発達障害特性のある子どもの多くが苦手とする「実行機能」とは?
実行機能とは「何かをやり遂げる力」です。勉強や日常生活動作、会話、家事など、およそ何かを実行しやり遂げるには実行機能が働くことが必要です。
実行機能の要素
実行機能には以下の4つの要素があるとされます(他の分類もあります)。
1.目標を設定して取りかかる力
「こういう状況にしたい」という意図をもって、そのための適切なゴールを設定する力です。加えて、目標に向かって動き始める力も必要です。
例:積み木を見て「これで城を作る」という目標を設定して、積み始める
2.目標達成へのプランを立てる、計画する力
目標達成へのプランを立てるには、まず情報を集め、必要な情報を使い、優先順位をつけ、いつ、どのタイミングで何をするかなどを計画します。
例:どういう城を作るかをイメージし、組み立てる順番などを計画する
3.計画を遂行、継続し、ゴールする力、切り替える力
プランに沿って行動し続けて(維持)、ゴールする力です。プランの修正が必要になったときには、切り替える力、変更する力が必要です。
目先のことだけを考えず、こだわりを捨て、客観的に状況を見ないと、プラン変更はできません。
例:計画に沿って積み木を積む。倒れそうならば、計画を変更して、違う積み方に切り替える。
目標遂行に必要となる「ワーキングメモリー」
ところで、プラン修正時には、自分が何に向かって行動しているかを覚えている必要があります。
例えば、ある子どもが「午前9時に幼稚園に着く」つもりで家を出たとします。途中、公園でいつも会う秋田犬に挨拶するつもりでしたが、今朝は秋田犬がいませんでした。
ここで「午前9時に幼稚園に着く」が頭にあれば、犬のことは諦めて登園します。しかし「午前9時に幼稚園に着く」が頭から抜けていると、公園で犬を待つというようなことが起きてしまいます。
このように目標遂行には、必要に応じて、一時的に情報を脳に保存する力が必要です。この力を「ワーキングメモリー」と言います。
4.行動調整機能
目標を達成するには、感情をコントロールして自分の行動を調整しなくてはなりません。他の気になるもののほうにフラフラ行ってしまったり、プラン修正にイライラしてやっていることを放り出したり、パニックを起こすのでは、目標は達成できません。
例:最初の計画と違う進み方をすることになっても、感情をコントロールして、怒ったりせずに、違う積み方で城を作る。
実行機能の各要素へのサポートの方法は?
発達障害特性のある子どもの多くが実行機能(目標、プラン、計画遂行、行動調整)の一部か全般に苦手さがあります。
サポートの基本的な方針は
・ 本人が楽々できることはやらせる
・ 時間ががかっても自分でやりたいことは、時間がかかっても自分でさせる
・ できるけれど苦手なこと、できないことは、大人が相談に乗る、手伝う、代行する
ということです。
目標を設定して取りかかる力が足りない場合
中には「これをしたい」と思い、そのために目標を設定することが難しい子どもがいます。そういう場合、何を目標にするか?いつ始めるか?などを一緒に考えます。「目標を達成するとこういう良いことがある」と伝えると、目標設定のモチベーションになります。
また、取りかかろうと思っていても動き出すまでに時間がかかる子どももいます。そのような場合は、ある程度の時間的な猶予を与えて見守ります。取りかかりの部分だけ一緒にやる、始動に必要なアイテムを手渡すなど工夫をします。
目標達成へのプランを立てる、計画する力が足りない場合
自分でプランを立てたい子どもには自分で立ててもらいます。プランを立てるのが苦手な場合は、目標への手順を一緒に考えたり、大人がプランを立て子どもが確認するようにします。
計画を遂行、継続し、ゴールする力や切り替える力が足りない場合
段取りがわかるように、本人にわかる形式(文字、写真、絵、実物)で立てた計画を明示します。時間がわかるならば、時間も示します。
おもちゃやテレビなど気が逸れそうなものはできる限り排除して、注意が逸れないようにします。計画変更の際には適宜、必要なサポートをします。
行動調整機能が足りない場合
子どもの気持ちの動きを把握して、子どもの気持ちをことばにしたり、励まして、子どもが感情をコントロールできるようにサポートします。そのような関わりや介入を嫌がる場合は、静観して、気持ちが落ち着くのを待ちます。
第7回 フロアワイパーなどを使った掃除
年末にかけて大掃除の時期です。フロアワイパー、フロアモップ、粘着カーペットクリーナーなどでの掃除は、小さい子どももできるお手伝いですので、ぜひやってみてください。
対象
2歳から
期待できる効果
・実行機能を使う経験(目標、プラン、計画遂行、行動調整)
・位置や形容詞や副詞などのことばを覚える
・粗大運動(体の大部分を使っての大きな動き)の経験
・人からの依頼を受ける対応力
・家族に喜ばれることで勤労意欲が育つ
・仕事を任せられることで責任感が育つ
・家族の役に立つ経験ができる
掃除の準備
1.日中は埃が舞うので掃除は朝に、とも言うが、各家庭の事情に合わせて家族で取り組めるタイミングで行う。
2.子どもの担当範囲を子どもと相談して決める。
3.掃除する場所に物がある場合は、それらをどこに移動させるかを子どもに考えてもらう。一人では難しければ一緒に考えるか、移動する場所を指定してそこに動かしてもらう。大きなものは大人も手伝って運ぶ。
4.大きいごみは、予め掃除機で吸い取る。掃除機を使うと埃が舞うので注意する。ごみが細かくてフロアワイパー等で足りるならば、掃除機は使わない
掃除の見本を示す
子どもに注目させてから、擬音を使ってわかりやすく伝え、やり方を見せます。
柄の持ち方
声かけの例 「ここをぎゅっと持つのよ」
フロアワイパーなどのヘッド部が床面にきちんと接するようにする
声かけの例「ここを床にピタッとつけて」
拭く
両足を踏ん張るようにして、強く床をこする姿を見せる。
製品によって、適切な力の入れ具合は違うので、そこには注意が必要。
声かけの例「柄をしっかり持って、ヘッドを床にピタッとつけて、ギュッ、ギュッと拭いてピカピカにしてね」
実際にやってもらう
1.子どもの担当範囲がわかるように目印をつけ「ここから、ここをお願いします」と確認する。
2.子どもに「ピカピカになったら教えてね」「お願いしたところが終わったら教えてね」と言って、報告してもらう。
3.やって見せたとおりにできたら「素晴らしい!」「オッケー」ときちんとほめる。
※シートやクロスの交換のタイミングの判断は難しいので、子どもが幼いうちは大人が交換する
体験の中で新しいことばに触れ、ことばの力を伸ばす機会に
ことばの力は、体験の中で新しいことばを聞き、理解し、使うことで伸びます。
お手伝いという機会を逃さず、「奥」「手前」「つるつる」「ぴかぴか」「広い」「狭い」「頑張る」「協力」「交代」など、さまざまなことばをかけることを意識してみましょう。
発達障害特性のある子どもの場合の注意
発達障害特性のある子どもの多くが実行機能の苦手さがあります。今回の掃除のお手伝いの場面でも、適宜サポートをしながら、楽しく、自己肯定感が高まるように、ということを意識したいです。
そのために、まず、目標を自力で達成できるように、子どもに任せる掃除面積を狭くします。そして、掃除に集中できるように、おもちゃやお菓子などは目につかないようにする、テレビを消す等、気が逸れない環境を整えます。
他の刺激が気になって、掃除していることを忘れてしまう子どももいます。その場合は、拭き掃除をしているという意識を保てるように「お~拭いてるね」「拭いてるよ~」など、拭き掃除に意識を向け続けられるような声かけをしてみましょう。
今年の大掃除は子どもも一緒に
フロアワイパー等での掃除は、子どもが不思議とやりたがるお手伝いです。危険も少ないので、是非、取り組んでみてください。慣れてきたら、少しずつ声かけを減らす、拭き掃除の障害になるものの移動などから自分で計画的できるようにする、などをめざしてみましょう。
早いもので来月は年末、大掃除の時期がやってきます。家族全員で協力して掃除をしてみてください。