「入園前にできてないとダメなことは?」「行きたくないと言いだしたら?」入園直前の不安と疑問にベテラン園長先生が回答

4月に入園を控えて、不安なおうちの方もいるはず。入園に向けた心構えのほか、入園してから生じる園生活での悩みや疑問を、東洋英和女学院大学付属かえで幼稚園園長の大漉知子先生に伺いました。

「入園前にできないとダメ」ということはありません

当園では、これから子どもが入園する方に向けて、「これができていないと困る」とお伝えすることはありません。子どもによって発達の速度は違いますが、発達の順序はみんな同じです。「やがてこれができるようになるといいな」と楽しみに待ちながら、その子の育ちに応じた生活を支えていくうちに、成長していくものです。

生活習慣に関しても、それは同じです。園から「おむつは外してきてください」「お箸を使えるようにしてください」とお願いすることはありません。入園時のスタートラインは違いますが、それぞれのタイミングで身につけていけるよう日々の生活の中に機会をつくり、園と家庭とで支えていきます。

自分でできるうれしさを一緒に味わって

食事や身じたくなどがなかなか自分でするようにならず、「やって」とねだって甘えるわが子にやきもきすることもあるでしょう。

私は「やって」は「自分でできるようにお手伝いをして」という意味だととらえています。親しい大人に「今日はここを手伝うから一緒にやろうね」と手を貸してもらいながら、子どもが自分でするうれしさを、大人も一緒に味わうことが自立を助けます。

早くすべて自分ひとりでできるようになること以上に、できないことは、まわりに「手伝って」「助けて」と言えることが大切です。おうちの方自身も「できない時はまわりに委ねていい」という気持ちを持っていれば、それが子どもに伝わり、安心させるでしょう。

【大漉先生からおうちの方へ】入園に向けた心構え3つのポイント

①他の子と比べず、わが子の「今」に目を向けて

まわりの子どもの発達の速度が気になるかもしれませんが、スタートラインは全員バラバラなのが当たり前。「今」のお子さんの姿に目を向け、昨日より成長したことを親子で喜びあいましょう。

②親子で「楽しく歩く」習慣づくりを

入園前に歩く経験が少なく、歩くことが苦痛になる子どももいます。徒歩通園に限らず園生活では歩く機会が増えるものです。手をつなぎ、楽しみを見つけながら歩く習慣は親子のふれあいにもなります。

③「幼稚園」が安心できる場であるように支える

子どもに対して「それじゃ幼稚園に行けないよ」と言いたくなることもあると思いますが、入園前の子どもに「幼稚園は怖いところ」と思わせてしまいます。「あの遊具で遊ぶの楽しみだね」「どんなお友達がいるかな」など、入園に向けて期待が膨らむような言葉をかけましょう。

園生活での気になる疑問Q&A

園生活の様子を紹介しながら、それぞれの場面でのおうちの方の疑問をピックアップします。

登園

園長である私は、毎朝園の門の横で、登園してくる親子を見守っています。園の手前になってグズグズと甘える子どももいますし、園に入ると気持ちを切り替えて入ってくる子もいます。

Q:朝起きるのが苦手です。スムーズに起きられるようにするにはどうしたらいいでしょう?

A:夕食後は眠りにつくための環境づくりを

社会の状況も変わってきていますが、子どもにとっての早寝早起きの大切さは変わりません。難しい家庭もあると思いますが、夕食後は明かりを落とすなど入眠の準備をし、20時にはふとんに入ることを目指すと、朝の目覚めもよく、一日が健やかにすごせます。

Q:「行きたくない」と嫌がることがあります。簡単に休ませると、休みグセがついてしまいそうで心配です。

A:本人の気持ちを受け止め“お疲れ”休みをしても

行きたくない原因が園にあるようなら園にご相談されるといいでしょう。特に理由がないものの、気持ちが前に向かない場合は“お疲れ”休みの日にしてもいいと思います。ちゃんと気持ちを受け止めてもらい、休息が取れたら、動き出す時が来ます。あまり心配せず、大らかに受けとめましょう。

Q:園の前で泣いてしまい、なかなか中に入れません。いつ頃まで続くのでしょうか? 親はどう対応するのがいいでしょう?

A:子ども自身が落ち着き安心するまで泣かせてあげます

入園して間もない4 〜5月ごろは泣いてしまう子もいます。園の前で泣くのはおうちの方への要求や甘えであることが多いので、ひとしきりつきあってから園の中に入ると、気持ちが切り替わることがほとんどです。園が安心できる場所だとわかるとスムーズに入れるようになってきます。

身じたく

子どもは先生に教わりながら、何度も繰り返して身じたくの流れを覚えていきます。最初から完璧にできなくて大丈夫!

Q:家だと親に甘えて自分で着替えもできません。園でも同じように先生に甘えて、迷惑をかけてしまいそうです。

A:「集団の力」により園では、自分でするようになります

集団の力は大きく、家では自分で何もやらないのに、園では自分で身じたくする子も多いです。園でも甘えたい子には、「今日は特別に先生がボタン全部閉めるね」とやってあげることも。そんな子も「今日はここまで手伝うね」と繰り返すうち、自分でできる力を身につけます。

活動

かえで幼稚園の場合は、子どもが自分で遊びの内容を決める時間をたっぷり取っています。それ以外に、担任が主導する集団遊びの時間も子どもにとってうれしい時間です。

Q:マイペースで、お友達と一緒に遊ぶのが苦手です。園での活動でうまくお友達の輪に入っていけるでしょうか?

A:ひとりで遊ぶ時間もとても大切です

友達と遊びたいのに言葉のかけ方がわからず困っているような子どもには、先生が間に入って関わりをつなぎます。ひとりでの遊びに集中している子どもは、その気持ちを大切にして見守ります。ひとりでの遊び時間も、友達と遊ぶ時間も両方とも大切にします。

Q:引っ込み思案な性格なので、トイレに行きたい時に、ちゃんと「トイレ」と言えるか心配です。

A:担任に心配を伝えて対応してもらいましょう

引っ込み思案な性格の子どもを持つおうちの方の心配は毎年聞かれます。心配は担任の先生に率直に伝えるといいでしょう。最初は先生から「トイレに行きたいの?」と聞かれるだけでも緊張するでしょうから、トイレに行きたい素振りが見られた時にそっと手を引いて一緒に行くなどして支えます。

Q:子どもどうしのケンカやもめごとが起きた時は、園ではどのように対処するものですか?

A:危険がなければ解決までを見守ります

私はケンカやもめごとを経験するためにも園があると思っています。もちろん、ケガの危険がある時などは止めますが、そうでなければどう解決するかも子どもに委ねます。その日のうちに解決しない場合は、一旦担任がそれぞれの言い分を聞いて気持ちを受け止めることもします。

お弁当

最初のうちはおにぎりのお弁当から始めています。お箸(やフォーク)を使う習慣も少しずつ重ねていきましょう。

Q:食が細いほうなので、好きなもの、食べやすいものを入れてあげたいです。好きなものばかり入れるのはよくないでしょうか?

A:全部食べきることが子どもの喜びに

子どもにとっては全部食べきってごちそうさまができたことがとてもうれしい経験に。わざわざ苦手なものを入れる必要はないと思います。好き嫌いを減らしたい、栄養をとらせたいなど、いろいろと考えることはあるでしょうが、まずは「楽しく食べる」ことを優先していただけたらと思います。

降園

登降園時に先生とおうちの方があいさつを交わすことが大事です。子どもはあいさつを学ぶとともに、先生とおうちの方の信頼関係を感じます。

Q:親自身がコミュニケーションをとるのが苦手です。ママ友パパ友はどうやってつくればいいのでしょうか?

A:あいさつ程度の会話からゆるやかに関係を育んで

ママどうし、パパどうしの関わりに、わずらわしさや緊張を感じる方も少なくないでしょう。いきなり連絡先を交換したり、深い話をしたりする必要はなく、最初は「おはようございます」と、あいさつを繰り返して、ゆるやかに人間関係を育んでいければいいと思います。

Q:園での生活の様子が知りたいけれど、先生にどのように切り出したらよいか悩んでしまい、質問をためらってしまいます。

A:担任も話したいはず。あいさつをきっかけに

担任もできればすべてのおうちの方と話したいと思っているはずです。「さようなら」とあいさつの声をかけていただくことが話すきっかけになることも。バス通園などで担任と話せるタイミングがなく、おうちの方から聞きたいことがある場合は、ぜひ連絡帳に質問を書いてください。

帰宅

子どもにとって、おうちは安らぎの場所であってほしいと思います。夕飯の時間などにその日あったことを伝えあえるといいですね。

Q:園でお友達に嫌なことをされたと言っています。園から何も言われていなければ、直接相手の親御さんに聞いたほうがいいですか?

A:園のお友達であれば園に相談するのが安心

たとえ園外で起きたことだとしても、園のお友達とのトラブルについては、園の先生に相談し解決方法や関わり方を考えることもひとつです。入園まもなくの、まだ親どうしの信頼関係ができていない時期であればなおさらです。親どうしの関係を助けるのも、園の仕事だと考えています。

Q:園でどんなことをしたのか子どもに聞いても、よくわかりません。どのように質問するとうまく答えを引き出せるのでしょうか?

A:質問ばかりせず表情から感じ取って

めばえっ子世代だと、言葉で伝えるのは難しいので、表情から読みとってみましょう。「何があったの?」と質問するよりは「今日も楽しかったね」「いっぱい遊べたね」とおうちの方から言葉をかけるのでいいと思います。そこから「こんな遊びをしたよ」と話が広がるかもしれません。

【これから園を選ぶおうちの方へ】園選びのポイントは?

おうちの方は、子どもが楽しく過ごせる園を選びたいとお考えになると思います。そうであっても子ども本人に選ばせるのではなく、おうちの方が選んでほしいと私は考えています。

子どもは遊具の物珍しさや、見学の際にお土産がうれしくて「あの園に通いたい!」と言うかもしれませんが、保育の中身や見通しをもっての選択ができる年齢ではありません。

おうちの方自身がここで子どもを過ごさせたいと思えるか、価値を感じるものがそこにあるか、人生で大事だと思うことを子どもに伝えてもらえるか、などの観点から選ぶのがよいと思います。「おうちの方が一生懸命考えて、決めてくれた幼稚園に通う」ということは、子どもにとってプレゼントのようなものです。

教えてくれたのは

大漉 知子先生
東洋英和女学院大学付属かえで幼稚園園長。キリスト教を教育の基盤とした園で、子ども自身が愛されているという安心のもと、主体性を持ってやりたいことに取り組める保育を大切にしている。

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再構成/HugKum編集部

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