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“しつけ”優先は絶対ダメ! 親子関係が最優先です
(以下、親野先生)“しつけ”には、主に「自分でできるようになる」などの生活習慣的なものと、「行儀・礼儀作法」などの対人関係の2面がありますよね。これを総称して“しつけ”と言われていますが…“しつけ”を優先することは、子育てにおいてデメリットばかりです。
そもそも、私は“しつけ”という言葉が好きではありません。
あるご家庭のお話をしますね。そのご家庭では、お父さんが食事のマナーにすごく厳しい。「食事のときは肘をつくな」「姿勢をよくしろ」「喋りながら食べてはいけない」とか、食事のたびにうるさかったそうです。そして、親子関係がとても悪くなっていったのです。親子関係が悪くなると、お父さんのようになりたくないと子どもは思うようになります。そして、お父さんが言ったこととは逆のことをやりたくなってしまうんですよね。全くの逆効果なんです。

だからこそ、“しつけ”よりも親子関係が大切なんです。
「子育てでいちばん大事なことは何ですか?」と聞かれるんですけど、大事なのは1番から99番まで親子関係をよくすることですよ、と答えます。“しつけ”とか勉強は100番以降です。それはなぜかというと、親子関係がよければ、子どもの自己肯定感と他者信頼感が育つからなのです。
自己肯定感と他者信頼感、2つの力
子どもにとって親子関係というのは、最初の人間関係です。そこでいい関係を作ることができると、「人を信頼していいんだ!」という気持ちが培われ、これが他者信頼感・人間信頼感につながります。この2つがある子は、その後の人間関係も信頼を土台にして作るようになります。きょうだい、友だち、先生…自分を取り巻く人たちと、うまく関係性を築いていくことができるのです。

自己肯定感と他者信頼感は人間においていちばん大切なことなんです。心理学的には、基本的信頼感と言います。自分を信頼できる力、他者を信頼できる力、これさえあれば人生何があっても大丈夫。
親子関係が悪い状態でこれら2つの力が上がることはありません。だから親子関係をよくして、2つの力を育てることが大切なんです。
基本的な生活習慣や礼儀作法などのマナーは、親子関係がよくて、親が一般的な生活習慣や礼儀作法を身につけていれば、子どもは大好きなお父さんお母さんのようになりたいと思うようになるので、放っておいても親レベルにはなります。うるさく言わなくても大丈夫なんです。
子どもを“しつけ”ようと考える必要はありません。とにかく、親子関係をよくして子どもと仲良くしていれば、しつけも自然にできてしまうんです。そういう順番なんですよ。
子どもへの否定的な言葉はデメリットばかり
ただし、“しつけ”の中の礼儀作法やマナーは自然に身に付くとは言いましたが、放任しておけばいいという意味ではありません。伝え方(言い方)がとても大事です。ポイントは否定的な言葉は使わないこと。「⚪︎⚪︎しちゃダメだよ」「⚪︎⚪︎になっちゃうよ」など、否定的な伝え方が子どもに影響することは2つ。
①相手に対する不信感を持つ
②自己肯定感が下がる

否定的な言葉は、「自分のことを嫌いなのかな?」「自分はダメな人間なのかな?」と勘違いさせてしまい、親の愛情を疑うようになったり自己肯定感を下げたりしてしまいます。否定的な言葉をやめて、肯定的な言葉に変換して伝えるようにしましょう!
また、子どもを注意する場合には、抽象的な言葉よりも具体的な言葉を使うのもおすすめです。
肯定的かつ具体的な伝え方の実例
「早くしなさい」→「7時に出るよ」「長い針が6にきたら着替えるよ」
「脱ぎっぱなしにしないで!」→「脱いだら洗濯機に入れるよ」
「服はしっかり畳まなきゃダメ!」→「服は2回ずつ畳もう」
「ゴミだらけじゃない」→「ゴミを10個拾おう」
「早くしなさい!」→「2倍速だよ!」
なぜ否定的で脅迫的な言い方や抽象的な言い方をしてしまうの?
子どもを注意をするときの親の心理状態を考えてみましょう。このときの親は、子どものしょうもない言動にイライラさせられている状態です。自分をイライラさせている子どもに何らかのリベンジをしたいという意識があるので、否定的な言葉で責めたくなるのです。
また、抽象的な言い方のほうが具体的な言い方より簡単だというのもあります。つまり、抽象的な言い方は何も考えずにすぐ言えるのですが、具体的な言い方をするには、その状況を解決するのにふさわしくて、なおかつ子どもが実際にできるような提案を考えなければなりません。ですから、頭を使って考えてから言わなければならないので大変なのです。でも、そのぶん効果ははるかに大きいのです。
これは初めは難しいかもしれませんが、心がけていれば徐々にできるようになってきます。子どもに注意する前は、一呼吸いれて肯定的に変換してみましょう。
子どもへの楽しくて肯定的な伝え方の実例
ゲーム型→「競争だ!」
ハードルを下げる→「半分の半分だけやっちゃおう」
数字型→「あと5分で出るよ」
ユーモア型→「2倍速で早送り!」
親は“監督”ではなく“応援団”に徹しよう
最近の親御さんの悩みを聞いていると、親の価値観を子どもに押し付けて、親子で苦しんでいる人がとても多いと感じます。子どもが嫌がる習い事を、それでもやらせなければと思って無理強いしたり。中学受験もご家庭によってはそうです。
親が昭和時代の運動部のような“監督”になって、価値観や目標を押し付けるのはやめたほうがいいです。監督ではなく応援団になりましょう。つまり、子どもの好きなことを応援する応援団に徹するのです。
『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』というテレビ番組がありますよね。あの番組に出ている子のように、親は子どもの好きなことを応援するだけでいいんです。子どもがやりたいことを応援するのが役割なんですよ。そうすれば、お互いに楽しいし、楽! それでいて子どもは伸びる!

親が勝手に目標を設定して押し付ける行為は、非常にエネルギーが必要なことなんです。そういうところに時間とエネルギーをかけてしまっているから、疲労して子育てがうまくいかないわけです。
子どもをやる気にさせることってめちゃくちゃ難しいことです。でも、子どもがもともと好きなことだったら、何も言わなくてもやりますよね。それでいいんです。
親が手を貸してあげても大丈夫。子どもは伸びます!
生活習慣的な部分では合理的な工夫をしてあげることが大事です。無理にやらせようとするのではなく、取りかかりのハードルを下げるなどして、子どもがやりやすいように工夫しましょう。その上で、それでも今の段階では難しそうだなと思ったら、やってあげてOK。
やってあげると自立できないのではないか…と心配になる人もいるかもしれませんが、発達心理学において、それは否定されています。できないことをいつまでも叱って親子関係が悪くなったり子どもの自己肯定感を下げたりするよりも、手伝ったり、それでも無理だったらやってあげたほうが子どもの自立につながることが明らかになっているのです。
でも、やってあげるときに嫌みを言ったり叱ったりしながらでは意味がありません。親子関係が悪くなり、子どもの自己肯定感も下がってしまうからです。ですから、手伝ったりやってあげたりするときは、叱りながらではなく親子のふれあいの一つとして明るく楽しい気持ちでやってあげてください。
また、「同じ年のあの子はできているのに…」と、比べる病になってしまうといいことがありません。比べられる相手を恨むようになってしまうし、比べる親に対して不信感を持つようになってしまうからです。
苦手なことのほとんどは生まれつき
それに、子どもの苦手なことのほとんどは親の育て方やしつけのせいではなく、生まれつきの資質によるものです。その証拠に、同じ育て方をしても兄弟姉妹で全然違いますよね。育て方で変わるならきょうだい全員がちゃんとできるようになるか、全員ができないようになるかどちらかになるはずです。でも、きょうだいで全然違うようになるのですから、これはもう生まれつきの資質が大きいと考えざるを得ません。
生まれつきの資質を子どものうちに変えるのは非常に難しいです。かえって大人になってからのほうが、仕事や生活のことを考えて直す必要性を感じるようになるので、それでその子なりにできるようになっていくものなのです。

親のサポートが思いやりの心を育む
親のサポートについて繰り返せば、親御さんや家族にやってもらえた子(手伝ってもらえた子)はうれしいし、親御さんに感謝の気持ちをもつことができます。すると、親子関係がよくなり、自己肯定感も上がります。さらに、やってもらえるありがたさを知っているので、幼稚園や小学校でお友だちが困っているときにも手伝ってあげられるようになります。
自分のことは自分でやらなきゃダメだよ! と言いすぎてしまうと、お友だちが困っているときに、「(その子が)だらしがないから困っているんだ」「手伝うことはその子のためにならない」と冷たい対応をするようになりかねません。このようなときは友だちを助けられる子になってほしいですよね。だったら、家でも子どもが困っていたら親が助けるようにしたほうがいいのです。それを見て子どもが真似するようになるからです。
“親として子どもをしつけなければ”と思いすぎると、このように人の道から外れてしまいがちです。それよりも、“一人の人間同士として子どもと仲良く楽しく生きていこう”くらいの気持ちでいたほうがいいと思います。
子どもに対するリスペクトが、子どもを精神的に成長させる
ママたちは、子どもが自分のお腹から出てきたので、無意識のうちに自分の一部のように感じているということがあるようです。その結果、例えば自分で自分の手をたたいても平気なように、自分の一部と感じている子どもには何をしても平気という状態になりがちです。ところが、子どものほうは「自分はママの一部だ」などとはこれっぽっちも感じていません。ですから当然、嫌なことをされたり言われたりして平気でいることはできないわけで、苦痛で不愉快なのです。
このような双方の意識のギャップに気づいている必要があります。子どもが自分のお腹から出てきたからといっても自分の一部ではなく、全く別の感情と意思と人格を持つ全く別の人間です。たとえ体は小さくても一人の人間としてリスペクトして接しましょう。
親子といえども、子どもは一人の人間としてリスペクトしてあげなければいけません。日本だけでなく、アジア特有なんですが、「大人は子どもよりも上」という上下関係が根強くあります。これだと子どもは精神的に成長しにくいことが心理学ではわかっています。
子どもは親からリスペクトされていると、リスペクトに応えたいと思うようになります。それによって、自分の言葉や行動に責任を持つようになり、精神的に成長します。そして、親や先生にリスペクトを返すことができるのです。パワハラ上司はリスペクトされないですよね。親子でも同じことが起こるのです。
親野先生の著書『ずるい子育て』

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お話を聞いたのは

文・構成/鬼石有紀