「まねをする」が共感性や想像力を育てる【発達障害の子が生き生き育つお手伝い療育を専門家がレクチャー】すり鉢でごまをすってみよう

この連載では、発達障害のある子どもの療育に長年携わってこられた言語聴覚士・社会福祉士の原 哲也先生が、家事のお手伝いを通じて行う療育をご紹介します。子どもの自尊心を育てながら、家族も喜ぶ「お手伝い療育」。今回のテーマは「ごまをする」です。

人間は相手の意図を推察して「まね」ができる

模倣とは、人の動きやことばをまねることです。顔まね、声のまね、踊るまね、お母さんのお化粧のまね、お父さんの怒り方のまねなどいろいろありますが、「まねをする」という行為には以下の2通りがあります。

①相手がやっていることを、見たままに動作を写し取る
②相手の 「意図」を推察した上で、その 「意図」を自ら取り込んでする

特に②を行う力は、人間だけに備わった力であると考えられています。

意図を理解する力の発達

幼児が相手の意図を理解し、模倣することを証明した有名な研究をご紹介しましょう。

スイッチを押して電気を点灯させる「マジックボックス」の実験

①両手がふさがっていて使えない状態の実験者が、額でスイッチを押して電気をつけます。
②手が使える状態の実験者が、その手をテーブルに軽く置いて額でスイッチを押して電気をつけます。

そして、この2つの場面を生後14か月の子どもに見せます。
すると子どもは、①を見た後は額ではなく手でスイッチを押し、②を見た後ではおもしろがっている顔をしながら額でスイッチを押したのです。

(Gergely,G et al.(2002)乳児による合理的模倣.Nature 415 参照)

①を見た子どもは、「この人は両手がふさがっていて使えないから額でスイッチを押した」と解釈し、自分は手が空いていて使えるので手でスイッチを押したのです。

そして②では「この人は両手が使える状態なのに、あえて額でスイッチを押したんだから、これは額でスイッチを押して点灯させる、ちょっとおもしろい装置なんだ」と考え、額でスイッチを押したと考えられます。

つまり、わずか14か月の子どもでも、自分の見た状況から、人の意図を解釈して模倣することができるのです。

模倣によって育つ機能

子どもは成長に伴って「模倣する力」と「意図を理解する力」の両方が育ち、高度な模倣もできるようになります。まねをすることで、さまざまな機能が育ちます。

感情を含めて、周囲の人と合わせる力、共感性が育つ

模倣をするには、他者を意識し、相手の行動をまねるという形でなぞる・辿ることが必要です。子どもは、それを繰り返すことで人を意識し、人に合わせることができるようになります。同時に、人の行動をまねして体験することで、人の気持ちを理解できる、共感できるようになるのです。

行動制御力や自己調整力が育つ

模倣をするときは、集中して相手を意識し、じっくりその行動を観察し、分析し、そして相手の動きを意識しながら、自分の身体を意識して調節して、相手の動きをなぞることが必要になります。それは自分自身の行動を制御する力を育てます。

 環境や人から情報を取り込み、学ぶ力が育つ

模倣をするとき、子どもは興味のアンテナを伸ばし、見る、聞く、触る、動く、嗅ぐ、味わうなどさまざまな感覚を使って相手の情報を収集し、取り込みます。まねしたいという意欲によって、子どもは周囲の環境や人の動きへの感受性を高めていきます。

想像力(イマジネーション)が育つ 

おままごとでお母さんになりきって料理をしている子どもは、お母さんがお料理しているところを生き生きと想像しながら遊びます。何かを想像しながら模倣する行動は、想像力を育てることにつながります。

知識や技術、文化を伝えることができる

相手の行動を、意図を含めて理解し模倣することで、さまざまな知識や技術、文化を理解し記憶し、学習することができます。模倣によって人は知恵を伝え、受け継ぎ、自分の力にすることができます。

第13回 ごまをする

ごまをすったときの、なんとも言えない香ばしい香りは魅力的なものです。ごまがどんどん形を変えていく様子も子どもの好奇心をそそるに違いありません。

ごまをするためには、すりこぎの持ち方、動かし方、力の入れ方などをよく見て、まねをしなくてはなりませんし、ごまがどういう状態になったらやめるか、状態の変化にも気を配らなくてはなりません。

さまざまなことを見て、まねて、学ぶことができる「ごまをする」お手伝い。ぜひチャレンジしてみてください。

対象年齢

2歳~

期待できる効果

明確な一定のルールを親が伝え、子どもは伝えを受け取るという学習経験
・熟達している親が丁寧に教えてくれることによる親への信頼
・模倣を通して、観察し、学習する力がつく
・道具を適切に使う経験を通して運動機能が育つ
・一定時間すり続けることによる集中力が育つ
・行動制御の力がつく
・家族に喜ばれることで勤労意欲が育つ
・仕事を任せられることで責任感が育つ
・家族の役に立つ経験ができる

用意するもの

・すり鉢・すりこぎ(両方とも100円ショップにあります)
・フライパン
・布巾(水で濡らし固く絞る)
・お好みのごま

手順

1.フライパンにごまを入れ、香ばしい香りがたつまで弱火~中火くらいでじっくりごまを空煎りする

2.濡れ布巾の上にすり鉢を載せ、煎ったごまを熱いうちに入れる

※ここまでは、やけどの危険があるため、大人が行う様子を子どもに見ていてもらいましょう。

3.すりこぎの持ち方と動かし方を子どもに示し、好みの粗さになるまでごまをする

ことばがけの仕方

1.ごまをフライパンから下ろすタイミングや、大人が手でフライパンをあおってごまを煎るとき
子どもに側にいてもらい、「い~におい~になったら教えてね」と言う。

2.すりこぎの持ち方
やり方を示しながら「ここと、ここをぎゅ、だよ」と言う。

3.ごまをするとき
「ゴリゴリ」「すりすり」など子どもが喜ぶ擬音を出しながらする。

4.する時間が長くなったとき
子どもの集中力が落ちがちなので、「いいね」「すごい」と努力を称える。
ゴールが見えるように「あと少し、そうそう」「ゴールが近いよ!」などと鼓舞する声がけをする。

5.最後まですり終えたら
「本当にありがとう」「助かったよ」と感謝と努力へのねぎらいのことばをかける。

ごまを使ったかんたんレシピ ~すりゴマドレッシング~

子どもがすったごまを使ってつくれるかんたんなレシピをご紹介します。サラダや豚しゃぶのたれ、魚やキノコのホイル焼きのソースに最適です。

材料

A:子どもとすったごま、酢、醤油…各大さじ2
B:砂糖、ごま油…各大さじ1

手順

AとBを混ぜます。AとBの割合は2:1と覚えるとかんたんです。ごま油を少なめにしてオリーブオイルを加えてもいいでしょう。すったばかりの香り高いすりゴマで作るすりゴマドレッシングは格別です。

「ボクが、私が、すったごまで作ったドレッシング、とってもおいしい!」子どももきっとうれしいと思います。ぜひ作ってみてください。

まねをするお手伝いで、子どもの育ちを応援

近頃は、炊飯、洗濯、掃除など、家庭の仕事の多くの部分を、スイッチひとつで動く機械が担っていることもあり、子どもが親の行動を興味深く観察し、見て、模倣して学ぶ経験が極端に少なくなってきています。模倣の持つさまざまな機能を考えたとき、これは危ぶむべき状況だという危機感があります。

ぜひ、生活の中で意識して模倣の機会を作り、子どもの育ちを応援してください。

この記事を書いたのは…

原 哲也 言語聴覚士・社会福祉士

一般社団法人 WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事。明治学院大学社会学部社会福祉学科卒業、国立身体障害者リハビリテーション学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダのブリティッシュコロンビア州の障害者グループホーム、東京都文京区の障害者施設職員、長野県の信濃医療福祉センター・リハビリテーション部での勤務の後、『発達障害のある子の家族を幸せにする』ことを志に、一般社団法人 WAKUWAKU PROJECT JAPANを長野県諏訪市に創設。発達障害のある子のプライベートレッスンやワークショップ、保育士や教諭を対象にした講座を運営している。著書に『発達障害のある子と家族が幸せになる方法』(学苑社)、『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)がある。

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