1~3歳が大事!世界が注目する「非認知能力」とは?未来を生き抜く子供たちに必要!

体も心もめざましく成長している1歳、2歳、3歳の子供たち。将来を考えると、 あれもこれも…と身につけてほしいものがたくさんあって、 優先順位に迷いますね。子どもの将来のために、今何をすればいいのか、 テレビでもおなじみの汐見稔幸先生に聞いてみましょう!

これからの未来を生き抜く子供たちに大事になのは「非認知能力」

汐見先生、子どもの未来には、ずばりどんな 能力が必要ですか? 教えてください。

これから必要になるのは、文字・数などの前に、失敗から学ぶことが上手、人と協力できる、自分で考える、違う価値観を柔軟に受け止める、新しい発想ができる…そんな力です。「非認知能力」と呼ばれ、今、世界で注目されています。

なじみのない言葉ですが、「認知能力」ではない能力という意味合いでしょうか?

そうです。認知能力とは、おおまかに言えば算数や読み書きのような知的能力です。

今までは、「賢い子に育てる」とは認知能力を伸ばすことだと思われてきました。ところが幼児期に算数や読み書きを早く学んだ子と小学校からスタートした子で、中学校の学力を調べると差がない。早め、早めにやっても、しばらくすると追いつかれるのです。

育ちに見合った認知能力は大事なのですが、それ以上に非認知能力が重要であり、それを幼児期に伸ばすのが大事だとわかってきたんです。

「非認知能力」の土台は3歳までに作られる

失敗から立ち直る力など、非認知能力の例は ふだんの育児ではあまり意識しないけれど、 人生で大事なものばかりですね!

親御さん自身も、これまで何かに意欲的に取り組むことや、根気強くやり抜くことの大切さを感じたことがあると思います。端的に言うと、前向きに生きる心の装置ですね。

前向きに生きる力なんですね。 それが1~3歳のころに身につけられるのですか?

この能力のベースは3歳ごろまでに作られ、幼いときに身につけるほど、良い影響が長く続きます。幼児教育や保育でも、この能力を高める方向で方針が改定されたところです。1~3歳児を育てている方には、ぜひ知っておいてもらいたいですね。

*平成29年告示、平成30年4月施行の『幼稚園教育要領』『保育所保育指針』『幼保連携型認定こども園教育・保育要領』。非認知能力を「学びに向かう力・人間性等」として資質・能力の3つの柱として位置付けた。汐見先生は『保育所保育指針』の改定に関する委員会の委員長。

世界が注目する「非認知能力」ってどんな力?

 

非認知能力の反対は「認知能力」

認知能力は基礎的知識、記憶力、判断力など知的な能力を指し、IQ(知能指数)として数字で表すことも可能。

非認知能力の3つの要素とは

対して、非認知能力とは、感情や心の働きに関連する能力。

「忍耐力・社会性・感情コントロール」の3つを中心として、下の図のようにさまざまな要素がある。幼児期に非認知能力を高める教育を受けると、成人後もその効果が続き、社会的な成功や健全な生活につながるという研究(ノーベル経済学賞受賞のジェームズ・ヘックマン)が有名。

 

■非認知能力を伸ばす方法は?

非認知能力は、 幼いほど身につきやすいというのは なぜ?

脳の発達と関係しているからでしょう。この能力は脳の奥にある大脳辺縁系や脳幹部と関連しています。生命維持や危険の察知、安心感、好き嫌いなどの感覚をつかさどる部分で、およそ5歳ごろに原型が完成するようです。0~3歳ごろはこの脳を委縮させず、安定して発達させる大事な年齢です。しかもこの脳は成長とともに認知能力を担当する前頭連合野とつながります。つまり「認知能力を高めるには、まず非認知能力から」なんですよ。

親ができることは、無条件の愛を与えてあげること

無条件で愛されている、いつだって助けてくれるという基本的な信頼感と安心感を育てることです。

子どもが泣いたり呼びかけたりしたら、いつも温かく応える。失敗したら頭ごなしに怒らず「大丈夫だよ」と励ます。不安そうなときは寄り添う。そんなかかわりを心がけてほしいですね。その積み重ねで安心感や信頼感が根付くと、「ありのままでいいんだ」という自己肯定感が生まれ、「がんばってみよう」という前向きの力になるわけです。この安心感と、親に見守られてやりたいことをやる中で、非認知能力の基礎ができていきます。

子どもの好奇心を尊重!やりたがることをやらせよう

1歳になるころから、子どもは周りの世界に興味をもち探索を始めます。トイレットペーパーを引っ張り出す、塀の穴に指を突っ込む、障子紙を破る、引き出しの物を出す、水道の水で遊ぶなどいろいろやりますが、原則やらせてあげましょう。

大人の目には無駄な活動に見えることも

いやいや逆です。探索に限らず、好奇心から始まる自発的な活動を通して、多様に学んでいるのです。非認知能力が高く、発想力のある4、5歳児を調べてみたところ、0~2歳時代に全員が自由な探索活動を保障されていたという報告もあります。

親は遊んであげるものではないのです。親子で遊ぶのは良いことです。絵本を読んであげるのも良い影響があります。ただ、子どもが自発的にやっていることは、邪魔しないのが大事です。

「ほめる」と「叱る」、どちらが非認知能力を育てる?

ホメホメもガミガミも遊びの邪魔

テレビ番組の取材でホメすぎ、怒りすぎの家庭を訪ねたことがあります。子どものすることに「上手、すごい」とホメまくるお母さんと、「やめてよ!」とガミガミ怒るお母さんに、1時間黙っていてもらいました。子どもはけげんな顔をしていましたが、お母さんが黙って見てくれるとわかると、いつもとは違う遊びを生き生きとやり始めたのです。お母さんはそれぞれ「うちの子がこんなに遊べるなんて!」と驚き、今まで口をはさみすぎていたことに気づいていました。

 

いたずらを怒らないでおおらかに

水道で遊んでいたら怒ってしまいそうですが、認めたほうがいいのですか…?という質問がありました。100%賛成しなくてもいいんです。水道で遊んでいたら、「ぬれるからやめてー」とか言ってもいい。それでもやりたいようなら、「じゃあお風呂でやろう」とか。やりたい気持ちを認めて、活動を保障してあげるのが大事なんです。 本当にダメなときや危険に対しては、真剣に叱ればいいんです。ふだんそんなに怒っていなければ、真剣さが伝わります。危ないものや大事なものは、物理的に子どもがさわれないようにしておけば、叱らずにすみます。

いたずらは子どもの探求心の表れ。怒って抑えつけるよりも代案を出してやらせてあげよう。

おとなしい子どもにはどう対応すれば…?

石橋をたたいても渡らずに見ているタイプですね。頭の中では、あれはなんだろう・おもしろそう・怖そうなどと考えているんです。そんなとき「見てないで行きなさい」と無理強いすると、「見ているのはよくない」という否定のメッセージを伝えることになります。生まれ持った気質を否定せず受け入れましょう。ただいつも慎重な子には、「一緒に渡ってみようか」などと励まして、少し渡れるようにしてあげるのはいい。本人が「否定されなかった」と思えることが大事です。

親として持つべき心がけは?

「うちの子は何を見ているのかしら、どんなことが好きなのかしら」と関心を寄せて、理解すること。何かやっていたら、口出ししないで「ここにいるよ。あなたがそうやっている姿が好きなのよ」という気持ちで見守ってほしいですね。

現代のお母さんは本当に大変です。ひとりで抱え込まないで、お母さん自身のためにも子どもの未来のためにも、子どもを預けたりしてストレスを解消してゆとりをもつことが必要だと思います。

海外の事例も参考に

ニュージーランドには、親が研修を受ければ開けるプレイパークという自主幼稚園があります。その研修内容のかなりの部分が子どもの気持ちを推察することなんです。本棚の本を落としている1歳児を見て、「手が届くか試している」「落ちる音を楽しんでいる」など、気持ちを考えます。その次の段階で、落としてもよいものを置いてあげよう、と工夫します。「子どもの気持ちを大事にして、大人が困らないようにする工夫」を学べるプログラムなのです。

 

非認知能力は世界ではどう扱われている?

非認知能力は、 世界でも注目されています。科学の発達で現代人は便利な生活ができますが、地球規模では、環境、難民、貧困など難題が山積みです。20世紀までは認知能力中心の教育だけですんだのですが、21世紀はそうはいきません。

21世紀は壁にぶつかった時にめげない発想力が不可欠

解決に必要な能力について先進国が研究した結果、壁にぶつかったときにアイデアをいくつも出せる発想力、失敗から学んで挑戦する粘り強さ、すなわち非認知能力に可能性を見出したのです。世界の中で良い仕事をした人は、皆おしなべて高い非認知能力をもっていることもわかりました。 そこで、先進国はこの能力を高めるような幼児教育・保育へと方針転換し始めました。

そして、すべての子どもにその教育を受けられる機会を与えるべく、無償化しようとしています。日本の幼児教育・保育の方針が改定されたのはこういう背景もあるんです。

非認知能力は特別なことをしなくても育まれる

実は非認知能力は、少し前までの不便な暮らしの中では身につけやすかったんです。機械がないから自分で工夫する、隣近所と助け合ってつき合う、子ども同士で自然の中や町内を遊びまわる…そんな環境があったからです。

現代は子育てがとても窮屈なものになってしまいました。もっと肩の力を抜いて子どもをゆったり見守れるといいですね。子どもがやることを「おもしろいなあ」と楽しめたら、それが未来を救う知恵を育むことにつながっていきます。

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お話をうかがったのは

汐見稔幸|東京大学名誉教授。日本保育学会会長。

東京大学名誉教授。日本保育学会会長。一般社団法人家族・保育デザイン研究所理事。専門は教育学、保育学、育児学。NHK Eテレの『すくすく子育て』の出演でもおなじみ。保育者と保護者の交流誌『エデュカーレ』編集長。著書に『新装版 0~3歳能力を育てる 好奇心を引き出す』(主婦の友社)、『3~6歳 能力を伸ばす 個性を光らせる』(主婦の友社)など多数。


 

イラスト/今井久恵  出典/『ベビーブック』

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