めざましく成長していく1歳児から3歳児の子どもたち。 あれもこれも覚えさせたい!というママ・パパもいますが、 「1~3歳の今、大事なこと」のツボはしっかり押さえておきたいもの。 長年、子どもの成長をていねいに見てきた保育士の井桁容子先生に、発達の目安のポイントや、心に留めておきたい親子のコミュニケーションのお話をお伺いしました。
目次
発達には個人差が 人とくらべないで
現代のママ・パパは「人と同じようにできる」ことをひどく気にしています。ママ・パパ自身もそう言われて、育ったのでしょう。でも、子どもは一直線に発達していくのではありません。好きだったのに嫌いになる、やらなかったのに1年後に急にやりだすなど、子どもの発達にはそれぞれ「ゆらぎ」があるもの。誰かとくらべて「できる・できない」に一喜一憂してダメ出ししていると、目の前の「わが子の良さ」を見誤ります。親が気づかないと、良さを伸ばしてあげることはできません。どうかくらべないで、自分の子の良いところをたくさん見つけましょう。
3歳ごろまでは 感じるアンテナを育てて
3歳ごろまでは生きる意欲・考えて学ぶ意欲・人と関わる楽しさなど生きる土台を作る時期です。土台作りは、自分の興味や好奇心で行動して五感でとらえた感覚体験と、ママ・パパや身近な大人が共感してくれるという信頼感が不可欠です。大人は「こうしなさい」「〇〇でしょ」と要領の良いやり方を教え込もうとしますが、大切なのは、数々の失敗も含めて、自分でやって自分で感じた経験の蓄えです。自分も相手も生かしながら社会で活躍できる人になるのは、感覚のアンテナでいろいろ感じて、大人にわかってもらえたという経験を重ねた子どもです。
個性を大事にしながら 別のおもしろさも紹介して
次のページから「発達のめやす」がありますが、これは多くの子どものデータから作られた、だいたいのめやすと受け止めて。一人ひとりには個人差も個性もあります。物のしくみに興味をもつ子、人を見ている子、体を動かしたい子、いろいろです。自分の子どもがどんなことが好きなのかを知って、親もその世界に関心を寄せてみましょう。その一方で、別のおもしろい世界を紹介するのも大人の役割です。動くのが好きな子なら、時には静かに遊んだり、抱っこしてお話ししたり。さまざまな経験から、子どもが見つけた「好き」を応援していけるといいですね。
1歳、2歳、3歳「運動」の発達チェックリスト
いろいろな運動ができるようになるのは 脳と神経の発達のおかげですが、本人の意欲と、 喜んでサポートする大人がいる環境も大切です。どんな環境を用意しているか振り返ってみて。
1歳の「運動」発達のめやす
-
つかまって立ち始める
-
親指と人差し指で小さい物をつまむ
-
よちよち歩く〜上手に歩く
-
積み木を2~4個積む
-
クレヨンを持ってなぐり書きをする
-
手をつないで階段を下りる
2歳の「運動」発達のめやす
-
積み木を積んだり並べたりする
-
上手投げでボールを投げる
-
両足でジャンプする
-
クレヨンで丸を書く
-
服を脱ぐ
-
小走りする
3歳の「運動」発達のめやす
-
瞬間的に片足立ちができる
-
積み木で作りたいものを作る
-
足を交互に出して階段を上る
-
三輪車に乗る
-
大きなボタンをかける
いろいろな動きをして遊ぶことで体幹を鍛えよう
体の発達は「歩く」ことに目が行きますが、ふだんさまざまな動きをして体幹を鍛え、バランス感覚を育てることも大事です。小さい子におとなしく椅子に座る練習をさせようとしても、運動して体幹を鍛えないと安定して座れません。また平坦な道ばかり歩いていては、ひざがうまく使えず、階段は平気でも下り坂が苦手になることも。 歩きが安定してきたら、デコボコ道や坂道も意識しましょう。くぐる、またぐ、よけるなどいろいろな動きも経験したいですね。少し意識して、普段の生活の中で経験の機会を見つけましょう。
豆腐のつまみ方で 手指の発達をチェック
子どもの食べ方を見ると、手指の発達段階や子どもの工夫が発見できます。離乳食なら、味噌汁の豆腐を大きめに切っておきます。豆腐をお椀から皿に出してあげたら、お子さんはどんな食べ方をするでしょうか? 最初は手のひらでつかんでつぶれたものを口に押し込みます。親指と人差し指が単独で動かせるようになると、指でつまんで口に入れるようになります。豆腐をつぶさないように力を調節することを覚えるのです。つぶすのが好きなことに気づいたら、粘土遊びに誘ってあげましょう。
1歳3ヶ月のAちゃんの「行きたい!」エピソード
1歳3か月のAちゃんは、お腹をつけずにハイハイができるようになったので、初めて外遊びに出られるテラスに来ました。私たちが「どうするのかな?」と見ていると、一直線に砂場へ。枠を乗り越えて入って、満面の笑みです! 動くよりも見るのが好きなAちゃんは、部屋の中からずっと砂場を見ていて「どんなところかなあ」と想像していたのでしょう。もし大人が「ほら、砂場よ」と先に連れてきたら、この笑みは出なかったはず。「この子はどこに行くのだろう?」と子どもからの発信を待って、「ここだったのね!」と発見するのは楽しいものです。
1歳、2歳、3歳「心」の発達チェックリスト
心の成長は見えにくいので、いつまでも赤ちゃん 扱いしがちですが、実際はしっかり見て感じています。「何を感じているの?」と同じ目線で接すると、育児がもっと楽しくなります。
1歳の「心」発達のめやす
-
「ちょうだい」「どうぞ」と やりとり遊びをする
-
人の表情を読む
-
身近な人のまねをしようとする
-
指差しや身振りでほしいものを示す
-
好奇心のままに探索する
-
イヤイヤする
2歳の「心」発達のめやす
-
自分の意思を主張する
-
「自分のもの」にこだわる
-
見立て遊びが始まる(箱や車や電話に見立てて遊ぶことを始めます)
-
「大きい・小さい」がわかるようになる
3歳の「心」発達のめやす
-
感情が複雑になり「恥ずかしさ」 「誇らしさ」が芽生える積み木で作りたいものを作る
-
先の見通しが立ち、 約束を理解し始める
-
友だちに関心を持つ
-
場面に応じて行動を 調節し始める
親が「教える」のではなく 一緒に感じよう
子どもは、自分がやっていることを身近な大人がどう見ているか、必ず知りたがります。「ねえ、見て」とママやパパに話しかけたとき、喜んでもらえたら「もっとやろう」と意欲が育ちます。 自分を認め、一緒に喜んでくれる大人がいると、「自分はわかってもらえる」「感じたことを表現していいんだ」という、心の土台になる基本的信頼感が育ちます。もし、人に迷惑なことやいけないことをしたときは、そのつど説明すればわかるようになります。
スマホに要注意!
自分が話しかけても大人はスマホを見ていて相手にしてくれない、「こうするんでしょ」と押しつけられるなど、共感されないことが続くと、感じることや表現をやめてしまうこともあります。人は、感じる→考える→わかるの順番で理解するようになるもの。大人ももう一度子どもの目で感じてみましょう。
健診を受けるときの注意点
健診にはいろいろな役目がありますが、子どもの不調(弱視や難聴ほか)を早く見つけるのもその一つ。発達についても、育てにくくて困っている親なら、子どもを理解するための助言になる場合もあれば、「念のために」と注意を促す言葉で傷つく親も。どんなときでも、子どもが「何を喜んでいるか気づいてあげる」「良いところを見る」という姿勢を忘れないで。
2歳のBちゃんの「イヤ」にも個性が
いつも年上の子に言われるままに箱に乗る2歳のBちゃん。ままごとの赤ちゃん役です。「みんなにかわいがってもらって幸 せです」と言うママに、私は「イヤなときはイヤと言っていいんですけどね」と話しました。それを聞いていたBちゃんは翌日、箱に乗ることを「イヤ」と言い続けました。Bちゃんの変化により、子どもが人と違うことをしてもいい、従順でなくてもいいんだと納得したママ。ふたり目のお子さんのときには、もっと子どもの個性を喜べるようになりました。
1歳、2歳、3歳の「言葉」の発達チェックリスト
子どもが言葉を話すようになるといろいろな 言葉を教えたくなりますが、ちょっと待って。 気持ちと結びつかない、形だけの言葉を覚えても、 コミュニケーションに役立ちません。
1歳の「言葉」発達のめやす
-
話しかけると、 ある程度意味がわかっている
-
自分の意思をしぐさや声で伝える
-
ママ、パパなど意味のある単語を言う
-
「おてて」など体の部分がわかる
-
「イヤ」など自分の意思を表す言葉が 使える
2歳の「言葉」発達のめやす
-
話せる単語の数が増える
-
「パパ来た」など二語文が出る
-
簡単な物語の絵本を楽しむ
-
物の名前を知りたがる
-
「ちょっと・たくさん」を使い分ける
3歳の「言葉」発達のめやす
-
自分の姓名を言う
-
「なぜ・どうして」と聞く
-
「ぼく・わたし」など一人称を使う
-
だいたいの日常会話ができる
-
「寒い」など自分の状態を表現する
-
見聞きしたことを親に話す
親も感覚を豊かに 表現することを心がけよう
言葉の豊かさは感性の豊かさにつながります。ものごとをマルかバツかのように単純化しないで、多様な考え方・感じ方を伝えたいものです。 「おいしいね」も良いけれど、モチモチしてる、香ばしいなど、さまざまな表現があるはず。「手を洗って」と指示するより「お砂のにおいがするよ」「ピカピカになったね。お花のにおいね」のように、親も自分の感覚を伝えていくといいですね。そのためには大人も感覚のアンテナがさびないようにみがきたいもの。絵本も良い助けになります。
心にない言葉を 言わせないで
「イヤ」と言いたいときに「いいよ、でしょ」「貸してあげなさい」と、いつもうそをつかされていると、言葉は自分の思いを託すものではなく、ただの符号になってしまいます。そんなことが続くと、人間関係やコミュニケーションがおっくうになるかもしれません。 お互いに「イヤ」と素直に表現するとぶつかりますが、代わりに相手にも都合があることに気がつくことができます。そこから「あとでならいいよ」と折り合いをつける工夫が生まれ、コミュニケーションの意味も自然に体得することができます。
教えてくれたのは
乳幼児教育保育実践研究家、非営利団体コドモノミカタ代表理事。東京家政大学短期大学部保育科を卒業。東京家政大学ナースリールーム主任、東京家政大学・同短期大学部非常勤講師を42 年務める。著書に「保育でつむぐ 子どもと親のいい関係」(小学館)など。
イラスト/山元かえ 再構成/HugKum編集部
出典:『ベビーブック』2017年9月号