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上から下へと発達する、全身運動能力
立つ、座る、姿勢を保つ、歩く、走るなどは日常生活に欠かせない動作ですが、これらの動作をするときは、全身の筋肉を使います。
人の体は上から下に発達します。赤ちゃんは頭→首→腕→背中→腰→脚という順序に動かせるようになり、それに伴って次のような順序で、さまざまな全身運動(専門的なことばで「粗大運動」と言います)ができるようになります。
生後3ヶ月ごろ:首がすわる
生後7ヶ月ごろ:寝返り
生後8~11ヶ月ごろ :お座りができる
生後10ヶ月ごろ:つかまり立ち
生後13ヶ月ごろ:つたい歩き
生後14ヶ月ごろ:立つ
1歳半~2歳ごろ:つかまって階段を上り下りする
4歳ごろ:片足立ち
5歳ごろ:片足跳び、ケンケン
6歳ごろ :スキップ
※月齢はあくまでも目安です
全身運動能力の発達がもたらすもの
全身運動能力が発達することで、子どもたちには次のような成長が見られます。
(1)身体的発達
全身運動能力が発達すると、筋力が強くなり、バランスを取ることができるようになります。またいろいろな動きができるようになり、日常生活の動作もスムーズになります。
(2)体力がつく
全身をスムーズに動かせるようになるのでどんどん運動するようになり、体力がつきます。
(3)自己効力感の向上と社会性の発達
これまでできなかったいろいろな動きができるようになることで、子どもは「前はできなかったことができた!」という成功体験を重ねます。「できた!」という感覚(自己効力感)は自尊心に結びつき、また、次のチャレンジのエネルギーの素になります。

いろいろな全身運動ができるようになると、いろいろなお手伝いもできるようになります。例えば買い物袋を運んだらお母さんが「ありがとう」と言ってくれてうれしかった。このような経験を積む中で、「もっと自分にできることがないか」「もっとお母さんを助けてあげられないか」と考える社会性も育ちます。
(4)集中力や知的能力の発達
6歳ごろまでは体を動かしたいという欲求がとにかく強いものです。そして、自分の身体を自分の思い通りに動かせることに喜びを感じ、それを追求します。そして思い通りに動かせるようになった自分のこの身体で、何かを動かしたいと思うようになります。
例えば、河原で大きな石を見つけた。これを動かしたい。最初は自分で動かそうとするが動かない。でも、これを動かしたいという強い欲求がある。

そのとき子どもはその欲求に突き動かされて「自分の身体では動かせないが何とかしてこれを動かしたい」と考え、集中して頭をフル回転させて「お父さんに手伝ってもらう」とか「動かすのに使える道具を河原で探す」などの工夫をします。
全身運動から欲求が生まれ、興味や集中力を身につけていく
このように、さまざまな全身運動ができるようになることで、自分の身体で周囲を動かしたいという欲求が生まれ、やがてそれは自分の身体によらずとも、何とかして周囲を動かしたいという欲求につながります。その欲求に突き動かされる中で、子どもは興味を広げ、集中力、知的能力をつけていくのです。
全身運動能力が低下している現代の子どもたち
全身運動能力は、子どものさまざまな成長発達に大きな影響を与えます。ところが、文部科学省の全国体力テスト(2023年度)で小・中学生の持久力や筋力が低下していることが報告されているように、近年子どもの全身運動能力は低下しています。そこには、現代の子どもたちの外遊びや運動の機会が減っているという現実があります。
学校の授業時間、習い事や塾通いの時間の増加、そして、何より、家庭でのゲームやスマートフォンの利用時間の増加によって、昔と比べて平日に公園などで外遊びをしている子どもは確実に減っています。全身を動かすことなく腕から先だけを動かす生活の中では、全身運動能力を鍛える機会が圧倒的に少ないのです。

この点、家事の中には全身運動が必要なものがたくさんあるので、外での運動が少なくても家事のお手伝いをする中で、全身運動の力をつけることができます。その一例が「お風呂掃除」です。
第15回 お風呂掃除のお手伝い

お風呂掃除では全身に力を込めてバスタブをみがく、かがんだ姿勢のままで床をみがくなど、全身運動が必要です。ですからお風呂掃除のお手伝いをすることで、全身運動能力を鍛えることができます。
対象年齢
6歳以上~
期待できる効果
・全身運動能力の向上
・社会性の向上
・明確な一定のルールを親が伝え、子どもは伝えを受け取る学習経験
・家族に喜ばれることで勤労意欲が育つ
・家族の役に立つ経験ができる
関わり方の留意点
・床で滑ることがあること、水を使うことから、必ず、養育者と一緒に行う
・洗剤などの誤飲の恐れがある子どもにはさせない
ことばがけのコツ
・床を強くみがく必要がある時はオノマトペを使う
例:「ゴシゴシみがくよ~」「ゴシゴシ」
・お風呂掃除に取りかかったときや掃除の最中に、頻回に感謝を伝える
例:「お風呂掃除は大変だから、本当に助かるよ」「ゴシゴシってきれいにみがけてるね」
・お風呂掃除終了時や入浴時もお手伝いしてくれたことをほめる
例:「○○ちゃんが洗ってくれたから、気持ちよくお風呂に入れるよ」
「手伝ってくれてありがたい」という気持ちが子どもの喜びに
お風呂掃除は大人でも億劫なもの。「重労働」と感じることさえもあります。
それを子どもが手伝ってくれれば、おざなりではなく、心から「ありがたい!」という気持ちになり、それは子どもにも伝わります。ボクの、私のお手伝いは本当に役に立っているんだと子どもは感じて喜びます。
安全には気をつけて、ぜひ子どもにお風呂掃除のお手伝いをしてもらいましょう。
この記事を書いたのは…
一般社団法人 WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事。明治学院大学社会学部社会福祉学科卒業、国立身体障害者リハビリテーション学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダのブリティッシュコロンビア州の障害者グループホーム、東京都文京区の障害者施設職員、長野県の信濃医療福祉センター・リハビリテーション部での勤務の後、『発達障害のある子の家族を幸せにする』ことを志に、一般社団法人 WAKUWAKU PROJECT JAPANを長野県諏訪市に創設。発達障害のある子のプライベートレッスンやワークショップ、保育士や教諭を対象にした講座を運営している。著書に『発達障害のある子と家族が幸せになる方法』(学苑社)、『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)がある。