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小学校2年生から小説を書き始めた
――15歳のときに書いた作品が小説の新人賞を受賞したわけですが、もともと本を読むことや文章を書くことはお好きだったのですか?
坪田さん 家には本がたくさんある家庭でして、小学校に上がる前後くらいから椋鳩十さんの児童向け動物文学をよく読んでいました。小2の頃には、はやみねかおるさんの児童推理小説『踊る夜光怪人』に感動して、「自分も小説を書いてみたいな」と思うようになりました。
小学生ですから、原稿用紙に思いつくままに書いたのですが……、記憶にあるのは、当時野球をやっていたので、野球少年が主人公で悪魔と契約してホームランを打たせてもらった、というような話でした。
――小2にしては、大人っぽいお話ですよね。さすがです。その後も書くことに積極的でしたか?

坪田さん 小学校3、4年生くらいのときから学校で委員会活動が始まって、僕は図書委員をやっていたんです。図書委員は自分で文章を書いて図書室に置いてもらうことができたので、その環境があったのも大きいですね。ただ、小学校のうちは、小説の舞台設定はたくさん考えついても結末まで書けないこともあって、設定ノートのメモばかりがふくらんでいました。
中学では毎年 自由研究で小説を書き、賞をもらっていた
――中学に上がると、自由研究で小説を書くようになったんですよね。なぜ小説を?
坪田さん 同じ中学に進んだ兄から、上級生に「自由研究で小説を書く人がいる」ことは聞いていたんです。僕は小学校のおわりくらいから小説家になりたいと思っていたので、ならば自分も自由研究は小説だ、と。
中1のときの1作目は、東京メトロの9路線を舞台にした9つの短編集でした。自由研究は作品の出来映えよりも過程が評価されると思って、東京メトロの9路線、全部に乗ってメモをとってそれも合わせて提出しました。そのほうが先生の評価が上がるだろうというもくろみです。実際、狙い通りでした(笑)。

中2のときは、逆に調べ学習を大きく評価されるのは納得がいかない、もっと筆力で評価されたいと思うようになりました。ただ、取材は大切です。廃校になる田舎の中学校を舞台にした作品を書こうと思い、母親に運転してもらって茨城県の廃校になった校舎を実際に見に行き、物語にリアルさを出そうと考えました。
友達の母親が「小説新人賞に応募してみたら?」と。すると見事受賞!
――そして中3のときにいよいよ『探偵はぼっちじゃない』を書かれたのですよね。自由研究も3作目で、学校のみなさんから期待されていませんでしたか?

坪田さん 自由研究の作品の展覧会があるんですが、受賞作品には受賞の札が添えられています。中1、中2の作品で札が置いてあったので、みんな覚えてくれていたみたいですね。自分も中学最後の作品を書くとなると気持ちが入っていて。当時、部活動にも打ち込んでいて夏休みにも練習があったのですが、自由研究の提出の日までにどうしても小説を完成させたくて、部活動より優先させてしまう日もありました。
書いたらまず、国語科の担当の先生が読んでくださいました。中学校3年生の主人公は小説を書くことになっているので、先生に「主人公の書いた小説も作中作として入っているといいね」というアドバイスをいただきました。その後、読んでくださった友達のお母さんが感激してくださり、ボイルドエッグズ新人賞への応募をすすめてくれて、受賞をしたという経緯です。受賞後には、国語科の先生のアドバイスに従って主人公の小説を作中作として入れるなどの改稿をした上で出版しています。
――その後、高校時代から大学に入学したあたりまで、作品は発表されなかったのですか?
坪田さん 出版社の編集の方々に小説を見てもらう中で、なかなか納得がいく作品にならなくて。期待されているものを書けずに苦しみました。高3になると内部進学のための勉強もあります。その頃には医学部に行きたいという希望も固まっていたので、評点を高くするためにも、英語や数学だけではなく、体育や美術などの教科もがんばらないといけない。小説に時間をさくことができず、大学2年になってからようやく高校のバレー部を舞台にした『八秒で跳べ』を書き、今に至ります。
小説を書くのは好きだったけれど読書感想文は苦手…
――さて、夏休み、小学生は読書感想文や自由研究をこなさないといけません。「文章を書くのは苦手」というお子さんも多いと思いますが、読書感想文をうまく書くコツはありますか?

坪田さん 読書感想文、難しいですよね。多くの場合は自分の好きな作品ではなくて、課題図書の中から書かないといけないですからね。その本を好きになれるかどうか、というのもあります。そして、なんとなく「こう書いてほしいんだろうな」という正解が暗示されている感じがして……。僕自身も読書感想文はちょっと苦手でした。
よくやっていたのは、課題図書の中から印象に残った文面をカギカッコで引用して、「印象に残った文章」みたいにして書くことですね。でも、それではちょっと「紙面を埋めている」感じがしてしまうので、もうちょっと別のやり方として「自分に引き寄せる」というのがあると思います。
たとえば、課題図書が友達同士でぎくしゃくする物語であれば、同じような経験があるかどうか思い出してみましょう。そして「自分だったらどうだろう」と想像して、そのことを感想文に入れていきます。体験やバックグラウンドをからめると、通り一遍ではなく、自分らしさを表現することができます。
最近は読書感想文もAIに頼めばすぐに書いてくれますが、自分の経験とからめれば、生成AIにはできないオリジナリティが出てくるのではないでしょうか。
文を書く楽しさを味わえたのは、図書の先生に認めてもらったから

――文を書くことを楽しむにはどうしたらいいですか?
坪田さん 僕が小説を書きたいと思う背景として、図書の先生が読んでくれて、ほめてくれたという体験が大きかった。自分自身を肯定してもらったような気がしていました。保護者の方も、お子さんの作品を読んだら「ここがダメ」とか言わないで、いいと思ったところをほめてあげてほしいですね。
――坪田さんが小説を書くときには、どのように書き始めるのですか?
坪田さん 作品によって違いがありますけれど、日常のなかでふと浮かんだシーンから物語を発想することもありますね。そのシーンを生かしてどんな小説を書くのか試行錯誤します。『八秒で跳べ』では不調な主人公が、バレーの試合の帰りにカフェでココアを飲んでいるところが浮かんできて、そのシーンを際立たせるような内容を考えて書きすすめていきました。
――次の作品は医学生を主人公にした小説だと聞きました。

坪田さん はい、今書いているところです。医学部には、自分が医師になることに悩んでいる人が一定数います。ほかの人が打ち込んでいたり「これすごいよね!」と学んだことに興奮したりしているのを見て、焦りや居心地の悪さ、距離感を感じる、というような。それは医学生だけではないかな、と思いますよね。あらゆる場で、今自分が置かれている状況の中で違和感を覚えている人がいると思うので、その感覚みたいなものを書けたらいいなと思っています。
つまり、「自分だったらこうする」と自分に引き寄せると同時に、「ほかの人にもあてはまるんじゃないか」と思えるような普遍性を持つ作品が、読まれる作品なのかもしれませんね。
――楽しみながら、時に悩みながら文章を書いてきた坪田さんの言葉には、納得感がありますね。この夏、読書感想文などを子どもが書くときには、「自分だったらどうする?」と問いかけ、書けたら「がんばったね!」「読むのが楽しみ!」とモチベーションが上がる声かけをしてあげたいですね。
大人も子どもも読みたい青春ミステリ『探偵はぼっちじゃない』
坪田さんが15歳のときに執筆し、小説家デビュー作となった作品がこちら。中学生の心情をリアルに描いた作品は、夏休みの読書にもぴったりの一冊。
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お話をお聞きしたのは
つぼた・ゆうや 2002年、東京都生まれ。2018年、15歳の時に書いた「探偵はぼっちじゃない」で、第21回ボイルドエッグズ新人賞を、当時史上最年少で受賞。翌年KADOKAWAより出版され、デビュー。2作目の『八秒で跳べ』(文藝春秋社)はバレーボール部の主人公を中心に10代の心の揺れをリアルに描いた作品で、自治体の推薦図書にも選ばれる。慶応義塾幼稚舎、中、高を経て、2021年に慶應義塾大学医学部に入学。学業の傍ら、現在も執筆活動に励んでいる。
取材・文/三輪 泉 撮影/五十嵐美弥(小学館)

