「着替えがスムーズにできない」ならフラフープを用意。「消しゴムが苦手」なら力加減を教える。発達に関わる困りごとに効く“おうちサポートの工夫”を紹介!【公認心理師・湯汲英史先生に訊く】

新1年生が小学校に入学し、そろそろ1学期が経過。子どもによっては、生活面や学習面でさまざまな困りごとが出ていることも…。そんなとき、家庭ではどうサポートし、子どもに寄り添えばよいのでしょうか。
50年以上にわたり多くの子どもの成長を見守り、書籍『発達が気になる小学生のおうちサポート帖』を監修された湯汲英史先生に、おうちでのサポートのコツや心構えについて伺いました。

環境の変化でストレスの多い1年生。「ちょっと苦手」なことは家庭で少しずつサポートを

――小学校に入学すると、勉強以外でもいろいろな場面で困りごとが出てくるかと思います。家庭ではどのようにサポートするのがよいでしょうか?

湯汲先生:「小1プロブレム」という言葉があるように、幼稚園や保育園の生活から突然、学校という仕組みのはっきりした世界に入り、子ども自身、どう対処していいかわからないということがさまざまな場面で起こります。つまり、入学したばかりの
1年生には大量のストレスがかかっているんですね。

ですから、わが子がどんなことに戸惑い、困っているのかということに気づき、「ちょっと苦手」や「ちょっとできない」ということを家庭で少しずつサポートしていくことが大切です。

1年生は時間感覚が未熟。やることを「見える化」して朝のルーティンをスムーズに

――書籍の中で朝のルーティンについても紹介されています。のんびりしている子どもに、つい「早く早く」と急かしてしまいますが、どうすれば気持ちよく出発させられますか?

湯汲先生:大人は出かける時間から逆算して準備をすることができますが、小学1年生はまだ時間感覚が未熟で、遅刻しないようにひとりで準備するのは難しい段階です。たとえば、「やることリスト」を目につくところに貼り、終わったことにマークをつけていくと、次にやることがわかりやすくなります。

『発達が気になる小学生のおうちサポート帖』より(イラスト/こやまもえ)

また、着替えに時間がかかる場合はフラフープの中や、ジョイントマットの上など着替えスペースを決めるのもよいでしょう。学校では体育の前後に机と机の間の限られたスペースで着替えをするので、はじめは机や壁に寄りかかってもいいので、立ったまま着替えられるようにサポートしてみてください。

『発達が気になる小学生のおうちサポート帖』より(イラスト/こやまもえ)

また、子どもがのんびりしていると、大人はついイライラしてしまいますが、人間の脳には「ぼーっとする」状態が必要だということもわかっています。ぼーっとしているように見えても、怠けているわけではなく、脳の中で情報を整理したり、いらない記憶を捨てたりしているんです。
いつも何かしていないといけないと考えがちですが、ぼーっと休む時間は、子どもにも大人にも必要だということも知っておいてください。

――学習面では、どのようにサポートしていくのがよいでしょうか?

湯汲先生:学習というと読み書きや計算などに目が行きがちですが、筆記用具や学習用具がうまく使えず、「失敗した」「できない」「もういやだ」「勉強きらい」という流れになってしまうこともあります。たとえば消しゴムで消すという作業は大人が思っている以上に子どもには難しいものです。

『発達が気になる小学生のおうちサポート帖』より(イラスト/こやまもえ)

消しゴムの持ち方や、こするときの力加減、紙のおさえ方などを教えて、必要なところだけが消せるようにサポートしてみてください。

できないことに意識を向けすぎると、子どもは萎縮してしまいます。ドリルのように同じ文字を何回も書かせるようなやり方も、それでうまくいく子もいれば、いかない子もいます。たとえば「10回やったら終わり」と決めて、「ここまでできたね」と認めてあげてください。成長して文字を書くことに慣れ、「こう書いてみたい」という気持ちが芽生えてくると、自然と変わってきますよ。

暑さで疲れやすい時期。しっかり遊んで睡眠をとることも成長につながる

――1学期が終わりに近づいてきました。この時期はどんなことに気をつけるのがよいでしょうか。

湯汲先生:暑い時期を迎えて、疲れきってしまう子は多いと思います。でも、夏を過ぎて秋になると、その疲れも減っていく。そして「この子、成長したな」と感じられることが本当に多いんです。

睡眠時間はしっかり確保し、あとはある程度は放っておいてよいと思います。子どもは楽しいことが大好きで、元気に遊ぶことが実は疲れを吹き飛ばし、自分で回復していく一番の方法でもあるんです。

――家庭でサポートをするうえでの保護者の心構えや、声かけのコツがあれば教えてください。

湯汲先生:基本的には、子どもは成長して乗り越えていきます。小1プロブレムも、ずっと固まった状態が続くわけではなく、乗り越えるための力を子ども自身がちゃんと備えているんです。口うるさく「あれができない、これができない」と言ってしまうと、子どもはかえって萎縮したり緊張したりして、うまく乗り越えられなくなってしまいます。
どんな対応や声かけがわが子に合っているかは、親子の関係性の中から出てくるものです。マニュアル通りに考えなくても、子どもの状態に合わせて声をかけたり、時には黙って見守ったりすればいいと思います。

また、家ではできるようになったのに、学校や外の環境ではうまくできないということもよくあります。親御さんにとっては心配なこともあるかもしれませんが、「なかなかできるようにならない」と焦らず、長い目で見て取り組んでみてください。

できないことを指摘ばかりするのではなく、時には黙って見守ることも大切。

「子どもには自分で成長していく力がある」焦らず、長い目で成長を見守って

――先生は約50年にわたって、たくさんのお子さんが大人になるまでの過程を見てこられたのですよね。「子どもは成長して、乗り越えていく」という言葉にとても説得力を感じます。

湯汲先生:幼児期に障害があると思われていても、その後、大学に進んで勉強が大好きになったという女の子もいます。自閉スペクトラム症のように変わりにくいと思われている子たちが変わっていく姿を見ていると、最初から決めつけるのはよくないと感じますね。

旅行のたびに必ず私にお土産を買ってきてくれる自閉スペクトラム症の青年もいます。お母さんに理由を聞くと、彼はお土産を渡すのが楽しみなのだそうです。変わらないように見えても、人としての成長は、どんな子にもちゃんとあるんですよね。

――最後に、今、不安を抱えている保護者の方へ、メッセージをお願いします。

湯汲先生:子育ては、悩んでばかり。それはもう、そういう宿命なんです。私自身も子どもを育ててきましたが、思った通りにはなりません。親がいろいろトライしても、きっと裏切られることの連続です。でも、裏切られても仕方ない。それでいいんです。子どもとのやりとりがうまくいかないと親が感じているとき、実は子どもの方も「ちょっと悪かったかな」と思っていることがある。そういうところから、なんとなく理解し合えていくものなんですね。

「レジリエンス」という言葉があります。これは、自分で自分の心を立ち直らせていく力のことです。立ち直りやすい子もいれば、なかなか立ち直れない子もいますが、少しずつきっかけを与えていくと、だんだんと変わっていくものです。

あまり早くから期待しすぎず、ゆっくりとお子さんの成長を見ていってあげてください。

――ありがとうございました。つい子どものできないところばかりに目を向けてしまいがちですが、点と点をつなぐように長い目で子どもの成長を見守っていきたいと感じました。

湯汲先生が監修された書籍『発達が気になる小学生のおうちサポート帖』には、学校生活での困りごとを家庭でサポートするさまざまな方法が紹介されています。気になる方はぜひ読んでみてください。

※写真はイメージです。

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親子で「こうしたらうまくいくかも」をつかんでいくことを目指します。

発達に障がいを抱える子どもや青年と40年以上かかわり、
小学生前後から成人後までひとりの人と向き合う、
公認心理師・湯汲英史先生だからこその視点で紹介します。

お話を聞いたのは

湯汲英史 公認心理師・言語聴覚士・社会福祉士

早稲田大学第一文学部心理学専攻卒。現在、公益社団法人発達協会常務理事、早稲田大学非常勤講師、練馬区保育園巡回指導員などを務める。著書に『0歳~6歳 子どもの発達とレジリエンス保育の本―子どもの「立ち直る力」を育てる』(学研プラス)、『子どもが伸びる関わりことば26―発達が気になる子へのことばかけ』(鈴木出版)、監修書に『心と行動がよくわかる 図解 発達障害の話』『眠れなくなるほど面白い 図解 臨床心理学』(ともに日本文芸社)など多数。
書影・プロフィールイラスト/本田佳世

この記事を書いたのは

平丸真梨子 ライター

音楽大学卒業後、出版社勤務を経て、現在はフリーライター・編集者として活動中。小学生2人の母。主に教育系、不登校への取り組み、著名人インタビューなどを執筆しています。子育ての中で感じた疑問や発見を活かしながら記事を作成することを心がけています。

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