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宿題が発達のつまづきに気づくきっかけになることも
1学期も中盤になると、1年生にも宿題が出されるようになります。宿題の内容は、算数ドリルや漢字の書き取り、教科書の音読などが一般的ですが、この時期に保護者からの相談の中でよくあるのが「宿題をやらない」「宿題をやったと嘘をつく」というものです。
幼児期には特に問題がなかったグレーゾーンのお子さんでも、就学後に学習面でつまずきが見られることがあります。特に、彼らにとって「宿題」という自立課題は大きなハードルとなることが多いのです。
今回は、宿題ができない原因やその対応策、そして見落としがちなポイントについてお話しします。
「やらない」のか「できない」のかを見極める
宿題に対する反応は大きく分けて、「やらない」と「できない」の2つのカテゴリーに分けられます。これを見極めることが重要です。
「やらない」は環境を整えることで解決することも
集中できる環境を提供することで解決できる場合が多いです。例えば、周りの誘惑が少ない静かな部屋で宿題を試みてみてください。それでもやらない場合、興味が他に向かっている可能性があります。
「できない」には発達特性が関わっている場合も
もし環境を整えても、身体を触りだす、文具で遊びだすなど、注意が散漫なようであれば、「できない」と判断した方がいいでしょう。叱責してもムダです。これには集中力の問題や、学習の理解に関する発達特性が関わっている場合もあります。
「宿題ができない」にある背景を見極めて

保護者のサポートが必要
お子さんが宿題に取り組めない背景には以下のような原因が考えられます。
保護者は、宿題は自立課題(一人でできるもの)として理解しているかもしれませんが、発達障害がある場合、興味のない「宿題」を一人でさせることは難しいです。この場合、大人のサポートが必須となります。
宿題の内容がその子に合っていない
小学校の学習は通常、定型発達の子に合わせてカリキュラムが組まれています。発達障害の子の場合、身体年齢が学習年齢と合っていない場合も多いのです。
例えば、算数では10までの集合数(量を表す数)を理解できるようになるのは6歳頃ですが、発達障害の子の中にはこの集合数の理解が遅れる場合があります。
保護者は、「100までは数えられるから」と子どもが数を理解していると勘違いしていることがよくありますが、それは順序数(順番を表す数)としての数の理解の方が早いためです。まだその段階では「数=名称」と同じで量としては理解できていないのです。
順序数を理解していても、集合数の理解ができていなければ、計算問題は難しい課題です。
姿勢保持ができていない

発達障害の子の中には姿勢保持や身体使いの不器用さが目立つ子がいます。その場合、漢字の書き取りなどは本人にとって苛酷な課題となります。
例えば「月」と言う漢字をノートに10回書くという課題の場合、学習目的としては、「月と言う漢字を覚える」ということになるのですが、彼らにとっては、「ノートに10個「月」という漢字を書く作業」という課題ということです。つまり学習目的を果たしていないのです。
彼らはかなりのエネルギーを使い身体をコントロールしています。例えば筆圧や運筆。片手でノートを押さえながら鉛筆に圧を加え、押したり引いたりする力加減などのコントロールは難しいことなのです。
宿題への「合理的配慮」の内容が合っているか

障害の特性が学習の妨げにならないよう申し出る学校での「合理的配慮」。教師や保護者の中には、「合理的配慮」が宿題の「量」や「時間」を減らすことだと思っている方が多いようです。しかし、それだけでは根本的な問題を解決することはできません。
算数の場合、「課題」にとらわれると見落とされがちなのですが、集合数の理解ができていない段階で、問題数の量やドリルをやる時間を減らすことは無意味です。この場合、具体物を使うなど、量を実感できる体験を重ね、経験を積むことが必要になります。
漢字の学習も同様です。10回を5回にしても、しょせん作業量が減るだけで学習目的が達成されません。例えば「月」という漢字を覚えるためには、書くことでは覚えられない場合があります。
その子が知っていることと繋げて覚える方法が必要です。例えば、セーラームーンが好きな子なら「ムーン=つき=月」と結びつけて覚えるなど工夫が必要になります。また、アプリやゲームを使って学習の楽しさを感じられる工夫も「合理的配慮」の一つです。無理に宿題をやらせるのではなく、お子さんの問題の背景を理解し、適切なサポートを行うことが大切です。
適切な合理的配慮を受けるために
この「合理的配慮」は義務付けられてはいますが、実際は学校や自治体ごとに差があるのが実情で、現場に任せられている場合もあります。
さらに、普通級と支援級で合理的配慮を受ける場合も誰に伝えるのか学校によって変わる場合があり、自分の地域の学校が、合理的配慮を受けるために、どのような手順を踏む必要があるのかはケースバイケースになります。
スクールカウンセラーが窓口になっている場合や、学校によっては教頭先生の場合もあります。支援級なら特別支援コーディネーターが対応するケースもあります。
親切な学校の場合は入学説明会の際に合理的配慮の窓口(問い合わせについて)を教えてくれる所もありますが、その配慮がない学校もあるのです。
まずは学校に問い合わせ、どこが窓口になっているのかを聞きましょう。そして子ども自身が希望する合理的配慮をしてもらうためには何が必要なのかを保護者から発信し、情報を得ることが大切です。
こちらの記事では「困り感」を抱えた子のための通級の制度について解説しています

健康運動指導士、介護福祉士、保育士、公認心理師。株式会社スプレンドーレ代表。
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