「発達障害」「グレーゾーン」という言葉をよく耳にするようになりましたが、そもそも、どういう子のことを指すのでしょうか?わが子のことはもちろん、周囲のお友達のようすでも「もしかして」と気になることがあるかもしれません。そこで、その位置付けについて作業療法士の木村順先生に伺いました。
目次
そもそも発達障害とは?グレーゾーンってどういうこと?
知的な遅れはないけれど適応力につまずきがあること
発達障害とは知的な遅れはないけれど、脳の発達に偏りがあるのが特徴です。例えば、頭はよいのに空気を読むのが苦手、アイディアやひらめきは豊かなのに整理整頓が苦手、文字や数字は得意なのに運動が極端に苦手などです。なかでも「その時、その場、その状況に合わせていく力=適応力」につまずきある子が多いです。苦手なところが気になりがちですが、得意なこともある特徴を理解してあげたいですね。診断は専門家による検査を受けることが必要ですが、その「程度」には個人差があります。白黒はっきりつけがたいところに発達の状態が横たわっているので「グレーゾーン」と呼ばれることもあります。
エリア分けで解説!発達障害の程度をグレーの濃さで理解
発達障害と診断がついた子と、いわゆる健常児の間には、明らかな区切りがあるわけではありません。どちらにも重なるグレーゾーンの子もいて、障害があるとは言えないけれど、「苦手」や「困った」を抱えて、苦労していることもあります。下図はグレーゾーンの中のグレーの濃さをエリア分けしたものです。
エリア0 いわゆる健常児
一斉指導でも理解できる従来の保育・教育が通用する子。例えば、ひとことで指示がわかる。ルールが守れる。集中力がある。相手の気持ちがわかるなどの子です。ある意味では、指導する先生の力量の足りなさを補ってくれる力(その時、その場、その状況に合わせる力=適応力)が豊かに備わっている子ども達です。
エリア1 やや不器用な子
診断名はつかないけれど、不器用さやおっちょこちょいさを感じさせる子。性格や個性と捉えられ、丁寧に接すれば適応できる。
エリア2 集団行動が困難な子
診断はつかないけど、ルールを守れなかったり対人関係でトラブルがあるなど、集団行動からはみだしやすい子。
エリア3 「発達障害」の診断がつく子
「発達障害」(アスペルガー症候群、注意欠陥多動性障害、学習障害など)の診断名がつく子。文部科学省調査(2012年)の推定で通常学級の6〜7%。
エリア4 「知的障害」の診断がつく子
脳性麻痺やダウン症、知的障害などの診断がついている子
わが子がどのあたりに位置するのかを、把握していくと、これからの育てていく方向が見えやすくなります。専門家に相談する際に、わが子がこの図のどの辺に位置するのかを教えてもらうといいでしょう。
「発達障害」の診断にはどんなタイプがあるの?
適応能力のつまずき別のタイプ分け
発達障害やグレーゾーンといわれる子どもたちは、じっとできない、人の気持ちがわかりにくい、忘れ物が多い、こだわりが強いなど、いろいろな特性があります。それは「適応能力」につまずきがあるということ。下図は適応能力を4つにわけ、つまずきがどんな診断名につながりやすいかを示したものです。円が重なっているのは、つまずきがひとりの子に混在して現れやすいためです。
例えば、空気が読めない子が不器用さを合わせもったり、多動な子が特定の学習が極端に苦手なことなどがあります。
行動スキルのづまずき
>>注意欠陥多動性障害(ADHD)
注意の集中・持続力にかけていて、衝動的に行動したり、じっくり考えることが苦手。その分、行動力はあり、またひらめきは豊かで発想が豊かな子ども達でもあります。
運動スキルのつまずき
>>発達性協調運動障害
手足や体など、全身を手順よく動かすのが苦手。手先が不器用。結果的に、自信をなくしやすかったり、チャレンジせずにはじめからあきらめてしまうことを誤学習しやすい子どもたちです。
コミュニケーションスキルのつまずき
>>アスペルガー症候群
相手の意図や気持ちを察する力が弱く、自分の思いを相手に伝えることも難しい。興味や関心の幅が狭いことと、記憶力に長けていることから、マニアックな世界を持っている子どもが多くいます。
基礎学力スキルのつまずき
>>学習障害(LD)
読み書き、計算、聞く、語るなど、基礎学力を支える一部、もしくはいくつかの柱につまずきがある。協調運動障害と同様に、的外れの学習努力を強いられることで、該当教科が苦手になったり、学ぶこと自体の意欲の低下が生じやすい子ども達です。
発達の特性への理解が子どもを伸ばす
知的な遅れがないにもかかわらず、適応力が低いと、「なまけているの?」「わざとやっているの?」「よくわからない子」などと、問題児扱いされやすくなります。特性を理解してもらえず、しかられ続けると、自己有能感をそぎ落とされ、周囲との共感性も育ちにくくなります。その結果、不登校や引きこもり、自暴自棄な行動に出るなどの二次障害に結びつくことがあります。
わが子の特が、円のどのあたりに位置するかを把握しておくことで、子どものつまずきも理解しやすくなります。
「もしかしてうちの子、発達障害?」と思ったら
園の先生や専門家に相談しよう
子育てはひとりではうまくいきません。特に発達につまずきのある子どもの子育ては、親の力だけでは、どんな方法がよいのか、何があっているのか判断が難しいもの。また、「自分の子育ては間違っているのでは?」と、自信を失いやすくなるものです。
周囲を見回せば、子どもの理解者はたくさんいます。園の先生をはじめ、医療機関や療育の専門家を探してみてください。頼れる専門家に出会えれば、親自身も励まされ、自身を回復できます。
相談時には「気になることリスト」を持参
1)まずわが子の気になることを項目別に分類
「健康」「ことば」「知能・認知」「身辺自立」「情緒・感情」「全身運動」「コミュニケーション・社会性」「手先の器用さ」「お行儀」「生活リズム」などの項目に分けて考えると整理しやすい。
2)「気になること」に順位をつけ、上位3つくらいから相談に乗ってもらったり、取り組みをはじめよう。
専門家に質問したいポイント
1)なぜ◯◯◯ができないのか
2)家庭でできる対策は?
3)将来的な見通し
うちの子、発達障害かも?と思ったときの相談先
発達障害がある子どもに関する悩みを、親だけで乗り越えるのは大変です。気になることは、身近な専門家に相談しましょう。わが子を託せるよき指導者を見つけて、連携することが大切です。
幼稚園や保育園
地域の子育て支援や家庭支援も園の業務のひとつ。地域のソーシャルワーカー的な役割として、地域の医療機関なども教えてくれる。
保健所や保健センター
1歳半健診や3歳児健診などの、定期健診時はもちろん、それ以外でも子どものようすで気になることを相談できる。
専門医・療育士
児童精神科や神経科、言語聴覚士、作業療法士、発達臨床心理士など、子どもの発達障害に詳しい専門家に相談してみよう。
発達障害者支援センター
各自治体にある窓口。発達障害のある子とその家族が、地域で安心して暮らせるように支援してくれる。通える療育施設を紹介してくれることも。
全国の発達障害者支援センターの場所は
お話を伺ったのは…
木村順先生
作業療法士(OT)。1957年生まれ。日本福祉大学卒業後、金沢大学色湯技術短期大学部(現在、金沢大学保健学科)作業療法学科にて資格取得。東京都足立区の「うめだ・あけぼの学園」で臨床経験を積み、2002年3月に退職。2005「療育塾ドリームタイム」を立ち上げ、発達につまずきのある子どもの保護者の相談や療育アドバイスを行う。保育・教育者向けの講演会も多い。著書に『育てにくい子にはわけがある』(大月書店)『小学校で困ることを減らす親子遊び10』(小学館)など。二女一男の父でもある。
この本のためし読みはこちら
文/江頭恵子 イラスト/高野真由美