「きっかけはサンタクロースを追いかけた小4の冬」未来の飛行機の翼づくりに挑む12歳の研究者・藤田明暖くんの探究心の原点とは【孫正義育英財団生の親子インタビュー】

既存の旅客機の形にとらわれず、新しい翼のあり方を探る小学生研究者がいます。自作した風洞実験装置や揚力・抗力実験装置を使い、独創的な波型断面形状翼の性能を検証する藤田明暖(あのん)くん。ジュニアドクター育成塾サイエンスカンファレンス2024での研究発表受賞や、英語論文の読解にも挑むその姿は、まさに研究者そのものです。好奇心のおもむくままに探究を続ける明暖くんと、その挑戦を支えるお母さまに、未来の空へとつながる学びの軌跡を聞きました。

研究テーマ「未来の翼」のきっかけは、サンタクロース

 ―未来の飛行機の翼について、研究していると伺いました。そもそも翼に興味を持ち始めたのは、いつ頃どんなきっかけだったんですか? 

藤田くん:小学4年の冬です。サンタクロースが今どこを飛んでいるのか知りたくて「フライトレーダー24」という飛行機の位置がリアルタイムで分かるサイトを見ていたんです。その時に、飛行機ってこんなにたくさん種類があるんだと驚いて。見ているだけでどんどん面白くなって、夢中になりました。飛行機自体に興味が広がったのはその時がきっかけです。 

フライトレーダー24に映った「SANTA1」、
機体名は「SLEI (=Sleigh)」(ソリ)

―サンタクロースの位置を追いかけたことがきっかけだったんですね。そこから一気に飛行機の世界にのめり込んだと。では、その興味が実際の研究につながったのはいつ頃だったんでしょうか? 

藤田くん:小学5年から「ジュニアドクター育成塾つくばSKIPアカデミー」で研究を始めました。長く続けるテーマだから、自分が楽しめるものがいいと思って飛行機を選びました。 

直に飛行機を見ることができる航空会社の見学会にも積極的に参加

小学4年の終わり頃から半年くらい、飛行機の資料を一気に読み込んで、飛行機を見れば機体の種類が分かるくらいまで知識を深めました。小学5年の7月に実験計画書を書き、すぐに準備を始め、夏休みに1回目の実験をして、小学6年で、2回目の実験成果「未来の翼を検証しよう2」にまとめました。 

未来の翼は波の形?

―最新の研究成果「未来の翼を検証しよう2~揚抗比から見る波型断面形状翼の性能比較の検証~」を拝見しました。改めて、研究内容を教えてください。 

藤田くん:波のような形をした翼(波型断面形状翼)が、どれくらい揚力(ようりょく:翼を上に持ち上げる力)や抗力(こうりょく:翼が押し戻される力)に影響するのかを調べたり、風洞実験装置(ふうどうじっけんそうち:翼周りの気流を観測するための装置)を使って性能を比べたりしています。

研究のために作った最新型の風洞(ふうどう)実験装置

波の数や大きさ、尾翼の有無などの条件を変えた14種類の翼模型を作り、揚力実験・抗力実験を行い、データを係数(けいすう:条件が変わっても比べられるようにした数)まで求めて、そこから揚抗比(ようこうひ:揚力と抗力のバランスを表す値)を計算しました。 

波型のバリエーションを増やし、実験用の翼は14種類に

さらにスモークを使った風洞実験で空気の流れを可視化し、実験データと対応させながら比較して、翼の性能を検証しています。 

小学5年から同じテーマで研究をしていて、前回の実験では翼を波のような形にすることで揚力や空気の流れが変化し、既存の翼によく似た性質を持つことが分かりました。 

そこで今回は、波型のバリエーションを増やして、揚力や抗力の違いを細かく比較しながら風洞も試して、波型断面形状の翼にどんな可能性があるのかを探りました。 

―揚力実験ではどんなことをしているんでしょう? 

藤田くん:翼がどれだけ上に持ち上がる力を生み出すのかを調べています。波の数や大きさを変えた翼模型をすべて風に当てて、いちばん浮きやすい形を比べていきます。 

翼を上昇させる力を重さで量る揚力実験の装置(初期型) 

―浮く力が変わるなら、逆に“飛びにくくなる力”も変わりそうですよね。抗力実験はどういうものなんですか? 

藤田くん:風に押し戻される力、いわゆる抗力がどれくらいかかるのかを重さで量っています。揚力の時と同じ翼模型を使って実験をして、形が変わるとどれくらい抵抗が増えたり減ったりするのかを確かめています。 

風に押し戻される力を重さで量る抗力実験装置(最新型) 

―空気の流れって目に見えないからこそ気になります。風洞実験では何をどんなふうに調べているんですか? 

藤田くん:スモークを流して、翼のまわりを空気がどんな軌道で動くのかを可視化しています。波型の形によって、翼上面に渦ができたり、乱れたりするので、その違いから揚力や抗力のヒントを探しています。 

左の線香から出た煙の流れから、翼まわりの空気がどんな軌道で動くのか可視化するための装置(初期型) 

―未来の翼を検証しようということで、今とはどんな違いがあるのか気になります。藤田くんが目指す翼は、今の翼とどこが違うんですか? 

藤田くん:今の翼は旅客機に多い流線形(抵抗を少なくする曲線形)で、デザインに変化がないんです。でも僕の翼は波形で、見た目でも楽しめますし、未来には個人用の空飛ぶ乗り物がもっと増えると思うので、そこにも使ってもらえたらと考えています。 

研究の面白さは、とにかく考えること

大好きな飛行機を描いた作品(小学6年のとき) 

―小学4年で興味をもってから、ここまで研究に進むまでのスピードがすごいですね。ただ飛行機を調べるだけでなく、構造や仕組みまで理解しようとしていたわけですよね。小学生には難しい内容もあったと思いますが、専門的な知識はどう身につけていったんですか? 

藤田くん:「ジュニアドクター育成塾つくばSKIPアカデミー」では、教授やTA(Teaching Assistant)やメンターの方がついてくれて、そこから専門的な知識を学びました。でも最初は知らない言葉もいろいろありました(笑)。分からない単語は意味を調べて、計算の方法も調べて、少しずつ理解していきました。調べるのはインターネットが多いです。 

―分からないところからていねいに積み上げていったんですね。そうして研究を進める中で、「ここが面白い!」と感じる瞬間はどんなときですか? 

藤田くん:実験で予想外の結果が出たときです。「なんでこうなるんだろう?」って考えるのが面白くて。僕は自分の知識をもとに、仮説を直感で立てるんです。なので、実験が失敗した時には、上手く行かなかった理由を考えて、もう一度仮説を立てる…という流れが楽しいです。 

―予想外を楽しめるのは研究者として大きな強みですよね。一方で、風洞装置づくりや試作の様子を見ると、相当苦戦した場面もあったように見えました。特に大変だったことは何ですか? 

藤田くん:風洞実験装置が本当に難しかったです。スモークが全然1本の線にならなくて、どうすれば改善できるのか何日間も苦戦しました。実験も何回も失敗して、完成まで何カ月もかかっています。揚力・抗力実験の数値(係数)から揚抗比を出して、可視化した写真と合わせて考察するのも大変でした。 

当初のストローを使った装置。試行錯誤の末、現在はハニカム構造のダンボール紙に改良している

―そんな大変さがありながらも、結果が思い通りにいかないときに落ち込んでしまいそうですが…どう気持ちを保っていたんですか? 

藤田くん:実はあまり落ち込まないんです。気持ちを切り替えて、「じゃあどうすればいい?」と考えるほうに向かいます。疑問を突き止めることそのものが楽しいので。 

「孫正義育英財団」、世界を見るきっかけに

ジュニアドクター育成塾サイエンスカンファレンス2024で研究発表 

―学校の勉強もしながら研究も続けている藤田くん。学校生活と研究はどう両立しているんですか? 

藤田くん:研究は大きな夏休みなど長期休みに一気に進めています。学校がある日は、帰ってきて宿題や勉強を終えたあとに、資料を少し整理したりデータをまとめたりしています。息抜きですか? フライトシミュレーターのゲームです。これも飛行機なんですけど(笑) 

―ちゃんと日常の生活リズムの中に研究が溶け込んでいるんですね。でも、これだけ専門性の高いテーマだと、学校では気軽に話せる相手がいないこともありそうです。外のコミュニティに参加していることは、やっぱり大きいですか? 

藤田くん:そうですね。「つくばSKIPアカデミー」や「孫正義育英財団」では、学年の違う人や、専門分野が違う人とも横のつながりがあります。特に「孫正義育英財団」は世界中から色々な専門分野の人が集まるので、自分の研究を色々な視点から見るきっかけにもなります。 

―研究仲間がいる環境は心強いですね。そんな人たちとの出会いや、今までの研究経験を踏まえて、将来はどんなことを実現したいと思っていますか? 

藤田くん:研究者になりたいです。波形の翼がいつか本当に使われたら、すごくうれしいですね。波型の翼は表面積が広いので、その部分で太陽光発電ができたら環境にもいいと思うんです。 

そして、今より性能のいい翼を作って、将来の個人向けの空飛ぶ乗り物に採用されるようにしたいです。未来の人が安全に、自由に、楽しく空を使えるようになればいいなと思っています。 

藤田明暖くんのお母さん「幼稚園で“クラゲ博士”と呼ばれていました」

クラゲに夢中になった幼稚園時代

――小さい頃からの興味の広がりが、今の明暖さんの研究にもつながっているのではと思うのですが、どんな遊びや好きなことがあったんですか? 

お母さん:興味を持ったことはとことん知りたくなるタイプなんです。1歳の頃は数字が好きだったので、デパートの時計売り場に行き、中でも特に内部構造が見える文字盤をじっと観察していました。2歳頃に日本地図を覚え、3歳になる頃には世界地図や国旗にも興味を持ち、100カ国ほどの国名を口にするようになりました。5歳の頃は元素に夢中になり、元素図鑑を欲しがり、元素名やそれぞれの性質を覚えるようにもなりました。 

4歳の頃、幼児教室で海の生き物の絵を描いたことをきっかけに、「本物を見に行こうか」と水族館に連れて行ったところ、クラゲに強く惹かれるようになり、一気に好奇心のスイッチが入ったようでした。 

「クラゲって綺麗だな、どうしてこんな動きをするんだろう」と、次から次に疑問が湧いてきたんです。 

そこからは、いろいろな水族館の年間パスポートを購入して、毎週のように水族館に通っていました。多い日には一日に2ヵ所をはしごして、朝から夕方までずっとクラゲを観察していましたね。絵を描くのも工作も、すべてクラゲ。約150種類ほど覚え、幼稚園時代には“クラゲ博士”と周りの人から呼ばれていたこともあります(笑) 

幼稚園時代の絵にもいろいろな種類のクラゲが描かれている

小学1年からプログラミングを習い始め、小学2年のときには「クラゲ列車」というゲームを作りました。ここでもやはりクラゲでしたね。 

それからはプログラミングへの興味も深まり、小学5年のときに、本人の希望でScratch、Python、JavaScriptなどの検定にも挑戦し、どれも最上級まで取得しました。興味があることに対しては、深く集中して吸収していく力があるように感じます。 

スイッチが入ったら、好奇心が深まる体験を

――興味をキャッチして、それを応援して、深める体験につなげる連携がご家庭にあるように感じます。明暖さんの「スイッチが入った」と分かる瞬間は、どんな様子なんですか? 

お母さん:とにかく紙に書き出すんです。クラゲの生態、特徴、種類……。頭に入れた情報を、ノートに夢中になって書き出すようにして整理します。それが本人なりの合図のようです。飛行機に興味を持ったときも同じで、あっという間にたくさんの機体を調べて覚えていました。 

息子のスイッチが入ったと感じたら、その好奇心をどうすればもっと深められるだろうかと考えるようにしています。空港に連れて行ったり、航空科学博物館に行ったり、仕組みが分かるような本を探して渡してみたり。新しい興味を外の世界とつなげてあげると、さらに探究心が深まっていくようです。 

コックピットでの操縦体験にも興味津々

――明暖さんが夢中になっているときは、どんなふうに見守っていますか? 

お母さん:「興味があるならここに行ってみよう」「こんな講座があるよ」「このイベントも面白そうだよ」と、関連しそうな機会を伝えるようにしています。そうすることで、本人が経験の幅を広げるきっかけになればと思っています。 

研究で使う材料は、本人が希望するものを父親が発注したり、一緒にホームセンターへ行って素材を触って比べたりしながら選んでいます。 

英語力も研究の武器に。学びの原点は「楽しい」という気持ち

「面白そう」「知りたい」「好き」の気持ちが明暖くんの探究心の原点

――英語力もかなり高いと伺いました。その背景にも同じような学び方があるのでしょうか? 

お母さま:英語は2歳の頃から親しんでいて、今は英検準1級の勉強に取り組んでいるところです。孫正義育英財団生になってからは、世界中の財団生と英語で研究紹介をする機会もいただき、プロフィールや研究内容の説明も英語で行っています。翼の研究でも英語で書かれた論文を読んでいますので、続けてきた英語が本人の力になっているのを感じています。 

天体に興味を持って調べた情報を書き出したノート(小学2年のとき)

――小学生で準1級を学ぶとは、とてもレベルが高いです。どうやってそんなに英語ができるようになったのでしょうか? 

お母さん:英語の学びと研究活動に共通しているのは、どちらも「勉強」として与えなかったという点かもしれません。すべては遊びの延長線上にあり、「楽しい」という子ども自身の興味から始まっています。そこから先は、子どもが自分から深掘りしていくんです。 

研究も同じで、本人が好きでやっていることなので、壁にぶつかっても「挫折」とは感じていないようです。何事も“楽しく学ぶこと”をいちばん大切にしてきたように思います。 

3Dプリンターで、研究が次の段階へ

――「孫正義育英財団」の財団生になって、研究の環境面や設備面で助かったと感じることはありますか? 

お母さま:ご支援をいただいて、念願だった3Dプリンターを購入することができました。今までは翼の断面を発泡スチロールカッターで加工して作製していたのですが、これからは横から見た形や上から見た形など、より立体的なデザインが必要になっていきます。手作業では限界があり、「3Dプリンターがあれば、もっと自分のイメージ通りの形が作れるのに」と以前から息子が話していました。ですが、非常に高価なものなので、簡単に買ってあげることはできません。本人に構想があっても道具を準備できず、研究が進まないというジレンマがあったのですが、今回3Dプリンターを導入できたことでその悩みが解消され、次の研究に思い切り取り組める環境が整いました。 

年齢にとらわれず、興味のあるものに挑戦を

――最後に、子どもの興味や好奇心への寄り添い方について、HugKum読者である保護者の方に向けてメッセージをお願いできますか。 

お母さま:私自身の子育てを振り返ってみますと、年齢という枠にとらわれず、本人が興味を持ったことにはどんどん挑戦させてみることを大切にしてきたように思います。子どもをよく観察して、その子がどんなことに心を弾ませ、どんな得意な面を持っているのかを見つけてあげる。そこから先は、必要な情報を集めたり、関連する体験を用意したりして、自然と探求心が深まるような環境を整えるようにしてきました。 

もちろん、うまくいかないこともありますが、それも成長の一環だと捉えています。何かひとつでいいので、お子さんの得意なことを見つけてあげて、それを大切に伸ばしてあげてほしいなと思います。 

お話を聞いたのは

藤田 明暖(あのん) 研究分野:航空力学

2013年生まれ。現在小学6年生。航空力学の研究に取り組み、独創的な翼の形状を探るため、自作の翼模型や揚力・抗力実験装置、風洞実験装置を用いて揚抗比や気流の可視化を行っている。つくばSKIPアカデミーの個人研究発表で審査員特別賞、ジュニアドクター育成塾サイエンスカンファレンス2024で研究発表優秀賞・みんなが選ぶ研究発表賞を受賞、筑波大学 朝永振一郎記念「科学の芽」賞で努力賞を受賞、全国児童才能開発コンテストで財団科学賞を受賞。サイエンスキャッスルワールド2025でポスター発表に採択されるなど多くの評価を得ている。孫正義育英財団第9期生。

あなたにはこちらもおすすめ

孫正義育英財団も支援、11歳の昆虫学者に世界が注目「イモ虫かわいい」から始まった「アゲハ蝶の記憶の研究」学会発表への道のり【長井丈くん親子インタビュー】
「アゲハ蝶は僕を覚えているかも」 ― 長井くんが取り組んできた研究について教えてください。 長井くん: アゲハ蝶の記憶が、子や...

取材・文/黒澤真紀

自由研究 大特集

編集部おすすめ

関連記事