発達障害の基礎知識|「ASD」「ADHD」「LD」の種類・症状・原因は?それぞれの特徴も解説

「発達障害」は、ここ10年ほどで日本国内の認知が一気に進み、医療関係者はもちろん、保育・教育関係者たちにも理解が広がってきました。NHKの特集をはじめ、多くのメディアで取り上げられるようになったことが大きいきっかけになりました。では、この10年で「発達障害」の子どもや大人が急に増えたのでしょうか? いいえ、そうではありません。以前から「発達障害」の人はいたのだけれど、それがやっと診断がつくようになったのです。

「発達障害」とは?

以前より、重度の自閉症や知的障害などは「障害者」として認められおり、社会的にも支援の対象でした。いっぽう軽度の発達障害であるASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如/多動症)などは、知的には遅れがない、あるいは平均値以上の知力を持つ場合があり、診断がつかず「気になる子」「困った子」扱いされることが多かったのです。

“アンバランスな脳の機能”が影響

そんななか、アメリカでは1980年に精神医学会が、精神障害の診断基準である「DSM-Ⅲ」を作成。そこで「注意欠陥障害(ADD:Attention Deficit Disorder)」が採用され、発達障害者に見られる「不注意」や「多動」、そして「衝動性」などが、脳の機能障害がもたらすものであると明確にされました。それ以前、不可解な行動を見せる子どもたちは「微細脳機能障害(MBD:Minimal Brain Dysfunction)」と呼ばれ、脳に微細な障害があるからだろうと想定され、詳しいことがよくわからないままでした。それがやっと、脳の機能のアンバランスさが影響していることがわかったのです。

日本の発達障害者支援はアメリカより40年遅れている!?

いっぽう日本では、そこから約20年遅れて、2002年に文部科学省が通常学級にいる発達障害児の存在を調査。当時の調査でクラス全体の6.3%(1クラスに1〜2人の割合)に、発達障害のある子がいると発表。その3年後の2005年に「発達障害者支援法」が定められました。発達障害に関する研究は、一部の専門家の中ではもっと前から進められていましたが、その頃の日本の発達障害者支援は、アメリカより40年は遅れていると言われていました。

「DSM」はその後も改訂を繰り返し、ADDは現在「注意欠如/多動症(ADHD:Attention Deficit Hyperactivity Disorder)」と言われています。また、以前よく耳にしていた「アスペルガー症候群」は、その特性を含む他の自閉性障害とあわせて「自閉スペクトラム症(ASD:Autistic Spectrum Disorders)」と言われています。

「発達障害」の原因は?生まれつきの脳の発達に凸凹がある障害

「発達障害」は明らかな知的障害はないのに、脳機能の障害により非定型の発達を示します。つまり脳の発達に凸凹があるため、イマジネーション(創造性)や、コミュニケーション(行為機能、表出行動)、認知機能などに偏りや歪みが見られ、それらが、いわゆる「困った行動」につながります。それらの特性から周囲の人や環境に合わせることが難しい場面が多く、「発達障害とは適応障害である」という専門家もいます。

もうひとつの特徴は、生まれつきの障害であるということです。よく大人になり人間関係につまずいたり、仕事がうまくいかなくなった人が、「自分は発達障害になったのでは?」と心配するケースがあります。そんな時、発達障害を診断するドクターは、問診の中でご本人の幼い頃からの育ちや困りごと、(遺伝的要素も探るため)親族の特性などを聞き取ります。もしその人が幼い頃から、不注意によるミスや多動による問題行動、コミュニケーションのトラブルなど、さまざまな困りごとを抱えていたのであれば「発達障害」の可能性はあります。しかし、小さい頃は問題なく過ごしていて、大人になってから急に現れた問題なのであれば、それは「発達障害」ではなく、別の精神疾患などが疑われます。

親の育て方が原因ではありません!

発達障害の認知が広がる前の日本では、いわゆる「困った行動」をしてしまう子どもたちを育てる親に対して、親族や幼稚園や学校の先生、保育者などが「お母さんの育て方がなっていない」「しつけが間違っている」、あるいは「愛情が足りていない」などと指摘し、あたかも「親の育て方」に原因があるようなことが主張される時代がありました。愛情を込めて一生懸命、子育てをしているのに、なぜかトラブルばかりを起こすわが子を目の前に、途方にくれる親たちがたくさんいたのです。

前述しましたが、「発達障害」は生まれつきのもので、親の育て方など後天的なものではありません。遺伝要素もあるとはいわれますが、原因を追求することは、あまり意味がありません。ただ、周囲の環境、関わり方により「二次障害」につながる可能性が高いので、家族をはじめ周囲の正しい理解と関わりが必要です。

「発達障害」の特性・現れ方

ここからは、発達障害のそれぞれの種類について解説します。発達障害の種類は、それぞれが個別に存在するといより、特性が重なり合って出ることが多いものです。つまり「ADHD」だけの特性を持つ人もいるけれど、「ADHD」の特性と「ASD」の特性を併せ持つ、あるいは「ADHD」と「ASD」、そして「LD(学習障害)」を併せ持つこともあるということ。それぞれがどれくらいの比率でかけ合わさるのかは人によるし、そもそもの障害の特性の濃い薄いも人によります。つまり、一口に「発達障害」と言っても、特性の現れ方はひとりひとり違い、それが「発達障害」の理解を難しくしている原因のひとつでもあります。

自閉スペクトラム症(ASD:Autistic Spectrum Disorders)

1980年に診断基準「DSM-Ⅲ」が発表された際、自閉症を代表とする、コミュニケーション力などの社会性の発達障害を示すグループは、広汎性発達障害(PDD:Pervasive Developmental Disorders)と呼ばれていました。PDDには自閉性障害、レット症候群、小児崩壊性障害、アスペルガー障害、特定不能の広汎性障害が含まれていました。そして、2013年に「DSM-5」へ改訂される際に、レット症候群以外の4つをまとめて「ASD」とされました。

ここで使われる「スペクトラム」とは「連続体」という意味。その症状は、ひとりで生活することが難しいほどの重度の自閉性障害を持つ人から、自己コントロールに苦手を抱える程度の軽度の人まで境界線をひくことはできず、連続しているという考え方です。ASDは対人関係の障害や常道的行動パターンが主な障害です。一部ではホルモンのひとつのセロトニンが不足しているという説もあります。

自閉スペクトラム症(ASD)の主な特徴

「空気が読めない人が多い」

「人の気持ちを読み取るのが苦手」

「ひとり遊びが多い」

「こだわりが強い」

「感覚刺激に対して過敏すぎたり鈍感すぎたりする」 など

自閉症スペクトラム症(ASD)の診断基準

1)社会的コミュニケーションおよび相互反応における持続的障害

2)限定された反復する様式の行動、興味、活動

3)症状は発達早期に存在するが、後になって明らかになるものもある

4)症状は社会や職業その他の重要な機能に重大な影響を引き起こす

上の4つ状態がどれか1つだけでなく、どれも併せ持っているというのがASDの診断基準になります。最初に話しましたが、これらの特性が発達早期(幼い頃から)存在していない場合は、診断基準から外れます。また、ASDの特性は持ちつつも、自己コントロール力を身につけてやり過ごせていたり、周囲の環境に恵まれ支援がうまくいき、本人が全く困っておらず、学校や職場などとも問題もなく生活できているのでれば、それも診断から外れます。

注意欠如/多動症(ADHD:Attention Deficit Hyperactivity Disorder)

子どものADHDというと、「じっとできない」「席についていられない」「乱暴」などの特性が取り上げられることが多いです。確かにそれらもADHDの子に多い特性ではありますが、いっぽうで「ぼーっとしている」「集中できない」「忘れ物が多い」など、不注意から起こるトラブルを抱えることが多いのもADHDの特性です。そして、「多動傾向」は幼児期や小学生くらいまでで治まってくることが多く、中学、高校、大学生になってくると「不注意」の課題の方が目立ってくるケースが増えてきます。

注意欠如/多動症(ADHD)の主な特徴

「忘れ物やミスが多い」

「片付けや掃除が苦手」

「ぼんやりしていることが多い」

「衝動的に行動することが多い」

「思いついたことを、そのまま話してしまう」など

ADHDの診断基準

1)不注意・多動性・衝動性によって特徴づけられる不注意・多動性・衝動性の持続的な様式で、機能、または発達の妨げとなっているもの

2)不注意・多動性・衝動性の症状のうち、いくつかが12歳以前から見られた

3)不注意・多動性・衝動性の症状のうち、いくつかが2つ以上の状況(例:家庭、学校、友達といる場など)で存在

4)これらの症状が、社会的、学業的機能を失わせている、または、その質を低下させている明確な証拠がある

1997年に精神科医の司馬理英子先生が書籍の中でADHDのことを「のび太・ジャイアン症候群」と命名しています。授業中に先生の話は上の空で、ぼんやりいろいろな想像をして、宿題などの忘れ物が多いのび太くんは、いわゆる「不注意」型の特性が強い子。いっぽうじっとしていることが苦手で、すぐにキレて乱暴するジャイアンは、「多動性」や「衝動性」の特性が強い子というわけです。ドラえもんの作者がそれを意図していたわけではないでしょうが、不注意型のタイプの子も多動型のタイプの子も、以前から確かに存在していたといえるでしょう。

学習障害(LD:Learnibg Disability)

タイプは3つ。読字障害・書字障害・算数障害

学習障害とは、視力や聴覚に障害がなく、知的な遅れもないうえに、教育環境も整っており、本人が努力しているにも関わらず、文字や数の読み書きや操作(文章を書くなど)著しく苦手な状態です。文部科学省の定義では「基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する、または推論する能力のうち、特定のものの習得としように著しい困難を示す様々な状態」とされています。

学習障害も、脳の働きの偏りが原因で、脳の中の「読み」「書く」「計算」に関わる領域の働きに偏りがあるために起こります。LDの中でも次の3つにタイプがわかれています。

・ディスレクシア 読字障害:読むことに困難がある

・ディスグラフィア 書字障害:書くことに困難がある

・ディスカリキュリア 算数障害:計算することに困難がある

読み書き障害の背景には、表記された文字を対応する音に置き換える脳の働きがうまくいかないことがあります。そのため、文字を読めなかったり間違えたりします。でも、理解力はあるので、試験問題を読んでもらって耳で聞けば答えられるというケースもあります。また、言葉は読めるけど、計算ができない。または言葉は読めないけど、計算はできるなど、特定のことができないことも特徴です。

発達性協調運動障害(DCD:Developmental Coordination Disorder)

先にあげた3つの「発達障害」に合併しやすい障害で、年齢や知的発達に比べて協調運動が著しく苦手な状態です。全身を使う粗大運動も、指先を使う微細運動もどちらも苦手で、いわゆる「不器用」と片付けられがちです。子どものころは、運動が得意で活発な子が周りの評価を受けやすいもの。反対に運動が苦手で、不器用さが目立つ子は、それが引き金となり、自信をなくし自己肯定感を下げることになりやすくなります。

 

地域の発達障害者支援センターへ相談を

発達障害であるかどうかは、自己判断せず必ず専門家の診断を受けてください。その上で、どのような支援が受けられるのか、薬を飲んだ方がいいのか、訓練はできるのかなどの具体的な相談ができます。お住まいの近くに専門医はいるのか、支援施設などがあるのかは、お近くの「発達障害者支援センター」に相談してみてください。

発達障害 お役立ち情報サイト

•発達障害情報・支援センター http://www.rehab.go.jp/ddis/
•一般社団法人 日本発達障害ネットワーク JDDnet http://jddnet.jp
•一般社団法人 日本自閉症協会 http://www.autism.or.jp
•特定非営利活動法人 日本自閉症スペクトラム学会 http://www.autistic-spectrum.jp
•NPO法人 えじそんくらぶ http://www.e-club.jp
•親と子のためのADHD(注意欠陥・多動性障害)情報サイト http://adhd.co.jp/kodomo/
•特定非営利活動法人 全国LD親の会 http://www.jpald.net/whatld.html
•道具で発達を応援 トビラコ https://tobiraco.co.jp/

 

記事監修

岩浪 明|精神科医

昭和大学医学部精神医学講座主任教授(医学博士)。発達障害の臨床研究などを主な研究分野としている。東京大学医学部卒業後、都立松沢病院などで臨床経験を積み、東京大学医学部精神医学教室助教授、埼玉医科大学准教授などを経て、2012年より現職。2015年より昭和大学附属烏山病院長を兼任、ADHD専門外来を担当。著書に、ベストセラーとなった『発達障害』(文春新書)など多数。


取材・構成/江頭恵子 写真/山本彩乃

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