社会性を発達させるために必要なのは「共同行為」
教育を行う中で、重要な目標のひとつに「社会性の発達」があります。社会性とは、人と一緒に何かをする「共同行為」ができる力です。
人と一緒に何かをするには次に挙げる①~③ができなくてはなりません。
①物理的な環境や状況、共同で何かをする相手の目的や意図を把握する
②自分は何をしたらよいかを理解する
③相手のスピードやタイミングに合わせる
①~③の力を育て、社会性を育むには、共同行為の経験を重ねることが必要です。
発達障害の特性がある子の「自律」の力が育つのは高学年が目安
共同行為を行うには「自律」の力が必要です。共同行為では、「相手」がいても相手の指示で動くわけではなく、「自分で」状況を判断し、目標に向かって行動します。ですから「自分の意思で自分の行動をコントロール」する自律の力が必要なのです。
「自律」の力が育つのは、定型発達の子どもの場合、小学校低学年くらいと言われます。しかし、発達障害の特性のある子どもの場合は、小学校高学年くらいまでかかることが多いです。
理由のひとつとして、発達障害の特性のある子どもは、その特性ゆえに人と一緒に何かを行うのが難しいことが多く、結果として共同行為の経験が圧倒的に少ないということがあるように思います。
「共同行為」に先立つ「共同注意」とは?
ところで、子どもと大人は共同行為に先だって、赤ちゃんのころから「共同注意」という形でやり取りを重ねています。
共同注意とは、同じときに、同じものやことがらにふたり以上の人が注意を向けている状態をいいます。例えば、子どもが何かを指さしたので、大人がその指先と視線の先を見ると、犬がいたとします。子どもと大人、双方が犬を見ている状態です。このとき「犬」について共同注意が成立しています。
子どもが生後8~10か月になると共同注意が頻繁に起きるようになります。このとき大人が「ワンワンね」と言うと、子どもは「今見ているモノはワンワンというのだ」と理解します。子どもはこのようにしてことばを覚えます。

最初は子どもが指さすものに大人が注意を向けて共同注意が起きますが、やがて大人が指さすものに子どもが注目する共同注意も起きるようになります。
共同注意が成立しているとき、双方は同じものを見て、同じ気分を感じます。子どもが犬を見て驚いたという気持ちは、大人にも伝わるのです。そして子どもは、今、相対している大人は、自分と同じことに興味を持ち、同じ気分でいることを感じます。
このように相手と同じものを見て、同じ感覚を得て、相手の気分を感じるという経験は、相手の気分を想像する力の基礎になります。
共同行為をすることで、共感する経験や楽しさを学んでいく
例えば、親子で玄関掃きをしたとします。親は「玄関がきれいだと気持ちがいいでしょう?」と言い、「〇〇ちゃんは靴を全部外に出してくれる?」と指示します。そして「掃き終わったから靴を中に入れてね」と伝え、子どもが靴を入れ終わったところで「玄関がさっぱりしたね」と言います。
これを繰り返すうちに、子どもは玄関掃除の際に自分の判断で靴の出し入れをするようになるのです。

このように、子どもは共同行為を行う中で、そのとき大人が何を意図し、何をめざしているのかをつかみ(①)、自分は何をしたらいいか(②)、大人の動きに対してどのタイミングやスピードでそのとき一緒に行っている活動に関わったらいいか(③)を学びます。
冒頭でお話しした、共同行為に必要な①~③の力は、共同行為の経験を重ねることでこそ育まれるのです。そうして子どもは、共同行為を通して社会性を育んでいきます。
同時に子どもは、大人と同じ目的のもとに協力して行動する中で、さまざまな感情を大人と共有したり、共感したり、共感してもらう経験を積み重ねます。同じ活動をする中で「通じ合う」経験をするのです。
そして「人と一緒に何かをすると楽しい」ことを知ります。これもまた、子どもを「共同行為」に向かわせ、社会性を育むことにつながります。加えて、子どもは共同行為によってさまざまな知識や技能を大人から教えてもらい、できるようになります。
家事の自動化やデジタルデバイスの普及により、減っていく共同注意や共同行為
近年、日常生活の自動化が進み、掃除機に代わってロボット掃除機を使う家庭が増えるなど、自分の身体や時間を費やして行うことが激減しています。
共同行為に先立つ共同注意も減っています。大人も子どももそれぞれが端末の中の動画やゲーム刺激に夢中になっていることで、同時に同じものに注意を向けること自体が減っているのです。
しかし、お話ししてきたように、ことばの発達の上でも、社会性を育てる上でも、共同注意、共同行為は非常に重要です。
だとすれば、意識して子どもと共同行為をする機会を作らなくてはならないのではないでしょうか。スイッチひとつの機械任せの家事ではなく、自分の身体と時間を使って行う家事は、共同行為の経験を積むのに非常に適してます。それは、これまでこのコラムを読んできてくださった方にはおわかりだと思います。ぜひ、一緒に家事をすることで、共同注意、共同行為の経験をたっぷりと積ませてあげたいものです。
第14回 レタスサラダを作る

レタスをちぎって行うサラダづくりは、1歳後半からできるお手伝いです。親子で一緒に行ってみてください。
対象年齢
1歳後半~
材料
・レタス
・好みの野菜や具材
・ドレッシング
用意するもの
・サラダスピナーやザル
・サラダボウル
・カトラリー
期待できる効果
・指先を使うことによる微細運動の上達
・熟達している親が丁寧に教えてくれることによる親への信頼
・家族の役に立つ経験ができる
手順
1. レタスを冷水にさらす
レタスを、5分程度冷水にさらす。
レタスは冷水(10度以下)にさらすと繊維が固くなり、歯ごたえのある食感になる。
5分以上さらすと、水が温まって食感が悪くなり、水溶性ビタミンも流れ出すので、時間は守る。
2. レタスの水気を切る
サラダスピナーの下に濡れ布巾を敷いて動かないようにして取っ手をまわし、レタスの水気を切る。

※ ザルでもよいが、レタスが飛び出さないようにしながら水気を切るのは子どもには難しいので、サラダスピナーがなければ、大人が手を添えるか、この工程は大人が行うようにする。
3.レタスをちぎる
子どもにレタスをちぎってもらう。
レタスに手指がべたべたと触れないよう、大人が指先でちぎってみせ、子どもに真似してもらう。
ちぎったレタスはドレッシングを混ぜることを考えて、大きめのサラダボウルに入れる。
※ベビーリーフや水菜など食感が違う野菜を混ぜるのもよい。
4.他の野菜や具材を混ぜる
トマトやキュウリ、カリカリに炒めて冷ましたベーコンなど、お好みの野菜や具材を用意し、サラダボウルの中でレタスと混ぜる。
5.ドレッシングで和える
全体にドレッシングをまわしかけ、ふんわりと下から混ぜる。
カトラリーを使って混ぜる場合は、両手にカトラリー(左手に大きめのスプーン、右手に箸など)を持ち下から全体を混ぜるようにする。できるだけ3回くらいでふんわり混ぜる。
1回目は大人がやってみせて、あとの2回を子どもにやってもらうのもよい。
※混ぜるのはできるだけ食べる直前に行うと、野菜がしなっとなるのを防げる。
※前回ご紹介した「胡麻ドレッシング」を使うのもいい。
作業のポイント
1.レタスを水に浸けるとき、5分のタイムキーパー係を子どもにやってもらうことで、時間の意識を育てることができる。
2.サラダスピナーを使うときは、やり方をしっかり見せる。
ふざけてやたらに回さないように伝える。注意や叱責を避けるため、どうしてもふざけそうな場合はやらせない。
3.レタスをちぎる動作、サラダを混ぜあわせる動作は、少し熟練を要するので、やり方をしっかり見せ、子どもを励ましながら、サポートする。
声かけのポイント
1.レタスをちぎる、サラダをふんわり混ぜるなどの動作をするときは、オノマトペを使って説明すると、子どもがよく聞き、また、動作のコツをつかみやすい。
例)
「ちょん」と言ってレタスを指先で押さえ、「パリッ」と言ってやさしくちぎる
「ふわふわ~」と言って混ぜ合わせる
2.うまくできなくても注意や叱責はしない。
楽しく、努力をたたえることを基本に声かけをする。
3.サラダを食べるときは他の家族に、子どもがどんなふうに頑張ったかを伝えたり、「おいしくできたね」ということばをかけたりする。
お手伝いを通して子どもの社会性を育もう
現代社会では、共同注意や共同行為の場面が激減しています。ぜひ、お手伝い療育を通して、子どもとの興味や喜びを重ね、共に楽しみ、共に感じる時間を意識的に作ってください。それが子どもの社会性を育てます。
生活の中で意識して模倣の機会を作り、子どもの育ちを応援してください。
この記事を書いたのは…

一般社団法人 WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事。明治学院大学社会学部社会福祉学科卒業、国立身体障害者リハビリテーション学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダのブリティッシュコロンビア州の障害者グループホーム、東京都文京区の障害者施設職員、長野県の信濃医療福祉センター・リハビリテーション部での勤務の後、『発達障害のある子の家族を幸せにする』ことを志に、一般社団法人 WAKUWAKU PROJECT JAPANを長野県諏訪市に創設。発達障害のある子のプライベートレッスンやワークショップ、保育士や教諭を対象にした講座を運営している。著書に『発達障害のある子と家族が幸せになる方法』(学苑社)、『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)がある。