言語聴覚士・寺田奈々先生に聞く【子どものことばの発達】遅れ、吃音に悩んでいる親御さんは相談を

「なかなかおしゃべりしない」「ことばが不明瞭」「おしゃべりが文になっていかない」……。子どもの発達の悩みの中でも、ことばに関する悩みを抱えている親御さんは多いのではないでしょうか?ことばの悩みには様々な種類がありますが、「もっと上手にことばを使ったやりとりができたらいいのにな」という思いは、多くの親御さんに通じるものだと思います。「ことばの相談室ことり」を主宰し、多くの親子の「ことばを育むお手伝い」をされている、言語聴覚士の寺田奈々先生にお話を伺いました。

子どものことばの発達には順序があります。ことばの習得のために必要なこととは

ことばの発達のために必要な4つの力

『0~4歳 ことばをひきだす親子あそび』(小学館)より

ことばの発達のためには、次の4つの力が必要です。

①単語力(語彙)…使えることばの種類や数を増やしていく力
②音を並べる力(音韻)…ことばを構成する1つ1つの音を理解し、決められた順番に並べる力
③組み立てる力(文法)…単語をつなげてことば同士の関係を示し、文を組み立てる力
④伝え合う力(コミュニケーション)…自分の意図を相手に伝え、相手の意図を理解しようとするコミュニケーションの力

4つの力の中でも伝え合う力は、ことばの全てに関わる土台となる力です。
これらの力がバランスよく育まれていくことで、子どものことばの発達は進んでいくのです。

ことばの発達は、年齢よりも「発達の順序」が大切

ことばの発達には年齢的な指標がありますが、実際には個人差が大きく、あてはまらない場合も多くあります。
実は、年齢の指標よりも大切なのは、発達の順序なのです。

具体的には、まずは声や動作、表情などで自分の意思を伝える「前言語期」から始まります。
その次に来るのが「初語(初めてのことば)」。
使えることばが増え、語彙が拡大していく「語彙爆発」を経て、日常のコミュニケーションが2語文、3語文などを使ったコミュニケーションに移行していく「文で話す」段階に入ります。

日常のコミュニケーションのほとんどをことばでできるようになる時期には、更に文法表現が広がっていく「複雑な表現」ができる段階へと移行します。
このようなことばの発達の大まかな順序を知ることで、子どもが今いる段階を知り、「次の段階ではどんなことができるようになるか」という見通しを持って接することができるのです。

ことばの習得にはレディネスが必要です

ことばの習得のためには、段階ごとに必要なレディネス(準備性)があります。
ことばの発達の順序でも触れましたが、初めてのことばが出る前にも、子どもは自分の意思を伝える能力を、コツコツためこんでいます。
外から見ると、表出したことばにばかり気を取られてしまいますが、子どもから表出されたことばの背景には、獲得したたくさんの能力があるのです。
何ごとも、スイッチを押すように突然できるようにはならないものです。
ことばの次の発達段階にいくために必要な準備に目を向け、今、子どもができかけている途中のサインをぜひ見つけてあげて下さい。

例えば、まだ発語がないお子さんでも、アイコンタクトをとったり、「ほしい!」の指差しをしたり、喃語を言ったりといった何らかのサインは見られるかもしれません。

そういう意味では、親御さんがことばの習得のためのレディネスを理解しているのは大切なことです。
発達における無数の段階を見つけながら子どもと関わっていくことで、きっとお子さん・親御さんの双方にとって良い影響があるのではないかと思います。

子どものことばの発達、親はどんな悩みを抱えている?

最も多い、4つのことばの悩み

一般的には、子どものことばの相談にくるのは未就学児の親御さんが多いのではないかと思います。発達障害があってことばの遅れがあるお子さんもいます。ただ、私の相談室「ことばの相談室ことり」にくるお子さんの場合、未就学児と就学後のお子さんが半々くらいという状況です。少数ですが、中学生以上のお子さんもいらっしゃいます。

様々な「ことば」に関する悩みで多いのは、以下の4つの悩みを抱えているお子さんです。

①ことばの発達の遅れ

②吃音

③発音や滑舌の悩み(おしゃべりが不明瞭)

④読み書きなどの学習面の悩み

4つの悩みを複合的に抱えているお子さんもいます。4つの悩みが自閉スペクトラム症や学習障害などの発達障害に由来・関連する場合も多いですし、難聴に由来することもあります。(※ 発達障害や難聴をお持ちのお子さんに、必ずことばの遅れや発音の不明瞭などが生じるというわけではありません)

その他には、「特定の場面でことばが話せなくなる」という場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)があるお子さんもいらっしゃいます。
場面緘黙症をより得意としているのは臨床心理士さんだと思いますが、相談室ではそうしたお子さんにも対応させていただいています。

言語聴覚士によることばの指導を受けることでどんな変化が?

「発達に遅れがある」と言われるお子さんには、様々なタイプがあると思います。
中でも他の支援の先生に比べて、特に言語聴覚士が相談にのれるといいのではないかと思うのは、ことばの発達とそれ以外の力の発達にギャップがあるお子さんです。

・全体的な認知の発達の力と、ことばの力にギャップがある

・理解力はあるけれど、お話することが難しい

・おしゃべりはできるけれど、不明瞭

・ことばは色々知っているけれど、人との関わりの時にうまく使えない

「こどばを使うチャンス」を与えたことで欲求をことばにできるように

そういった、ことばやコミュニケーション面に苦手があるお子さんに対して、言語聴覚士は「ことばを使うチャンス」を用意できます。

例えば、「高い位置にあるものが欲しい」と思っても、ジャンプしたり泣いたりするしかできないお子さんがいました。そういう時に言語聴覚士は、子どもの口から「あれとって」などのことばの要求が出るまで、粘り強く待ちます。
きちんとことばで要求が出なくても、大人の手を引いたり、何らかの発声で意思を伝えられるまで、しつこく待つのです。
普段の生活の中でそこまでやるのは、なかなか難しいかもしれません。でも、要求が出るまで待つやりとりを繰り返していくことで、待つ時間は徐々に短くなり、お子さんは他の環境でも同じようにやりとりができるようになっていきます。

そうなると、お子さんの対人関係は広がっていきますよね。こうして言語聴覚士とのやりとりが日常生活でも応用できるようなサイクルを作ることで、ことばの力が伸びていくのです。
一例ではありますが、言語聴覚士の指導を受けたことで、そのような変化が見られるお子さんもいらっしゃいました。

言語聴覚士に相談に行くタイミングとは

言語聴覚士に指導を仰ぐタイミングを迷われる方がいるかもしれませんが、子どものことばの発達に不安を感じた時なら、いつでも可能です。
先生によっては、「ことばを話すようになってから」「椅子に座って指導を受けられるようになってから」などと言われることもありますが、どの発達段階でもできる方法はあります。

ただ、中にはお子さんの準備が整うのを待つことがあったり、本人が「やってみよう!」と意欲的になる、個別指導がしっくりくる時期を待つお子さんもいます。
そういうタイミングですと、より一層指導が入りやすくなるかもしれません。

5歳以上は、就学後を見据えた課題解決に

5歳以上のお子さんになると、低年齢のお子さんに比べ、ことばの発達における課題が細分化されてきます。具体的には、以下の3タイプの課題があるように思います。

①ことばは知っているけれど、適切に使いこなせない
②滑舌などでうまく言えない音がある
③生活言語から学習言語への移行の難しさ

学習言語というのは教科書で使われるような表現のことで、就学後に勉強をしていく中で、複雑なことがらを順を追って理解していく難しさを感じるお子さんもいるようです。
言語聴覚士は、お子さんの課題がどれにあたるかを見極め、課題に合わせた指導を行っていくことができます。

発達特性があるお子さんへのことばの指導

また、発達障害などの特性があるお子さんでも、ことばの発達における順序は同じです。
ただ、定型発達のお子さんに比べて進むペースが違うことがあります。
発達障害があるお子さんですと、今興味があることと発達の段階にズレが生じたり、理解力と話す力が釣り合っていないという状態に陥ってしまうことがあります。
お子さんにとってもそれはもどかしく、辛い気持ちを抱えてしまうかもしれません。
個人の状況にあわせて調整をする必要があるという意味では、発達障害があるお子さんと定型発達のお子さんでは、違う指導方法になることもあります。

どんなところに行けば、言語聴覚士に出会えるの?

他のリハビリ職に比べて、子どもの療育の場で活動する言語聴覚士の数は少ない傾向にあります。
一般的に言語聴覚士は、リハビリテーション科のある病院などで、病気の後遺症などで悩む大人のリハビリに携わっている人が多いのです。
それでも、言語聴覚士の指導を受けたいと思ったら、次の3つの場所にあたってみると出会いやすいのではないかと思います。
①市区町村の児童発達支援センター
②発達外来がある小児科などの医療機関
③言語聴覚士の養成校や養成大学が開いていることばの教室

市区町村のホームページなどで小さく案内を出していることもあると思うので、ぜひ調べてみてください。

子どもの療育分野に携わる言語聴覚士は、まだまだ足りていない

言語聴覚士の世界でも、子どもの領域に人が足りていなかったことは、あまり知られてこなかったことでした。
同じ言語聴覚士でも、大人のリハビリテーションが中心の病院では、子どものことばの発達相談は断られてしまうこともあります。
私自身も、もともとは大人のことばの相談や支援に携わる言語聴覚士でした。
それが偶然、子どもの領域で人手が足りていない実態を知り、子どものことばの発達支援を専門とする活動をすることになって、今があります。
今後、もっと子どもの療育分野に携わる人が増えていってほしいですね。

お子さんとご家族に寄り添いながら、「ことばを育むお手伝い」がしたい

『0~4歳 ことばをひきだす親子あそび』(小学館)

子どものことばの発達は、年齢ごとの目安にとらわれるのではなく、今お子さんがどこにいて、次の発達段階はどこなのかを探り、手助けをしていくことが大切です。とはいえ、何をどうしたらいいか、困ってしまう親御さんも多いと思います。

少しでも多くのお子さんの「ことばを育むお手伝い」ができるよう、これまで、ことばの相談室でのマンツーマンの指導だけでなく、SNSでの発信や、教材「コトリドリル」の制作を進めてきました。そういった活動を進めていく中で、言語聴覚士の中川信子先生とのご縁につながり、書籍『ことばをひきだす親子あそび』(小学館)を出版しました。

書籍では、ことばの発達途中にある0歳~4歳くらいのお子さんが、親子で楽しく遊びながらことばの力を育んでいけるような、「ことばあそび」をたくさん紹介しています。ぜひ、ことばを育む第一歩として、普段の遊びに取り入れてみて下さい。

記事監修

寺田奈々|言語聴覚士
慶應義塾大学文学部卒。養成課程で言語聴覚士免許を取得。総合病院、プライベートのクリニック、専門学校、区立障害者福祉センターなどに勤務。年間100症例以上のことばの相談・支援に携わる。臨床のかたわら、「おうち療育」を合言葉に「コトリドリル」シリーズを製作・販売。専門は、子どものことばの発達全般、吃音、発音指導、学習面のサポート、失語症、大人の発音矯正。

取材・構成/べっこうあめアマミ(自閉症の息子&きょうだい児の娘を育てながら、子育てにまつわる情報発信中 https://twitter.com/ariorihaberi_im

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