「向社会的行動」って?【発達障害のある子どもがいきいき育つ「お手伝い療育」のすすめ】 お手伝いを通じて人への思いやりを身に付ける

この連載では、発達障害のある子どもの療育に長年携わってこられた言語聴覚士・社会福祉士の原 哲也先生が、お手伝いを通じて行う療育について紹介します。今回のテーマは社会や他者への思いやりがベースとなる「向社会的行動」についてです。

他者への思いやりにもとづく「向社会的行動」

皆さんは「向社会的行動」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 「向社会的行動」は、他者に何かしらの利益をもたらそうとして自発的に行う行動のことです。

例えば、人に何かを分け与える、人を援助する、人を慰めるといった、わかりやすく言えば「思いやり」にもとづく行動です。

例えば、重い荷物を持っている高齢者を見た青年が自発的に荷物を持ってあげるなどは、まさに「向社会的行動」です。親は、わが子にこのような「思いやりのある子に育ってほしい」と願うものです。

「向社会的行動」を獲得した子どもは好感度が高く、学力も高い

思いやりがある子に育ってほしいと親が願う背景には、子どもが幸せになるには思いやりがあることが必要だという考えがあるのではないでしょうか。

実際、ある研究によると、「向社会的行動」をする人は「魅力度や好意度を高く認知されたり、肯定的な印象を抱かれたりすることが確認された」と言います。思いやりのある子は、魅力があり、好感度も高いのです。

また『子どもの発達格差』(PHP新書)の中で、著者の森口佑介氏は、高い「向社会的行動」を示す子どもは攻撃性が低いと述べています。

さらに興味深いのは、向社会的行動の力と学力の関係です。5〜6歳の頃に「向社会的行動」ができる子どもは、同時期の学力が高く、9歳頃の学力も高いと言うのです。

思いやりと学力に何の関係があるの? とちょっと不思議に思いますが、これについて森口氏は「しばしば指摘されるのが、向社会的な子どもほど、友達や教師に人気があるため、多くの支援や教育資源を受け取れるという点です」と述べています。

向社会的行動をする子どもは攻撃性が低く、魅力的で、好感度が高く、そのために周囲の人からの支援を受けやすく、その結果学力も向上するというわけです。

この結果を見ると「幸せになるために思いやりのある子になってほしい」という親の願いは至極的を射ているのです。

参考:
「本邦における向社会的行動の効果に関する研究の動向 マイクロ・メゾ・マクロの三視点から」山本琢俟ら早稲田大学大学院教育学研究科紀要
・『子どもの発達格差 将来を左右する要因は何か』 森口佑介 著 (PHP新書)

「向社会的行動」を獲得するまでの4段階

向社会的行動の獲得までには、4段階あると言われます。

第1段階:自分と他者が未分化(生まれたばかり)

自他が未分化なので他の赤ちゃんが泣くと自分も泣くといったように、周囲の人の感情やムードが伝染します。これはその後の共感の種のようなものだと考えられます。

第2段階:自己中心的な共感が起こる(1歳前後)

「他者の苦痛や泣きを見たときに、眉をひそめるような表情をする」など、伝染とは違う反応をするようになります。

第3段階:他者を慰める(1歳過ぎ)

自分と他者が違う身体を持った存在であるということはわかるが、自分と他者が違う好みや欲求を持っていることには気づいていない時期です。

他の子どもが泣いているとき、その子の好みと無関係に、自分の好きなアンパンマンのぬいぐるみを渡すなどのように、自己中心性が抜けきれていない状態です。

第4段階:基本的向社会的行動獲得期(2歳~)

自分と他者の好みは違うことがわかってきて、周囲の人への同情や向社会的行動が生まれます。

向社会的行動を育む

ある研究によると、「向社会的行動」をとる人の傾向として「感情が豊かであり、言語を媒介にした周囲の人とのコミュニケーションが得意であり、外向的である」と言います。

だとすると、向社会的行動の力を育むためには、家庭で絵本を読んでもらったり、様々な事柄を親子で一緒に経験したりする中で、その場面場面での感情やことばを数多く経験することや、親子でコミュニケーションを交わす経験が大事であると言えそうです。そして、お手伝いも格好の経験のひとつです。

例えば、お料理のお手伝いです。家族が喜んでくれることを想像しながら親と一緒に料理をする、ことばを交わす、「卵が上手に割れたね」「おいしくできたね」とコミュニケーションを重ねる、そして、食卓に料理を並べ「〇〇ちゃんが作ったの? すごいなあ」「おいしいよこれ」と話しながら笑顔で食事をする。

お手伝いをしたら家族が喜んでくれたことのうれしさ、そして自分は「家族が喜ぶことをできるのだ」という誇らしい気持ち、それは「もっとやろう」「誰かが喜んでくれることをしよう」という気持ちに確実につながるはずです。

実際、海外の論文では、「子どもは褒められること、楽しみや、人の役に立つこと、お願いされることなどを理由としてお手伝いをしている」こと、そして「お手伝いをすると向社会的行動が育つことは明らか」だとされています。

ぜひどんどんお手伝いをしてもらって、子どもの向社会的行動の力を育みましょう。それは子どもを幸せな人にするはずです。

参考
「向社会的行動に影響する諸要因 共感性・社会的スキル・外向性」鈴木 隆子 
・「Happily Unhelpful: Infants’ Everyday Helping and its Connections to Early Prosocial Development」 2018 Stuart I. Hammond,

家庭内のゴミを拾うお手伝い

1歳からできる本当に簡単なお手伝いです。きょうだいがいれば一緒にやるのも士気が上がります。

対象年齢

1歳以上~

期待できる効果

・向社会性の向上
・手指機能の向上
・注意力の向上
・能動性の向上 

ゴミを拾ってゴミ袋に入れる

・家族一人ひとりがゴミ袋を持って同じ部屋でゴミを拾う。
・まず大人がゴミを拾ってゴミ袋に入れる様子を見せる。
・集めたゴミの量を競うのも良いでしょう。

ただし、「一番」にこだわりがある場合は競争にはせずに、集めたゴミを一つのゴミ袋に入れるようにします。

粘着テープ付きローラーを使う

・手指がまだ発達していない場合は、粘着テープ付きローラー(いわゆる「コロコロ」)を使います。
・粘着テープ付きローラーにたくさんゴミがくっつきそうな場所を予想して、ローラーでゴミを集めます。

ことばがけのコツ

・子どもの頑張りと感心したところを具体的に褒める。
・感謝の意を述べる

例:
「○○ちゃんがお兄ちゃんと一緒に広いお部屋のゴミを取ってくれました。ありがとう」 
「3歳だけど、ゴミあるかな~ってジロジロって探してくれました。ありがとう」
「広いお部屋だから大変だったけど頑張ってゴミを見つけてくれました」
「お母さん、お部屋がきれいになってうれしい」
「お父さん、皆がお手伝いしてくれて、助かった。ありがとう」

発達障害の特性のある子の場合の留意点

発達障害の特性のある子の場合、ゴミ拾いの場所が曖昧だと混乱してしまうことがあります。ゴミを拾う範囲がわかるように、ゴミ拾いをしてもらう場所をテープで囲むなどするとわかりやすいでしょう。

また、テレビがついていたり音楽がかかっていたりすると、映像や音が気になってゴミ拾いから気が逸れてしまうことがあります。集中しやすい環境づくりを心がけましょう。

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この記事を書いたのは…

原 哲也 言語聴覚士・社会福祉士

一般社団法人 WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事。明治学院大学社会学部社会福祉学科卒業、国立身体障害者リハビリテーション学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダのブリティッシュコロンビア州の障害者グループホーム、東京都文京区の障害者施設職員、長野県の信濃医療福祉センター・リハビリテーション部での勤務の後、『発達障害のある子の家族を幸せにする』ことを志に、一般社団法人 WAKUWAKU PROJECT JAPANを長野県諏訪市に創設。発達障害のある子のプライベートレッスンやワークショップ、保育士や教諭を対象にした講座を運営している。著書に『発達障害のある子と家族が幸せになる方法』(学苑社)、『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)がある。

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