【渋谷教育学園幕張】なぜ全国屈指の最難関&人気校になった? キーワード〝自調自考〟を育む3つのヒントと、主体性を育てる学校の見分け方

私立中学の合同説明会の会場で毎年長い列ができる「渋谷教育学園幕張中学校・高等学校(渋幕)」。保護者が並び続けるその人気は、偏差値や進学実績だけでは語れません。その教育の根底には、教育目標「自調自考」がある。——ここには子どもが自らを調べ自らを考えることと、自ら調べ自ら考えるという意味が込められています。
前編に続き、『渋幕だけが知っている「勉強しなさい!」と言わなくても自分から学ぶ子どもになる3つの秘密』(飛鳥新社)の著者、教育ライターの佐藤智さん(上画像)に、「自調自考」を家庭でも実践する方法や、学校選びのヒントについて伺いました。

前編:「勉強しろ」と言わなくても東大に行く。やらされないのに伸びるのはなぜ? はこちら≪

渋幕の教育の根っこにあるもの——キーワードは「自調自考」

―渋幕の教育を語る上で欠かせないのが「自調自考」 だとうかがいました。

佐藤さん:教育目標「自調自考」は、渋幕のすべての教育の根底です。約一年半、取材をさせていただき、先生方はもちろん、在校生や卒業生の声を聞いたり、授業や講演を見たりする中でも必ず出てくるキーワードでした。

「自調自考」には、「自分で調べて自分で考える」という、主体性や当事者意識を育てる意味と、「自分で調べて、自分を考える」という自己認知の意味が込められています。この自調自考の力を養っていくことで、社会に出たとき、自分の力を使って社会にどう貢献するか課題意識を持って向き合える人になっていくのです。渋幕ではそれを中学校の段階から育んでいます。

―理念として掲げるだけではなく、実際の教育の中でどうやって「自調自考」を子どもたちに身につけてもらっているのでしょうか。

佐藤さん:先生が「これをやりなさい」と答えを示すのではなく、「君はどうしたい? どう思う?」と生徒に問いかけ、生徒自身が考え、決めていきます。授業はもちろん、部活動や行事、進路指導の場面でも、先生は指導するというよりコーチのように寄り添い、伴走する存在なんです。

渋幕にはほぼ校則がないので、ときには生徒が突拍子もないことを言い出し、先生たちが「これを認めていいのか」と悩むこともあります。こういったときには、「これは自調自考の力を養うことにつながるのか」と教育目標に立ち返り、判断します。先生方は「自調自考」を信念に、覚悟を持って生徒に接しているのです。

―とはいえ中学生の段階で、自分で考えて決めるのは難しい子もいるのでは。最初のうちはどんな様子なんでしょうか?

佐藤さん:インプット重視の学習に慣れているので最初は戸惑います。でも、1〜2か月もすると慣れていくようです。

何でも認められる環境、いわば心理的安全性があるから自分の意見や考えを表明していけるのでしょう。それまでは、周囲から「そんなことを考えてどうするの」などと抑え込まれてきた個性を渋幕では解放できる。これにより、それぞれの生徒が力を伸ばしていくことができるのでしょう。

家庭で「自調自考」を育てる3つのヒント

図書館で子どもに借りたい本を選ばせる

― 学校だけでなく、家庭の中でも「自調自考」を育てられたらいいなと感じます。親として、どんなことから始めるといいでしょうか?

佐藤さん:子どもが自分で決める場面を増やしてあげてみてはどうでしょうか。図書館に行ったとき、親が「これがいいんじゃない?」と選ぶのではなく、子どもに選ばせてみる。大人から見ると「(発達段階的に)まだ早いんじゃない?」と思うような本でもいいんです。何年後かに意味がわかるかもしれない。今はすべてを理解することは難しいかもしれないけれどそこに何かの“種”が残ります。「なるほど、これがいいんだね」と受け止めてあげてほしいと思います。

― 確かに、親が決めてしまう場面は多い気がします。子どもに決めさせるのがよいのですね。

佐藤さん:全部買うとなると大変ですが(笑)、図書館なら多少「読めなくてもいいや」と気前よく借りられますね。親が無理のない範囲で、子どもの自己選択の機会を用意してあげる。それが「自調自考」の力を育む一歩になると思います。

「自分の気持ち」は天気でOK

― 渋幕の教育目標では「自調自考」では、自己認知の力も大事にされているそうですね。

佐藤さん:自己認知は渋幕の中でとても重視されていると感じました。私は最近注目されている「ソーシャル・エモーショナル・ラーニング(SEL)」のアプローチともつながると考えています。SELは、他者とつながる社会性やコミュニケーション力といった「ソーシャルスキル」と、自分が何を感じ、何を考えているのか、他者が何を思っているのかに気づく「エモーショナルスキル」、その両方の力を育てるものです。

特に渋幕では、このエモーショナルな部分、つまり自分の気持ちや考えに気づく力をじっくり育てています。SELについては『世界標準のSEL教育のすすめ「切りひらく力」を育む親子習慣:学力だけで幸せになれるのか?』(下向依梨/小学館)も参考になります。

― 自分の気持ちを言葉にするのは大人でも難しいときがあります。家庭ではどんなふうに関わると子どもが話しやすくなるのでしょう?

佐藤さん:子どもはまだ言葉が発達途中なので、天気に置き換えると表現しやすいでしょう。「今の気持ちを天気で表すとしたら?」と問いかけてみてください。「今日は晴れだった? 雨だった?」から始めると、そのうちに「今日は雨のち曇りだったな」など少しずつ表現も豊かになっていきます。

ポイントは「深追いしない」こと。「雨なの?何があったの?」と詮索せず、「雨の日もあるよね」と寄り添えば十分です。ぜひ親御さんも楽しんで一緒にやってみてください。「お母さんも今日は雨だったな、こんなことがあってね」と話してみると、子どもも安心して話せます。

家でのルールメイキングで社会とつながる練習を

― 社会と関わる力も「自調自考」につながるとうかがいました。そうした力はどんな場面で育てていけるのでしょうか?

佐藤さん:家庭での「ルールメイキング」を通して育てられると思います。ルールメイキングは、社会制度をどう作るか、民主的にどう関わるかといった力の土台になります。たとえば、「夕飯のときのルールを決めてみよう」と家族で話し合ってみる。「お父さん、ずっとスマホ見てるの気になるんだよね」なんて声が出たら、「じゃあ晩御飯は会話に集中する時間にしよう!」とみんなでポジティブなルールを作ります。

― 家庭の中でルールを決めるのはおもしろいですね。実際に取り入れるときのコツがあれば教えてください。

佐藤さん:決めたルールで1〜2か月取り組んでみて、必要なら見直せばいいんです。家族という小さなコミュニティの中で、自分の意見が反映されたり役割を果たしたりする経験が、社会性や責任感につながっていきます。

「主体性を育む学校」、見分けるポイントは?

授業見学は必須!

― 渋幕のように、主体的に学べる学校を選びたい場合、保護者はどんな視点で学校を見ればいいでしょうか?

佐藤さん:授業の様子を見てもらうのが一番わかりやすいと思います。子どもたちが自分の言葉で話せているか、楽しそうか、目が生き生きしているか。それが一番のヒントになります。先生が管理して進めている授業なのか、生徒たちが自分で考えて進めている授業なのか。後者のほうは、子どもが自由に対話したり意見を述べたりするので、最初は「大丈夫なの? 勉強してないのでは?」と不安に思われるかもしれません。でも、主体的に学んでいるからこそ、そういった姿勢になるのです。

保護者の方は、自分が受けてきた授業のイメージを前提として見るとびっくりするかもしれませんが、「子どもたちが自分たちで授業を進めている姿」を見られる学校は、とてもいい学校だと思います。自ら考える姿勢は勉強だけに適応されるものではなく、進路を考えるときも、「自分はどうしたいのか」という問いを自然に持てるようになります。

生徒の言葉に耳を傾けて

― 学校説明会などで生徒の姿を見るのも大切だと聞きました。どんなところを見たり、どんな言葉に耳を傾けたりするといいのでしょうか?

佐藤さん:生徒の話を聞いてみてください。渋幕でもそうですが、生徒が自然体で、自分の言葉で学校について語る姿が見られると、「この学校は主体性を育てているんだな」と感じます。その背景には、先生方の子どもたちの意見を聞く覚悟や信念があるはずです。

―最後に、学校選びに悩んでいる保護者の方々へメッセージをお願いします。

佐藤さん:子どもの小さな自己決定や自己認知の機会を積み重ねていきましょう。そして、学校を選ぶときも、偏差値や大学合格実績だけで判断するのではなく、子ども自身の「ここで学びたい」という気持ちを尊重してほしいです。こうした自己決定が自調自考の力をつける第一歩です。

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お話を聞いたのは

佐藤智(さとう とも) 教育ライター

両親ともに教員という家庭に育ち、教育の道を志す。横浜国立大学大学院教育学研究科修了。中学校・高校の教員免許を取得。出版社勤務を経て、ベネッセコーポレーション教育研究開発センターにて、学校情報を収集しながら教育情報誌の制作を行う。その後、独立し、ライティングや編集業務を担う株式会社レゾンクリエイト(http://raisoncreate.co.jp)を設立。全国1000人以上の教員へのヒアリング経験をもとに、現在は教育現場の情報をわかりやすく伝える教育ライターとして活動中。著書に『渋幕だけが知っている「勉強しなさい!」と言わなくても自分から学ぶ子どもになる3つの秘密』(飛鳥新社)、『SAPIXだから知っている頭のいい子が家でやっていること』『公立中高一貫校選び後悔しないための20のチェックポイント』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。

取材・文/黒澤真紀

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