障害者手帳は持っていると、教育的配慮を受けられるのはもちろん、公共機関の割引や給付などの支援が受けられます。しかし、知的に遅れのない発達障害の場合、障害者手帳を給付してもらえるのでしょうか? 手帳の申請方法や取得するこによるメリットなどについて、発達障害や不登校の子どもたちのための個別学習塾「東京未来大学こどもみらい園」の斉藤幸枝先生に伺いました。
目次
発達障害で取得可能なのは「療育手帳」と「精神障害者保健福祉手帳」
障害がある人が取得できる手帳は、「身体障害者手帳」「精神障害者保健福祉手帳」「療育手帳」の3つがあります。手帳を取得すると、障害の種類や程度に応じて、福祉サービスや支援を受けることができます。
そのうち、発達障害のあるお子さんが取得を検討するのは、「療育手帳」と「精神障害者保健福祉手帳」になるでしょう。
「身体障害者手帳」の対象者
- 視覚障害
- 聴覚障害
- 肢体不自由
- 心臓、腎臓などの機能障害
- ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害 など
「精神障害者保健福祉手帳」の対象者
- 統合失調症
- うつ、そううつ病などの気分障害
- てんかん
- 高次脳機能障害
- 発達障害(自閉症、学習障害、注意欠陥多動性障害など)
- その他の精神疾患 など
「療育手帳」の対象者
- 知的指数が一定基準以下であって、次のいずれかに該当
・食事、着脱衣、排便および洗面など日常生活の解除を必要とする
・異食、興奮などの問題行動を有する
- 知的指数が一定基準以下で、盲、ろうあ、肢体不自由などを有する など
*上記は国によるガイドライン、具体的には自治体によって異なる。
「療育手帳」は地域によって名称が異なります
「療育手帳」は地域によって、「愛の手帳」(東京都・横浜市)、「みどりの手帳」(埼玉県)、「愛護手帳」(青森県・名古屋市)などの名称がついています。
18歳未満の場合、児童相談所で知能検査や行動観察などを受け、障害の程度によって、1〜4度や、重度・軽度などの区分で判定されます。この認定区分や基準は、自治体によって異なります。詳しくはお住まいの福祉事務所や障害福祉担当の窓口に問い合わせるか、ホームページなどで確認してください。
「療育手帳」の申請方法
- 自治体の障害福祉担当窓口に相談
- 18歳未満は児童相談所で判定の予約をする(自治体によてい年齢更新もある)
- 診断書などの必要書類を揃えて、面接・聞き取り調査があり、判定を受ける
- 判定から約1か月程度で郵送などで通知される
発達障害は「精神障害者保健福祉手帳」に
IQは高く、知的障害はないけれど、社会性や注意力などに問題がある発達障害のあるお子さんの場合は「精神障害者保健福祉手帳」になります。こちらも障害の程度によって3つの区分があります。また申請には医師の診断書が必要になります。
「精神障害者保健福祉手帳」の申請方法
- 自治体の障害福祉担当窓口で書類をもらう
- 医療機関で問診、検査などを受け、精神障害者保健福祉手帳用の診断書を作成してもらう
- 必要書類を揃えて、自治体の障害福祉担当窓口へ書類を提出
- 申請から約2か月程度で発行される
*病院ではじめて診察してから、6か月を経過していることが条件
*有効期間が2年間で更新が必要
発達障害の子供が手帳を取得すると、就学や就労時に役立つメリットが
手帳を取得すると下記のようなメリットがたくさんあります。
給付金や割引など、金銭的援助もそうですが、就学や就労に役立つメリットもあります。お子さんが小さい場合、特別支援学校に入るには、手帳の写しが必要となる場合があります。現在は特別支援学校や特別支援学級への進学を希望する子が増えていて、手帳がないと入りにくい地域もあります。また、将来的には、就労時に「障害者雇用枠」での就労を目指すことが可能となります。一般就職が難しいかもしれないと思う場合は、かかりつけ医に相談してみるといいでしょう。
「療育手帳」や「精神障害者保健福祉手帳」を持つメリット
-
保育、教育面の援助
自治体によっては保育園への入園に際して、優先順位が高くなる
特別支援学校への入学希望の際、手帳の写しが必要になることがある
- 就労に向けての援助
障害者雇用枠での就労が可能になる
就職後、職場に配慮してもらいやすい
- さまざまなサービスや割引・給付が受けられる
公共交通機関の割引
各種料金の割引減免(有料道路、携帯電話の割引など)
- 各種施設のサービス割引
レジャー・スポーツ施設で無料もしくは割引、または利用に際してのサービスや支援を受けることができる
- 給付・税の減免や控除
- 手当の給付
*受けられるサービスは手帳の種類や自治体により異なるので、具体的にはお住まいの自治体へお問い合わせください。
手帳取得の第一歩は家族の障害受容
手帳を持つことにデメリットは特にありませんが、障害受容をきちんとできていない場合は、心理的に落ち込む場合があるかもしれません。
本人はもちろんのこと、保護者によっては、自分の子どもが障害を持っていることを認めたくないこともあり、手帳の取得を拒む場合があります。
一方で、手帳取得と望んでも、IQの数値など、判定基準を満たさないと、取得できない場合があります。また、地方自治体によってサービスにばらつきがあるのも現実です。
手帳は将来に備えるための保険
手帳を持つことに抵抗がある人もいるかもしれません。でも、手帳を持っていることを、あえて人に言う必要はないし、手帳を持っていることを悲観することもありません。手帳はお子さんのお守りだと思ってみてはいかがでしょう。これから先の就労などで、うまくいかなかったときのために備える保険と思ってみては? 割引や給付などのサービスも多いので、取得するなら早い方がいいでしょう。
お話を伺ったのは
斉藤幸枝先生
東京未来大学こどもみらい園園長。製薬会社の研究室勤務を経て公務員に転職。東京都足立区衛生試験所長をスタートに福祉や保健、総務等の管理職を経て、2007年には足立区初の女性教育長に就任。2011年に退任し現在に至る。
発達障害の子に寄り添う子育てバイブルです。
構成/江頭恵子