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英語学習を始めたのは学びの選択肢を狭めないため
Q:すみれさんに英語を早くから教えようと思ったきっかけはどういったことですか?
A:日本の教育(学び方やそのプロセス)が必ずしもわが子に最適だとは言い切れないですよね。そして、世界にはさまざまな教育があり、その中にはより良い教育があるはずだと思っていたんです。学びの選択肢を狭めたくないと考えていたので、早くから英語を学ばせる環境を整えました。

高い教材は不要! 英語の音真似(シャドーイング)で長文が読めるように
Q:おうちで英語環境を整えるためには、どんなことから始めたらいいですか?
A:まずは音真似(シャドーイング)をすることです。単語帳、教科書、動画、英検練習のリスニング…なんでもいいので聴いて、それを真似して発音してみることからスタートしてみてください。
わざわざインターナショナルスクールに通わせたり、高い英語教材を買ったりする必要もありません。身近にある英文を読んでみてください。娘が小学生の頃は、新聞に掲載されていた共通テストの長文や、web上で無料で見られる英検などに出てくる文章なども読ませていました。
いろんな単語や文章を数か月間、耳で聴いて真似しているうちに、フォニックスを習わなくても子ども自ら発音規則を覚えるんです。いつのまにか長文が読めるようになっていきますよ。

こういう話をすると、「本当にできるの?」と疑う親御さんがいらっしゃいますが、本当にできるようになるんです。子どもの実力を信じてください。シャドーイングのメリットは、文章や段落を塊として捉えられるようになることです。それができれば、長文読解や英作文はらくらくです!
日本の英語教育の多くは、アルファベットの書き取りやローマ字から入り、そこからいきなり文法に進みます。なので、学習している内容は簡単なのに、プロセスが難しくて楽しくないし進まないのです。英語を楽しく学びたいなら、いろいろな英文や単語をまずはたくさん聞く! そして真似をすることからスタートしてみてください。
”子どもだから難しいことはわからない”というわけではない! 初めに目標を決めて
Q:著書『ひろつる式英語学習法』の中に「難しいことから先にやる」とありますが、それはどういうことですか?
A:年齢が上がるにつれて難しいことができるようになる、という考え方は幻想です。
楽器奏者で例えるならば、プロになるような人たちは、子どもの頃にすでに大人がコンクールで弾くような曲にチャレンジしている経験があります。だからこそ、作曲家がそこに込めた音楽性を楽しむことができるようになっていきます。難しい曲は練習が大変だからやらないと決めて、簡単な練習曲ばかり弾いていたらどうでしょうか。音楽を楽しむ以前に、つまらなく感じて進まなくなってしまうし、やめてしまう子もいるかもしれません。

英語教育でも同じことが言えると思っています。できる子は子どもの頃にすでに4技能を身につけるから、動画や本、実際の外国人とのコミュニケーションを楽しむことができます。するとさらに英語学習が進むのです。
日本人の英語学習の残念なところは、目標を具体的に決めないうちにスタートするところです。海外旅行で会話に困らない程度でいいのか、海外大学に留学を目標にしているのかで、いつ何をすべきなのかを逆算することができます。
パーソナルコンピューターの父と呼ばれた、アラン・ケイの言葉に、”未来を予測するベストな方法は、未来を創ることだ”という言葉があります。その言葉のように、ゴールを決めてそれを実現するために行動するという思考を持ちましょう。
単語は、日本語↔︎英語の繰り返し! 短い時間でサッと終わらせる
Q:すみれさんは、ハーバード大学に進む前に辞書1冊分もの単語を覚えたとおっしゃっていましたが、どのような方法で大量の単語を覚えるのでしょうか?
A:まずは母国語である日本語で豊富な語彙を使うことです。子どもの頃から、家庭の会話で意識することが大切です。次に英語で同じことを行います。
例えば、単語帳を読むときは、必ず日本語↔︎英語を繰り返します。そして、ダラダラと長時間続けないことです。小さなお子さんや小学生くらいならば、1日5分程度で十分です。
娘(すみれさん/以下同)が約2万語の単語を覚えたのは、ハーバード大学へ入学したいという目標があったからです。必要に迫られなければ普通に考えてそんなことはしないですよね。
小学校で英検1級、TOEFL何点とか、直前の受験に資格が必要で本人がそうしたくてやるのならばすればいいと思います。しかし、本来は何か目的があって、それを実現させるために英語を学ぶと思うので、日常に英語環境がない日本において、それを目標にするのは何か違う気がしませんか?

時間管理術でいくらでもやりたいことはできる!
娘はさぞかし長い時間勉強をしたんだろうと思われがちですが、小さい頃からやるべきことの優先順位をつける習慣を身につけていたので、ハーバードの試験の直前でも普通にヴァイオリンのレッスンに通っていました。そしたら、先生が「そろそろお休みして勉強しなくて大丈夫?」と心配してくださったほどです。
日本人は真面目な人が多いので、コレと決めたらそれだけに一生懸命になりがちです。でも、普段から優先順位をつけたり、To Doリストでタスク管理をしたりしていれば、いろいろなことの同時進行は可能なのです。
やるべきことの優先順位をつける方法は、親自身がどうしたら時間内でできるのかという姿を見せることです。例えば、「今日は仕事で帰りが遅くなるだろうと思っていたから、夕食の材料は昨日のうちに買っておいたし、仕事に行く前に材料は切っておいたの」と何気なく子どもの前で話をしたり、To Doリストを作っているのを見せたりすることです。子どものうちから時間管理術を教えてあげてください。
親は教えない! 環境整備と笑顔とユーモア
Q:目標を立てると親が先走ってしまうケースが多いと思うのですが、そんなときはどうしたらよいのでしょうか?
A:たまに親御さんが英語を教えているご家庭がありますが、“親が教える”のは基本的にやめた方がいいと思います。そもそも親が学んできた英語は時代遅れの可能性の方が高いからです。親は教えるのではなく、環境を整えてあげることに専念してください。
娘は、ハーバードへ行く前の留学経験はありません。ですが、娘が幼い頃から海外の友人を自宅に招いたり、英語を母語にしている人たちと触れ合ったりする機会は積極的に作るようにし、家庭の中でも英語に触れられる環境を整えていきました。なので、娘は幼稚園に入る前までは、日本人は全員バイリンガルだと思って過ごしていたようです(笑)。

親が先走ってしまう事例のほとんどが、子ども自身の選択を否定して、「あなたのためよ」とお節介をやいてしまうことです。それは環境整備ではありません。子ども自身の選択を否定せずに、可能性を広げるお手伝いをしてあげることを徹底してください。
親ができることは、環境整備と笑顔とユーモアです。どうしたら英語環境を整えられるか、いかに楽しく英語に触れていられるかを考えてあげてください。
英語力だけが大切なのではないということを忘れないで!
Q:これからの時代、”英語はできて当たり前”だと思うと、子どもが興味を持ってくれないことに不安を感じてしまいます。どのように英語に触れさせたらよいのでしょうか。
A:“英語ができて当たり前”というのは何を指しているのかを考えてみてください。今はAIがあります。
例えば、私は先日台湾へ一人旅に行きました。現地での会話は全てスマホに入れているAIアプリを使いましたが、困ったことはありませんでした。このように、旅をする場合においても、外国語ができないと本当に困るでしょうか?

また、私は地元の大分県で主催しているサマースクールに、毎回ハーバード大学の学生たちを面接と書類選考で招致しています。そのイベントに希望してくる学生たちのエッセイの中にも、「これはAIを使ったな」とわかるようなものも含まれています。今はそういう時代なのです。
このような時代においては、英語を学び始めることよりも先に、英語で何をしたいかを考える方が優先すべきことなのではないかと思います。
我が家は音楽が好きなので、何か楽器はやってほしいと思っていましたが、娘の場合はたまたまヴァイオリンを選び、それが好きなこと・得意なことになっていきました。ただ英語ができるだけでは何も起こりません。ヴァイオリニストとして、世界で活躍するためには、英語ができることは最低条件だったということです。
あの手この手で工夫をしても、英語に全く興味を示してくれないお子さんもいます。でも、それはタイミングが今ではないというだけです。そんなときは、「この子は興味がないかもしれないけど、この子の孫は英語好きになってくれるかもしれない」と思って接してみてください。そうすると気持ちが軽くなりますよ(笑)。親御さんの気持ちが軽くなると、意外とお子さんは伸びてきたりもします。イライラせずに、常に余裕を持って接してあげてください。

英語は好きや得意を伸ばすためのツール
どんな時代に置いても、自分の好きなこと・得意なことがあることは強みです。それが揺るぎない自己肯定感にも繋がり、得意なことで活躍できることは何よりの幸せだと思います。英語ができることが重要なのではなく、子どもの好きなこと・得意なことを伸ばすためのツールであることを考えながら、それぞれのご家庭にあった英語環境を模索してみてください。
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お話を伺ったのは

英語指導歴30余年の英語指導者、「ひろつる式」英語指導法を考案、3つの英語教育関連法人「ディリーゴ英語教室」「一般社団法人Summer in JAPAN 」「オンライン英語プリスクールGood Habits」を経営、一環して幼小中高生の英語教育に携わり、全国からオンラインで集う子どもたちの英語力向上に抜群の成果をあげている。長女の廣津留すみれが大分市の公立小中高校から塾なしでハーバード大に進学した年に創設したサマースクールSummer in JAPANでは現役ハーバード大学生が小中高生に本格的なスピーチやコンピュータ・サイエンスを教えるグローバル人材育成プログラムとして好評を博している。早稲田大学卒。
書籍に「英語ぐんぐんニャードリル」、「成功する家庭教育 最強の教科書」、「英語で一流を育てる 小学生でも大学入試レベルがスラスラ読める家庭学習法」ほか多数。
文・構成/鬼石有起 撮影/田中麻以