私たちは視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚などのいろいろな感覚を感じています。発達の凸凹のある子どもたちは、脳内伝達物質の出方が多すぎたり少なすぎたりして、感じる反応速度や程度が違うことがあります。それを、感覚が過敏すぎたり、鈍すぎたりして 人と違う感じ方をする「感覚過敏」と分類します。
「感覚過敏」だと、どんな苦労があるのか、周囲はどんなサポートをしてあげたらいいのか、言語聴覚士の中川信子先生に伺いました。
発達障害のひとつ「感覚過敏」はどんな症状?
発達の凹凸による「育てにくさ」が周囲に理解されないことも
発達に凸凹のある子どもたちは、感覚の感じ方が、他の人たちと違うことがあり、それが「育てにくさ」につながったり、周囲に誤解される原因になったりします。
具体的にあげるとキリがないのですが、光がまぶしすぎる、ごちゃごちゃした中で大切な情報を取捨選択ができない(視覚)。関係ない音が耳に入り先生の話が聞けない、苦手な音に恐怖を感じる(聴覚)、トイレの前を通れない(嗅覚)などです。偏食も味覚や口の中の触覚が過敏で、どうしても食べられないことがあります。
マカロニサラダを食べると、まるで砂を食べているようなジャリジャリと嫌な感覚に。
掃除機の音が爆音のように頭に鳴り響き、耳を塞がないと怖くてその場にいられません。
握手はたくさんのナメクジがてにまとわりついたような感覚で気持ち悪くなります。
感覚過敏や感覚鈍磨がある子の特徴は?
抱っこ、散髪や歯磨きを嫌がる傾向が
これを「感覚過敏」または「知覚過敏」と言います。発達障害のある子ども(や大人)は、多くがこの感覚過敏(や鈍磨)があるため、抱っこを嫌がったり、散髪や歯磨き、耳掃除などを嫌がったりします。抱っこで背中を触られるのがものすごく嫌いだったり、髪の毛を触られることに恐怖を感じたりするわけです。
自分だけが感じ方が違うことに気づかないことが多い
それを知らないと「わがまま」や「怠けている」と感じ、嫌がることを繰り返しやらせたり、慣れさせようとしたりします。しかし、それはかわいそう。生理的に受け付けないことなので、例えば、花粉症の人に「くしゃみを我慢しなさい」と言っているようなものです。
何より辛いのは、本人にとっては生まれ持った感覚なので、それが他の人と違うとわからないことです。だから、他の人には平気でできていることが、自分にはできないと自己肯定感をすり減らすことにもつながるのです。

「感覚過敏」をまず理解し、見守る姿勢を
私たちができることは、まずはそういう感覚をもつ子がいると理解することです。極端に嫌がるときには、その子の脳の特性がなせる感覚が、暴走しているのかもしれません。そういう目で見守ってあげてほしいです。
感覚過敏(や鈍磨)は成長とともに弱くなることもありますし、逆に強くなることもあります。偏食などは諦めずに食べられるものを増やす工夫などをしていきたいところですが、基本は無理強いはせず、耳栓をするとか、着心地のよい服を着るなど、周囲の環境や物を変えることで対処しましょう。


中川信子先生
言語聴覚士。「子どもの発達支援を考えるSTの会」代表。「サポート狛江」代表。東京都狛江市を中心に1歳6か月健診、3歳児健診後のことばの相談や、就学前の時期に発達の遅れなどについて相談を受けている。『発達障害とことばの相談』(小学館)など著書多数。http://www.soratomo.jp
発達障害の子に必要なのは、本質的な特性を理解すること。そして、それを知って寄り添っていくことで、その子のもって生まれた能力を生かす道が開けます。発達障害のある子どもをいかにサポートしていくかを、専門家の具体的な援助の手立てを含めて紹介するとともに、就労支援の情報までを網羅しました。
幼児から思春期までのかかわり方を子どもの発達段階に沿った構成で、発達障害の子の子育てに生かせる知恵が詰まった、今日から役に立つ1冊です。同じ子育てに悩むママたちの声も収録しています。発達障害の子に寄りそう子育てバイブルです。
本体1,200円+税(小学館)
取材・文/江頭恵子 イラスト/海谷泰水
