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遅れていると言われる日本の教育。海外の状況は?
必要なものはおこづかいで買うのか、親がお金を渡すのか。子どものおこづかいについては各家庭で指針が異なり、あいまいなルールしかないことが多くあります。ようやく日本でも高校から金融教育が必修化されたものの、欧米ではもっと早くから「お金の教育」が始まっている、と金融コンサルタントの川口幸子さんは言います。
海外ではお金の教育は義務教育!米国・英国では18歳未満で株の運用も
――川口さんが受けてきた欧米でのお金の教育は、日本とはどう違うのですか?
川口さん:私は幼少期をアメリカやイギリスで過ごしました。海外では、子どもにお金の教育をするのが当たり前のことで、富裕層かどうかに関係なく、高校卒業までに貯蓄や債務、投資やリスク管理などを学ぶ授業があります。ゲームのような形で経済について考えたり、みんなの前でフィナンシャルゴールをプレゼンするような機会もありましたね。高校生で起業する子もいます。
イギリスでは、18歳未満が非課税で証券口座を開設できる制度があり(日本のジュニアNISAのモデル)、子どもが将来のための資産形成・貯蓄の手段として利用することができます。小学3年生の授業で、もう住宅ローンや老後資金について学んでいるのです。
このように、小さい頃からお金について知識を持っていることは、将来への安心感を持ち、お金に振り回されない人生を送るためにも必要なことだと思っています。
使い方がわかれば、小1でもたくさんのお金をもらえる
――かなり高度な教育が行われているのですね。子どものおこづかい事情はどんなものですか?
川口さん:実は30年前の段階で、ニューヨークタイムズに載った小1のおこづかいの平均は、月1万2,000円です。高額に感じますよね。
それをすべて自分のために自由に使うのでなく、「今すぐ使えるお金」と「目的をもって貯めるお金」などに分けることを教えることから、お金の教育が始まります。欲しいものがあるたびに「買って、買って」と親にねだるのでなく、自分で考えて行動できる人間になってほしいからです。
お金が必要なときは、プレゼンテーションをしていた
川口さん:私は、小学生ぐらいになって欲しいものができたとき「〇〇を買いたいので、いくら欲しい」ということを親にプレゼンしていました。そのお金を得るために、自分にできることを伝えるんです。「ボランティアをやります」とか「今度のテストで一番を取ります」というようなことで、それが達成できたらお金をもらえました。
あるとき、目的のために2万円が必要と言ったのに、考えさせるために3万円をもらったことがありました。そこで話し合いをし「すぐ使わないで、もう少し貯まったら、もっといいものを買おう」ということに。そうやって貯金の概念が育ちます。
大人の世界でも、企業の融資を受けるためには、やっぱり同じようにプレゼンをしますよね。それと同じ考え方なのです。アメリカでは仕事についても成果主義ですし、親の雇用や年収に保障がありません。お金はどんなときにもらえるのか、欲しいものができたら親にどう交渉するのか、そういうことを子どもの頃から理解していくことは大切なことです。
未就学児からのお金教育の始め方。子どもの前ではあえて現金を使うことも
――小さな子でもお金の価値を理解することはできますか?
川口さん:お金教育において、何歳からやった方がいいという区切りはありません。0歳の子だって、親とお店に入ってお金でものを買っている様子をなんとなく見ていますし、3歳でも、欲しいものを手に入れるにはお金が必要だと理解できます。
小学生になれば、銀行や証券会社に一緒に連れて行くことで、手続きの瞬間を見ることができます。また、子ども自身の通帳を作ることでお金のやりとりが自分事になりますよ。
――具体的にどんなふうに教育していくのがいいでしょうか。
川口さん:イギリスでは未就学児から、お金の価値や数の概念、販売や貯蓄などを学びます。例えば、おうちでもお店屋さんごっこを通して売買の仕組みや雰囲気を知ることで、楽しくわかりやすく学べると思います。小学校に上がる前後ぐらいから、おこづかいとはどういうものなのかを知る機会を設けるのもいいでしょう。
キャッシュレスが進む世の中ですが、子どもにお金の流れを見せるときは、なるべく現金を使ってみてください。一緒にコンビニに行き、自分のお財布で購入しておつりをもらう体験は、とてもいいお金教育になります。カード決済だと、カードをかざせば商品が手に入るラッキーな体験にしか感じません。
また、お買い物の際にレジ横にある募金箱に、チャリーンとお金を寄付することも大人が教えていってほしいですね。地震や戦争は、いつ誰の身に降りかかってもおかしくないことで、自分でできることを小さいうちから考える環境があるといいと思います。
決まった期日にもらえるおこづかいはNG?
川口さん:日本では、年齢に応じておこづかいの金額を設定することが多いですよね。でも年齢が上がれば勝手にもらえるお金が増えるというシステムは、おすすめしません。お年玉についても、機械的に貯金しているだけだとお金について学ぶ機会を奪ってしまいます。
おこづかいは定期的でなく、子どもと話し合ってその家のルールや金額を決めるのがいいと思います。自分名義の預金通帳にお金を一緒に預けに行くのもいいですね。
――どのようなときにおこづかいを渡すと良いですか?
川口さん:例えば、なにか褒められるようなことをしたときにあげるのが最適ではないかと思います。人が喜ぶようなことができたときなどに「ママから〇〇賞だよ」と言ってあげると、やりがいになるのではないでしょうか。家庭で決めごとを作って、達成したらご褒美がおこづかいになるという形もいいかもしれません。
ただ、家事のお手伝いは、お金をもらってやるようなことではないので報酬にはしないでください。お金をもらわなければ掃除しないという子になっては困りますよね。
貯金箱を2つに分けてお金の使い道を決める
――もらったおこづかいは、どのように管理していくのがいいですか?
川口さん:まず貯金箱を2つ用意します。貯金箱は透明な瓶を推奨しています。透明だとお金が見える化するので、子どもでもわかりやすく、貯まるたびにモチベーションが上がります。
貯金箱のひとつ目には、「子どもがすぐ使っていいお金を」入れます。このお金は、自由に使わせてください。大人がびっくりするようなものを買ってきても「おもしろいものを買ってきたね」などと言って、危険なもの以外は多目にみてあげてください。本人に決定権を与えることが大事なことなんです。
もうひとつは「目的を持って貯めるためのお金」を入れます。こちらは、誰かのために使うという目的や、貯めることで大きい買い物をすることも覚えていきます。
失敗しても向き合って話し合うことで身に着く
――日本では、子どもに大きなお金を持たせることは怖いイメージがあります。手に入れたお金で年齢相応でない品を買ってしまうなどという心配はないのでしょうか。
川口さん:お金教育の根底には、「自分でお金をコントロールできること」と「親がいなくなったときに自立できること」という目的があります。これを身につけるには、ある程度自由になるお金が必要です。 海外は、自己責任が基本。だからこそお金の勉強をしておいて、たとえ親がいなくなってもある程度お金をコントロールできるように教育するのです。
お金の勉強は、教科学習と同じような学びです。失敗しても怒らず、一緒に向き合うようにします。慌てない、焦らない、怒らない。まずは認めて、“これを買ってどんな気持ちだった?”と話し合います。
まずは、その子の成長具合を見ながら、手に入った大きなお金をどう使いたいのか話し合うところからじゃないでしょうか。話し合いがしっかりできる関係性があれば、詐欺にあいそうなときも相談してくれます。
お金は幸せの教育でもある
川口さん:お金教育について、親の思う通りにはなることばかりではありませんが、先回りして「こうしなければ」というより、子どもを信じてあげることが大切です。思春期になれば嘘をつくこともあります。けれど、たとえばバレンタインチョコをもらって、お返しの品でかっこつけたい場合もあるじゃないですか。親に言いたくないという感情はあって当たり前。多少のことは追求しないで、見逃してあげる心も愛情だと思います。
お金の教育は「お金持ち」になるための教育ではなく、毎日笑顔で過ごせるための学び。親がお金の扱いを決めるのではなく、その子と向き合ってたくさん話を聞いてあげることが大切ですね。
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記事監修
川口 幸子|クラウドコンサルティング株式会社取締役
取材・文/日下淳子