ゲームに負けるたびに「泣く」「怒る」勝ち負けにこだわる子にどう向き合う? 悩む親の視点から、子どもの心の専門家・松丸未来さんに聞いてみた

ゲームや遊びで負けた瞬間、怒ったり、泣いたり、物を投げたり……。そんな子どもの姿に戸惑ったことはありませんか。実は、11歳息子の母である筆者もその一人。負けた途端に大荒れする息子に「またか…」とため息をつきつつ、「どうして、うちの子だけ?」と不安になることがあります。

そこで今回は、25年以上も子どもの心のケアに携わってきた臨床心理士、公認心理師の松丸未来(みき)さんに、「勝ち負けにこだわる子」の心の中で起きていること、親の関わり方について伺いました。

勝ち負けへのこだわりは、子どもにとって自然な姿

──家族でゲームをしているとき、負けた瞬間に子どもが怒ったり物を投げたりします。なぜ、子どもは勝ち負けにこんなに強く反応するのでしょうか。

松丸さん こうしたご相談は本当によくいただきます。親御さんとしては戸惑ってしまいますよね。でも、子どもが勝ち負けに強く反応するのは、「脳」の発達段階を考えるとごく自然なことです。

というのも、気持ちを抑えたり状況を整理したりする“理性のブレーキ”を担う「前頭前野(ぜんとうぜんや)」は、25歳ごろまでゆっくり発達が続くといわれます。そのため、 状況を理解できているように見えても、まだブレーキが十分に利かないことが多いです。 

一方で、「悔しい」「負けたくない」といった強い気持ちを生み出す「大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)」は、幼いころからとても活発に働きます。そのため、子どもは感情の高ぶりのほうが先に表に出やすい状態になっているんです。 

―― つまり、「負けて悔しい!」と強く反応してしまうのは、成長過程では自然な姿なんですね。

松丸さん  そうなんです。特に小学校低学年ごろは、目の前の出来事に気持ちが強く引っ張られやすい時期。そのため、「勝った・負けた」に感情が左右されやすくなります。 

ただ、こうした反応は成長とともに少しずつ落ち着いていきます。私の感覚では、小学4年生ごろまでが「勝ちたい」という気持ちがもっとも強く出やすい時期です。

高学年になると視野が広がり、その場の勝ち負けだけで判断するのではなく、周囲の状況や次にどうするかまで考えられるようになります。負けても「今回は負けたけれど、次に頑張ろう」と気持ちを切り替えられるようになるんです。

「負けたくない!」は、生きる力の強さ

―― 同じ「負け」なのに、泣く子と平気な子。その違いはどこにあるのでしょう。

松丸さん その違いには、大きく2つの理由があると思います。

まず1つ目は、「生存本能に近い反応の強さ」です。人間には、危険から身を守るための原始的な仕組みが備わっています。これは、「勝つことで生き延びてきた」動物の歴史の名残でもあり、負けそうになると体が緊張したり、悔しさが一気に高まったりする子がいます。

こうした反応が強い子ほど 「勝つ=安全」「負ける=危険」という感覚が働きやすく、涙や怒りとして表に出やすくなります。裏を返せば、その子は“生きる力が強いタイプ”とも言えます。

そしてもう1つは、「価値観の違い」によるものです。「勝つこと」がその子にとって大きな意味を持つ場合、負けることは自身の価値を揺るがす出来事となり、気持ちが大きく揺さぶられます。とくに、「強い自分でいたい」「できる自分でいたい」という思いが強い子ほど、負けることを自分への否定のように受け止めやすくなります。

 一方で、「友だちと楽しく遊べればそれでいい」と感じる子は、同じ負けを経験しても、それほど気にしません。

 ――負けを受け入れられないのは、その子のプライドが高いからでしょうか。

松丸さん  「うちの子、プライドが高いのかな」と心配される保護者も多いのですが、実は少し違います。子どもが怒ったり、泣いたりするのは、「負けた自分」と折り合いをつける力が育っている途中だからです。

子どもが負けを認められない背景には、次の3つの理由が考えられます。

心と現実のギャップ: 「理想の自分」と「負けた現実」の差に気持ちが追いつかず、その葛藤が涙や怒りとなって表れるため。

・成功体験の影響:「怒れば状況が変わる」経験を重ねると、怒りで周囲をコントロールしようとする感覚が強まることもある。

・思考の未熟さ:完璧主義や白黒思考が強い子ほど、「勝つべき」「負けるなんてありえない」と考えやすく、「ま、いっか」「次、頑張ろう」といったやわらかい発想が育っていない。そのため、負けを受け止めるのに時間がかかる。

つまり、負けたときに泣いたり怒ったりするのは、子どもが心の折り合いのつけ方を学んでいる成長途中の姿と言えるでしょう。

「気持ちの耐性を育てる時間」の減少が、勝ち負けへのこだわりに関係していることも

――親としての実感や周囲の話から、勝ち負けにこだわる子が増えている印象もあります。実際のところいかがですか

松丸さん  「増えている」という印象は、私自身は持っていません。ただ、もしそのように感じる場面があるとすれば、背景にある環境の変化に目を配る必要があります。

例えば、現代は遊びの中心がテレビやスマホなどのゲームになり、勝ち負けがあっという間に決まってやり直しも簡単にできるようになりました。そのため、負けた気持ちを抱え続ける経験――いわば「気持ちの耐性を育てる時間」が減っている可能性があります。 

また、欲しい情報がすぐ手に入るようになったことで、あいまいな状況にじっくり向き合う機会が少なくなっていることも一因として考えられます。

いずれにしても、結果を急ぎがちな現代社会のスピード感が、子どもを勝ち負けに対して過敏にさせている側面はあるかもしれません。

親はどう関わればいい? カギは「言語化」という心の交通整理

――子どもが泣き叫んだり、物を投げたりするような「感情が大きく揺れる場面」において、親はまずどのように対応すればいいのでしょうか。 

松丸さん  感情が爆発してしまう場面に向き合うのは、本当に戸惑いますし、気持ち的にもかなり疲れてしまいますよね。

まず知っておいてほしいのは、爆発している最中の子どもは、自分でも気持ちをコントロールできない「暴走状態」にあるということ。このときに「止めなさい」「落ち着いて」と分からせようとしても、かえって火に油を注いでしまうことがあります。 

まずは、安全を確保すること。物を投げそうなら周囲の物を避けたり、「こっちに行こう」と声をかけて、感情を出しても大丈夫な場所へ移動できたりするといいですね。

――親がやってはいけないことはありますか?

松丸さん 怒鳴ったり、物を投げたりするなど、恐怖で子どもを抑えつけることはNGです。力ずくでコントロールすれば子どもの暴走は止まるかもしれませんが、それは恐怖でフリーズしているだけ。子どもの心には強いダメージが残ります。脳の「危険センサー」が過剰に働いている状態だからこそ、まずは安心できる環境を整えることが第一です。  

―― 気持ちが落ち着いたあとは、どんな関わり方をするといいのでしょうか。 

松丸さん  残念ながら、気持ちを一瞬で切り替えられるような特効薬はありません。だからこそ、落ち着いたタイミングで少しずつ感情を言葉にできるよう、日々の声かけで支えていくことが大切です。 

例えば、「すごく悔しかったんだね」「勝ちたかったんだね」と、まずは親が気持ちを言葉にしてあげます。そのうえで、「どんなところが悔しかった?」「次はどうしたい?」といっしょに振り返るといいでしょう。

その後に、あえて「負けるってどんな気持ち?」と聞いてみるのもおすすめです。親としては想像で補いたくなりますが、子どもの言葉を待つことが大切です。

「お母さんも悔しいときがあるよ。でも、“ま、いっか”って考えるようにしているんだ」など、大人自身の気持ちの整え方を伝えるのもいいですね。「こういう考え方もあるかもね」とやりとりすること自体が、感情を整理する練習になります。

言葉にすることは、いわば「心の交通整理」。頭の中で混ざっていた感情が整理されることで、子ども自身も気持ちに向き合いやすくなります。

――怒る気持ちを否定せずにいったん受け止め、その気持ちを言葉にしながら整理していくことが大事なんですね。  

松丸さん そうなんです。「怒ること自体は自然なこと。でも、人を傷つけない伝え方を考えることが大切だよ」と伝えていくといいと思います。

また、怒りや悔しい気持ちに「ムッキー」「キー太郎」など親しみやすい名前をつけて、「ムッキーが出てきたら、いったん場所を離れようね」とクールダウンを提案するのもいいでしょう。繰り返し伝えているうちに、子ども自身も気持ちを客観的に捉えやすくなります。 

「ゲームでわざと負ける」ことが、勝ち負けへのこだわりを減らすことにつながる

――家庭でのゲームの関わり方は悩むところです。親は、わざと負けたほうがいいのでしょうか。

松丸さん 親御さんの中には、「わざと負けるのはよくないのでは」と感じる方も多いですよね。でも、こだわりが強い子に大人が本気で勝ちにいくと、本人には「拷問」のように感じられることもあります。

負けることへの耐性がついていない子どもに親ができるのは、わざと負けること。そこから少しずつ負けそうな展開をつくったり、大逆転の展開を入れてみたりして、ゆるやかに負ける経験を積み重ねていくといいでしょう。

ときには、「うわ〜、負けちゃった〜!」と負けても楽しそうにしている大人の姿を見せるのもおすすめです。子どもも「負け=悪いこと」という思い込みから少しずつ離れられます。

―― きょうだいで勝ち負けにこだわるタイプだと、親が「わざと負ける」などの調整が難しいと思います。そんなときどうすればいいのでしょうか。

松丸さん たしかに、きょうだいだとバランスを取るのが難しい場面もありますよね。そういうときは、そもそも「勝ち負けが強く出ない遊び」に切り替えるのも一つの方法です。

例えば、2人で協力してクリアを目指すゲームや、大人数でワイワイ楽しむ遊びにすると、自然と勝敗へのこだわりが和らぎやすくなりますよ。  

親が抱える「勝ちたい気持ち」や「不安」を手放すと、心はぐっと軽くなる 

―― 子どもが勝ち負けで荒れる場面では、親のほうがぐったり疲れてしまうこともあります。気持ちをラクにする方法はありますか?

松丸さん  勝ち負けにこだわる子どもを前にすると、「こんなことにこだわっていて、この子は大丈夫かな」と不安になるでしょうし、「何もできない自分はダメなんじゃないか」と自身を責めてしまうこともあるでしょう。

ただ、子どもはもともと勝ち負けにこだわりやすく、それは成長の途中で自然に見られる姿でもあります。「まだ成長の途中だから、しょうがないよね」と事実として受け入れることをおすすめします。そうやって不安や自身を責める気持ちを手放せると、親御さんの心もぐっとラクになっていくと思います。

こだわり=エネルギー」子どもがうまく使いこなせるように伴走を

―― スポーツなど、勝ち負けへの強い思いがプラスに働く場面もありますよね。どのような場合は見守ってよく、どのような場合はサポートが必要になりますか。 

松丸さん  勝ち負けへの強い思いは、スポーツでは大きな力になります。ただ、こだわりすぎて怒ったり、レッドカードになったりするような行動で自分の努力を台無しにしてしまうなら、サポートが必要です。

まず「何を大切にしたいのか」をいっしょに確認し、その目標からズレていないかを考えていきます。「勝つためにはルールを守ることも大事だよね」と問いかけながら、子ども自身が気づけるように関わることが大切です。 

――成長とともに勝ち負けへのこだわりが落ち着いていく子も多いと思いますが、もし大きくなっても「負けたくない」という気持ちが強く残った場合、その子らしい強みとして生かすこともできるのでしょうか。

松丸さん 小学校の高学年くらいになると、「負けたくない」という気持ちが、「自分が本気でやりたいことにこだわる力」へ変わっていく子も多いですね。そうした気持ちは、人より努力したり、粘り強く頑張れたりするエネルギーにもなります。

こだわるポイントは人それぞれですが、その力を生かしながら、人とうまく関わる力も少しずつ身につけていけるといいのかなと思います。

 ――最後に、勝ち負けに強くこだわる子を見守る保護者の方へメッセージをお願いします。 

松丸さん  「負けたくない」という強い思いは、本来、子どもが持っている大切なエネルギーでもあります。今はまだ扱い方が未熟なだけで、経験を重ねながら少しずつ身についていくものです。 

親御さんには、「この力を、これからうまく使えるようになるといいね」と伴走するような気持ちで寄り添ってもらえると、子どもは安心しながら成長していけると思います。

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お話を聞いたのは

松丸未来 臨床心理士、公認心理師

認知行動療法を専門に、約25年にわたり学校臨床に携わる。子ども支援に加え、保護者・教職員へのコンサルテーションや心理教育など包括的なスクールカウンセリングを実践。近年は難民支援にも取り組む。現在は公立小学校・日本人学校スクールカウンセラー、東京認知行動療法センター心理士。著者に『よくわかる 学校で役立つ子どもの認知行動療法-理論と実践をむすぶ』(遠見書房)、監修に『子ども認知行動療法 怒り・イライラを自分でコントロールする!』(ナツメ社)、『思春期の心理を知ろう!心の不調の原因と自分でできる対処法』(PHP研究所)など、監修、監訳、翻訳など多数。

この記事を書いたのは

あゆーや ライター

息子とのおでかけや体験を言葉にして届けることを大切にしながら、教育や暮らし、食など身近なテーマも執筆しています。編集プロダクションで育児・美容・健康など多様なジャンルに携わり、育てた取材の目。現在はフリーライターとして活動し、“自分がすっと理解できる言葉”を選ぶことをモットーに、読者に寄り添う文章を心がけています。親子の体験記事を『マイナビ子育て』で連載、自サイト『アソンデミエータ』でも発信中。

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