発達障害のある子どもたちが、あえて選んだ中学受験。特性の違う二人は見事合格! その独自の学習術とは?【シングルマザーなないおさんに聞く】

発達障害がある2人の子どもを育てるシングルマザーのなないおさん。娘さんは塾なし、息子さんは大手学習塾に通ってそれぞれ中学受験を経験し、2人とも公立中高一貫校に合格しました。しかも息子さんは、灘中学校、開成中学校など難関中にすべて合格しています。 今回は特性がある子どもの学習面のフォローについて、Eテレの「高校講座」を見せたり、家では勉強を一切しないなど、独自の工夫をしながら寄り添い続けた日々についてお聞きしました。

発達障害がある姉と弟。先を見据えて早い段階で中学受験を決意

X(旧Twitter)やブログ、noteにて、子育てのリアルな情報を発信しているなないおさん。娘さんは2005年生まれで、4歳のときにADHD(注意欠陥多動性障害)、アスペルガー症候群と診断。息子さんは2007年生まれで2歳のときに自閉症スペクトラム(広汎性発達障害)と診断されました。そんななか、2人とも中学受験を経験し、公立中高一貫校に見事合格しています。

――お二人とも中学受験し、志望校に合格しています。受験を考えた時期ときっかけを教えてください。

なないおさん 娘が小学1、2年生になり、本人の様子を見ながら先のこと、高校受験について考えたのがきっかけです。高校受験するとなると中学校で内申点をとらなければいけませんが、それにはノート提出が必要です。娘は特性上ノートがうまくとれないですし、提出物や宿題をやらせるのが困難なため、それは難しそうだと。

加えて家の経済的な問題で行くなら私立でなく公立でと思っていました。公立に入るのであれば内申点が関係する高校受験でなく、中学受験で中高一貫の公立校を受けたほうがよいだろうと、中学受験を考え始めました。高校卒業資格を取るにはそれしかないと思ったんです。これは息子も同様です。当時は通信制や定時制などの選択肢は知りませんでした。

子どもの特性上、常に一歩先を考えて行動するようにしていた

――小学校の低学年で高校受験のことまでを考えていたんですね。

なないおさん 発達障害があると小学校では普通学級に入れるか、支援学級に入れるかを考えます。地域によっては支援学級に入ったら、自動的に中学校も支援学級にいかなければいけないところもありますし、そういった面からも一歩先を見て行動している人が私だけでなく多いと思います。地域によっては固定の支援学級が知的学級しかなく知的障害を伴わないタイプだと普通学級しか選べない場合もあります。

――情報はどこで得ていましたか?

なないおさん 全国的な福祉の制度などはネットでも情報を得ることはできますが、福祉の資源や学校の体制などは地域差が大きく、ネットの情報では役に立たないことが多くあります。
娘は普通学級、息子は支援学級でしたが「支援学級在籍だと中学受験が不利になるかどうか」は、前例があまりないため情報がありませんでした。公立が第一志望だったので教育委員会に問い合わせたり、私立中学は管轄が教育委員会でないので塾に聞いてみたりしました。

支援学級では地元中学の特別支援コーディネーターと話す機会があったので、そこで地域公立中学の内申点の仕組みを教えてもらったり、親の会に入って先輩に話を聞いたりするなど、地域密着の情報を集めることをしていました。

娘さんは季節講習と外部からの模試のみの塾なしで中高一貫校に合格! 家庭ではEテレの高校講座をずっと流しっぱなし

――娘さんは季節講習と外部からの模試のみの塾ナシで合格したそうですね。

なないおさん 娘を塾に通わせなかったのは、シングルなので経済的な余裕がなかったからですが、家のなかではいろいろとやっていました。小さい頃からやっていたことで一番よかったかなと思うのは、Eテレの高校講座を全部録画して、食事のときに流しっぱなしにしていたこと。『数学ベーシック』、『物理』、『生物』、『日本史』『世界史』そういったもの全部ですが、中学受験にも応用がきく内容がすごく多かったんです。

――『高校講座』が小さな子どもでも理解できるんですか?

なないおさん YouTubeとは違ってプロがおもしろおかしく作っていて、小さい子どもでも見やすかったです。あとは知育系DVDを車で流したり。ただ中学受験は小学校で習うこと以外も出題されるので、中学受験用のDVD付きテキストを買って、DVDを流したり一緒に問題を解いたりしていました。

――家庭学習で公立中高一貫校に合格したのはすごいです。

なないおさん よくなかった面もあります。いざ中学校に入ると、みんなは塾で相当のトレーニングを積んで鍛えられているので、計算スピードも速く、ついていくのが大変だったようです。

また、一時期娘が荒れてしまい親子の衝突が増え、親子でカウンセリングに通っていた期間もありました。

だから正直言って、親が子どもに勉強を教えることはものすごく難しいです。うちは経済的に仕方がなくそうしましたが、コツコツ自分で頑張れる、よほど適性のある子でなければ家庭学習での中学受験はおすすめできないですね。

弟は灘、開成、広大付属福山中など7校受けてすべて合格! でも家では一切勉強なし

―― 一方息子さんは大手学習塾に通っていたそうですね。

なないおさん これを言うと何というか、ほかの方には申し訳ないのですが、息子は特待生がとれて無料で通わせてもらったからです。もともと数字に強い関心があり、算数オリンピックでは二度金メダルをもらいました。

8歳くらいのときには、私には答えられないような高度な質問をするようになり、X(旧Twitter)でつながった東大生の方に、実際に会って回答してもらったこともあります。

息子が算数検定を取得する際は私も教えていましたが、先取りのため抜けがある単元もあったので、教育YouTuberの葉一さんの動画や、『NPO法人eboard』の動画サイトを活用して、穴を埋めていました。自閉症でこだわりがあり、わからないことがあると進めなくなってしまうので、抜けがない工夫をしていたんです。

――学校と学習塾と、スケジュールを調整するのは大変ではなかったですか?

なないおさん 本人のキャパを超えると継続できないので、削れることは全部削りました。まず学校の宿題は、先生と相談し、苦手な国語以外の宿題は全部パスさせてもらい、国語も学校で済ませてくるように言っていました。塾の宿題もパスし、家ではまったく勉強をしていませんでした。暗記力が強く、塾で習うだけで覚えられるので、学校と塾に行くだけで、家では遊んで休むだけ。

結果、中学受験は塾からの要望もあって受けた灘中学校、開成中学校、広大付属福山中学校など7校受けてすべて合格することができました。ですが結局は志望校であった公立の中高一貫校に通うことになりました。

写真はイメージです

先生方は敵ではなく味方! 配慮を頼むことが多いから普段から人間関係の構築を

――中学受験を振り返って思うことはありますか?

なないおさん 先ほども言いましたが、親が子どもに勉強を教えるのは大変難しいということ。

そして塾に通ったとしても、学校も塾もと言われる通りに全部やるのは絶対に睡眠時間を削らないといけませんし、子どもらしい時間はほぼ過ごせなくなります。だからいいのか悪いのかは何とも言えないですね。

特に、発達障害のあるお子さんはキャパオーバーしやすいと思うので、しんどいお子さんは多いように思います。そのお子さんに合わせて調節が必要ですね。学校に比べて塾は民間なので、宿題などに関しての配慮はお願いしやすく、受け入れてもらいやすかったです。

――配慮をお願いする場合、気をつけていることはありましたか?

なないおさん 学校に何らかの配慮をお願いする際、先生とトラブルになる話はよく聞きます。保護者も本を読んで知識があるから「こうしてほしい! ああしてください!」と言いがちですが、あちらは教育のプロだし、集団に教えているわけで、できることとできないことがあります。

お願いする際は、「お願いします」と頼るイメージのほうがやってもらいやすいので、普段から人間関係は作っておく、特に管理職の先生とはすれ違うたびに「お世話になっております」と声をかけて関係性を作っておき、何かあったときに話せる体制を作っていました。そして何か困ったことがあれば、いきなりこちらから要望はせず、困ったことを話し何かいい方法はないか尋ねてから双方アイデアを出す形で要望をお願いしていました。

先生は学校という場で一緒に子育てをしてくれるパートナーと考えていたので、教育のプロとして尊重し、敵視せずできるだけ良い関係を築くよう相手の立場も考えながら話し合いをしていきました。

現在娘さんは定時制高校に、息子さんはN高等学校に進学!

――娘さんは高校進学後は通信制高校に転籍されたそうですね。

なないおさん 娘は中学校から成績がふるわず、勉強がおもしろくないと。加えて、もともと生活リズムが取りにくい子だったために制限していたパソコンやスマホを、思いがけず手にしたことで昼夜逆転して起きられなくなり、中学校の終わりの頃から学校に行けなくなってしまいました。

中高一貫校だったので、いったんは全日制にそのまま上がり、その後同校通信制に転籍し、高校はそこの通信制に通ったのですが、手書きのレポート提出が必要だったんです。幼少期から手書きが難しいため、デジタル提出の交渉を重ねましたがどうにもならず……、現在は、公立の定時制高校に入り直して今一年生です。定時制は宿題も一切なく通うだけで単位が取れるんですが、二次障害も持っていて、通えたり通えなかったりしていますね。

写真はイメージです

息子は中学校に入ってすぐのコロナ休校後に行けなくなり、その後は完全不登校でした。二次障害で双極性障害になって入退院を繰り返すようになり、結局通えなくなってしまったんです。高校は、中高一貫校のためそのまま進学したんですが、結局行けず、今はN高等学校に通っています。ほかにも放課後デイサービスや病院のデイケア、NPO法人の若者の居場所づくりをしているような場所にも積極的に参加しています。

家庭を飛び出して「親の会」としても活動! 子どもが困らないように要望も提出!

――これまでいろいろなことがあったと思いますが、困ったときはどこに相談していましたか?

なないおさん まず、老人福祉と違い、障がい者福祉は横のつながりがないと情報が入りにくいです。行政側の窓口にあちこち行きましたが、なかなか解決にならなくて、親の会に頼ることが多かったですね。

全国組織としては日本自閉症協会がありますが、私は地域でご縁があった会に声をかけてもらったり、自分で調べたりしていくつも行きました。いろいろな形式の会があり、今私がメインで関わっている会は子どもの特性についてだけでなく、福祉関係の制度等について学び、市や県などに要望書を出すこともやっています。あとは茶話会といってみんなでお話をするような会も周りに声をかけて主宰しています。

――実際に要望書を提出されているんですね。

なないおさん 自分の子どもが困っているので、何とかしてほしいと活動するようになりました。通級指導教室の数が少なくて入りにくい状態だったので増設をお願いして増やしてもらったり、福祉関係の情報にたどりつきやすいように、ホームページをわかりやすくしてもらったりしたこともあります。また、公立高校へ合理的配慮について、どの配慮が必要かを伝えやすいよう、他県の仕組みを参考に「合理的配慮一覧表」を導入してもらいました。

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すべては子どもの自立のため。今は手を放すことを一生懸命やっている

――お子さんは現在20歳、18歳になりましたが、現在はどのようにお子さんたちに寄り添っていますか?

なないおさん 手を放すことを一生懸命頑張っています。私自身高齢出産だったこともあるし、病気もあっていつどうなるかわからないので、私がいなくても生活できるようにしなければならない。そこで福祉のチームを組んでもらい、私が関わらなくてもいいように、そこで完結できるようにお願いしているところです。

福祉にかかろうと思うといろんな手続きがあるんです。それも私がやるとあとで困ってしまう。子どもが自分でできることはやれるように、今は相談支援員さんをつけて同行してもらっています。相談できる人につなげておいて、何かあれば自分から頼れるようにしています。

――これまでを振り返ってどう感じていますか?

なないおさん 私自身は、自分をいい親だとは思っていなくて。今、世間には“毒親”という言葉もありますが、わが子がそう思っても構わないんです。ただ、親がいなくても生きていけるようになりさえすればと、それだけです。ずっとそれを考えてきました。

世の中では”きょうだいは平等に扱わなければ”とも言われますが、うちはそれぞれ特性が違うので同じように対応することができず、それに対しても理由を言って「同じにはできない」と言っています。それで仕方がないと思うんです。そのときの病気の症状、本人のタイプを見ながら対応を変えているので、そういう意味では世間の声は無視してますね。できる範囲しかできないですし、それがいやだったら出て行ってもいいと、それで自立につながればそれで万々歳なんです。

常に特性や先のことを考え続ける姿に感銘。情報収集はSNSの活用もおすすめ

今回お話を聞き、幼い頃から常に子どもの特性に目を向けて先のことを考え続け、勉強は独自のやり方で寄り添い、今では生き方も教えている……親としての深い愛情と力強さに圧倒されました。また、子どもの福祉関係の情報は横のつながりがないと手に入りにくいという現実は、その環境にいるなないおさんだからこそ感じることだと思います。ご自身もX(旧Twitter)上で長年DMでのやり取りしており、福祉の仕組み、受けられる福祉、障がい者手帳のことなどをそこで教えてもらっているそうです。

なないおさんからも「地域の親の会に入るのが情報は一番入りますが、働きながら参加するのはすごく難しく、XなどSNSを積極的に活用するのもひとつの手。ネット上にも親の会があるので、住んでいる地域にないか、探してみるのもいいと思います」とのアドバイスが。福祉の決定や支給は隣の自治体でも大きく違うこともあるので、まずはSNSから自分の暮らす地域の情報を探してみてはいかがでしょうか。

お話を伺ったのは…
なないおさん | 発達障害を持つ子ども二人を育てるシングルマザー。

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取材・文/長南真理恵

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