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気に入らないことがあると親を叩く男の子
自閉スペクトラム症のお子さんの中には、保護者や周囲の人を叩いてしまう子が一定数います。
一般的には男の子に多く見られる傾向がありますが、女の子でも同様の相談を受けることは少なくありません。
今回は、ある保護者の方からいただいた相談を例に、こうした行動の背景にあるものについてお伝えしたいと思います。
自閉スペクトラム症(ASD)で、知的に軽度の男の子(5歳)で保護者の訴えは「気に入らない事があると叩く」というものでした。
特に、片づけを促した時や、見ていたiPadを返してほしいと伝えた時など、自分の気に入らないことがあると、母親を叩くそうです。
ご両親ともに、お子さんに手を上げたことはないそうで「なぜ叩くのか分からない」「なんとかやめさせたい」というご相談でした。
幼稚園でも同じように他のお子さんを叩いてしまうため、先生が「それは良くないことだよ」と注意をしてくださっているそうですが、なかなか行動が収まらず、保護者の方はそのことにも心を痛めていらっしゃいました。
このようなご相談を受けた際、家庭での様子や、普段どのようなものをお子さんが見ているか、好きなテレビ番組やYouTubeがあるかを聞くようにしています。
戦隊ものアニメのマネを暴力と思ってしまっていた親
すると、男の子の場合は「戦隊もの」、女の子の場合は「戦う少女アニメ」を好んで見ているケースが多いです。これは自閉スペクトラム症のお子さんに限らず、多くの幼い子どもに共通する傾向です。
また、自閉スペクトラム症のお子さんの中には、実年齢よりも幼さが残る面をお持ちのお子さんも多く、年齢の割に幼い子ども向けの番組を好んで見ているケースも少なくありません。今回のお子さんも、戦隊ものの子ども向けの番組をよく見ているということでした。
幼い子どもが見る番組には、ストーリーがわかりやすい「正義と悪」の構図が描かれているものが非常に多くあります。悪いことをした悪者を、正義の味方が力でやっつける「勧善懲悪」という内容です。
しかし、まだ社会性が十分に育っていない幼少期の子どもにとって、何が「悪いこと」で何が「正義」なのか、その意味を正しく理解できない事があります。
視覚情報が優先されるASDは、意味を理解するのに時間がかかる傾向が

特に自閉スペクトラム症のお子さんの場合、視覚的な情報が意味理解よりも先に入ってくるため、情報の受け取り方が偏ってしまう場合があります。
意味理解が十分に育っていない子どもが、映像の内容だけで番組の内容を判断しようとすると、「相手が自分の思い通りにならない時(悪い時)は、暴力を使って制圧すると周囲から称賛される(良いことをした)」という、誤った形で情報を取り込んでしまうことがあります。子ども自身が経験を通じて、偏った情報の取り入れ方をした結果、誤学習として身についてしまう事があるのです。
保護者の方に伺ってみると、お子さんは叩く時に「パンチ、パンチ」と言っているとのことでした。それはお子さんが見ているアニメの中でも、主人公が敵を倒す時に使っているものです。
意味理解が育っている子どもの場合は、周囲の言葉を聞きながら「テレビの中の出来事はフィクションであり、実際にやってはいけないことだ」という理解が比較的早くできるようになります。そのため、行動としては「ごっこ遊び」の範囲にとどまることがほとんどです。
ASDの子は、ごっこ遊びと現実の違いに気づかない傾向がある
しかし、自閉スペクトラム症のお子さんの中には、この「ごっこ遊びと現実の違い」を理解することが難しい場合があります。
こうした「気づきにくさ」には、いくつかの要因が層になって重なっています。
一つは、一度頭に入った情報を、状況に応じて柔軟に書き換えることが苦手だという特性です。周囲が繰り返し「それは良くないことだよ」と伝えても、すでに入っている情報がなかなか上書きされず、行動の修正に時間がかかることがあります。
もう一つは、実年齢と、実際の理解力や興味関心の育ちとの間にズレが生じやすいという点です。年齢だけを見ると「もう分かる年齢のはず」と思われがちですが、理解の育ちがそれに追いついていない場合、周囲からは「分かっているのに、わざとやっている」ように見えてしまうことがあります。
このように、意味理解の難しさ、情報の書き換えにくさ、実年齢とのズレという複数の要因が重なり合うことで、保護者からは行動の背景が見えにくくなっているケースが少なくありません。
ですから、幼いうちの意味理解が育つまでの間は、戦隊ものや暴力的な内容を含むバラエティ番組は避けていただくことをおすすめしています。
子どもに日常的に入る「情報」に敏感になってください
代わりに、登場人物同士が協力し合いながら物事を進めていくようなアニメや番組を探してもらうようにします。「力で相手を制圧する」映像ではなく、「話し合う」「助け合う」「一緒に取り組む」といった映像を繰り返し目にする中で、お子さんの中に入っていく情報そのものを、少しずつ変えて行きたいという考えからです。
「暴力を振るう」という行動だけを見ると、しつけの問題や保護者の関わり方の問題と誤解されがちです。しかし、その背景には、視覚情報の受け取り方や意味理解の育ちといった、お子さん特有の特性が関係していることがあります。
更には、お子さんを頭ごなしに叱るのではなく、日常的にどのような情報が入ってくる環境にあるかを見直すことも、行動を理解し、変化を促していく上での一つの手がかりになるのではないかと考えています。
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記事監修

保育士、公認心理師。発達障害の女の子の性教育や身だしなみ教育を行う放課後等デイサービスLuce(ルーチェ)を2022年まで運営。現在は障害のあるお子さんと保護者が一緒に通うことができる脱毛サロンLuceを運営(施術中に療育相談に対応可)、子育てや療育相談、事業所での性教育のやり方、職員研修やコンサル、講演等を行う。著書に『発達障害の女の子のお母さんが、早めに知っておきたい「47のルール」』、『発達障害の男の子のお母さんが早めに知っておいて良かったこと70』(エッセンシャル出版社)、『発達障害の女の子の「自立」のために親としてできること』(PHP研究所)がある。
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