【洗足学園中学校・高等学校】東大、医学部などへの圧倒的進学率!高3まで全員数学を履修、女子の発達特性を活かした教育など“女子校”ならではのカリキュラムとは?

東急田園都市線・大井町線・溝の口駅、JR南武線・武蔵溝ノ口駅から徒歩約8分の場所にある「洗足学園中学校・高等学校」は、2024年に創立100周年を迎えた女子校です。社会進出も含めた女性ならではのライフデザインを描けることに力を入れていることで、近年、注目を集めています。前編では、同校の校長・宮阪元子先生に教育理念とその具体的な実践方法、そして、女子校としてのメリットについてお話を伺いました。

目指すは、激変する未来社会にも輝き続けられる人材育成

――「洗足学園中学校・高等学校」は創立以来、それぞれの時代で、女性が生きていく上で必要とされる学びや体験を提供してきたといわれていますが、「洗足学園」の先生方が目指していらっしゃる教育とはどんなものなのでしょうか?

宮阪先生(以下、宮阪):私たちは、中高一貫教育の6年間の中で4つの教育理念を掲げて教育を行っています。

洗足学園中学高等学校
洗足学園中学高等学校 校長・宮阪元子先生

LEARN FROM EVERYTHING

宮阪:先の見えない激動の時代を生徒たちが生き抜くためには、状況や志向によって常に自己変革を行える力が必要です。そのため、本校では本質的で偏らない学力と、さまざまな自立的能力が身につけられるように努めています。

すべてが学びであるという理念に基づいて10代に身につけた多角的な力は、各人の視野を拡げ、人生の選択肢を拡げることに役立つと考えています。

EMBRACE YOUR COMMUNITY

宮阪:「人が集う」ことの大きな意味のひとつに、他者の価値観との出合いがあります。その出合いを活かすためには、仲間同士、互いがそれぞれ違う価値観を認め合い、思いやりの心をもって過ごすことが大切です。

本校では、6年間通して学園生活を送ることで、その大切さを実感できるカリキュラムを実践しています。

THINK FOR YOURSELF

宮阪:社会に出たとき必要なのは、自分自身で考え、その考えを正確に相手に伝え、語学力も含めてプレゼンテーションする力です。

本校では、その力を身につけられるように学校生活の中で「あなたはどう考えているのか」を、常に問う授業や行事を行っています。本校の生徒たちを見ていると、社会に貢献したいという願いのもと、既存の価値に頼るのではなく、自分たちが新しいものを作り出そうという気概を感じるのですが、それはそういった力を身につけた賜物ではないかと思います。

SOAR

宮阪:SOARとは、鳥が雄大に大空を舞う姿の意味ですが、前述した3つの観点から提供された学びと体験を6年間にわたり経験することで、生徒一人ひとりが大空を舞う鳥のように、大きな視野を持ちながら、自身ならではの能力を物怖じせずに発揮して社会に貢献し、幸福な自己実現ができることを目指しています。

高3まで全員が数学を履修。「哲学対話」で思考力と他者の価値観を受け入れる練習も

――素晴らしい教育理念ですね。こうした教育理念を実現するためには、どのようなことを実践しているのでしょうか? 具体的にいくつか教えていただけないでしょうか。

宮阪:例えば、本校では、高校3年生まで全員数学必修体制のカリキュラムを組んでおりますが、それはすべての経験が学びになると考えているからです。文系・理系にこだわらず数学を学ぶことで、物事を論理的、科学的に捉え、データを扱う力を育むと同時に、基礎学力もしっかり身につけることで、人生の選択肢が広がると考えています。

本校の卒業生の中には、大学へ進学して、より広い視野と経験を得たことで人生の目標が変化して、文系から理系へ、理系から文系へ転向する生徒がおりますが、それはそうした学びが役立っていると感じます。

数学の授業風景
数学の授業

宮阪:大地に根差した太い幹がある樹木が多くの自然災害に見舞われても、それに耐え抜き、枝葉を広げていくのと同じで、多角的な知識や学力があれば、人生においてどんな試練や課題が出現でいても、それを乗り越えていけると考えています。

仲間と正解のない問いについて考える「哲学対話」

宮阪:また、授業ではありませんが、中学1年生から高校3年生までの総合的な探究の時間に「哲学対話」という時間を設けて、答え(正解)のないテーマについて対話する機会を設けています

例えば、テーマは〝自身にとっての幸福とは何か〟や、〝平等とは何か〟などです。こうしたテーマについて仲間と対話を重ねることで、生徒たちは、自分で考え、それを他者に的確に伝える力が身につきます。また、それと同時に他者の価値観を知り、それを受け入れることで、自身の視野が広がっていきます。最終的には、深く考える力だけでなく、広い視野を持ちながら仲間とつながり、生きることの意義を実感していくのです。

哲学対話の様子
哲学対話の様子

最近、「幸福とは何か?」というテーマについて対話を行っているクラスを参観したのですが、低学年では、幸福とは「推し活をしている時間」や、「寛ぎながらマンガを読んでいる時間」という対話が行われていたのに対し、上級学年では、「自分ひとりだけでなく、周りの人たちみんなが幸せであること」といった対話がなされていました。12歳からの5年間で視野が広がり、自分一人だけの幸せは、真の幸せではないと気づいていることに実に感動しました。

学習面・生活面ともに女子の発達の特質に配慮して指導

――なるほど、多感な思春期における著しい成長を感じますね。ところで、女子校であるという観点で実践していらっしゃることはありますか?

宮阪:私たちは、心身ともに成長が早い女子の特質に配慮した指導を行っていけることが、女子校のいちばんのメリットだと考えています。

女子の“成長曲線”を最大限活かせる学習カリキュラム

宮阪:例えば、学習面において、男子は、学力・精神力とも二次関数の曲線的な伸び方をして高2の後半あたりから急激に伸びていくことが多いのですが、女子の場合、その伸び方は一次関数のような直線的で、右肩上がりに伸びていくという特徴があります

図書館
生徒の自主学習が捗るよう、図書室を自習室に改装。夜21時まで解放しているそう。

宮阪:そのため、本校では、中1~中2である程度の宿題を出して基礎固めをすると同時に、勉強する習慣をつけます。そして、中3~高2になるとそういった宿題は徐々に減らしていき、研究論文的な課題を与えて、応用力を身につけられるようにしています。その上で、高3では、進路を自分自身で決められるように配慮しています。コツコツ努力を積み重ねていけるのは女子の特性ですから、その良さを最大限に生かせるカリキュラムを組んでいます。

女子の思春期ならではの特徴を理解し、自立を促す

宮阪:また、生活面では、思春期の女子は繊細であると同時に、同じ価値観を持つグループで固まりがちです。入学したばかりのころは初めての空間で緊張していることもあって、「お弁当を誰と一緒に食べるか」ということも大きな問題です。昨日は一緒にランチをしたのに、今日はできなかったというような些細なことが、不安のタネになるのです。

そのため、中1~中2の間はクラスでは、行動を共にする班を作る一方で、席替えを頻繁に行うなどして、多くの人と触れあえるように配慮しています。それは、宿泊研修の移動中のバスの席やグループ、部屋割りなどでも同じです。しかし、中3あたりから、教員は、そういった問題から徐々に手を放して、生徒たちの自主性に任せるようにしています。生徒たちも徐々に自立して成長していきますので、私たち教員は適切に見守っていくだけで大丈夫です。

修学旅行
長崎での修学旅行

宮阪:生活面では、ほかに、中1から高3まで毎年クラス替えをしています。本校は1学年を6クラスで編成していますが、毎年環境が変わることで得られるメリットが多いと感じているからです。そのように毎年クラス替えをしていても、中高6年間を同じメンバーで過ごしていきますので、最終的には学年が一つの集団としてまとまっていきます。

帰国生との触れあいでグローバルな刺激も享受

宮阪:それと、これは女子校だからというわけではありませんが、本校の場合、クラス編成では中1~高1まで「一般生・帰国生混合クラス」が存在します。本校には帰国生が1学年40名前後在籍しておりますが、その生徒たちを20名前後ずつに分け、一般入試で入学した生徒と一緒にして高1までクラス編成をしています。一般生の多くは、一度はこのクラスになりたいと願っています。帰国生たちと共に過ごすことで、彼女らのグローバルな佇まいや、英語力、主張の仕方など、さまざまなことが刺激となるからです。

――好奇心旺盛でポジティブな生徒さんが多いのですね。では、女子校のデメリットはないのでしょうか? 後半ではその点をどのように捉えているのか、また、「洗足学園中学校・高等学校」の生徒たちの気質とはどんなものなのかを、授業以外の観点から伺いました。

後編はこちらから

「女子校」のデメリットって?【洗足学園中学校・高等学校】に直撃!ユニークな学外活動“他流試合”や企業・大学との提携プログラムなどから育む人材育成の考え方
前編では校風や女子校であるメリットなどについてお伺いしました 女子校で形成された価値観は社会へ出てからさらに輝く。自立心旺盛で物怖じし...

洗足学園中学高等学校

「洗足学園」の創設は1924年(大正13年)。女子教育者にして、敬虔なクリスチャンであった前田若尾が旧平塚村(現・東京都品川区)の自宅に私塾(裁縫塾)を開いたのがはじまり。2002年に現在の校名「洗足学園中学高等学校」に改名。

社会で活躍する人材育成のため、「高い学力」「豊かな感性」「コミュニケーション能力」「広い視野」を養う教育を目指す。

現在、1学年6クラスで250名程度、中高6学年では約1500名が在籍。その進路は国内外を問わず幅広く、医学部医学科への進学者も10名を超える。

「洗足学園」公式ホームページは>>こちらから

取材・文/山津京子

編集部おすすめ

関連記事