【発達障害の基礎知識】ASD(自閉スペクトラム症)・ADHD(注意欠如/多動症)の子の特性とは?

発達障害とは、生まれつきの脳の機能障害であり、はっきりとした知的な遅れはないものの、発達のかたよりや変わった特性があります。それを非定型発達といいます。非定型発達があると、コミュニケーションの障害や、行為機能(表出行動)の障害、認知機能の偏りやゆがみがあらわれやすくなります。その結果、いわゆる「気になる行動」や「困った行動」が増えてしまいます。

 発達障害には複数のタイプがあり、特性を合わせもつことが多い

発達障害には複数のタイプがあり、それぞれの特性から診断基準があります。代表的なのはASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如/多動症)、LD(学習障害)です。これらのタイプを単独で抱える場合もありますが、特性を併せ持って、複数のタイプを抱えるケースも多くあります。つまりASDの特性が濃いめだけど、ADHDの特性も少し持っているというようなものです。

 

発達障害は専門の医療機関にて、問診やテスト、脳波の検査などを通して、総合的に判断され診断されます。決して自己診断できるものではありませんが、ここでは、現在、医師たちが診断基準に使っているDSM-5を元に、ASDADHDの子どもによく見られる様子をリストアップ。お子さんやお友達などのようすと照合してみてください。もし、当てはまる項目がとても多い場合は、専門家に相談することをおすすめします。

 ASD(自閉症スペクトラム)の子どもによく見られる様子

コミュニケーションの特性

愛着関係が深い保護者に対して、甘えてこなかったり、その存在を無視するような様子を見られるなど、コミュニケーションにゆがみが見られます。

 1 社会的・情緒的な相互関係の障害

家族や友達がそばにいなくても気にすることなく、仲間に入ろうともしないなど、いわゆる社会性が欠けていたり、独特のコミュニケーションを取ろうとしたりします。

  • お母さんやお父さんがいなくても平気。
  • 遊んでも喜ばない。
  • 困っても親の助けを求めようとしない。
  • やってほしいことがあると、人の手をひきやってもらう(クレーン現象)。
  • 人を物のように扱う。
  • 友達や大人と一緒に喜んだり、悲しんだり、共感したりしない。
  • 声かけや誘いに応じようとしない。

 

2 他者との交流に用いられる非言語的コミュニケーションの障害

表情や目線、姿勢など(言葉以外の情報をもとに相手の心情を読み取る「ノンバーバルコミュニケーション」)で、相手の気持ちを推し量ることが難しいことが多いです。なんでも言葉で伝えてもらわないとわからず、いわゆる「空気が読めない」と言われる状態に。

  • 話しかけても目を見て視線をあわせようとしないなど、視線を用いてコミュニケーションを取ろうとしない
  • 「来て〜」と手を振って呼んだり、「見て〜」と物を差し出したり、指差して示すなど、身振り・ジェスチャーを使って伝えようとしない。
  • 自分が取りたいものを親の手を使って取らせようとする「クレーン現象」のような独特の身振りを使用する。
  • 顔の表情がない。

 

3 年齢相応の対人関係性の発達や維持の障害

2、3歳くらいになり、幼稚園や保育所などで集団生活を送るようになっても、友達の輪に入ることができなかったり、仲間と行動をともにしたり、仲良くすることが難しいケースがよくあります。

  •  友達がみんなで遊んでいる様子を見ても、一緒に入ってこようとしない。
  • 友達を選んで手を繋いだり、遊びに誘ったりしない。
  • 友達と車ごっこやままごとをして楽しもうとしない。
  • 友達が怒ったり泣いたりしても、その理由を理解することができない。

 行動の特性

コミュニケーションの障害と合わせて見られるのが、いわゆる常同行動というもの。特定のものやことにこだわりを持ち、それを繰り返し行うなどの様子が見られます。

 1 常道的で反復的な運動動作や物体の使用、あるいは話し方

意味もなく同じ動きを繰り返したり話したりします。静止してもやめられず、気持ちがパニックになるなど、コントロールができない時ほど、その状態が現れやすくなります。

  • 手をヒラヒラ。
  • 線を追視する。
  • 部屋を行ったり来たり。
  • おもちゃならべ。
  • 物を握っている。
  • 紙叩き。
  • 自動ドアの開閉や扇風機を見る。
  • 質問に対してオウム返し(エコラリア)。
  • CMやテレビのセリフ再現。
  • 独特な言い回し。

 

2 同一性へのこだわり、日常動作への融通のきかない執着、言語・非言語上の儀式的な行動パターン

自分ならではの独特のこだわりがあり、そのルールが守られないと落ち着かなかったり、パニックになることがあります。 

  • 物を置く場所や向き、物の配列順序、着席の場所、ドアの入り方、あいさつの仕方、道順、偏食、好きな服しか着ないなどの自己流のルールがある。
  • これらの手順などを変えることが難しく、変化が生じた時は極度に興奮したり不安になる。
  • 同一性を保つためにやり直す。
  •  

3 集中度・焦点づけが異常に強くて限定的であり、固定された興味がある

限定された自分の興味があるものに対して、同じことをやり続けたり、極端にすぐれた記憶力を発揮したりして周囲を驚かせることがあります。

  •  描画(特定の絵、文字、商標、線路などを描き続ける)。
  • アルファベットや数字の形への興味。
  • 駅のアナウンスを繰り返す。
  • 路線を覚える。
  • 氏名・住所・誕生日・血液型などを聞きたがる。

4 感覚入力に対する敏感性あるいは鈍感性、あるいは感覚に関する環境に対する普通以上の関心

視覚や聴覚、触覚、嗅覚、味覚、バランス感覚などの感覚の感じ方が定型発達の人より鋭すぎたりゆがんでいたりで、辛いことがあります。逆に感覚が鈍すぎるがために大切な情報を得ることができないケースも。たとえば、真冬でも寒さを感じなくて風邪をひくなど、体調不良につながることがあります。

  •  聴覚過敏。
  • 触覚過敏。
  • 視覚過敏。
  • 感覚の鈍麻(頭部打ち、ひじ打ち、かかと打ち)。
  • 強い興味(特定のものの匂い、床をなめる、木製物をかじる)。
  • 色または形への興味。
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ADHDの子どもによく見られる様子

不注意や多動性、衝動性による行動が持続的に起こり、発達の妨げになっている。不注意・多動性・衝動性の症状のうち、いくつかが12歳になる前からあり、家庭、学校、友人といる場など2つ以上の状況で存在していること。これらの症状が、社会的、学業的機能を損なわせている、または質を低下させている明確な証拠がある場合、ADHDと診断されます。

 1 不注意の状態

ADHDのうち多動性や衝動性は年齢とともに弱くなる傾向にありますが、不注意は思春期や大人になっても持続し、それが学業や仕事のミスにつながることがあります。

  •  活動中に注意深くできない。不注意な間違いをする。
  • 課題や遊び活動中に、注意を持続することが困難である。
  • 話しかけられたとき聞いていないように見える。
  • しばしば指示に従えず、課題をやり遂げることができない。
  • 活動を順序だてることがしばしば困難である。
  • 活動的努力の持続を要する課題を避ける、嫌う。
  • 課題や活動に必要なものをしばしばなくしてしまう。
  • しばしば外的な刺激によって、すぐ気が散ってしまう。
  • しばしば日々の活動で忘れっぽい。

*診断には上記のうち6つが少なくとも6ヶ月以上持続すること  

2 多動性および衝動性の状態

いわゆる「じっとできない」「落ち着きがない」といわれる状態。幼児期など小さい頃ほど顕著に現れ、小学校の高学年になると落ち着いてくる子が多いようです。  

  • 手足をそわそわ動かしたりトントン叩いたりもじもじする。
  • 席についていることが求められる場面で席を離れる。
  • 不適切な状況で走り回ったり、高いところへ登ったりする。
  • しずかに遊んだり余暇活動につくことができない。まるでエンジンで動かされているように行動する。
  • しばしばしゃべりすぎる。
  • 質問が終わる前に出し抜いて答え始めてしまう。
  • 自分の順番を待つことが困難である。
  • しばしば他人を妨害し邪魔をする。

*診断には上記のうち6つが少なくとも6ヶ月以上持続すること    診断基準にはありませんが、ADHDの特徴の1つに継次処理の難しさがあります。 継次処理とは、物事を順序だてて手順を考えて、その手順通りに行うこと。学生時代は、明日の時間割を見て、教科書やノート、体育着などを準備することが難しい。図工の時間に、手順通りに工作ができず、時間までに作品が完成しないなどのようすが目立ちます。 社会人になると、仕事の締め切りを守れなくなる。不注意、衝動性が組み合わさって、作業をやりきれないことが多くなります。子どもの頃は「落ち着きがない」「元気がいい」くらいに思われていた子が、成人期になり、どうしても仕事がうまくいかなくて、診断を受けてるケースもよくあります。

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*「発達障害の基礎知識」帝京平成大学健康メディカル学部作業療法学科
作業療法士 八重樫貴之氏 2018年11月講演会資料を参考にしました。

記事監修

岩浪 明|精神科医

昭和大学医学部精神医学講座主任教授(医学博士)。発達障害の臨床研究などを主な研究分野としている。東京大学医学部卒業後、都立松沢病院などで臨床経験を積み、東京大学医学部精神医学教室助教授、埼玉医科大学准教授などを経て、2012年より現職。2015年より昭和大学附属烏山病院長を兼任、ADHD専門外来を担当。著書に、ベストセラーとなった『発達障害』(文春新書)など多数。

 構成/江頭恵子

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