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小1の壁はなぜ起きる? 今の子供を取り巻く環境の変化
――昔と比べて、小学1年生を取り巻く環境で大きく変わった部分はあるのでしょうか。
高祖さん:やはり共働きが当たり前になったことだと思います。もう一つは、社会全体の“優先順位”の感覚です。日本は「仕事優先で、家族はその次」になりやすい傾向があると感じます。もちろん「仕事を辞めよう」という話ではなくて、ピンチのときにどうするかを、家庭として考えておくことが大切だと思います。
――共働き家庭で顕著にあらわれる「小1の壁」には、どんな特徴がありますか?
高祖さん:小学校は授業時間が決まっているため、学童を利用したとしても、保育園ほど親の働き方にフィットしないことが多いんです。その結果、親のタイムスケジュールと子どもの生活リズムが合わず、想像以上に「動きにくい」と感じるご家庭も少なくありません。
保育園では長時間の預かりが当たり前だった分、小学校に入ってからの時間の制約に戸惑う家庭も多いですよね。
このギャップが、親の働き方と子どもの生活リズムのズレを生み、「小1の壁」を実感する大きな要因のひとつになっています。
入学直後につまずきやすい子どもの変化と、親ができる関わり
――生活リズムに慣れるまで、子どもに起こりやすい典型的なつまずきにはどんなものがあるでしょうか。
高祖さん:いちばんは「緊張」だと思います。親は「仕事を続けるために困ること」に意識が向きがちですが、当事者は子ども。環境が変わり、教室も人間関係も全部新しい。クラスによっては知っている子が少ない、もしくはいないこともありますよね。
緊張すると疲れます。疲れると眠い、イライラする、かんしゃくが増える、きょうだい喧嘩が増えることもある。少し落ち着いてくると宿題が出始めますが、宿題の習慣がないところに「うまく書けない」が重なると、さらにイライラして悪循環になりやすいですね。

――子どもの緊張をケアするために、親ができることはありますか?
高祖さん:まずは「子どもは疲れている」という前提を、親が頭に置くこと。今までできていたことができなくなる場面もあるかもしれません。でもそこで「小学生になったのに」と責めるのではなく、子どもが安心して過ごせる関わりを大切にしてほしいですね。
そして生活リズム。起点は「朝、何時に出るか」です。そこから逆算して、起床・朝食・就寝・夕食の時間を整える。きっちり決めすぎなくてもいいですが、低学年ほど「同じ流れ」があるほうが落ち着きやすいと思います。
学童・学校生活でつまずいたときの対応と声かけ
――学童での過ごし方について、親が気を付けたい点について教えてください。
高祖さん:学童も場所によって環境が違います。大人数でざわざわした空間が苦手な子は、にぎやかな環境にいるだけで気疲れすることもあります。
学校も学童もほぼ同時にスタートするので、子どもにとっては新しい環境が2つ同時に始まるわけです。大人でも新しい職場は緊張しますよね。
可能なら、事前に見学して「どんな雰囲気か」「静かに過ごせる場所があるか」などを確認できると安心です。選べない場合が多いとしても、心構えができますし、心配な点があれば学童側に相談もしやすくなります。
――学校や学童の行き渋りが出たとき、親が気を付けたいことは?
高祖さん:朝に「おなかが痛い」「頭が痛い」と言う子もいます。心と体はつながっているので、まずは「仮病」と決めつけずに、「そうなんだね」と気持ちを受け止めてほしいですね。
休ませるかどうかは状況次第ですが、「今日は休みにして、明日はまた行けるといいね」など、休むのは“ずっとじゃない”と見通しを添えるのも一つの方法です。疲れがたまっていることもあるので、時には少し息をつく日があってもいいと思います。
子どもの話を引き出すコツ&学校との上手な連携
――子どもの話を聞き出すときのポイントはありますか?

高祖さん:「今日はどうだった?」「先生は?」「友だちは?」などと質問攻めにすると、子どもは“事情聴取”のように感じてしまうことがあります。
ポイントは、子どもが話したいタイミングを逃さないこと。夕飯を作りながら、洗濯物をたたみながら、横並びで雑談する。献立表や行事予定を把握しておいて「今日の給食カレーだった?」みたいな軽い話題から入る。具体的に聞くことで、子どもは話しやすくなることが多いですね。
――先生との距離感についてはどうでしょうか。家庭の様子はどのくらい伝えるべきか悩みます。
高祖さん:気になることがあれば、連絡帳や電話などで伝えて大丈夫です。「情報提供」というスタンスで伝えると、先生側も子どもの理解がしやすくなります。ため込みすぎないことが大切ですね。
――親自身の人間関係で気を付けておきたいことは?
高祖さん:小学校に入ったからといって「新しくママ友・パパ友を作らなきゃ」と無理しなくて大丈夫です。ただ、持ち物や行事の確認などで、連絡がつく人が1〜2人いると助かる場面はあります。
保護者会で話しやすい人がいたら、可能な範囲でつながっておくのもいいと思います。PTAも学校によって形が変わってきているので、参加できる範囲で関わることで学校の様子が分かることもあります。
夫婦の分担は「I(アイ)メッセージ」と「見える化」、家族会議も有効
――夫婦で協力し合うために、話を進めるときのポイントはありますか?
高祖さん:まずは、家族の予定や子どもの行事を「見える化」することが大切です。カレンダーアプリなどで共有しておくと、「どちらがいつ対応するか」が分かりやすくなります。
話し合いの場では、「なんでやってくれないの?」と相手を責める言い方ではなく、自分を主語にした伝え方=I(アイ)メッセージを意識してみてください。「私はここで困っているから、ここをお願いできる?」と具体的に伝えるだけでも、受け取り方は大きく変わります。

高祖さん:また、子どもも「チームの一員」として家族会議に入れるのも一案です。できる範囲の役割(靴をそろえる、洗濯物を半分たたむなど)を決めて、表にして貼る。また、一度決めた分担も、生活が変われば合わなくなることがあります。定期的に見直す“家族会議”のような場をつくり、無理のない形にアップデートしていくのがおすすめです。
入学前後の準備と親の心構え。“4〜5月は慣れる期間”
――年長のうちに練習しておくと「小1の壁」が軽くなる習慣はありますか?
高祖さん:いちばんは生活リズムです。通学に何分かかるか歩いてみて、出発時刻から逆算して起床時刻を決める。入学直前の2週間くらいでもいいので、少しずつ合わせていくとラクになります。
あとは通学路を親子で歩いて危険箇所を確認すること。マンションのエレベーターなども含めて、必要なら無理のない範囲で安全の工夫を話しておくと安心です。
――事前におさえておくべき学校・学童の情報は?
高祖さん:まずは門が開く時間。早く行き過ぎると待つことになります。次に登校班があるかどうか、見守り体制がどうなっているか。
学童が学校内か、別の場所か。別なら「どう移動するか」。帰りは「何時まで子どもだけで帰れるのか/保護者迎えが必要か」などのルールも確認しておくと、夫婦のお迎えの分担や外部サポート(ファミリーサポート等)を考えやすくなります。外部サポートは登録に時間がかかることもあるので、「使うかもしれない」なら早めに選択肢を持っておきましょう。
――入学前の親の心構えとして、最も大切なことは何でしょうか。
高祖さん:親は仕事の時間を中心に生活を組み立てがちですが、入学時期は子どもがストレスを抱えやすく、緊張して疲れています。できれば4〜5月は、仕事のスケジュールも少し余裕を持たせて、臨機応変に対応できる態勢を作っておけるといいですね。
園と小学校の接続を滑らかにするために、国としても「幼保小の架け橋プログラム」などが進められていますが、家庭側も「慣れるための移行期間」を意識できると、親子ともにラクになります。
最初はうまくいかなくて当たり前。親子で“慣れる時間”を作って
高祖さん:繰り返しになりますが、初めての生活でいちばん疲れるのは子どもです。親も大変だけれど、親が自分のことでいっぱいいっぱいになってしまうと、子どもの変化に気づきにくくなります。
春は習い事を増やしたくなる時期でもありますが、まずは小学校と学童という「初めて」に慣れてから、落ち着いてスタートするのも一つ。親子ともに“緩やかな助走期間”を意識して、「今日も頑張ったね」と言い合えるような毎日を作っていけるといいですね。
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「小1の壁」は、起きる出来事そのものよりも、親の働き方と子どもの生活が“合わない”ところから困りごとが増えていく、という視点が印象的でした。身構えすぎず、でも「わが家の場合は何が心配?」を具体化して、選択肢を増やしていく。親は仕事の調整であたふたすることもありますが、子どもを中心に、少しゆとりをもって見守れる環境を作っていけたら、親子ともに無理なくこの時期を乗り越えていけそうです。
取材・文/やまさきけいこ
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お話を聞いたのは…
資格は保育士、幼稚園教諭、社会教育主事(任用)、ピアカウンセラーほか。NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク副理事長、NPO法人ファザーリング・ジャパン副代表理事マザーリングプロジェクトリーダー、NPO法人タイガーマスク基金代表理事、子どもすこやかサポートネット副代表ほか。
全国13万部発行の『育児情報誌miku』編集長として14年間活躍。育児誌を中心に編集・執筆を続けながら、子ども虐待防止と、家族の笑顔を増やすための講演活動、ボランティア活動も行う。地方紙にて「育児コラム」連載、オールアバウト「子育て」ガイドとしての記事執筆ほか。
著書は『感情的にならない子育て』(かんき出版)、『どう乗り越える?小学生の壁』(風鳴舎)、『男の子に「厳しいしつけ」は必要ありません』(KADOKAWA)、編著は『ママの仕事復帰のために パパも会社も知っておきたい46のアイディア』(労働調査会)、『パパ1年生』(かんき出版)、『新しいパパの教科書』(学研)ほか。3児の母。
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