「自分のことだと感じた」反響続々! NHK Eテレ「でこぼこポン!」が発達凸凹のお子さんをサポート

Eテレの子ども番組「でこぼこポン!」は、発達に凸凹がある子によくあるシチュエーションやサポート方法を描いたドラマをメインとした番組です。

1度見たら、その個性的で愛らしいキャラクターたちにくぎ付け! 子どもも大人も楽しみながら見ているうちに、「なるほど、そうすればよかったのか!」と思えるポイントがたくさん。今回は、「でこぼこポン!」の制作に携わるNHKエデュケーショナル岩田大輔さんにお話をうかがいました。

子どもも大人もいっしょに楽しめる「でこぼこポン!」

2022年にスタートした、NHK Eテレの子ども番組「でこぼこポン!」をご存知ですか?
「発達が気になる子を楽しくサポートする」というコンセプトで、発達に凸凹のある子によくあるシチュエーションやサポート方法を描いたドラマ、ゲームや体操のミニコーナーを通じて、発達を支援してくれる番組です。

ドラマコーナーは発達にでこぼこのあるお子さんに、よくあるシチュエーション

番組の中心となるのは、発達にでこぼこのあるお子さんによくあるシチュエーションを取り上げたドラマコーナー。
困りごとを解決するのに役立つ“発明品”をみんなで作るというストーリーで展開します。

ミニコーナーには、ゲームや体操も。「ひろがれ!いろとりどり」のアオやキイ、ミドリーズも出演していますよ。

※ 左:アオ(声:神木隆之介さん)、右:ミドリーズのりりな

個性的で愛らしいキャラクターたち

はかせのでこりん、年の離れた友達のぼこすけ、不思議な生き物ポンの3人はいつも仲良し。
でこりんやぼこすけは、発達がでこぼこで苦手なことも多いけど、ポンにアドバイスをもらいながら、いろんなことを練習したり挑戦したりしながら、自分の苦手とうまくつきあっていきます。

でこりん(演:鳥居みゆきさん)

研究所に住む、人を驚かせることが好きな、大人の発明家。じっとしているのが苦手で、突拍子もない思いつきを深く考えずに試してみることも。

ぼこすけ(演:猪股怜生さん)

研究所の近くに住む小学生で、でこりんの友達。几帳面でスケジュールを守りたいタイプ。人の話が耳に入ってこなくなるほど、興味のあることには高い集中力を発揮する。

ポン(声:河合郁人さん(A.B.C-Z))

元々は、ぼこすけが持っていたネコのおもちゃ。でこりんに修理してもらい、形が変わったり言葉を話したりできるようになった。
でこりんとぼこすけが困っているとアドバイスをくれる、優しい性格。

発達が気になるお子さんをサポートしたい

そんな「でこぼこポン!」のことをもっと深堀りしたい!という思いから、今回は「でこぼこポン!」の制作を担当されている、NHKエデュケーショナルの岩田大輔さんにインタビューさせていただきました。番組に込められた想いや制作の裏側について、うかがいました。

お話をうかがったのは

岩田大輔|NHKエデュケーショナル こども幼児グループプロデューサー

2007年にNHK入局。愛知県出身。

「ストレッチマンシリーズ」や「u&i」など、特別支援教育の番組を数多く制作。幼児番組「みいつけた!」を制作するかたわら「でこぼこポン!」を企画。立ち上げより総合演出として番組に携わっている。

私生活では、二児(7歳、5歳)の子育てに奮闘中。

 

———ドラマコーナーの、「困りごとを解決するための発明」という流れが印象的ですね。

岩田:何か困りごとがあって、より過ごしやすくするために工夫したりアイテムを作ったりする。実はこれは、「ドラえもん」からヒントを得ているんです。のび太君が困ったときにドラえもんに助けを求め、道具を出してもらう。これがとても見やすい構造だと感じました。

「でこぼこポン!」では、登場人物が困る場面があり、それをサポートするための発明をするという流れをメインにしています。
「ポン」というキャラクターはアドバイスをするだけにしています。支援する側、支援される側を固定したくないという思いがあったからです。

鳥居みゆきさん演じる「でこりん」と「ぼこすけ」をサポートし、彼らが自分の力で前に進んでいく様子を表現したいと考えています。

例えば「集中する発明品」という回では、目についたものや聞こえた言葉に、ついつい気をとられてなかなかやるべきことに集中できないでこりんがいます。
「ポン」からのアドバイスで発明したのは、“とうメ~スプレー”!
気になっちゃうものにスプレーして、消してしまうのです。音が気になるときは、イヤーマフをして、「でこりん」はやるべきことに集中できました。

———ドラマコーナー以外にも、毎回ミニコーナーが設けられていますね。

岩田:10分間の放送時間の中で、ミニコーナーを2回ほど設けています。
ミニコーナーは、見ている方が能動的に参加できる、反応できるようなものを取り入れています
発達支援の専門家や作業療法士の方に監修していただきながら、認知機能・感覚運動機能に働きかける内容など、ドラマコーナーでできないことを中心に扱っています。

こちらは、「おはなしづくり」の画面です。登場人物の様子や表情・積み木の様子を見て、出来事の順番を考えます。
他にも、時間内にモグラが何回顔を出したか数える「モグラさがし」や、バラバラに動く文字を読み取って言葉を作る「ことばをつくろう」など、様々なミニコーナーがありますよ。

———「でこぼこポン!」が生まれるまでにはどんな背景があったのですか。

岩田:「でこぼこポン!」は、発達が気になるお子さんを、劇や歌でサポートしていくというコンセプトでスタートしました。
NHK では、以前に発達障害に関するキャンペーンを行ったことがあります。それもあって、発達障害についての認知度が高まったことは実感できたのですが、具体的な手立てや支援についてはまだまだ不足していると感じました。また、発達が気になる子と呼ばれる当事者向けのプログラムが必要だろうという思いから、「でこぼこポン!」を企画しました。

今は、NHK for schoolにも入れて過去の放送が全て見られるようにしているので、ご家庭だけでなく、学校・通級の場でも活用していただけると思っています。

 ———「でこぼこポン!」という番組名の由来を教えてください。

岩田:発達が気になるお子さんのことを、“発達に凸凹がある”と言うことがあります。まずはそこから、“でこぼこ”という言葉を使うことになりました。
“ポン!”については、まず語感が良かったんです。また、“ポン!”というと弾けるような前向きな雰囲気が感じられます。

発達が気になるというと、ネガティブなイメージをもたれがちなのですが、実は昔の偉人の中にも発達でこぼこな人はたくさんいたと言われていて、よりポジティブな明るい印象にしたいという思いがありました。

———シチュエーションがとてもリアルで、サポート方法がとても具体的だと感じました。多くの専門の方に監修していただいているんですね。

岩田:筑波大学人間系障害科学域 教授の柘植雅義先生をはじめ、多くの先生方に監修していただいています。
また、制作した番組を学校で活用してもらって、子どもたちにどんな効果があったか現場の先生方にフィードバックをいただくこともあります。

———セットも、でこぼこ感を感じさせるものになっていますよね。また、「ポン」は缶から手が出ているような独特な雰囲気です。セットや衣装、キャラクターについてのこだわりを教えてください。

岩田:実は、かなり細かいところまでこだわっているんですよ。セット背景を立体的にして、でこぼこ感を出したり、鳥居みゆきさんの衣装も左右非対称になっていたりします。私だけではなく、セットや衣装の担当者からもアイデアをもらいまして、皆で検討して今のような形になりました。番組を見ながら、いろいろなこだわりを見つけてみてほしいです。

———鳥居みゆきさんが子ども番組のメインキャラクターということで、視聴者の方からの反響もあったのではないでしょうか。起用されたきっかけを教えてください。

岩田:番組のテーマが真面目なものなので、演技力に加えて、笑いの要素やインパクトが欲しいと考えていました。そんなわがままなことを叶えてくれそう、という思いから鳥居みゆきさんに依頼したのですが、いま思えば“直感”だったと言っても過言ではないと思います。

 番組制作にかける想い

岩田:発達が気になる子を含めた子どもたち、親、先生たちに見ていただきたいのはもちろんですが、老若男女問わず見ていただける番組だと思います。ポン役の河合さんも演じながらそのように感じられたそうです。

番組への反響として、「自分のことだ!と感じた」「否定せず肯定的に捉えてくれて、救われた」「こんな風に取り上げてくれて、自分の気持ちを分かってくれたと思った」というコメントがありました。これは、子どもの頃に「でこりん」や「ぼこすけ」のような困りごとを抱えていた大人の方や、当事者の保護者の方からの声です。こうした声をいただけて、とてもありがたく思っています。

———今までになかったような、具体的な手立てがたくさん盛り込まれた「でこぼこポン!」。番組を作るうえで一番大切にしていることを教えてください。

岩田:「役に立つ」という要素はもちろん大切ですが、一番大切にしているのは、単純に「見ていておもしろい」というところです。つまらなければ見てもらえません。おもしろいから見た結果、学習効果が出ていればと思います。何の番組か分からなくても面白くて見ていて、気づいたら役に立っていた、というバランスを工夫しています。

老若男女問わず、新たな発見が得られる

今回、岩田さんに取材をさせていただき、改めて「でこぼこポン!」の細やかさ・深さに触れることができました。
見る方の視点によって様々な感想があるのも、この番組の大きな特徴だと感じます。「これはあのときの自分のことだ!」と感じる方もいれば、「あの子はこんな風に感じているんだ。こんな伝え方だと分かりやすいかな」と誰かのことをイメージしながら見る方もいるでしょう。

ソーシャルスキルが自然と学べる

例えば、行列では列の最後尾に並ぶ、映画館や図書館では小声で話すなど「対人関係や社会生活を営むために必要な技能(スキル)」のことを、ソーシャルスキルと呼びます。
その中には、教わったことだけでなく、
場面に応じた”暗黙の了解”として身につけてきたものも多くあるでしょう。ソーシャルスキルを学ぶ機会がなかった、特性によって学び取ることが難しかったお子さんも、「でこぼこポン!」を見ていると、ドラマ仕立てだからこそソーシャルスキルを自然と学ぶことができると感じます。

「でこぼこポン!」を見て育った子どもたちが、大人になった未来を想像したい

筆者は元小学校教員ということもあり、「でこぼこポン!」を小学校の教材の1つとして活用したらどうなるかと考えました。
「自分のことだ!」と感じられるお子さんはもちろんのこと、クラスのみんなで見ることに大きな意味があると感じます。同じ現象を体験しても、人によって感じ方が違うこと、気づかれないけれど実は困っている人がいるかもしれないこと、誰かが分かってくれたり一緒に考えてくれるだけでこんなにも心が温まること、自分がかける一言が誰かの心を動かせるかもしれないこと、気持ちが通じ合う心地よさ…。

登場人物の誰かに自分を重ねながら番組を見て疑似体験し、実生活でも似たような体験・思いを持つことができたら…、そんな子どもたちが大人になったとき、他者を本当に認め合える社会になるのではないかと思います。

Eテレ「でこぼこポン!」

放送日時:(火)午前8:35〜8:45 ※年間28週放送予定

再放送 :(木)午前7:20〜7:30

次回の放送は1/10(火)午前8:35〜8:45、1/12(木)午前7:20〜7:30「文字の書き方の発明品」

「でこぼこポン!」公式HPでは、過去の放送回も配信中

ⒸNHK

文・構成/yurinako

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