ちょちょろ動き回ってじっとしていない子は、追いかけまわすお母さんも大変ですね。小さいころは「元気な子」と受け止めてもらえても、幼稚園や小学校などの集団生活に入ると、「お友達に合わせることができるのかしら?」と心配になります。そこで、じっとできない理由や、その対処法などについて、作業療法士の木村順先生にお話を伺いました。
目次
そもそも、ADHDってどんな子供のこと?
幼児の頃は「活発」でも、集団生活になじめないことも
ひとところにじっとしていられず、落ち着きなく動き回る子を見て、1つの遊びに集中できずに次々と興味が変わることを心配するお母さんもいます。集中力のなさは学習態度などにもつながるため、学校生活の中で、席についていられるのかしら?という心配も生まれます。いたずらばかりしていたり、ユニークで陽気な一面もあるので、幼稚園や保育園では「元気」や「活発」と受け入れられることも多いのですが、小学校に入る頃には「落ち着きがない」「集中力がない」と注意され、注意欠陥多動性障害(ADHD)が疑われることもあります。
集中力がない(転導性)ように見えるいっぽうで、過度に集中する(過集中)一面も
一方で、好きな遊びにはまると、呼びかけても声が聞こえないくらい、その遊びに熱中してしまうこともあります。過度に集中してしまって、周囲が目に入らなくなるようになるわけです。集中力は持続することだけでなく、適度に切り替えができることが大切なのですが、そこが苦手なのです。
保護者としては、家の中を走りまわったり、ぴょんぴょん飛び回る子がいるとホコリもたつし、少しは落ち着いてほしいと思います。また、学校では、じっくり考えることが苦手だったり、衝動的に行動してしまうことがあり、友達とトラブルになることもあります。
ADHDの子供にはどんな症状が出る?原因や対応は?
周囲の刺激の取捨選択が苦手で混乱している
脳には一度にいろいろな感覚情報が届きます。教室の椅子に座っていると、廊下を通る人の足音が聞こえ、給食室から食べ物の匂いがして、黒板の横には楽しそうなポスターが掲示され、着てきた洋服のネックの締め付けが苦しいこともあります。私たちの脳は、無意識のうちに、必要な情報だけをピックアップして、不要な情報はシャットアウトするような、情報の交通整理をしています。
適切な行動ができるよう、環境の刺激を減らすことが有効
しかし、発達障害のある子のなかには、脳に入ってくる情報の取捨選択がうまくできずに混乱している場合があります。教室の例でいうと、青信号を灯らせて脳に伝えるべき情報は、教壇に立つ先生の話や、黒板の文字を読み取ることで、不必要なその他の情報には、赤信号を灯らせてシャットダウンすべきです。しかし、その赤信号が灯らず、たくさんの情報が届くために、混乱状態が生じます。その結果、その場・その時に見合った「適応行動」を取ることができなくなるわけです。
この場合、刺激を減らすように環境に配慮することも効果があがります。
ADHDの幼児を落ち着かせるための対応は?
「脳のブレーキをかける機能が発揮できていない」ことを理解する
脳の発達に偏りがある子たちは、覚醒レベルの調整が苦手なこともあります。本人が自覚できる眠たさとは関わりなく、「覚醒」のレベルが下がりはじめると、子どもは一見ハイテンションになることがあります。子どもを寝かしつけようとして、眠いはずなのに、妙にハイテンションになって騒ぐ子を見て、「眠たいなら大人しく寝たらいいのに」と思ったことのあるお母さんも多いでしょう。これは、脳のブレーキをかける機能が発揮できず、収拾がつかなくなっている状態です。
多動の子を落ち着かせたいときは、2つの方法があります。
覚醒レベルが上がりすぎて多動になっているなら、抱っこでゆらゆらしたり、好きな遊びに集中させるなどしてクールダウンを。
覚醒レベルが低下してきている場合は、大きく体を使う遊びをしたり、冷たい刺激などを入れて覚醒を上げることが大切です。
あちこち走り回ったり、意味もなく飛び跳ねる「多動」行動はなぜ起こるの?
足りない刺激を補う「自己刺激行動」
さらに、バランス感覚の回路が脳の中でうまく働かないと、姿勢の維持や調整がうまくいかなくなります。そして、感覚の不足分を補う「自己刺激行動」が出やすくなります。自己刺激行動とは、絶えずあちこちを走り回りじっとしていないようすや、意味もなく飛び跳ねたり、その場でクルクル回って遊ぶようす、窓枠や棚の上など、高いところに登りたがるなどの行動です。それが、落ち着きのなさや、多動として現れ、適応能力を下げます。
眠くて頭がぼんやりした時に、自分の頬をパチパチ叩いて目を覚ますのと同じで、バランス感覚がぼんやりしているのは不快なので、刺激を入れているわけです。子どもにとっては飛んだり、跳ねたりしているのは快適で、じっとして刺激が入ってこない状態は苦痛なのです。
ADHDの子供に有効な治療法や接し方は?
大きな揺れ刺激でバランス感覚を働かせるトランポリン
覚醒が低くなっていたり、バランス感覚の刺激不足を感じる子には、バランス感覚をフルに使う遊びを取り入れるといいでしょう。トランポリンは、バランス感覚に刺激を与えるのにぴったり。体の中心軸が取りやすくなり、姿勢の崩れの改善にもつながります。
ランダムに跳ぶことでバランス感覚が活性化される
子どもだけでジャンプさせると、自分ができる範囲の動きで、揺れも想像できてしまいます。大人が介助して、本人が自力で跳ぶ高さよりも、高く跳ばしてあげましょう。上下の揺れ刺激が大きいほど、バランス感覚がより働きます。また、数を数えながら、ランダムに高く跳ばすのもいいですね。単調なリズムにならずに、大きく跳んだり小さく跳んだりした方が、バランス感覚を活性化されます。その結果、自己刺激行動が減ります。
※大人は足を広げたり、片足を上げるなど、腰に負担をかけないように注意してください。
ADHDの幼児には公園遊びも有効
公園遊びにはバランス感覚を使うものが多い
公園には、ブランコやバネ馬、シーソーなど、バランス感覚を使って遊べる遊具がいろいろあります。揺れ遊びを怖がる子には無理強いしないほうがいいですが、最初は抱っこでブランコにのる、小さな揺れからチャレンジするなど、少しずつステップアップして、遊べるようになるといいですね。
じっとできる落ち着いた子にしたいなら、図書館など静かな場所に連れていく方がいい?と思いがちですが、実は体をめいっぱい動かせる公園で遊ぶのがおすすめ。脳をしっかり覚醒させて、バランス感覚の反応性を高めることで、落ち着いて過ごすことができるようになります。
学校に登校する前に、トランポリンや公園のブランコで大きく揺れて揺れ刺激をたくさん感じておくと、午前中いっぱいくらいの授業に集中できるようになるでしょう。
※ブランコに乗るときは、親指と他の4本の指が向かい合って、しっかり鎖を握っていることを確認しましょう。
お話を伺ったのは…
木村 順先生
作業療法士(OT)。1957年生まれ。日本福祉大学卒業後、金沢大学色湯技術短期大学部(現在、金沢大学保健学科)作業療法学科にて資格取得。東京都足立区の「うめだ・あけぼの学園」で臨床経験を積み、2002年3月に退職。2005「療育塾ドリームタイム」を立ち上げ、発達につまずきのある子どもの保護者の相談や療育アドバイスを行う。保育・教育者向けの講演会も多い。著書に『育てにくい子にはわけがある』(大月書店)『小学校で困ることを減らす親子遊び10』(小学館)など。二女一男の父でもある。
『発達障害の子を理解して上手に育てる本 幼児期編』
ためし読みはこちら
文/江頭恵子 イラスト/高野真由美