島津家にパトカー出動、黒木が過労で入院……黒木豹変の理由は?【おおたとしまさの「二月の勝者」考察】

この秋の日本テレビ系ドラマ「二月の勝者−絶対合格の教室−」。HugKumではドラマ放送期間中の毎週金曜日に、教育ジャーナリストのおおたとしまささんによる前週のストーリーの振り返りと、ドラマに出てきた中学受験情報の解説、そして次回放送内容を考察する記事を連載しています。

中学受験家庭でのもめごとがパトカー出動の大ごとに

毎週土曜日夜10時からのドラマ「二月の勝者−絶対合格の教室−」は、いよいよストーリーの大詰め。原作漫画はいまだ週刊「ビッグコミックスピリッツ」で連載中だが、ドラマの放映は残り2回。どういう結末を迎えるのか……。

©Nippon Television Network Corporation

第8話は、島津順くんの父親(金子貴俊)と黒木蔵人(柳楽優弥)の直接対決で幕を上げた。島津くんの父親は、以前第6話に登場している。パワハラ気質がある。島津くんの勉強を厳しく管理し、妻(遠藤久美子)に対しても高圧的だ。

 

島津くんの母親からの電話にただならぬ様子を感じた黒木と佐倉は、桜花ゼミナール吉祥寺校を飛び出して島津くんの自宅へ向かう。パトカーの警告灯が辺りを照らしていた。黒木と佐倉が自宅に乗り込む。派手に散らかったリビングルームの床で、島津くんの父親がうなだれている。

 

事の顛末はこうだ。激情した父親が母親を突き飛ばし、それを見た順くんが母親をかばおうとして父親を突き飛ばす。ひるんだ父親が「親に手をあげたな……謝れ……謝らないなら、警察に通報するぞ」と順くんを脅した。正気ではない父親を残して、順くんと母親はすでに家を出たあとだった。

©Nippon Television Network Corporation

家族が無事であることに安堵しつつ、黒木が父親に詰め寄る。

 

黒木 島津さん……。

父親 なんだよ、説教でもしよってのか。俺は誰よりもあいつの将来を考えてる。なのにあいつは受験ってものをなめてんだよ。だいたい受験ってのは、勉強ってのは、苦しさに耐えてやるもんだろ。俺は自分のやり方で大学に合格したんだ。

黒木 あなたはその苦しさを乗り切った。ご立派だ。しかし、あなたが大学受験したのは18歳、順さんは12歳です。40キロそこそこの体重で10キロ近い勉強道具を背負って毎日塾に通っているんです。こんな重い荷物を欠かさず背負ってたんだなと、ひと言かけてあげることはできませんか?

父親 ふっ。何を甘っちょろいことを。

©Nippon Television Network Corporation

この父親は、受験や勉強を「苦行」ととらえる自分の価値観を、息子に投影していたわけである。「子どもの将来を考えて……」というのも、子どもを追いつめてしまう親の常套句だ。教育熱心な親がわが子の将来を案じるのは当然だ。しかしそれが自分のやっていることへの絶対的な正当化に結びついてしまうと危険だ。

 

拙著ルポ教育虐待で詳しく書いたが、この父親の思考回路は、いわゆる教育虐待を行う親の多くに共通して見られる。

 

家を飛び出した順くんと母親は、桜花ゼミナールに来ていた。母親は黒木に「うちはもう無理です。受験もやめようと思います」「夫とは、離婚を考えようと思います」とこぼす。その間も、順くんは誰もいない自習室で、雑念を振り払うかのように黙々と問題を解く。

 

二人を見送ってから黒木は、自分の行為が、自分の未熟さゆえの出過ぎた介入だったと佐倉にもらす。順くんたちは、しばらく母親の実家に身を寄せることする。

 

志望校・併願校選びは結果の受け止め方に大きく影響する

桜花ゼミナールでは、志望校を絞り込むための保護者面談が連日行われていた。それぞれの家庭の考えに合わせた志望校の候補を、黒木は丁寧に用意している。資料をつくるだけでも相当な時間と労力が必要なはずだ。

 

どれだけ納得感の高い志望校・併願校選びができるかで、中学受験が終わったあとの印象は大きく変わる。必ずしも第一志望校に合格できなかったとしても、中学受験を笑顔で終えられる家庭では、志望校・併願校選びの段階で、自分たちの目指すべき方向性や価値観が明確になっているものだ。黒木は子どもたちに勉強を教えるだけでなく、そこへのサポートを徹底しているのだ。

 

一方で黒木は、無料塾「スターフィッシュ」の子どもたちへのフォローにも手を抜かない。黒木が残業して資料づくりに励むかたわらには、栄養ドリンクの瓶が並ぶ。

 

無理がたたった。よろめく黒木。そのまま床に突っ伏す。物音に気づいてかけつけた佐倉に黒木が告げる。「あの荷物をスターフィッシュに運んでもらいたいんです」。そこにはとてつもなく重いスーツケースがあった。中にはぎっしりと、参考書や問題集が詰まっているからだ。

©Nippon Television Network Corporation

荷物を運ぶタクシーの中から佐倉は電話する。相手は中学受験最強塾「ルトワック」の灰谷純(加藤シゲアキ)だ。倒れたままの黒木のケアをお願いしたのだ。次のシーンでは、黒木は病院で点滴を受け、病室の外に灰谷と佐倉がいる。これは原作にはないドラマオリジナルの設定だ。

 

病院の待合室で、佐倉と灰谷が黒木について語り合う。灰谷は、尊敬する黒木に構ってほしくて黒木を追い回していたと告白する。佐倉は、スターフィッシュで見せる黒木の態度と、桜花ゼミナールの子どもたちに接するときの態度が実は同じだと気づいたと言う。

この連載でも何度か取り上げた。黒木の本質が見える瞬間を。

 

第1話では三浦佑星くんに「スポーツか何か、長い期間取り組んできたものがあるんでしょう。粘って頑張った経験のある人は、受験でも強いですよ」と言うとき。第2話で加藤匠くんに鉄道ジオラマの動画を見せて「これつくってるの中学生なんですよ」と教えるとき。第3話では前田花恋に「花恋の席、まだ空けて待ってるよ」と微笑むとき。第6話で柴田まるみに「二葉女子学院、いいじゃないですか。第一志望として目指しませんか」と言うとき。

 

黒木は、普段の冷徹な目つきとは違う、慈しみ深い目をしている。この目の輝きの違いを見事に演じ分ける柳楽優弥さんにも驚く。

 

山本佳苗の母親との面談は、黒木抜きで、佐倉が一人で担当することにした。佐倉が徹夜で用意した資料を見て、山本さんの母親は佐倉の提案を受け入れた。その様子を盗み見ていた黒木。面談を終えた佐倉に「あなたもなかなかの勝負師ですね」「ま、私も同じアドバイスをしたと思います」「山本香苗さんの学習経過をしっかり見守ってあげてください」と告げる。そのとき一瞬だけ、黒木の目が、あの慈しみ深い目に変わる。

©Nippon Television Network Corporation

 

次ページ「経済的支援制度がある私立中学は実は多い

編集部おすすめ

関連記事