*この対談は、親も学ぶ『花まる子育てカレッジ』配信の「AIの第一人者からみた過熱する中学受験の今〜解法の暗記では深い思考力が身につかない!?〜」をまとめています。
目次
AI時代だからこそ必要なのは「創造性」と「想像性」
伊藤 まずは、AIが子どもの教育に関わる世の中で、変わるものと変わらないもの、という視点で答えていただければと思います。
西川 今後の社会で学んでいくべきことが創造力と想像力、変わらないものが学ぶ力、と考えています。AIはデータの中に含まれているものを取り出して組み合わせたり深掘りすることはできる。逆にデータの中にないものは生み出すことができません。創造性と想像性は人間ならではのものです。
なぜあえて「創造性と想像性」を大事に思うかというと、今の受験勉強は、「解法の暗記」が重要になっていますよね。深い論理を要求しない。それで合格できるレベルになってしまうケースが多いです。しかし、例えば大学入試の数学や大学に入ってからの数学は、かなり論理的に深く、解法や証明もだんだん深くなってくるわけですよね。そのギャップで脱落することが起こってしまう。幼い頃から思考力を育むことが大事で、そこは変わらないと思います。
伊藤 本当に自分で考えて本当に学ぶ力をどうつけるか、難しいですね。10歳前後だったら中学受験の合格とのバランスの中でどうやって崩させないでいくのかというのは、私自身が教える現場で日々考えて悩んでいるところです。実際に作問される先生は深さを問う、とてもすばらしい作問をしてくださっているのに、「これをちょっと知っておくと取っ掛かりとして解きやすいぞ」みたいなパターン化した教え方は、どうしても発生してしまいます。そこをどうやって変えていくか……。
西川・川島 そうですね、そこが大きな課題です。
中学受験の演習や過去問でさまざまな「難問」に向かう力をつける
伊藤 次のトークテーマはズバリ「中学受験」。その利点と課題について伺いたいのですが、まず西川さん、利点について伺います。中学受験で身につく力はAI時代でも役立つのでしょうか。
西川 私が思う中学受験の利点は、多種多様な問題に触れられることです。
例えば私の母校 (筑波大附属駒場中学)の算数の問題だと平面図形と点の移動と規則性と、毎年ほとんど同じフォーマットみたいなのが決まっていて、それを40分で解くっていうのが主流です。一方男子校で有名な例えば開成とかだと60分で何問解くのかは年によって違う。要は毎年変えるのが特色だっていう学校もあれば、武蔵は例えば理科の問題は何か物を渡されてそれに関して考察するだとか、本当に多種多様です。
これから世に出たときも当然、未知の世界にたくさん出会うわけですよね。早い段階でそういうことに触れ、解いていくのは、大人になってからの問題解決能力につながっていく。
未知なる状況に対して50分という限られた時間で解決法を考えるというのは、今後AI時代になり、意思決定を素早くやらなければいけない、その練習を塾で繰り返し繰り返しやっていくというのは非常に苦しいけれども、そこでしか得られない経験かなと思います。
もう一つそこで養えるのがやっぱり集中力と精神力ですよね。精神的なタフさというのが得られる。受験塾では毎月順位が変わり、その順位の変動に耐えながらなんとか目標に向かっていき、「受かるぞ」っていう気持ちを奮い立てるところもあります
その子に合ったスタイルの塾や学校を選びたい
伊藤 とても苦しい過程なので、同時に支えてあげることも大切ですね。また、そうした勉強がもし合わなかったりしたら……。
川島 順位を変えて子どもたちに伝えて鼓舞させるというスタイルが向いている子は学習のモチベーションになりますが、そういう子ばかりではないかもしれませんよね。保護者はその子に合ったところを、その子の目指す到達点に向けて選んであげたいですね。
伊藤 そうですね。中学受験そのものも、中学受験のための塾も、お子さんに合うスタイルを選んで行くことに価値があると思いますね。では、川島さんが考える中学受験の利点についてお話いただけますか。
川島 中学受験は、うまくいけば「それなりに深い学習」ができるのが利点だと思います。私は算数とか数学が大好きで、中学入試の問題を毎年、趣味で見ているような人間です。そして思うのは、やはり問題がおもしろいなぁということです。
自らコンピュータが好きになったり、プログラミングが好きになったり、作りたいものがあったり、というような縁に恵まれたらそれはとても素晴らしいことですが、全員が全員、小学生の間にそういう何かを見つけられるとも限らないですよね。でも中学受験では、おもしろい問題に自然と出会って「それなりに深い学習」を楽しむこともできます。
中学受験の算数は難易度が上がっている
伊藤 算数の問題傾向というのは、最近はどんな傾向に変わってきましたか?
川島 私が感じているのは、たとえば「方程式を理解していると露骨に有利になる」問題ではなく、「見た目は目新しく見えるけれども、その単元の根本を理解していると極めて自然に解けるような問題」、つまり「誠実な難問」というのが確実に増えてきていると思っているんです。
けれども一方で、中学受験の過熱もあり、単純に難度は上がり、塾が研究することでますます試験問題が難しくなるだろうというループに陥るのはあるかなと思いますね。学校によっては、どんどん範囲が広くならないように配慮しているところもありますが……、なかなか難しい問題ですね。
中学受験はミズモノ。うまくいかなくても当然と考える
伊藤 では次に、中学受験の課題を伺いたいと思います。あわせて、保護者の方が中学受験で気をつけるべきことは何か、それも教えていただけたらと思います。
西川 中学受験は非常に数値化されるわけですね。特に組み分けテストとかで下のクラスになったら、保護者の方も一時的にはものすごい焦ると思うんです。でもそこで子どもを責め立てないでほしいなと思います。試験というのは本当にミズモノで、体調だとか得意分野・苦手分野で左右されます。1回1回の成績をずっと気にしすぎると家族関係まで変わってしまう。
あと、これは本当によくないことだと思うんですけれども今は昔よりも偏差値で語られすぎるところがあります。塾のコースにも学校名がついてしまうほどです。要はその学校を望んでいなくても、コース名でその学校に行かなきゃというように世界が閉ざされてしまいがちです。
でも世の中には数多くの個性的な学校がありますし、偏差値が高いからといってその子に合う学校かどうかはわかりません。中学受験で失敗してしまったからといって終わり、というわけではないですよね。それより、親子関係が変わってしまったり、精神に不調をきたしてしまったり、勉強が大嫌いになってしまったら元も子もない。子どもの意思を尊重してほしいなと。「子どもの受験」だということを、保護者の方は忘れてはいけないと思います。
我が子が「勉強をすることが楽しい」と思える学校を選びたい
西川 この3つをまとめると、やっぱり学ぶことを嫌いにならないようにしてほしいなというところもあるんですね。子どもが楽しいと思えるような問題を出す学校に出会えるかどうかというのはすごい重要で、そこに向けて勉強していくことによって勉強することが楽しいというふうに思えるようにするというのが私はすごい重要なことなのかと思います。
川島 塾側としては有名校に多く入れることで翌年の生徒が増えるということもあるでしょうけれど、中学受験の学びがフィットするかどうかというのも、サッカーが得意だとか、ピアノが得意だとか、あくまである1つの分野が得意かどうか、ということと同じように捉える視点もあるといいですね。
西川 中学に入ってから燃え尽きてしまうのはぜひとも避けたい。そのバランスが難しいところではありますが、中学受験を「選んだ」ということはそこのサポートもお願いしたいですね。
伊藤 最近は西川さんがおっしゃるような暗記ではなくて深く考えるものも多くなっています。そういう勉強を楽しいと思えたか。その子なりの楽しさを感じ続けていくことができた子がいい位置にいけるんじゃないかなと思います。
川島 たとえば弊社の思考力アプリ「シンクシンク」では「解けたらどんどん難しくなっていく、けどそうでなければ簡単な問題を十分練習する楽しさ」を味わえます。ですが実際、模試や中学受験では、全員同じ問題を確実に解いていかないといけない。その子の力が伸びていても、1つの問題の答えを出し切れるかは複合的な要素があるので、その子なりの楽しさを味わう難しさもありますね。
子どもにとっていい学校を選べるのは保護者の力
伊藤 では最後のテーマに行きたいと思います。「中学受験を乗り越えていくために親ができることは?」もしかしたら読者の皆さんが一番聞きたい部分かもしれません。まず西川さん、いかがですか。
西川 3つあります。
まずいろんな学校があるので、文化祭や学校説明会に子どもを連れて行き、子どもの琴線のどこに触れるのか、たくさんの学校を見せて選んでもらうといいと思います。文化祭も学校説明会も、基本的には良いところしか見えてこないという側面はありますが、実際に見て選ぶ、選択肢を広げるといったところですね。できれば文化祭と学校説明会、両方行くと、「この学校がいい」「ちょっと考えようか」という確信が得られるのではないでしょうか。
次は「塾選び」。どの塾がどういう特色を持っていて何が得意なのかというのをよく調べておくこと、それは保護者の方の役目かなと思います。
3つ目は「過去問」です。できれば過去問の用意などは保護者の方がしてくださるとお子さんはラクです。年ごとに問題傾向が変わる部分がありますし、受ける学校の問題とお子さんの得意不得意が合うか、そのあたりも関わってくださるとお子さんは安心です。
塾の先生を信頼してそっと後押しする親がいてもいい
川島 親も一緒に楽しんだり、のめり込んだりして伴走してやっていくスタイルが一つあると思いますし、保護者の方が過去問研究にそこまで割ききれない場合、部分的に関わることの難しさもあるので、逆に塾の先生を徹底的に信頼する、というやり方もありますね。
西川 たしかにそうですね。両面あると思います。
川島 また、前提として、受験がその人の人生を決めるわけでもないですし、本番が近くなるとそうも行っていられない部分もあるでしょうけれど、肩の力を抜くことも大事ですよね。
西川 そういった俯瞰した要素も持てると、お子さんが追い込まれないようになりますね。また、さきほど言った「志望校の選択肢をある程度広く持つ」ことをすると、東京でいえば12月受験、1月受験、2月受験の中で行きたいと思える学校ができますし、早めに合格を勝ち取れれば2月受験の心理的負担ってだいぶ下がるでしょうし。これも大事でしょうね。
伊藤 ありがとうございます。塾業界とはまた違った視点で本当に最先端の企業のトップの方が考える中学受験ということで、多分保護者の皆さんにも少し新しい学びになったのではないかなと思います。どうかみなさん、よい春をお迎えください。
対談したのは


ワンダーファイ株式会社 代表取締役 Chief Creative Officer / ファウンダー。東京大学大学院工学系研究科修了。学習塾「花まる学習会」で4歳から中学生まで、東京大学非常勤講師として大学生の指導を経験。国内児童養護施設のほか、フィリピン、カンボジアなどアジア各国で学習支援を実施。算数オリンピックの問題制作や、ベストセラー問題集「なぞぺ〜」の監修に携わる。2014年にワンダーファイ株式会社を創業、開発した思考力育成アプリ「シンクシンク」は世界150ヶ国300万ユーザー、「Google Play Awards」など受賞多数。2020年よりSTEAM通信教育「ワンダーボックス」を開発提供。2017年より三重県数学的思考力育成アドバイザー。
取材・文/三輪 泉