発達障害は病気ではないので、薬や手術で治せるものではありません。しかし、生活する上で困難がある場合など、必要に応じて薬が処方されることもあります。どのような時に、薬を飲んだほうがいいのか、どんな薬があるのかを精神科医の高橋猛先生に伺いました。
目次
発達障害には薬物療法ってあるの?
発達障害は根本的に治療できるわけではない
発達障害は生まれつきのもので、ウイルスや菌によって罹患するような病気ではありません。生まれつきの脳の微細な障害や、脳内の神経伝達物質の機能障害によるものであり、根本的な治療はできません。
ただ、社会との適応力を上げていくための訓練はいくつかあります。医療機関や療育施設で行われているカウンセリングや、行動療法、感覚統合訓練、ソーシャルスキルトレーニングなどがそれにあたります。
発達障害の子供は周囲の環境を整えることで生きやすくなる
また、本人を訓練するだけでなく、周囲の環境を整えることも有効です。環境とは、人や物や場所などです。視覚や聴覚、触覚など感覚の感じ方に偏りがある彼らは周囲の環境の影響を受けやすいことも特徴です。生理的に苦手とする感覚刺激を取り除くこと、弱くする工夫をすることで、生活をしやすくなるわけです。
本人に「頑張れ」と努力を促すばかりでなく、まずは周囲の環境を整えてあげることからスタートしたいですね。
発達障害の場合、薬を飲むことでどんな効果がある?
先にあげた行動療法やカウンセリングなどをやってみても、どうしても生活がうまくいかない、または本人も周囲も疲労困憊するほど大変な思いをしている場合は、薬が処方されることもあります。
例えば、夜に眠れず日中にぼんやりしてしまう、じっとしていることができなくて着席ができない、感情コントロールができず周囲とのトラブルが絶えないなどです。
発達障害のひとつ、ADHDに効果がある3種類の薬
発達障害のなかでもADHDに効く薬には次の3つがあります。
コンサータ(メチルフェニデード徐放錠)
中枢神経刺激薬。シナプスのつながりを良くすることで、衝動性を抑えたり、集中力を上げるなどの効果がある。
ストラテラ(アトモキセチン)
非中枢刺激薬。選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬。シナプス間のノルアドレナリンを増加させ、緩やかに効果を発揮。
インチュニブ(グアンファシン)
非中枢刺激薬。2017年に発売されたばかり。中枢神経刺激薬より依存性などの副作用が少ないのが特徴。(成人にはまだ使えない)
これらの中の、どれが合うのかは、症状や体質などによっても異なります。また、薬との相性もありますので、少しずつ試してみて様子をみて、合う薬を選んでいくことになります。
発達障害に付随する困り事への薬の処方も
入眠剤、精神安定剤、抗うつ剤などの併用も
発達障害の症状そのものでなく、付随して起こる困りごともいろいろあります。その場合は、症状に合わせた薬が処方されることもあります。睡眠がとれていないなら入眠剤、不安や恐怖などで興奮しているなら精神安定剤、うつを併発しているなら抗うつ剤などです。
薬は症状に合わせて、一時的に使用することもありますし、状態を見ながら減らしていくこともできます。
穏やかな生活のために薬に頼るのも一手
本人はもちろん家族も楽になる場合も
薬には副作用があるのではないか? 薬を飲み始めたら一生飲み続けるのか?などの心配から、できれば薬を飲みたくないという人もいます。その気持ちはわかりますが、眠れなかったり不安で苦しかったり、本人も保護者も辛くて大変な場合は、薬でコントロールするのもひとつの方法だと思います。
眠れなかったり興奮したままの状態では、生活することもままならなくなります。まずは、家族が穏やかに生活できるような基盤を作るために、薬を上手に活用するといいでしょう。もちろん、症状が落ち着いたら、薬を減らしたり、弱い薬に変えていくなどの変更もできるでしょう。
発達障害の子供によっては副作用も。必ず医師と相談を
自己判断は危険!薬は上手に見極めて
薬を処方してもらうためには、医師の診断が必要なのは当然ですが、その後、飲むのをやめたい時や、他の薬に変えたい時なども、自己判断せずに、ぜひ医師に相談してください。例えば、気持ちは落ち着くけど眠くなって困る、食欲が落ちてしまう、頭痛がするなど、この症状にはいいけど、こんな不都合があるなど、人によっては辛い副作用がでることもあります。そういうことも相談しながら、自分に合う薬、飲む量などを見つけていけるといいですね。薬とは上手に付き合うことが大切です。
お話を伺ったのは、
高橋 猛先生
高橋医院院長。精神科専門医、精神科指導医、精神保健指定医であり、心療内科、婦人科、小児科、リエゾン精神科がある高橋医院の院長を務める。タレントの栗原類さんの主治医。プロダイバーでもある。
取材・文/江頭恵子