母子家庭で10歳から新聞配達、ハーバード大学卒業のお笑い芸人パックンが子どもに伝えたい投資の話

10歳から新聞配達をするなど、お金の大切さを深く理解しているハーバード大学卒業のお笑い芸人パックン(パトリック・ハーラン)さん。先ごろ出版した投資の基本がわかる本『パックンの森のお金塾 こども投資』が、発売前に重版になるほど注目を集めています。本を通して伝えたいことやお金の教育で大切にしている考え方を伺いました。

まずは投資に必要な資金を貯める“節約筋”をきたえよう

──この本は子ども向けですが、かなり本格的な投資の内容です。お金の教育にはいろいろな切り口があると思いますが、今回はなぜ“投資”をテーマにしたのでしょうか。

パックン:今、日本では投資への注目度がグンと上がってるじゃないですか。僕は15年くらい前から投資の講演会をやっていますが、ようやく「投資やってる人?」と聞いて過半数の手が挙がるようになってきました。

バブル崩壊の傷が少しずつ癒えて、新NISAができて、日経平均株価も上がってきて、一方で年金不安もあって……。いろんな要素が揃って投資熱が高まっている今、ぜひ子どもの金融教育も早めに始めてほしいと思ったんです。

投資に必要な資金を貯めるための“節約筋”をきたえることは、一生の力になります。この本は子ども向けに書きましたが、ぜひ大人のみなさんにも読んでいただいて正しいお金とのつきあい方を知ってほしいと思っています。子どもが読んでくれなくても、親が読めば子どもへの説明の仕方がわかります。説明はどんどんパクってください(笑)。

──ムダをなくして節約する“節約筋”については本でも書かれていますね。改めて節約筋の重要性を教えてください。

パックン:よく「英語を話せるようになりたい」と言いながら、勉強していない、喋ってない人がいますが、お金も同じ。「お金持ちになりたい」「老後を安心して過ごしたい」なら行動しましょう、という話です。

お金を稼ぐことは大人になれば大体みんなできるようになります。でもその先の、稼いだお金を節約して投資するロードマップは誰も教えてくれません。稼ぐというのは2段階あって、まず収入を得て、そして貯蓄・投資をする。これでやっと「将来のお金」になります。残るお金を節約して作ることは「稼ぐ」とほぼ同義。節約なら子どもでも今日から始められますよ。

お金の話は親子でもっとオープンに話していい

──本に「アメリカではお金や投資の話をよくする」と書かれていましたが、実際どれくらいオープンなんですか。

パックン:僕の周りのせいぜい数百人の話ですけど、かなりオープンです。僕自身、12歳から自分の銀行口座を持っているし、早くに母から株式や債券の仕組みを教わりました。家計簿を見せてもらって家計が大変なこともわかっていたし、一時期生活保護を受けていたときは、その仕組みも教えてくれました。

大学生になってからは友だちとアルバイトの時給情報を交換したり、25歳頃には投資を始めたので友だちにアドバイスをもらって株を買ってみたり。今は50代になり「いつ引退できるか」なんて話題になりますね。個人的には「この投資、どうかな?」と気軽に相談できる人がいるほうが、いろいろな詐欺からも身を守りやすいと思います。

──高校生のお子さんが二人いらっしゃるそうですね。実際、お子さんにはどんなふうにお金の教育をしてきたんですか。

パックン:僕はこの本に書いた理想通りのお金の教育はできてないんですよ。僕と妻の問題ですけど、子どものおねだりに応えちゃうんです(笑)。決めた額があるのに、僕が断ったら妻が出すとか、その逆も。それでも高校生になった今、二人ともそれなりに節約筋はついていますね。

─―お子さんが小さい場合は、何から始めるのがよいでしょう?

パックン:子どもによって性格や成長スピードが違うので一概には言えませんが、子どもがお金を使い始める段階から、お金のことを話すとよいと思います。最初は4~5歳頃のおつかいに行って、おつりを一緒に数えたり、1000円がパンと卵のおつりに変わったことを見せて、「お金ってすごいね、こうやってモノに変わるんだよ」と教えたり。

大きくなってきたら、「将来の夢は?」という話から「仕事はお金を稼ぐものでもある」と伝えてもいいですね。さらに成長したら、「サッカー選手は稼げるけど期間が短い、先生は長くできるけど額は少ない」など職業による収入の違いも話してもいいと思います。

お小遣いの使い方も指示するのではなく、うまく導いていけるといいですよね。この本を読んだお子さんが「投資したいから、ママ、ちょっとお小遣いアップお願いします」なんて交渉してきたら、ぜひ受け付けてほしいです。

お金とは明るく楽しく向き合ってほしい

──投資に対して苦手意識があり、投資の一歩を踏み出せずにいるママやパパへのアドバイスはありますか。

パックン:お金の持つ力、ポテンシャルを考えてみてほしいです。お金を寝かせておくだけでは何も変わりませんが、投資するとお金自体が働いてくれます。そのマジックを体感すると楽しいですよ。踏み出しづらい人は、まず元本保証の債券から始めてみるのもいいかもしれません。大手企業の債券や国債なら、数年後の満了日まで持てば数%の利息がつきます。

あとは株価の乱高下に一喜一憂しないこと。小刻みのスパンで見るんじゃなくて長いスパンでみる。50年後になれば、今年の乱高下なんて、きっと何てことないでしょう。

今はネット証券を利用する人が多いですが、不安なら店舗型の証券会社に行ってもいいと思います。「初めてなんですけど、『とりあえず5万円からスタートしろ』ってパックンに言われたから来ました」って言ってもらってもいいです(笑)。親子で行けばいい経験になると思います。

──最後に、子どもたちにもメッセージをお願いします。

パックン:子どもたちに一番伝えたいのは、本の最後のほうのトピックとして書いた、「いろいろ言っているけど子どものうちはお金より、勉強のほうが大事!」「経験も大事! いろんなことにチャレンジしよう!」ということ。その次に、「お金は感謝を示すもの」だということです。

お金を稼いで使うことも、投資して将来の夢を叶えることも、老後を安心して過ごせることも、すべて感謝が巡って成り立つ話。お金って、明るくて楽しいものです。

僕は子どもの頃、母が家計簿を見ながら夜泣いてるのを見て、「お金は怖いもの」だと思っていました。でも、10歳から今に至る44年間、ほぼ休みなく働いて、少しずつ節約して投資して、お金に対する恐怖心が安心感に変わりました。これを味わってほしいと思っています。

別に島を買ったり豪華クルーズ船を買ったりしようという話じゃないですよ。普通に教育を受けて、家庭を持って、老後を過ごすだけでも、そこに安心感があるかないかで人生は大きく変わります。みなさんが持っている稼ぐ力と節約筋を、ぜひより安心感のある明るいマネーライフに活かしてほしいと思います。

パトリック・ハーラン 主婦の友社 1650円(税込)

子どもの頃から、新聞配達をして家計を助けてハーバード卒業!投資歴30年のパックンが伝授する、幸せになれるお金とのつきあい方入門。5匹の動物たちが、お金について漫才タッチで解説。楽しく読んで、自然に投資とお金のことが理解できます。子どもはもちろん、投資初心者の大人にもおすすめの一冊です。

取材・文/古屋江美子 撮影/五十嵐美弥

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