おおたとしまささんに訊く「非認知能力」の育み方|子どもに足りない「サンマ」って何のこと?【発育のススメ】

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教育と訳されるeducationの語源はeduce。「能力や可能性を引き出す」という意味です。本来の意味を知る福沢諭吉はeducationを「発育」とすべきと主張したそう。この連載では、教える側ではなく学ぶ側を主体とした発育をコンセプトに、最先端の教育事情を紹介します。

非認知能力という言葉が一般的になるにつれ、親御さんの中には「認知能力と非認知能力ではどちらが大事なのか?」と混乱する方も多いのではないでしょうか。育児・教育ジャーナリストのおおたとしまささんに伺うと、能力をもっと多面的に捉えることの大切さを教えていただきました。

認知能力と非認知能力どっちが大事?

子育てにおいて、認知能力、非認知能力という言葉を耳にするようになりました。認知能力は知能検査など数値で測定できる学力で、非認知能力は、おもにコミュニケーション力や自己肯定感、やりぬく力、共感力などの力を表す言葉として用いられるのが一般的です。とはいえ、両者は相反する力ではありません。これらの能力について、育児・教育ジャーナリストのおおたとしまささんに伺いました。

「人間の能力に認知能力と非認知能力があるとして、数値で測ることに成功した認知能力以外のすべてが非認知能力です。現在、教育界で用いられる力だけでなく、体力や免疫力だって広義での非認知能力。非認知能力と認知能力はシームレスなもので、お饅頭の皮とあんこのように分類できる関係ではありません。文科省はそのすべての能力の中から、学力だけでなく非認知能力も含めた力を子どもに必要な“生きる力”としています」

どちらかだけを鍛えるという発想ではなく

かつての日本の教育では、学力だけが偏って重視されていましたが、今では子どもの全体の力を見ることが大切という流れに変わりつつあります。その意味で「非認知能力を育む、伸ばす」子育てが注目されていますが、親が子どもの特定の力を育むという考え方にも注意が必要とおおたさんは語ります。

そもそも能力の中から認知能力だけ、あるいは特定の非認知能力だけが鍛えられるということはありません。例えば受験では認知能力が点数という目に見える形で反映されますが、当然、受験勉強で“やりぬく力”といった非認知能力も育まれます。もちろん教育虐待のように子どもを追いつめる方法で受験をすれば、力を育むどころか阻害することになりますが、それはスポーツだって同じこと。本人の主体性や興味・関心をないがしろにして、親の過干渉であれもこれもと詰め込んだら、認知能力、非認知能力に関係なく子どもにとって弊害となります

おおたさんは「認知能力に加えて非認知能力を鍛えましょう」という意味で非認知能力を使うのではなく、「認知能力の土台となる非認知能力を獲得するのが最重要である幼少期に、焦って勉強させる必要はない」というように、子どもの負担を軽減させる使われ方が適切だと感じている、といいます。

親のイメージどおりに育てることが「育む」ことではない

「親が子どもに何かをさせる、させないと意図的な指図をすること自体が子どもになにかしらのデメリットがあると思います。子どもの目の輝きを見ながら、こういうものに興味があるなら付き合ってあげようというサポートならいいのですが、子どもを見ずに親の思い通りにデザインしようとする意識は問題です。親はその行為を『育む』ことだと勘違いしているかもしれませんが、それはロボットをプログラムするイメージ。客観的に見たら親の理想の型にはめ込もうとする行為です。子どもになんらかの成果を求める関わり方をしていると、思った通りの成果が得られない場合に、親にも子どもにもストレスとなります。それによって親子の信頼関係や自己肯定感がダメージを受けるとなれば、損うものは大きい。子どもが小さいうちは多少なりともそういう気持ちがあるのもわかりますが、子育ての経験を積み重ねていくうちに、子どもが思い通りにはならないことや、思い通りにならなくても育つことが感覚的に理解できるようになるはずです」

認知能力にしろ、非認知能力にしろ、子どもの能力であることには変わりありません。その能力は親が鍛えるものではなく、子どもが自ら育んでいくもの。親の役割は、子どもが安全に育つ環境を整えてあげることだけなのかもしれません。

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力は、親ではなく子ども自らが育むもの。子どもに“遊びのサンマ”は足りていますか?

「今の子どもには、遊びのサンマが足りないと言われています。サンマ=3間とは、時間、空間、仲間のことです。昔の子がサンマの中で自然と培ってきた総合的な非認知能力は、たしかに昔と同じ感覚では身につけられない現状があります。例えば、私たちが子どもの頃に遊んだ秘密基地はそのサンマの象徴だと思います。大人の目が届かない子どもだの世界で秩序をつくり、ルールをつくる。上下関係ができたり、もちろんけんかもあるでしょうが、その中で最高の社会性を身につけていきます。秘密基地のように、完全に親の目の届かない状況は難しいかもしれませんが、サンマの環境を整えて子どもが自主的に遊べる環境をつくることは大切です。それは、いつもと違う非日常の環境を用意しましょうという意味ではありません。非認知能力を伸ばす意味では、近所の公園で遊ぶことや、家の中でお手伝いをしてもらうこともおすすめです。

今、新型コロナの影響で行動が制限されることも多いですが、外から帰ったら手を洗う、人と話すときはマスクをする、ソーシャルディスタンスを保つなどを習慣づけることだって新しい非認知能力です。それぞれの社会に必要な力は実地的に学べるはずで、できないことを無理やり補塡しようと考えるより、今あるもので伸ばせる力を伸ばしていけば、残りの力も条件さえ揃えば後からついてきます。それらすべてが非認知能力の糧となり、ひいては学力のベースになるのだと思います」

記事監修

育児・教育ジャーナリスト
おおたとしまさ

雑誌編集部を経て、多くの育児、教育媒体の企画や編集に携わる。中学高校の教員免許をもつ。『究極の子育て』(プレジデント社)の監修ほか、本質を見極めた子育てや中学受験に関する著書も多数。

おおたとしまさプレジデント社金額1,210円(税込)

大きな転換期を迎えている今、子どもたちが先行き不透明な時代を生き抜いていくためには、「自己肯定感」と「非認知能力」が大切です。「自己肯定感」は無条件に自分にOKを出せる感覚。「非認知能力」はやり抜く力、自制心、好奇心など、テストの点数では表せない幅広い力を指します。本書では、この2つを中心に、一生ものの土台となる力や心を養うための子育て法を解説。「これだけは大切なこと」を突き詰めた“究極”の1冊です。

「発育のススメ」は『小学一年生』別冊HugKumにて連載中です。

1925年創刊の児童学習雑誌『小学一年生』。コンセプトは「未来をつくる“好き”を育む」。毎号、各界の第一線で活躍する有識者・クリエイターとともに、子ども達各々が自身の無限の可能性を伸ばす誌面作りを心掛けています。時代に即した上質な知育学習記事・付録を掲載し、HugKumの監修もつとめています。

『小学一年生』2021年3月号別冊『HugKum』 構成・文/山本章子 イラスト/谷端 実

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