宮崎さん ふと「息子はちゃんと声が出せるかな」と心配になったんです。「ちょっと歌ってみようか」って声をかけたら、息子が大好きな『日本昔ばなし』を元気に歌ってくれて。その声を聞いた瞬間「あ、大丈夫だ」って思えたんですよね。歌声を聴いて、僕自身も気持ちが整った気がします。
金子さん 私はその時点でもう泣けてきて……。
宮崎さん この時期は涙もろかったよね。
― 二次試験は親子面接です。親も緊張しますが、いかがでしたか?
金子さん 親子面接では子どもが真ん中に座り、親は後ろに座るので、子どもは親の顔が見えない状態です。子どもが親の方を振り返ったら自立心がないとみなされると聞いたので「何を聞かれても、自分の言葉で答えるんだよ」「声を大きくね」「最後まであきらめずに答えるんだよ」と言い続けていたんです。
そしたら息子がふっと言ったんです。「ママ、大丈夫だから。見ててよ」って。
― 頼もしい言葉ですね。実際の面接ではうまく答えられたのでしょうか?
金子さん 面接官の先生に「楽しい思い出を教えてください」と聞かれたとき、息子が一瞬考え込んだんです。追い質問といって、似たようなことを何度も聞かれたあとだったので、もう答えられないかもしれない……と、こちらは内心ハラハラ。すると息子は「幸せなことがたくさんあり過ぎて、今は思い出せません」と言ったんです。
宮崎さん あの瞬間は鳥肌が立ちましたね。妻と顔を見合わせました。まるで何かが“降りてきた”ような感覚で。これまで家族で一緒に積み重ねてきた日々が、息子の中でちゃんと育っていたんだなと感じられた場面でした。
金子さん 面接に備えて事前に回答を用意してくるのを面接官の先生方もわかっているので、自分の言葉を引き出そうと、何回も言葉を変えて聞かれたんじゃないかなと思います。
親の出来は「即、反省会でした」
ー息子さんの素敵な受け答えもあり、まだ結果はわかりませんが、感動的な一日でしたね。
金子さん でもね、面接が終わった後、真っ先に話題になったのは親の出来ですよ(笑)
宮崎さん 学校の門を出てからね(笑)
金子さん 「あなた、なんであんな答え方したの?!」「いやいや、そっちもコメンテーターやっているのにあの答え方はどうなの?!」みたいな。そのときはすぐに反省会でしたね。
気になる結果は? 続きは後編へ
お話を聞いたのは

1978年、新潟県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。2007年新潟市議会議員選挙に当選、新潟県議会議員を経て、12年に衆議院議員に初当選。16年に総務大臣政務官に就任。17年の衆議院議員選挙で落選。現在フジテレビ系「Live News イット!」、CBC系「ゴゴスマ」など、多数のメディアにコメンテーターとして出演中。
取材・文/黒澤真紀 撮影/廣江雅美